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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第1章 リベリオン
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0. プロローグ

 誰もがその異形の姿に恐怖を抱くであろう。

 人間の肌とは明らかに異なる質感の緑色の皮膚、腕には鋭い鎌が生えており、顔には昆虫めいた複眼が備わっている。

 それは改造手術によって人外の能力を得た者、怪人と呼ばれる存在だった。

 一目で蟷螂を連想させる姿をした怪人は、集められた数十人ほどの人々の姿を見渡していた。


「ふん、こんなものか…」


 怪人を目の前にした人々たちは、今にもこの場から逃げそうなほどに怯えた様子だった

 では何故彼らは実際にそのような行動に出ないのか、その理由は彼らの周りを囲む黒ずくめの集団にあった。

 全員が統一された黒い全身スーツに黒い覆面で顔を覆い、覆面の額部分にはそれぞれ別々の番号がナンバリングされている。

 戦闘員と呼ばれている黒ずくめの集団は群集を囲う壁を作り出し、彼らの逃げ道を塞いでいた。


「聞け、人間ども! 我々はリベリオン、何れこの世界を支配する偉大な存在だ!!」

「ひっ、リベリオン!?」

「そんな、なんでこんな所に…」


 リベリオン、それはこの世界で猛威を振るっている謎の組織の名前である。

 リベリオンは今この場に居る蟷螂怪人や戦闘員たちの力で、世界征服を企む典型的な悪の組織であった。

 市民たちはリベリオンのことを知っているらしく、その名を聞いた瞬間に彼らの表情に恐怖が浮かんだ。


「喜べ、人間ども! お前たちは栄えあるリベリオンの礎となるのだ!!」


 リベリオンの主な戦力は今この場に居る怪人や戦闘員たちである。

 彼らも元はただの人間だった、それがリベリオンの改造手術を受けることによって今の力を手に入れたのだ。

 リベリオンは怪人や戦闘員を増やすために、今回のように定期的に怪人や戦闘員の素体となる人間を採取していた。

 勿論、悪の組織であるリベリオンは無力な人間たちの同意を取るなどということは無い。

 本人の意思とは関係なく無理やり改造手術を施し、脳改造によって組織に忠誠を誓わせることでお手軽に兵隊を増やしていた。


「くそっ、ガーディアンの連中は何をやっているんだ!!」


 ガーディアン、リベリオンの誕生から時を置かずに結成された、これもまた所謂正義の味方というべき組織だ。

 この組織はリベリオンの怪人に対抗できる唯一の装備を保持し、人々と守るために日々活動している。

 本来なこの状況に颯爽と駆けつける筈の存在だが、人々の期待に反して彼らが此処に現れる様子は無かった。

 不幸にもリベリオンに狙われた市民たちは、このまま怪人へとさせられてしまうのか。






 戦闘員たちは市民を逃がさないように市民たちの周りを囲いながら、絶えず周囲を警戒していた。

 普通の人間では戦闘員一人にさえ適わないことを知っている市民たちは、今のところは抵抗する様子は無い。

 そのため戦闘員たちが警戒するのは彼らの宿敵であるガーディアン、彼らは意識は外敵に対して向けて視界が届く範囲の様子を絶えず観察していたのだ。

 そんな警戒中の戦闘員の目の前に…、それは突然現れた。


「キィッ!?」


 戦闘員の行為を嘲笑うかのように、それは戦闘員の数メートル先の位置に唐突に現れた。

 数秒前にはそこには何もなかった筈なのである、にも拘らずに戦闘員の目の前にまるで幽霊のように現れた黒いバイクが戦闘員に迫ってきていた。

 既に回避するタイミングを逃した戦闘員は成す統べなく、そのまま黒いバイクに跳ね飛ばされてしまう。


「キィィィッ!?」

「何っ!?」


 突然、轟音とともに戦闘員が跳ねられ、市民たちを封鎖していたによる檻の一角が崩される。

 異常事態を察知した蟷螂怪人の視線の先には、戦闘員を跳ね除けた黒いバイクが重低音のエキゾード音を響かせていた。

 怪人や戦闘員たち、それに囚われの市民たちの視線を一点に受けたバイクの搭乗者は悠々とバイクを止めて降車する。

 降車したバイクの搭乗者は何故か黒色のスーツを身に纏い、黒い覆面で顔を覆う戦闘員たちと全く同じ格好をしていた。

 ただ一つ、他の戦闘員と違う箇所は覆面のナンバリングが塗りつぶされており、その番号を読み取ることができなかった。


「その覆面…、貴様、噂の欠番戦闘員か!?」


 怪人はこの新たな闖入者の存在を知っているらしく、忌々しげにその名を呼んだ。

 最近、リベリオンの作戦を妨害する戦闘員もどきが居ることは、蟷螂怪人の耳にも入っている。

 戦闘員と同じ衣装を身に纏い、覆面のナンバリングを消していることから組織ではそれを欠番戦闘員と呼称していた。

 その正体は不明、少なくとも彼らの宿敵であるガーディアンに所属している者で無いことは解っている。

 ガーディアンの人間が戦闘員と同じ姿で戦場に現れる筈が無いし、この欠番戦闘員はガーディアンとの交戦経験も有るらしい。

 そもそもこの戦場にガーディアンが居る筈が無いのだ、密かに組織が掴んだ情報では彼奴らが此処に現れるまで後1時間は掛かることを保障していた。






「…変身」


 乱入した欠番戦闘員は人々の盾になるように怪人の前まで歩み寄り、自身の体内に仕込まれている装備の起動キーを呟く。

 すると欠番戦闘員の首から下が赤い色に染まり、次の瞬間に彼の姿は戦闘員特有の黒ずくめから全く別の姿に変わっていた。

 基本は黒いスーツだが四肢には炎を模した赤色の紋様が浮かび、手首まで覆う赤い手甲、胸部を覆う赤いブレストアーマーを身に着けている。

 そして欠番戦闘員が姿を変えると同時に、彼が乗ってきた黒いバイクのシート部分が自動で開き、シートの下から突如何かが飛び出してきた。

 バイクのシートから出てきた物は変身を終えた欠番戦闘員の方へと飛ばされ、彼はそれ見事にキャッチする。

 欠番戦闘員はバイクが飛ばしてきた物、赤い大きな瞳が特徴的な特殊なヘルメットを戦闘員用の覆面の上にそのまま被った。






「それが貴様のバトルスーツか、欠番戦闘員!?」


 バトルスーツ、それはガーディアンが怪人に対抗するために生みだした兵装だ。

 謎の欠番戦闘員はガーディアンしか保持していない筈のスーツの力を使い、幾度も無くリベリオンの前に立ちふさがっていた。

 何処で欠番戦闘員はスーツを手に入れたのか、何故リベリオンと敵対するのかは組織が誇る情報網を持っても未だに掴めていない。


「ふはははっ、面白い! 貴様はこの俺が血祭りに上げてやる!!」

「「「「キィィィィィッ!!」」」」


 見慣れた戦闘員の装飾から全く別の姿に変わった相手に対して、怪人は闘士をむき出しにして己が鎌を威嚇的に振りかざす。

 怪人の戦闘意思に呼応して囚われの人々を囲っていた戦闘員たちが、戦闘員特有の奇声を上げながら怪人の元に集まってくる。


「今ノウチニ逃ゲロ、コイツラハ俺ガナントカスル」

「…へっ? は、はい!?」

「に、逃げるぞ、みんな!!」


 包囲網が開放されたことで逃走が可能になった人々に対して、欠番戦闘員はこの場から避難するように指示する。

 欠番戦闘員の口から出た声質が他の戦闘員たちが発する奇声と同じだったとこに一瞬呆気に取られたものの、すぐにその言葉の意味を理解した人々は慌てて逃げ出していく。

 既に怪人たちは逃げる人々に興味が無いようで、彼らの視線は偽戦闘員の方に集中していた。





「…行クゾ」

「死ねぇぇぇぇぇっ!!」


 怪人と欠番戦闘員が共に相手の下へ駆ける、怪人は己が鎌を振り上げ、偽戦闘員は右腕に激しい炎を纏わせる。

 この瞬間、怪人と欠番戦闘員の戦いの火蓋が切って落とされた。






 何故、欠番戦闘員と呼ばれる者は危険を顧みず、リベリオンの怪人と戦っているのか。

 それを語るには彼の第二の目覚めの日まで時間を遡る必要があった…。



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