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第4話 一緒にバーでも


 『集会』の会場内は倒れた白スーツの男であふれていた。


 ジェイは襲い来る男たちの攻撃を華麗に避けながら反撃を続け、ついにその全員が倒れ伏した。

 サメか小魚か忘れたが、所詮ジェイ一人でねじ伏せてしまえるほどの組織だったというわけだ。


 いや。よく考えれば、数十人の、それも武器を持った男たちを相手にたった一人で圧勝してしまうのがおかしい話だ。どれほど経験を積んだ人間であろうと、ジェイほどの動きができる者は限られるだろう。


「うん。誰も死んでないね。殺さないようにするのが一番難しいんだけど、余計な金かけたくないからな」


 ジェイは服についた汚れを払いながら言う。十蘭は彼の言葉を聞いて衝撃を受けた。


 ジェイは意図的に、襲ってくる白スーツ男たちを殺さなかったのだ。彼の力ならやろうと思えばできたはずなのに、それをしなかった。

 なぜなら殺してしまえば処理に金がかかるからだ。裏社会の競争なんて命の一つや二つ軽いものだが、この状況であれば彼らには歩いてお家に帰ってもらうのが一番良い。

 不可抗力だしそれくらい、と思うものだが、見事な手腕で一切の妥協を許さなかった守銭奴ぶりには感服せざるを得ない。


「ペドロ。こいつら、外に出してきて」


 ジェイが言うと、どこからか黒い男が現れた。瞬間、会場はどよっとざわめきが起こる。十蘭も、それを見て無意識的に息を吞んだ。


 男は真っ黒な礼服を身に纏っているものの、不気味な仮面をつけており、その表情は見えない。顔が見えないのに男と分かったのは、棒のように伸びた身長と広い肩幅のせいだった。腰までありそうな長い髪のぐるぐると暴れた毛先が彼のシルエットに不気味さを際立たせ、何と言っても一番目立つのは右の頭から生えた大きな(ツノ)だった。

 ペドロと呼ばれた男はゆらゆらとジェイの前まで歩いてくる。


「ジェイロッドさん…………こんな大量の人数を、私に運び出せと…………?」


「そう。ペドロならできるよね?」


「できないとは言いません…………ですが私は、なにも召使いじゃないんですよぉ…………」


 不気味な仮面からは想像がつかないほど恐る恐るといった言い草で、ペドロはジェイに泣きついた。恐ろしいような忌まわしいような雰囲気があるが、その仮面は自信のなさを隠すためのものなのかもしれない。


「いいからやれ。ま……………………ボスに言いつけるから」


「ひいぃ…………」


 ジェイの妙な気迫に、ペドロは怯えながらも作業を開始する。人間からしてはいけない音が何回も聞こえた気がするが、倒れて気を失った男たちの姿はみるみると会場から姿を消していった。途中、「フヘヘ…………」という声と共に白スーツ男の叫び声が聞こえたのは気のせいだろうか。





 気がつくとペドロは消えていた。あの角は一体何だったのか。

 会場には散乱した武器と装飾、そして血の跡が残された。


「(一瞬で片づけちゃった。あのペドロって人、何者……? それに彼に指示してたジェイも、幹部になって日が浅いとは思えないほどの実力を持ってる)」


 十蘭の目には彼らがとても異様なものに見えた。もっと彼らの、彼のことを知りたい。そう思った。


「お騒がせしました、皆さん。どうか余興として楽しんでいただけたら幸いです」


 ジェイが会場にそう宣言すると、人々は何事もなかったかのように食事や会話を再開させ始めた。

 彼らにとっては、今のような光景は日常茶飯事なのだろう。なにせマフィアなのだから。楽しむどころか、なぜ殺さなかったのかとぼやく者までいるくらいだ。異常者と噂の『J』でなくとも、彼らはもれなく異常者だ。

 十蘭は、この場で誰の怒りを買っても終わりだ、と気を引き締めて再び『集会』に臨むことにした。


 すると服の裾を整えながら、十蘭のもとにジェイが戻ってくる。怪我一つしていないし、息切れもしていない。


「ふう。すっきり……はしなかったな、別に。まあいいや。しぃらん、俺もう飽きちゃったから一緒に帰らない?」


「……えええ!? 何言ってるの、ジェイ!」


 ジェイの間の抜けた一言に、十蘭はそう反応せざるを得なかった。

 『集会』はまだ始まったばかりだ。やったことと言えばジェイと世間話をして、彼が抗争相手をボコボコにしたのを見ていただけ。


「だから、飽きたんだよ。行ってこいって言われたんだけど、やっぱり楽しくなかった」


「(楽しくなかった……か。私はジェイと話すの、結構楽しかったんだけどな)」


 真っ先に浮かんできたのはそれだった。

 勝手な感想を押し付けるのは良くないと分かっているが、これまで近しい年齢の友人を作ってこなかった十蘭にとって、ジェイは心を開ける相手だった。できることなら、このまま話していたかった、と少し寂しい気持ちになる。

 情報収集も大事だが、彼を一人で帰らせるのも嫌だ。十蘭は一緒に行くか残るかの二択を迫られたが、次に飛んできた一言はその迷いを吹き飛ばした。


「……だから、帰るついでにバーでも寄って行かない? 俺、まだしぃらんと話したいから」









「っぷはあぁぁ…………おいしいぃ……」


 十蘭はジェイととあるバーにいた。

 路地裏の目立たないバーだ。人は少なく、店内は店主の趣味であろう物騒な武器のレプリカや不気味な民族系の面などが飾ってある。ジェイの行きつけらしい。


 十蘭は遠慮せずにビールを飲み干す。『集会』のような場ではこんな豪胆な飲み方はできないだろう。小樽っぽいデザインの木製マグカップに並々と注がれた泡は十蘭の口の上に付着し、髭のようになった。

 ジェイはそれを見てふっと笑った。


「なによぉ、私がそんなにおかしいの?」


「あっはは、しぃらん、髭。ふふふっ…………」


 子供じゃあるまいし、そんなことで腹を抱えるほど笑われるのは不本意だ。十蘭は追加でビールを注文し、ジェイの口元に近づける。


「あなたも飲みなさい! 幹部の飲みっぷり見せてみろーっ!」




「あ、俺は飲まないよ。未成年だから」




 カクン、と十蘭の中で一瞬時が止まった。



 未成年。ミセイネン?



 この、済ました顔でバーに入店するような男が? 涼しい顔で敵の腹に蹴りを入れるような男が? 束ねてあふれた前髪をかき上げて色っぽさを出している男が?


「未成年!?!? 何歳!?」


「秘密。ママには誰にも言うなって…………」



 ママ??



 だんだん回ってきていた酔いも完全に醒めた。

 ここまできて、微かにあった違和感の正体が少し分かった気がした。


 雰囲気の割に話す内容が子供寄りだったり、ワインではなくジュースを飲んだり、冷静沈着を装う裏では感情表現が豊かだったり。それもこれも彼の精神が未熟だからとか子供っぽいとか、そういうことではなかった。ジェイはもともと未成年である、ただこれだけの理由だったのだ。


「だとしても『ママ』ぁ…………?」


 親は甘やかしすぎではなかろうか。その前に、未成年マフィア幹部の親ってなんだ。


 ジェイは見た目こそ21歳の十蘭よりいくつか年上に見える。それで未成年というのだから、いくら低くても19歳かそこらだろう、推測する。ほぼ大人と言っていいかもしれないが、自分の子供がマフィアに加入するだけでなく、そこの幹部にまで上り詰めているということを、彼の(ママ)は知っているのだろうか。

 未成年だから酒を飲まない、という条例を守っているくらいきちんとした倫理観と教育を受けているのに、マフィアで抗争相手をボコすのは良いのか。


 もうわからない。まともではない父親のもとで育った十蘭の弟だってそこまでグレたりはしなかった。十蘭は頭を抱えた。


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