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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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10. 極秘作戦

 恐らく部屋の何処かに仕込まれているであろうスピーカーを通して、リベリオン首領が厳かに口を開いた。

 部屋の中で立膝の姿勢を取っている怪人シザーズは、リベリオン首領の手によって作り出された古株の怪人である。

 この蟹型怪人にとって首領は正しく神に等しい存在であり、まさしく神を崇めるような面持ちでシザーズは首領からのお言葉を賜っていた。


「…極秘作戦の方はどうだ?」

「はい、順調に進んでおります。 近い内に必ずや吉報を届けて見せます!」

「うむ、これ以上のシナリオの破綻はまずい。 此処で軌道を修正せねばな…」


 どうやらクィンビーの睨んだ通り、リベリオンは裏でとある極秘作戦を進めているようである。

 リベリオン首領と言う大物が出てくる所を見ると、今回の作戦は余ほど力を入れているのだろう。

 リベリオンの忠実な僕であるシザーズは、リベリオン首領の問い掛けに作戦は順調だと断言して見せていた。

 首領直々の命で始まった作戦が失敗した等とは口が裂けても言えないシザーズはその言葉通り、作戦の成功に向けて全力で動いていた。


「しかし今回の作戦、恐らくあのイレギュラーの横槍が有るに違い無い。

 欠番戦闘員と言ったかな…、それについては何か手を打っているのか?」

「作戦の情報封鎖は完璧です! 欠番戦闘員が動く頃には既に作戦は終わっています!!」


 最近のリベリオンの大規模な作戦行動には必ず、欠番戦闘員と呼ばれる謎のイレギュラーが作戦に介入してきた。

 欠番戦闘員の力は既にリベリオンの大きな脅威となっており、過去に何体もの怪人がこのイレギュラーに敗れたのだろうか。

 今回の作戦でも欠番戦闘員の介入が有るかもしれないと懸念する首領に対して、シザーズはその可能性は無いと断言した。

 これまで欠番戦闘員は何処からリベリオンの作戦情報を聞きつけ、それに先回りする形で介入してきた。

 しかし今回の作戦では、作戦情報の漏洩と言う愚を起こさないように隠密裏に準備進められている。

 リベリオン組織内でも今回の作戦の実態を知る者は限られており、シザーズが厳選した人材のみで作戦が進行しているのだ。

 一体どのようなルートでリベリオンの作戦情報を手に入れていたのかは不明だが、今回の作戦にしては欠番戦闘員に情報が漏れる筈が無いとシザーズは確信していた。


「しかし万が一と言う事もあるだろう。 その場合の対処の方法が有るのかと聞いているのだ?」

「そ、それは…」


 リベリオン首領からの思わぬ返しに動揺したシザーズは、言葉を詰まらしてしまう。

 何時もクィンビーに対して見せる落ち着きを払った態度などは微塵に感じさせないほど、シザーズは首領からの思わぬ言葉に狼狽していた。


「ふっ、安心しろ、シザーズ。 欠番戦闘員はこちらで面倒を見てやろう。

 お主は必ずや、この作戦を成功させるのだぞ」

「ははっ!」


 焦りを見せるシザーズに対して、リベリオン首領は嫌らしい笑みを浮かべなら助け舟を見せる。

 恐らくこのやり取りは首領からの性質の悪い冗談だったのだろうが、絶対的強者からの悪戯を受ける身としては堪らないものが有るのだろう。

 シザーズはあからさまに安堵した表情を見せながら、首領の配慮に感謝の言葉を述べた。


「それと例の鼠については…」

「スパイの調査は平行して進めています。 恐らく近い内に鼠取りを行うことになるでしょう」

「うむ、期待しているぞ。 シザーズ」


 既にリベリオン上層部ではスパイの存在を感知しており、暗躍するスパイに対処するための手も打っていたらしい。

 スパイの正体であるクィンビーとっては最悪の知らせで有るが、あの蜂型怪人がこの事実を知る術は無い。

 最後にリベリオンの作戦情報を外部に漏らしているスパイに関する報告を聞いた後、リベリオン首領はモニターから姿を消した。

 そしてシザーズも部屋から退出し、部屋の中には誰も居なくなるのだった。






 ガーディアンの色部 正義と同じように、リベリオンの首領は悪の組織の心臓とも言える存在だった。

 仮にこのリベリオン首領が何者かの手によって討たれたら、リベリオンと言う組織は簡単に瓦解するだろう。

 万が一に備えて首領の所在は幹部クラスの怪人にすら明かされておらず、今のように通信を介した方法で組織の運営を行っていた。

 世界の何処かよりシザーズとの通信を行っていたリベリオン首領は、徐に顔を背後の方に向けた。


「そう言うわけで仕事だ。 もし今回の作戦中に欠番戦闘員が現れたら、彼奴が二度とシナリオに介入出来無いようにしろ。

 手段を問わん」

「…了解」


 首領は背後の闇に向けて語りかけると、白い仮面を付けた人影が徐に闇の中から姿を見せた。

 シザーズから見えない位置に居た凹凸の無い奇妙な仮面を被った者、大和たちから白仮面と呼ばれている存在がそこに立っていた。

 リベリオン首領は白仮面に対して欠番戦闘員の排除を命じ、白仮面は感情の篭っていない声で返答した。

 しかし素っ気無い態度に反して、よく見れば白仮面の右拳は強く握り締められていた。

 まるで何かの激情を抑えるかのように右腕に力を込める白仮面の真意は、仮面に隠されて窺う事は出来なかった。











 人工筋肉の強化のために今日も大和は、何時ものジムで地道な筋トレに励んでいた。

 セブン特製の黒いボディスーツを着た大和は、ジムの器具を使って黙々と人工筋肉を苛め抜いている。

 しかし大和の様子は全身に負荷を掛けてくるボディスーツに苦労していた当初に比べて、幾分か余裕らしき物が浮かんでいた。

 最近は人工筋肉が強化されている事によって、大和はセブンのメニューを以前に比べれば楽にこなせるようになっていたのだ。

 余裕の表情で今まで毎日こなしてきたノルマを終えた大和は、休憩をしようと器具から立ち上がろうとする。


「まだ終わっていませんよ、丹羽さん。 後50回です」

「えっ!? だってノルマはもう…」

「今のノルマに慣れて来たら、器具の重量や回数を増やしていくのは筋トレの基本です。

 八重君のメニューだと、今日から丹羽さんのノルマが増えることになっていますよ」

「えぇぇぇ、そんな…」


 そもそも筋トレの目的は、筋肉に負荷を掛ける事で筋繊維に傷を付けて、超回復によって筋肉を鍛えることになる。

 筋繊維が傷つかない程度の軽いトレーニングでは、筋トレを行っている意味は無いのだ。

 それは大和の体に埋め込まれた人工筋肉においても同じであり、強化された人工筋肉を鍛えるためにはより大きな負荷を掛ける必要がある。

 怪人製造のプロであるセブンは大和の人工筋肉の強化分を事前に予測して、それに合わせて大和に課す筋トレの内容を徐々に増やしていくメニューを作成していた。

 自主的に大和の筋トレを手伝っている黒羽は、セブンのメニュー通りに筋トレを進めようとする。

 鬼トレーナーの言葉に渋々と応じた大和は、器具に戻って新たに課せられたノルマをこなすために体を動かし始めた。






 黒羽は大和が平然と新たに課せられたメニューをこなしている姿を見て、内心で大きな衝撃を受けていた。

 彼女が自分でも言った通り、筋トレの効率化を図るために徐々にメニューの内容を変える事は珍しい話では無い。

 しかし黒羽の目の前で汗を流している平凡な少年のそれは、通常とは比較にならないペースで負荷を増やしていた。

 二週間ほど前にはノルマをこなすのに精一杯であった者が、今ではその倍のノルマを平然とこなすようになっているのだ。

 器具の使い方に慣れたというだけでは説明が付かず、この少年の筋力は二週間前に比べて明らかに強化されているのだろう。

 普通の人間に筋トレの効果が出始めるのは、早くとも数ヶ月単位の月日が掛かってしまう。

 それに比べて丹羽 大和の筋トレの成果が出るスピードは明らかに異常で有り、有り体に言って人間離れしていると言ってよかった。

 

「丹羽さん、あなたは一体…」


 黒羽の脳裏には先日、このジム内で大和が自ら見せた手術跡と、ガーディアン時代に見たリベリオン戦闘員の体に刻まれた手術跡が映し出されていた。

 大和の筋トレの異状な成果、そして大和の体にはリベリオン戦闘員に施される戦闘員手術跡が刻み込まれている事実。

 それは黒羽の大和に対する最悪の想像を促すのに、十分過ぎる材料であった。

 もしこの場にセブンが居たのならば、黒羽の懸念を察して何らかの手を打ったであろう。

 しかし残念ながらあの運動音痴娘は、黒羽から課せられる筋トレから逃げるために理由を付けてジムに立ち寄らなくなっていた。

 この場には見た目だけで無く中身も平凡である大和しか居らず、この少年にその辺りの機微に気付けと言うのは酷な話であろう。

 すぐ傍に居る黒髪の少女が自分の正体に迫っている事に全く気付く事無く、大和は能天気に筋トレに精を出していた。


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