俺の彼女がラブコメを書き始めた
俺の彼女が顔を真っ赤にしながら 携帯をいじっている
俺の彼女が顔を真っ赤にしながら 若干ニヤけながら 携帯をいじっている
思い浮かぶのは浮気という文字
そんなわけない そんなわけない
彼女に限ってそんなわけない
そう思いながらも、
「誰にメールしてるんだ」なんて訊いてしまうあたり
俺は小さい男なんだろうか
返ってきた 彼女の言葉
「わたし、ラブコメ、書き始めたんだ」
らぶこめ の意味を理解するのに10秒かかった
さらに5秒かけて 彼女に返した言葉は
「チャレンジャーですね」
俺は馬鹿か なんで敬語なんだ
違うよ問題はそこじゃねえんだよ
俺の彼女が ラブコメを書き始めた
俺の彼女が ラブコメを書き始めた
彼女に見せてもらった 彼女の小説
それはそれは カオスな世界
主人公は 彼女そっくりな女の子
きっと自分を投影してるんだろう
主人公の目の前に次々と現れる男たちは
武士に 執事に 白馬に乗った王子様
統一感がないとかそんなレベルじゃない
おまけになんだか全員イケメンで
顔面偏差値48(推定)の俺とは雲泥の差
俺は優柔不断で そういう意味でもかっこよくなくて
彼女は俺のどこが良かったんだろうなんて そんなことを思った
主人公は 誰と結ばれるんだろう
主人公は 誰と結ばれるんだろう
武士? 執事? 白馬に乗った王子様?
君の望む人は どれ?
はっきり言って 彼女には文才がない
なのに戦闘シーンなんか書き始めちゃって
刀がぶつかる音は『ガッチョーン』だし
倒れるシーンは『ズコーッ』だし
そんな文章を読んだ俺も ズコーッてなったよ
何故か俺が 彼女の小説を推敲する始末
『スイカみたいに真っ赤な顔』
それはスイカじゃなくてリンゴだよ そう言った俺に
「だけど青リンゴもあるじゃないの」だなんて
俺は何も言い返せなかったよ
俺の彼女が ラブコメを書き始めた
俺の彼女が ラブコメを書き始めた
やがて彼女は悩み出す
どのキャラクターと主人公をくっつけようかって
従順な執事か
とにかく渋い武士か
金持ちの王子様か
どの人がいいかな なんて 俺に訊くんだ
君の物語にはプロットがなかったんだねとか
そんなことを言う余裕はなかった
「俺は全然かっこよくない
執事みたいに要領良くないし
武士みたいに強くもない
王子様みたいにお金も持ってない
俺は全然かっこよくない
だけどきっと変わってみせるよ
けれど これからもずっと変わらない心
俺は 君の事が 大好きだよ」
突然泣き出す彼女に 慌てふためく俺
泣きじゃくる彼女が 口にした言葉
「その言葉を 聞きたかったの」
俺の彼女が ラブコメを書き始めた
その理由は 「俺の本心を知りたかったから」だったんだって
俺はようやく気付いたんだ
彼女の書いているラブコメは 最後の最後まで滅茶苦茶で
最終話になって 突然出てきた男の子
パッとしない顔で 優柔不断で
だけど最後に、主人公と結ばれたのは。