9. 闇の胎動
リベリオンが誇る最大の戦力と言えば、怪人と呼ばれる異形の者たちである事は間違いないだろう。
怪人たちは己が人間を超えた至高の存在であると自負しており、その自負に恥じない性能を備えていた。
リベリオンが誇る生物の合成技術によって幾多の生物の長所を体に埋め込まれ、文字通り脆弱な人間の体を作り変える事によって怪人は誕生する。
人から全く別の存在に生まれ変わった怪人の力は、生身の人間にはとても歯が立たない程に隔絶していた。
その性能差故に殆どの怪人たちは人間を見下しており、人間に勝利する事は至極当然の出来事と言う認識が怪人たちの総意と言っていい。
そんな傲岸不遜な怪人たちが、素体捕獲任務等の作戦を完全に妨害されて続けている今の状況に憤りを覚えるのは当然であった。
「くそぉぉっ!? 人間どもめ!!」
「ガーディアンめ、図に乗りおって…」
日本の某所に密かに建設された建造物、リベリオンの関東支部に在籍する怪人たちは皆怒り狂っていた。
激情のまま施設の設備を破壊する者、憂さ晴らしに戦闘員たちを廃棄処分とする者、怪人たちは各々のやり方で湧き上がる怒りを表している。
今までもリベリオンの怪人たちが主導となって行われた素体捕獲任務等の作戦行動が、全て成功していた訳では無い。
作戦がガーディアンに妨害された事は幾度と無く有り、少し前までの作戦の戦績は失敗が半分、成功が半分と成功確率が五分程度である。
これまでの怪人たちは半分の失敗に関しては、小癪な人間たちの小細工にやられただけだと言い放つ事が出来た。
半分の成功と言う結果によって、怪人たちの巨大な自尊心を保てたのだ。
しかし此処最近行われたリベリオンの作戦行動は全て失敗に終わっており、成功確率ゼロと言う怪人たちに取っては屈辱としか言えない状況が続いていた。
この惨憺たる結果は、人間より優った存在である筈の怪人としての存在意義を破壊する事態であった。
「何故、我々の作戦が全て読まれているんだ!?」
「まさかスパイか!? 研究者共にガーディアンとの内通者が…」
「いや、以前の襲撃時のように、ガーディアンの手の者が既に支部内に潜入しているかもしれない」
最近の作戦失敗の原因を挙げるならば、ガーディアンにこちらの作戦行動を全て読まれていた事にあるだろう。
これまでリベリオンはガーディアンに対して情報戦を仕掛けて、ガーディアンに偽情報を掴ませる事で作戦を優位に進めていた。
時にはガーディアン側が偽装を見破る事もあったが、リベリオンの偽装工作は概ね上手くいく事が多かった。
しかし最近のガーディアンはリベリオンの偽装工作に全く乗らず、的確に本命となる作戦地点に現れるのだ。
まるでこちらの作戦情報を全て把握しているかのようなガーディアンの動きに翻弄され、リベリオンは連戦連敗の状況が続いてしまった。
怪人たちも今の不自然な状況に気が付いたらしく、情報を漏洩している者が居る可能性を疑っているようだ。
疑心暗鬼となって狼狽するその姿は、怪人たちが人間を超えた存在であるとはとても思えない醜いものだった。
いざこざを始める怪人たちの姿を冷めた目で眺めている、一体の蜂型女怪人がそこに居た。
リベリオンの作戦情報を流している張本人であるクィンビーは他の怪人たちから距離を置き、情報の漏洩に気付き始めた怪人たちの様子を観察していた。
自身の家族を奪い、自身の体を怪人へと作り変えたリベリオンへの復讐のために敵の懐に潜り込んでいるクィンビーは非常に危険な立ち位置に居る。
仮にクィンビーの所業がリベリオンに気付かれてしまったら、支部内に居る無数の怪人たちが裏切り者の蜂型怪人の命を狙うだろう。
しかし怪人たちは自分たちの中に裏切り者が居る可能性すら議論に挙げず、見当違いな議論していた。
この様子では自分の存在に言及する事は無いと察したクィンビーは、未だに紛糾し続けている部屋を後にした。
「…何か気持ち悪いわね」
リベリオン関東支部の廊下を歩くクィンビーの表情は余り優れた物では無かった。
作戦情報の流出によってリベリオンの素体捕獲任務が悉く潰され、戦力供給を立たれたリベリオンは弱体化の一途を辿るだろう。
未だに怪人たちは裏切り者であるクィンビーの存在に気付かず、まだ暫くは自由に動くことも出来る。
セブンと共に建てた計画が上手くいっている状況では有るが、クィンビーはある一つの懸念があった。
「動きがなさ過ぎる…、リベリオンはこのまま何の手も打たない気なのかしら?」
クィンビーはリベリオンが作戦の失敗が続く今の状況に対して、何ら対策をしていない事を気にしていた。
もしこのままクィンビーによる情報流出が続き、それによって素体捕獲任務の失敗が続いたらリベリオンはそう遠くな内に滅びるだろう。
そうなる前にリベリオンは何らかの対策を講じる必要が有る筈なのだが、今の所その気配が全く無いのだ。
「やっぱり情報規制? 裏で何か動いているのか…」
クィンビーは一つの可能性を懸念していた。
リベリオンが今の状況を打開する作戦を進めているが、その情報がクィンビーの元に届いていないのでは無いのではと。
あの部屋で無駄な議論を続ける馬鹿な怪人たちと違い、恐らくリベリオンの上層部は裏切り者の怪人の存在に気付いたのかもしれない。
情報規制によって一部の者にのみ作戦の情報が伝えられ、密かに作戦の準備が進められている。
そして蚊帳の外に置かれたクィンビーは、全てが終わった後にその作戦の存在を知る事になるのだ。
「…危険だけど、もう少し深く潜って見るしか無いか。 まあ成るように成れって所かしらね」
仮にクィンビーの予想が当たり、リベリオンの現状の打開を狙った作戦が成功してしまったら今までの苦労が水の泡になる。
このままリベリオンの逆転を許したら、折角こつこつと減らしてきたリベリオンの戦力が一気に補充されてしまう。
加えてガーディアンに貢献することで高めた欠番戦闘員に対する信頼が一気に無くなり、ガーディアンを使ってリベリオンの戦力を減らす作戦が進められなくなる可能性も出てくる。
そうなってしまう前にクィンビーは、リベリオンが裏で進めている作戦の詳細を調べる必要があった。
しかしリベリオンでそれなりの地位に居るクィンビーの所に情報が降りて来ない所を見ると、その情報は厳重に管理されている筈だ。
極秘扱いになっている作戦の情報に辿り着くためには、クィンビーはこれまで以上の危険を冒す必要があるだろう。
下手をすればリベリオンにスパイ活動が見付かる可能性も有りえる決断をした蜂型怪人は、不敵な笑みを浮かべていた。
リベリオン関東支部の最奥部に作られた狭い部屋があった。
薄暗い部屋の中には何も物が置かれておらず、目立った物と言えば壁に設置された大きなモニターくらいだろう。
この部屋の存在はリベリオン関東支部内でも限られており、部屋の中にはその限られた存在が居た。
右腕に備えた鋏が特徴的な蟹型怪人は部屋の中央に腰を降ろし、部屋の壁に設置されたモニターに向けて頭を下げていた。
何も写っていないモニターに頭を下げた姿勢のまま、シザースは微動だにしなかった。
やがて壁に設置されたモニターに独りでに電源が入り、そこに異形の者が姿を現した。
首から下を黒いマントで隠しているため、それがどのような体を持っているかは解らない。
しかし昆虫の複眼を思わせる両目を供えた緑色の皮膚をした顔が、モニターに映し出されている者が人では無い事を示していた。
「…頭を上げよ、シザーズ」
「はは!!」
通信を介して伝えられたモニターに写る異形の者の言葉に応え、シザーズは直ちに頭を上げてモニター越しに顔を合わせる。
シザーズの姿には何時もクィンビーに対して見せている傲岸な態度は影を潜めており、モニターに写る怪人に対して畏まった態度を見せる。
それもそうだろう、シザーズは今自分の生みの親と言える存在に向かい合っているのだ。
その異形はかつて色部 正義と共に宇宙から送り込まれた未知の技術の解析を行い、生物の合成技術に辿り着いた元科学者。
未知の技術を何の躊躇いも無く自分の体で試し、その力を持って宇宙からの技術を独占しようとした世界最初の怪人。
世界征服を企むリベリオンを統べる首領、その姿がモニターに厳かに映し出されていた。




