第二話 召集礼状
1/16に加筆修正をしました。
ジンと、マリアとの会話に補足し、魔法使いの説明を少し変えました。
「それじゃあ、そろそろ話再開するぞ。」
そう言ってジンは、話しだした。
ここではひとまず勇者の話は飛ばすことにする。
必要なのは魔法使いの歴史だからな。
魔法には系統というものが存在する。
系統っていうのは、魔法を性質別に分類したものだ。
系統には、
ダクト(攻撃魔法)、プロウ(防御魔法)、ミーユ(治癒魔法)、チート(探知魔法)、メイル(移動魔法)、
の五種類がある。
これを、基本五系統と呼ぶ。
ほとんどの魔法がこの基本五系統の内どれか一つしか使うことができない。それぞれの魔法使いは自分の得意な魔法によって職業を決めている。
系統にはもう一つ、第六系統と呼ばれるものが存在する。
物体浮遊魔法や、召還魔法など前の五つに当てはまらない魔法のことを指す。
この第六系統の魔法の最大の特徴、それは魔法使いであれば誰でも魔法を発動させることができるということだ。
今や魔法といえば、この第六系統のことを指すようになっている。基本五系統よりも第六系統の方が圧倒的に実用的だからな。
第六系統には、簡単なものから難しいものまで幅広く存在する。
例えば、物体浮遊魔法なんかは魔法使いなら誰でも使えるけど、召還魔法などは上位の魔法使いしか使えない。
第六系統だけで全ての魔法の90%を占めるとも言われている。それだけ種類が豊富だということだ。
「すいません。質問いいですか。」
ジンの説明が説明を一旦切ったタイミングでレイが声をあげた。
「お、ハルじゃなくてお前が質問だなんて、どうしたんだ?
熱でも移ったか?。」
ジンは、少し驚いたような声で答えた。
「からかわないで下さい。僕だって、質問くらいしますよ。
僕この話初めて聞いたんですけど、僕って基本五系統全部使えますよね。
全部実用レベルで発動できてるのはなんでですか。」
「うん、そういえばお前にこの話をするのは初めてだったかな。せっかくだ説明しておこう。
確かに普通の魔法使いであれば、基本五系統の内一つしか使えないことが殆どだ。
私も初めはお前がどの系統に特化しているのか見極めて、その系統を最大限まで引き上げようと思っていた。
でも、なぜかお前は全ての系統を同じくらい上手く使えたんだ。
それがなぜかは分からないが、珍しい才能だったからのばしてみたんだ。」
ジンは、明日の天気でも聞くように、サラッと言った。
「そんな大事なことなんで今まで黙ってたんですか。
僕聞いたこと無いですよ、その話。」
ジンとは対称的に、レイは立ち上がり机を叩いて抗議の声を上げた。
「だって初めて話したもん。」
ジンはあっさり、受け流した。
そして、壁に掛けてある時計を見た。
「あ、もうこんな時間か、今日はもうおしまいだな。
そんなに怒るな、お前の才能は特別だ私が保証する。
お前はいずれ立派な魔法使いになる。」
そう言ってジンはレイの頭を撫でた。
なにか、言いたくないことをごまかしたようにも見えたが、レイは気にしないことにした。
「子供じゃあるまいしやめてください。
分かりました、師匠の言葉信じますよ。」
レイはそう言って、机の横に掛けてあったショルダーバックを肩に掛けると、出口に向かい歩き出した。
すると、ジンがハッとした顔になって教卓の中を覗き込み、紙をとりだしレイを呼び止めた。
「あ、そうだ一つ言い忘れてたことがあるんだ。」
そう言うと、ジンは教卓から取り出した一枚の紙をレイに渡した。
「国王からの召集礼状だ。」
受け取った紙を不思議そうに見つめるレイに、ジンが言った。
すると急にレイは目を見開いた。
「こ、国王。
なんで僕が国王に召集されなきゃならないんですか。」
レイは驚き、ジンに詰め寄った。
「お前ももうすぐ16だろ。魔法使いはな16歳になると国王の元に行き、国王管轄下の魔法使いに登録されるんだ。
それがこの国の決まりだ。」
「そんなの初めて聞きましたよ。」
「初めて話したからな。」
焦ったレイを、ジンがからかっている。
「そんなに心配するな、国王の元へ行って帰ってくるまで、お前一人なら二週間もかからないよ。
都会の見学旅行だと思えば楽しいだろ。」
そう言ってジンはレイの背中を押した。
「ほんと、ジンさんはいつも勝手なんだから。」
レイは、大きな溜め息と共にそう言うと召集礼状を右の内ポケットにしまった。
そして、山小屋から村へ続く山道を歩き出した。
「分からないことがあったら何でも聞けよ。」
後ろからジンがそう声をかけ山小屋へと入った。
レイは、坂道を下っていた。
山の中腹に立っている山小屋から家へ帰っている最中だからだ。
坂道を下り終えると、目の前には一面の農地が広がっている。
イサカ村
レイやジンが住んでいるこの村は、はっきり言ってド田舎だ。
四方を山に囲まれ、村に住むほとんどの人が農業か、酪農で生計を立てていた。
決して裕福な村ではなかったが、心の温かい村だった。
レイは、そんなイサカ村の中心部へ向かって歩き出した。
小さな村だったが、村の端の山の麓から中心部へ行くとなると、それなりに時間はかかる。
レイは、召集礼状を入れたのとは反対側のコートの内側から、おもむろに25cm程の杖を取り出した。
「メイル」
レイがそう、短く唱えると次の瞬間、畑の狭間を歩いていたはずのレイが、、一軒の小さな酒場の前へと来ていた。(赤サソリ)という看板が掛かっている。
ジンが見れば、魔法を使った怠惰だと嘆くだろう。ジンは魔法使いなのに、自分の足で歩くことが好きな変わり者だ。マジックアイテムもほとんど使わない。
そんなジンの弟子であるレイも、普段なら歩くことが多いのだが、今日は早く家に帰りたかったのだ。
レイは足早に酒場へ入っていった。
酒場は、まだ営業していないようでガランとしている。
そんな酒場で、若い女性が一人、テーブルを拭いていた。
長い赤毛を後ろでまとめて、シャツを肩までめくっている。
「ただいま、マリアさん。」
レイはそう言うと、テーブルの合間を通り階段へと歩き出した。
20代半ばだろうか、その女性はマリアというようだ。
「お帰り、レイちゃん早かったわね。」
マリアはレイを見るとにっこり笑ってこう言った。
「レイちゃんって言うな。ただでさえ女の子っぽいのに、そんな呼ばれ方したら、誤解されるだろ。」
「あ、ごめーん。うっかりしちゃった。」
怒ったレイに、マリアはおどけたように言った。
「あんたのは、うっかりじゃなくてわざとだろ。」
「ひどい、レイちゃんが私のことを信じてくれない。」
マリアはそう言うと顔を両手で多い、シクシクと泣き始めた。嘘泣きだ。
「マリアさんももう大人なんだから、そんな子供じみたこと、やめてください。」
そう言うと、レイは階段を上り始めた。
マリアも反論することなく店の掃除へ戻った。その顔には一滴の涙もなかった。
レイは二階へ上がると、廊下の一番奥の左側の部屋の扉を開けた。