「はい」か「いいえ」
前に書いた「勇者VS魔王」の勇者と魔王の話
魔王は悩んでいた。この選択肢を間違えば確実に死ぬだろうことは、わかりきっているというものだ。
かれこれ一時間以上も悩んでいると、魔王の私室にノックもせずに誰かが入ってきた。
「おーい。魔王いるかぁ」
勇者が入ってきた。というか、ノックもなしに魔王の私室に入る輩はこの世界で勇者だけだろう。
「む? おお、勇者か。いいところにきた」
「あん? どうかしたのか」
「うむ。実はなこれをどうするべきか悩んでいたのだ」
そう言って魔王は正面にある、この部屋には酷く不釣合いなゲーム機が刺さっているテレビを指差す。
「これってあれか、この間召還した。一人でしか遊べないやつか」
「そうだ。やっとクリアできそうでな。残すは魔王のみよ」
「へー。それで何に悩んでるんだって」
「うむ。魔王に世界を半分やるから仲間になれと言われていてな。悩んでおるのだ」
勇者はよくわからなかったが、はいかいいえなら。ここは間違いなく、
「はい。だろ、普通」
「やはりか」
「ああ、仲間になって油断した所を後ろからぶすりと刺す」
そこで、魔王は苦い顔をして言う。自分ならばと、
「我が魔王なら。……いや、魔王なんだが、ああいや。この魔王ならば、そう言って世界の厄介な部分を与えるか、もしくは我も油断した所を後ろから斬る」
「まさに、魔王の所業だな。なら、いいえでいいだろう」
「そうなのだが、やはり世界は欲しいのだ。半分だがな」
「まさに、魔王の考えだな。なら、とりあえず、はいにしとけば?」
「しかしなぁ」
魔王は唸り、またしても思考の中に沈もうとしたとき、
「ああ、もういい! 押しちまえ!!」
そう言って、勇者が強引にコントローラーのボタンを連打した。
「あ」
魔王は呆けたような声を上げテレビ画面を見る。
「……」
「……どこだここ」
勇者も画面を確認し、つぶやく。
「魔王の城の前だな」
そう言って、とりあえずまた魔王のところまで行ってみることにする魔王。
『ははは、勇者よ!世界の半分をお前にくれてやるから、仲間になれ!!』
全く同じ事を言われ、魔王は静かに右手をテレビに掲げる。
すると、近くにいるだけで火傷してしまいそうな炎が舞い上がり、テレビのあった場所とその周囲を燃やし尽くした。部屋中に焼け焦げた匂いが充満し、魔王は部屋の窓を全開にして空を見上げながらつぶやいた。
「今のはファイアストームではない。ファイアだ」
きまったと思った魔王は次の言葉を聴き、一気に気分が悪くなった。
「あ、次俺の番だったんだけどって逃げるな魔王!!」
魔王は窓から飛び出し、逃げ出した。
しかし、魔王は勇者に回りこまれた。逃げられない。