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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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15. 機密保持機能


 当然の事ではあるが、あの場に都合よくファントムが現れたのには理由があった。

 リベリオンの作戦情報を伝えるため、クィンビーは定期的にセブンと極秘裏に連絡を取り合っていた。

 クィンビーからセブンへとリベリオンの作戦情報が渡り、セブンが欠番戦闘員の名を使ってそれをガーディアンへと伝える。

 このような流れでセブンとクィンビーは今まで、リベリオンの作戦行動の妨害を行っていた。

 そしてクィンビーは今日、隔離施設への侵入と言う危険な冒険をする事をセブンに伝えていたのだ。

 クィンビーが首尾よく事を運んでくれれば問題無いが、万が一の事が有れば孤立無援のクィンビーの身が危ない。

 そこでセブンは何か有った時に備えて、クィンビーにも内緒で密かにファントムをリベリオン関東支部に寄越していた。

 この結果、クィンビーはセブンの機転によって命を救われる事になったのである。


「"もう、ファントムちゃんの玉のお肌がボロボロですよ。 帰ったら綺麗にして貰わないと"」

「ちょっと、痛いわよ!? もうちょっと丁寧に運びなさいよ、私に恨みでも有るの!!」

「"五月蝿いお客さんですねー"」


 幾ら怪人専用のモンスターマシンとは言え、ファントムは自動二輪車と言う枠組みからはみ出ていない。

 舗装も何も無い深い山の中を自走で来るのには苦労したのか、普段はピカピカに磨かれている筈の黒い車体の所々に傷や泥が付いていた。

 加えて山の中にはアラクネが張り巡らした蜘蛛の糸が所々にあり、ファントムの持つ鋭敏なセンサーがそれを察知していなければ危なかっただろう。

 アラクネの糸を回避しながら森の悪路を踏破する、ファントムの非凡な性能があってこそ可能になった離れ業である。

 そしてファントムのボディのお尻の部分から伸びたチェーンの先では、未だに顔から下を糸で拘束されたクィンビーが地面に引き摺られていた。

 ファントムが前に進めば必然的に地面に接地したクィンビーの体は地面に擦れ、嫌な音を立てながらヤスリに掛けられるように削られていく。

 普通の人間で有れば拷問に等しい行為であるが、怪人の頑強さ故にクィンビーはそこまでのダメージは受けていないようである。

 しかし流石に今のような状態はクィンビーも嫌らしく、先ほどから命の恩人であるファントムに向かって思う存分に罵詈雑言をぶつけていた。

 勿論、ファントムはクィンビーが憎くくて、このような事をしている訳では無い。

 目眩ましを使って生み出した一瞬の隙だけでは、クィンビーの拘束を解いている暇は当然無かった。

 とりあえずあの場から離脱する事を優先したファントムは、以前の白仮面の時のような形でクィンビーを運ぶ事しか出来なかったのだ。

 追っ手が来る可能性を考慮してもう少し距離を稼ぎたいファントムは、後ろからクィンビーの悲鳴を無視して自走を続けた。










 まんまとクィンビーに逃げられてしまったアラクネは、関東支部に戻り、現場で極秘作戦の指揮を取っているシザーズに事の経緯を報告していた。

 役目を全うできなかった事への自責を感じているらしく、支部の通信機を介して話すアラクネの表情は暗い物であった。


「…以上で報告を終わります。 申し訳ありません、シザース様、これは私の責任です」

「ふむ、あの幽霊マシンと一緒となると、今から討伐隊を出しても無駄でしょうね」


 自身と搭乗者の姿を消し去る能力を持つ欠番戦闘員のあのマシンが相手では、今から支部の怪人を追っ手として出しても捉えることは難しいだろう。

 クィンビーは逃げられたと考えるのが妥当であり、リベリオンは極秘にしていた作戦情報をまんまと盗み出される結果となったようだ。

 これは憂慮すべき問題であり、シザーズは右腕の鋏を上下に動かしながら暫く考えこむ。


「…仕方ありません。 クィンビーさんの捕縛は諦めます。

 直ちにクィンビーさんの機密保持機能を起動させて下さい」

「いいのですか!? あの者を排除しても…」

「これ以上イレギュラーを放置する方が危険ですからね」


 出来ればクィンビーを生きたまま捉え、その口からあの蜂型怪人の背後に居る者の正体を聞き出したかった。

 上手く行けばあの謎の欠番戦闘員の正体も掴めたかもしれないが、既にクィンビーは飼い主の手から離れた鳥成らぬ蜂になってしまった。

 あの隔離施設にはリベリオンの機密となる情報が多数記録されている。

 今進めている極秘作戦の情報だけで無く、他にも決して表に出してはならない情報をクィンビーに見られた可能性があるのだ。

 クィンビーがすぐに生け捕りに出来る状況で無いならば、あの蜂型怪人の口を今すぐにでも封じるのがリベリオンにとって最良の選択である。

 そしてリベリオンはやろうと思えばボタン一つで、裏切り者の怪人を始末する事が出来た。

 機密保持機能、リベリオンの秘奥である怪人製造技術を他に漏らさないために、外部から怪人の体を無に返す処刑装置である。

 クィンビーの体にも機密保持機能が埋め込まれており、支部からその機能を起動させる命令を送るだけであの裏切り者怪人は塵となって消えることだろう。











 リベリオン関東支部の通信施設が設置されている部屋で、アラクネはシザースの命令を遂行しようとしていた。

 機密保持機能は組織の幹部しか使用を許されておらず、今回はシザースの権限を借りることで特別にアラクネが操作を行っていた。

 通信を介してシザースに付与された管理コードが認証され、クィンビーに対する機密保持機能を実行する準備が整った。

 アラクネは最終確認を促すディスプレイを一瞥した後、躊躇いなくエンターキーを叩いた。


「…クィンビーの機密保持機能を起動しました」

「ご苦労さまです、これであの五月蝿い蜂ともおサラバですね。

 しかしこれも奇妙な縁ですね、まさか二度もあなたに止めを刺すことになるとは…」


 支部から発せられた特殊な電波がクィンビーの体に届いた瞬間、その体は即座に跡形も無く消滅するだろう。

 シザースは感慨深げにクィンビーの死刑宣告と言っていい報告を耳にした

 かつて妃 春菜と言う名の人間の少女を捉え、リベリオンに引き渡したのはこのシザースであった。

 そして少女は蜂型怪人クィンビーとして生まれ変わり、その切っ掛けを作ったシザースは妃 春案の直接の仇と言ってもいいだろう。

 そして今度は機密保持機能の発動という指示を下し、クィンビーの事実上の処刑を命じる事になる。

 妃 春菜とクィンビー、元が同じ存在であった者の死の瞬間に、シザースは二度も立ち会ったのだ。


「まあ、個人的には五月蝿い部下が居なくなって嬉しいくらいですがね。

 首領からなるべくクィンビーさんを生かしておくように言われていましたが、こうなってしまったら仕方ないでしょう。

 首領には後で報告しておかなければ…」


 シザースにとってクィンビーは決して出来のいい部下では無かった。

 実力こそ怪人たちの中で際立った物があったが、それ以上に我が強い性格をしたクィンビーには手を焼かされた物である。

 元来我の強い物が多い怪人たちの中で、あの女王蜂は一際異彩を放った存在だった。

 この気難しい上司であるシザースが何度、あの口煩い蜂型怪人を命令違反の角で懲罰に掛けようと思った事だろうか。

 しかしシザースはクィンビーを排除する事が出来なかった、この蟹型怪人の上司であるリベリオン首領がそれを禁じたのである。

 理由は不明だが首領はクィンビーの存在を気に掛けており、リベリオンの忠実な下僕であるシザースがそれに逆らう事は出来無かった。

 今回の一件はシザースに限って言えば、幸運な出来事だったかもしれない。

 リベリオンに対する裏切り行為という名目で、気に食わない部下を排除する事が出来る理由が出来たのだから。











 クィンビーがリベリオンを裏切った理由など、シザースは欠片も興味が無かった。

 首領直々に改造された蟹型怪人シザースに取ってリベリオンと言おう組織は絶対の物であり、リベリオン首領はまさに神に等しい存在だった。

 神に逆らう愚か者の考えなど知りたくも無いと、シザースはすぐにクィンビーの事を頭から追い出す。

 今、この怪人にはそんな瑣末な事に構っているよう余裕は無いのである。


「では、初めましょう…。 我らがリベリオンのために!!」

「キィィィッッ!!」


 アラクネとの通信を終えたシザースは、商業のトラックに偽装した指揮者から極秘任務の開始を厳かに告げる。

 シザースの号令に合わせてオペーレーター用に調整された戦闘員は、指揮者内の端末を操作し始めた。

 即座にショッピングモールのバックヤードに紛れ込んだ車両から、モール内の各所にシザースからも命令が送られた。

 定位置で待機していた怪人や戦闘員たちが命令を受けて動き始め、その動きが次々に指揮車の端末に送られてきた。

 合わせて指揮車の隣に停まっていた偽装車両からも、シザースが選りすぐりの怪人たちが待ってましたとばかりに飛び出して行った。

 極秘作戦、ガーディアン東日本基地と目と鼻の先である商業施設を襲い、大量の素体を確保すると共に正義の味方たちへの意趣返しを行う。

 リベリオンが主催するマッドパーティの幕が今、切って落とされた。


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