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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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12. デート


 大和と黒羽は映画が始まる時間までの間、時間潰しのためにショッピングモールの中を見て回っていた。

 夏休みと言う書き入れ時のため、非常に混雑しているショッピングモールの通路を二人は並んで歩いている。

 杖を突きながら歩く黒羽のスピードに合わせながら、大和は物珍しい物を見るかのようにモール内の店舗を眺めている。

 黒羽と言う美少女と行動を共にしている今の状況は、一般的な男子高校生に取っては望外の喜びであろう。

 しかし大和はそんな素振りを微塵も見せず、別段普段と変わらない様子であった。

 寧ろ同年代の男性とこのような場所に来た経験の無い黒羽の方が、あからさまに緊張している始末である。

 同年代の男性との付き合い自体ならば、ガーディアン時代に白木や土留などとの関わりは存在していたが、それはあくまで仕事上の事である。

 これまで生活の殆どをガーディアンとしての活動で費やしてきた黒羽には、実はこの手の経験は皆無なのだ。


「この辺にこんな大きい施設があったんですね。 何処も人で一杯だ…」

「そ、そうですね…、やはり夏休みですから…」


 特に黒羽の存在を意識していないように見える大和だが、これには彼の特殊な事情が関わってくる。

 何回も触れている通り大和は記憶喪失であり、リベリオンに戦闘員として改造される以前の記憶が全て抜け落ちていた。

 そして今の大和が目覚めてから彼と関わりがあった人間は、セブン、クィンビー、黒羽と言う容姿に優れた少女たちばかりであった。

 大和にとっては女性と行動を共にしている方が一般的と言え、黒羽と二人で出掛けている今の状況も日常の延長戦でしか無いのだ。

 そのため自分が端から見たら羨ましがられる状況である事実に、大和が気付く気配は全く無かった。











 ショッピングモールの入り口から一番奥のスペースに、大規模な映画館の施設があった。

 映画開始十五分前になった所で大和と黒羽は、映画館の席に並んで座っていた。

 体感的に映画初体験となる大和は、売店でポップコーンにLドリンクを買って気合十分の様子であった。

 黒羽父が娘に進呈したチケットで見る事が出来る映画は、今夏人気No.1の話題作である。

 公開当初は何処の映画館も満席と言う超人気作品であったが、公開されてから既に1ヶ月経ってる現在は席の埋まり具合は七割程度と言った所だろうか。

 夏休みと言う時期もあって客層は家族連れや若いカップルが多く、周りから見たら大和たちも沢山居るカップルの中の一組に見えるに違いない。

 やがて劇場内が暗くなり、長々とした他の映画の予告映画が流れた始めた後に、漸く壮大なBGMと共に映画本編が始まった。






 その映画はガーディアンとリベリオンと言う、世界を騒がせている正義徒悪の構図を意識して作成された事は明白であった。

 映画の主人公は劇中に出てくる悪の組織が作り出した怪人の失敗作であり、開始三分で廃棄されそうになった苦労人である。

 奇跡的な偶然が重なって生き延びた主人公は過去の記憶を失っており、主人公を助けたヒロインの家に居候になる。

 記憶の無い主人公は色々とトラブルを起こしながら、ヒロインとの奇妙な同居生活を続ける。

 一つ屋根の下で過ごすことで親密になる二人、二人の間に穏やかな時間が流れていた。

 しかし予定調和のように二人の幸せの時間は崩れ、彼らは正義と悪との戦いに巻き込まれてしまう。

 その過程でヒロインが引退した正義の組織の人間である事が判明し、過去の戦闘で負った傷が原因で戦えない体になっていた事実を主人公が知る。

 危機に陥った主人公たち、そこでお約束のように主人公が内に秘めた力を覚醒させてピンチを切り抜けた。

 しかし主人公が元怪人である事が知られてしまい、両組織から命を狙われると言う新たな展開が主人公たちを待ち受けてしまう。

 その後も視聴者を引き込む息もつかせぬ展開が続いていき、主人公たちに新たなトラブルが次々に襲いかかってくる。、

 膨大な予算が組まれたらしい映画は衝撃シーンの連続であり、話題になる要素は十分に備わっていた。

 最後に何やかんやで悪の組織が滅び、主人公とヒロインのキスシーンで映画が終わりを迎えた。


「す、凄い迫力でした」

「は、派手でしたね。 ガーディアンの戦士でも、あそこまでスケールの大きい戦いは出来ませんよ」


 映画のエンドロールが終わって劇場内が明るくなったタイミングで、黒羽と大和が自然に顔を合わせた。

 二人は口々に映画の内容を褒める称えるが、その表情には若干引き攣った笑顔が浮かんでいた。

 大和と黒羽は共に映画の内容と現実の自分の境遇に似通った物を覚えたらしく、色々と思う所があったのだろう。

 表情を取り繕うと必死になる大和と黒羽は自分の事に夢中になりすぎて、目の前に居る相手の変化に気付くことは無かった。







 映画を見終わった客の多くが売店で先ほど見た映画のグッズを眺める中で、大和たちは足早に映画館から離れて言った。

 二人とも余り先ほど観た映画の内容について触れたく無いらしく、自然と両者の思惑が一致した結果らしい。

 映画館の有る施設を出て、ショッピングモールの中心にあるショッピングエリアに戻ってきた所で大和たちは足を止めた。

 人の流れに巻き込まれないよう、通路の脇によった大和と黒羽は顔を合わせる。


「…どうします、これから?」

「そうですね…、いい時間ですし昼食でも…」


 とりあえず当初の目的である映画を見終わった大和たちは、これからの予定についての話を始めた。

 折角ショッピングモールに来たのだから、映画だけ観て帰るのも勿体無い気がする。

 映画を観ている間に正午を回っており、時間的には昼食を取っていい時間であるため、黒羽は大和をランチに誘おうとした。


「あ、先輩じゃん! こんな所で奇遇だなー」

「受験生がこんな所に来ていいのかよ、…て、俺たちもか、ははは」

「えっ、深谷!?」


 突如、大和に話しかけてくる少年たちのグループが現れた。

 親しげに大和に近付いてくる彼らは、大和と仲のいいクラスメイトである深谷とその友人だちである。

 どうやら彼らは親しい友人たちと共に、このショッピングモールに遊びに来たらしい。

 そして大和に声を掛けた深谷たち一行は、自然な流れで大和と共に一人の少女の姿に気付く。


「あの…、丹羽さん。 この方たちは…」

「ああ、俺のクラスメイト。 こいつらも此処に来てた見たいですね」

「っ!? よく見たら女連れだと!!」

「おい、深谷。 この子は確か前に駅前で見かけた…」


 先に触れた通り一般的な男性生徒に取って、黒羽のような美少女と一緒に居る事は望外の喜びである。

 まさに何の裏も無い一般的な男子生徒の代表である深谷たちに取って、今の大和の状況は垂涎の的と言えた。

 黒羽を連れている大和の姿に、深谷たちはまさに驚愕といった表情を浮かべた。


「先輩…、そういえば先輩に色々と聞きたい事があったんだよなー」

「えっ、何だよ、いきなり…」


 深谷たちはかつて駅前で、大和が黒羽とセブンと共に歩いている姿を目撃していた。

 あの時はリベリオンの素体捕獲任務に巻き込まれた事も有り、深谷たちその事実を今の今まですっかり忘れていた。

 しかし今回はまさに現行犯である。

 自分たちが周りのカップルを羨みながら男友達とつるんでいる中で、一人だけ可愛い女の子とデートしていたのだ。

 深谷は嫌な笑みを浮かべながら大和の肩を掴み、一人だけ抜け駆けした裏切り者を逃がすまいとした。











 ショッピングモールには様々な施設が備わっており、それらを維持するためのバックヤードも巨大な物であった。

 店の開店の準備をする早朝などには市場さながらの様相を見せるバックヤードだが、今の時間帯には僅か人間しか残っていなかった。

 そんなバックヤードの駐車場には、とある食品メーカーのロゴが入ったトラックが続々と入ってきた。

 ショッピングモールには巨大な生鮮食品売り場も存在する事も有り、バックヤードに居た人間たちはそのトラックの存在に気にも止めない。

 そもそも関係者以外がこの場所に入って来れないよう、ショッピングモール側が委託した警備会社の人間が入り口を二十四時間監視しているのだ。

 今日の担当である警備員はそのトラックがショッピングモール側から渡されたリストに記載された車両であると確認した上で、このバックヤードに通したのである。

 警備員による警備体制を知っている人間が、無条件でこのトラックの存在を信じるのは当然であろう。

 この警備体制の肝であるリストが改善されでもしなければ、部外者がこの場所に現れる可能性は皆無なのだ。

 本当にそのリストが本物であれば…。


「キィィィ…」


 バックヤードの駐車場にトラックを止めた運転手は、一仕事を終えたと言う様子で独り言を漏らした。

 その独り言は言葉を成しておらず、低音の奇妙な奇声が運転席の中で静かに響いた。


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