第四話 始まりの事件
「ハル大丈夫か」
レイは背中からハルを下ろしながら尋ねた。
「うん大丈夫だよ。
でも、少し酔ったかも、レイちゃんのメイル(移動魔法)早すぎだよ。」
そう言って、レイの背中から降りたハルの足取りは少しふらついている。
「あ、良かった。
ちゃんとおっきくなってる。」
「そりゃ、一週間くらいでどうこうなるかよ。」
二人がそう言って見つめる先には50cm程の苗木が生えていた。
苗木の横には、《ピーちゃんのお墓》と書かれた板が立ててある。
「ピーちゃんが死んじゃってもうすぐ1ヶ月か。
悲しいな。」
ハルはその苗木の前にしゃがんで呟いた。
「仕方ないよ。生き物が死ぬのはどうしても避けられないことなんだから。
ピーちゃんだって仲間の鳥達がいっぱいいる、この山の頂上で眠れて幸せなんじゃないかな。」
二人の言うピーちゃんとは、1ヶ月前まで飼っていたインコのペットのことだ。
元々年老いた老鳥で、長年レイとハルに可愛がられた鳥だった。
そのお墓をこの山の頂上に立てて、木の苗木を植えたのだ。
「そうかな、私はピーちゃんが居なくなって悲しかったよ。
この一週間、レイちゃんが山小屋に行ってる間凄く寂しかったもん。」
ハルは拗ねたようにそう言った。
しゃがんだ太ももに顔をうずめている。
「だからって、いつまでもくよくよしてちゃダメだ。
ピーちゃんのことは、ちゃんと心の中で整理して前を向かなきゃ。」
レイがとってもお兄ちゃんっぽいことを言いながら、ハルの隣にしゃがんだ。
「うん、そうだ…」
ハルが顔を上げて返事をしようとした、その時。
二人の背後で大爆発が起こった。
どう説明すればいいか分からないが、とてつもない爆発がイサカ村で起こった。
二人は爆風に吹き飛ばされた。
レイは空に投げ出された体を立て直し、ハルの腕を掴んだ。
そして、
「メイル」
レイは魔法を唱えた。
全ては一瞬の出来事だった。
二人の姿は、さっきの山の反対側の麓にあった。
レイがハルを脇に抱えて立っていた。
二人とも顔が引きつって体が震えている。
二人の上空には、爆発で巻き上げられた粉塵が舞っている。
夕日が沈みかけてオレンジに染まった空を粉塵が覆ってしまった。
「お、お兄ちゃん。何なのこれ。」
レイの右の脇に抱えられているハルが、怯えたように空を見上げた。
「分からない、でもこれがただごとじゃないのは確かだ。
とんでも無いことが起こってる。
でも大丈夫、大丈夫…。」
そう言うレイの声にも力はない。
虚勢を張っているのは一目瞭然だった。
レイはハルをおろしてやった。
爆風も収まりさっきの爆風が嘘のような静けさが二人を包んでいた。
「みんな、大丈夫かな。」
ハルは恐る恐るレイに尋ねた。
いや、ハルも分かっているはずだ。あの爆発で村の人達が無事なはずがないということくらい。
レイも、ハルの問に答えることなく黙って空を見上げている。
遠くの方で鳥達が飛び立つ音が聞こえてくる。さっきの爆発で怯えているようだ。
「僕がイサカ村に戻って様子を見てくる。
ハルはここで待っててくれ。」
レイは意を決したように切り出した。
いつかは言わなければならないことだが、レイは気乗りしない様子だ。
誰だって、あれだけの爆発が起こった場所へは近づきたくはないだろう。
「なんで、私も行くよ。
二人で行った方が良いって。」
ハルは、驚いたように言った。
レイが一人で村に戻るのが心配だという気持ちと、ここに一人で残されるのが嫌だという気持ちがあるようだ。
ハルの目は、もう少しで泣き出しそうなくらい涙が溜まっていた。
「いや、ダメだ。危険すぎる。
これだけの爆発が自然に起きたとは考えられない。
その原因が分からない以上むやみに近づくのは良くない。」
レイは意外と冷静だった。
「それなら私がチート(探知魔法)を使う。
私のチートなら村の様子を知ることが出来る。」
ハルは必死に訴えた。
「ダメだ、ハルまだ魔法のコントロールが上手くない。こんな精神不安定な状況で使うと暴走する可能性がある。
それに、もしハルが魔法を完璧に使えたとしても結局どちらかは村に戻らないと行けない。
分かってくれ。」
レイは静かに、ハルに言い聞かせるように言った。
「それに、ハルにはやって欲しいことがあるんだ。」
そう言ってレイは、ハルにその頼み事した。
それを聞いて、ハルはまだ、何か言いたそうな顔をしたが静かに頷いた。
それを見届け、レイは小さく呪文を呟いた。
レイはさっきまでハルと二人でいた、山の頂上に立っていた。
自分の視界に入っている場所に自由に移動する魔法、それがレイの得意なメイルだ。
だからどうしてもここを通らなければならなかったのだ。
レイはメイルを二連続で使い村に戻るつもりだった。
レイは山頂につくとすぐ村を見て移動しようとした。が、そうしなかった。
いや、出来なかったのだ。
レイの視界にイサカ村は入ってこなかった。
村そのものが無くなっていたのだ。
イサカ村が会った場所には直径十数キロの大きなクレーターのようなくぼみが出来ていた。
まるで世界からそこだけがえぐり取られたような有り様だった。