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レイと魔法と奇妙な日常  作者: 沖田 了
第二章 イーストテッド篇 ハル救出作戦
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第三十二話 人探針盤

 ミクルがキッチンに戻ってきたのは、ちょうどレイが朝食を食べ終わった時だった。


「婆ちゃんちょっとはあの部屋片付けろよ。これ探すの苦労したんだから。」


 ミクルがそう言って持ってきたのは、金色をした大きな羅針盤のような物だった。ミクルはそれを重そうに持ってくると、テーブルの上に無造作に置いた。


「大事に扱っておくれよ、それに変わりは無いんだから。」


 お婆さんは顔をしかめて言うとその羅針盤を撫でた。

 ミクルがテーブルに置いたことで分かったことだが、これは羅針盤とは少し違う造りでしてある。盤の上には時計の長針のようなものが一つ付いているだけだ。周りに目盛りのようなものが書かれてはいるが、方角を示すものでは無さそうだ。


「これは一体なんなんだ?」


「人探針盤、うちにある中でも結構貴重な奴だぜ。」


「ひとさがしんばん?羅針盤じゃなくて?」


「違う違う、確かにベースアイテムは羅針盤だったみたいだけど今じゃ全然別物さ。だよな婆ちゃん。」


 ミクルは人探針盤をに傷がないかをまだ探している。


「もー婆ちゃん、そんなに大事なものならあんな風に散らかして置いておくなよ。」


「あれは散らかってるんじゃないのよ。ちゃんと私が分かるように置いてるの。」


「あれは散らかってるだろ。」「あれは散らかってるでしょ。」


 お婆さんの一言に、レイとミクルが同士に反応した。

 あの部屋を散が散らかっていないというなら、泥棒に入られあらされた家でも整っているというものだ。


「なんだい、なんだい、そんなに年寄りを虐めたいのかい。」


 お婆さんはシクシクと目に手を当てた。誰が見ても分かる嘘泣きだった。

 お婆さんも別に、騙そうというつもりでは無かったようで、レイもミクルも反応しないのをみるとすぐに止めてケロッとした顔になった。


「それで何の話だったかね。」


「だから、この人探針盤のことだよ。」


「あ~そうだったね。

 そう、この人探針盤は羅針盤なんかじゃない。羅針盤は方角なんかを示すものだけど、この人探針盤はその名の通り人を探すマジックアイテムさ。」


 そういうとお婆さんは八本足の人形を掴んで人探針盤の上に逆さまにくっつけた。


「レイしっかり見てな、今から世界でも珍しい魔法が見れるぞ。」


 お婆さんは杖を取り出すと人形の頭を数回叩いた。


「我、汝の魂をただし場所に導かん。汝自らの正しき力我に与えよ。」


 お婆さんがそのように唱えると人形の頭から綿飴のような白い光が抜け出し、人探針盤へ入った。光が入ると人探針盤は一瞬輝いた。


「今のが魔法?呪文が全然違うじゃないか。」


 事の一部始終を見て、レイが驚いたように言った。

 レイが今まで教わってきた魔法は、ダクトやメイルなど一言の呪文ばかりで、先ほどお婆さんが唱えていたような呪文は聞いたことがなかった。


「お前さんみたいな小僧には使えないよ。これは第六系統の中でも最上級の難易度の魔法だからね。」


 お婆さんはどこか得意げに言った。


「マジックアイテムって言うのは、魔法使いの魂の欠片と魔法が一緒になって込められた道具の事を言うんだよ。

 さっき私が出した白い雲みたいなのが魂で、それを人形から道具へ移すことを"仲介"って言うんだよ。

 さっき私が使ったのは転身魔法の応用版さ。人形の体に込められていた魂を人探針盤に移したんだよ。」


 お婆さんが言うには、普段使わない魂を欠片を"デイル"と呼ばれる人形やぬいぐるみに移しておくのだそうだ。そうしないと魂が怒り出すそうだ。


「ミクルのお婆さんって一体何者なんだ?」


「街の仲介屋さんさ。」


 お婆さんはにっこりと笑うとそう言った。


「それに驚くのはまだ早いんじゃないかい。

 これの力をちゃんと確かめてから驚くんだね。」


 確かにそうだ。レイはまだ白い雲のようなものがこの人探針盤に移る所しか見ていない。本当にこの道具に魔力が宿っているのか確かめたわけではない。


「この人探針盤に魂の欠片と魔力を注ぎ込んだ魔法使いはチートの達人でね、この人探針盤はチート魔法を秘めているだよ。

 これに触れて誰かを思い浮かべると、その人のいる方角と状況が分かるようになってるんだ。」


「チートが宿った道具…。」


 レイは人探針盤をじっと見つめた。

 普通の魔法はたくさん見たことがあるレイだったが、マジックアイテムの力を見たことは無かった。


「試しに使ってご覧よ。」


「は、はい。」


 お婆さんのその言葉に促されるままに、レイは人探針盤に触れた。

 人探針盤は見た目の冷たい印象とは裏腹にほのかに暖かかった。

 レイは人探針盤に触れると、目を閉じた。


 すると、沈黙していた人探針盤が急に狂ったように回りだした。レイは驚いて手を離してしまった。それでも人探針盤は止まることなく回り続け、やがてゆっくりと停止した。

 長針はレイのちょうど反対側、街の中心部を指している。

 そして、その横には真っ赤な字で"命が危険"という言葉がでていた。


「レイ、おめぇ一体誰のことを思ったんだよ。そいつマジでやべぇぞ。この表示がでるって事は相当やべぇ。」


 ミクルは慌てたような困惑したような顔でレイをみた。

 レイの顔はもっと狼狽していた。


「う、うそだ。そんなわけ、ない。

 なんで?なんでなんだよ。」


 レイは何度も人探針盤を見直したが、そこに表示される文字が変わることはなかった。


「お婆さんこれ壊れてるよ、だって、だってこんなことあるわけ無いよ。」


 レイは人探針盤から目を上げると、お婆さんにつかみかかる勢いで言った。相当数動揺しているようだ。


「レイ、落ち着くんだよ。

 お前さんが誰のことを思い浮かべたのかは知らないが、私の管理しているマジックアイテムだよ、壊れてるわけがない。」


 お婆さんはあくまでも冷静だった。


「それより、教えてくれないかい。お前さんが誰のことを思い浮かべたのか。」


 お婆さんは優しくレイに問いかけた。

 レイはがっくりと頭を落とし、そして口を開いた。


「ハル…。」


 レイの口から出た名前、それはレイの妹のものだった。

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