第3話 パーティ会場、襲撃!
不思議な幹部の青年・ジェイと会話を続けること、十数分。
なんとも言えない雰囲気を纏っていたジェイだったが、話してみると案外親しみやすい性格であった。
気になるのは、精神年齢が見た目よりやや幼く感じられることくらい。巷で流行っているぬいぐるみ製品の話を嬉々として話したり、ワインではなくジュースを頼んでいたり。なにより初めはクールな印象を受けたものの、感情表現が非常に豊かなのだ。あと、十蘭の名前の呼び方に若干の違和感がある。
「しぃらん、諜報員なんだ。いつから組織に?」
「2年前から。お金を稼がなくちゃいけなくなって、ここに……」
「へえ、大変だね。でも俺と同じだ」
同じ、というのは、金を稼ぐために組織に入ったことを言っているのだろう。だとしても、十蘭はジェイのように一度の仕事でぼったくり価格を求めるほど守銭奴なわけではない。
そもそもそんな金額を請求して、相手が素直に受け入れるものなのだろうか。彼自身によほどの信頼があるか、普通では任せられないような危険な内容の仕事をこなしているとでも言うのか。
「しぃらんが今日ここに来た目的って、何?」
ジェイは十蘭に問う。
十蘭は、CROWNという組織に敵意を持っているわけではない。それでも、幹部やその部下が集まるこの集会に忍び込み、情報を集めようとするのには理由があった。
ジェイだってボスの部下、幹部の一人だ。それを話してしまえば、十蘭の調査は邪魔されてしまうかもしれない。最悪、二度と組織に関われないようにされてしまうかも…………
それでも、彼ならば話してみても良いのではないか、と思った。話してみて分かった彼の人柄、親しみやすい雰囲気、どこにも裏表がなさそうな人間だ。もちろんそれは演技である可能性だってあるが、十蘭の感覚が大丈夫だと言っている気がした。
「私がこの組織でいろいろ探ってる理由……それは────」
十蘭が口を開いた、その瞬間。
ドカン、と地面が揺れた。
何かが大きな音を立てて倒れたような音だった。それは入口の方から聞こえ、目を向けると白いスーツに身を包んだ複数人の男が立っており、その周辺には集会の参加者であろう人物が倒れている。会場の騒がしさは驚きと困惑を含んだざわめきに変わった。
「よお、ここに『K』がいるって聞いたんだが…………どいつだ?」
『K』…………CROWNのボスを探している。
白スーツの先頭に立った男は片手に金属の棒のようなものを持ち、キョロキョロと会場を見回していた。
こんな町の真ん中でマフィアが集まるのだから、さぞかし厳重に機密保持が機能しているだろうと思っていたが、いとも簡単に割れてしまっているではないか。かくいう十蘭も、下っ端の諜報員如きがここに潜入できてしまっている時点で同じことが言える。
白スーツたちの乱闘に巻き込まれないようにと十蘭は慌てて席を立とうとするが、ジェイがそれを制した。
「ま………………『ボス』本人がこんなところにいるわけないのに。馬鹿なのかな?」
「そこまで言わなくても……というか、そんなこと言ってて大丈夫? あの人たち、どんどん中に入って来てる……」
「それこそ心配するのは野暮だね。これがどんな集まりか、知ってるでしょ?」
そう、これは町一つを支配するマフィア組織の実力者たちが集まる場。たとえ誰が襲い掛かられようとも、それぞれの手段で敵をぶちのめせるのだ。
ただし、他人が目をつけられたときにどう動くかは、その人に委ねられる。普通に考えて、同じ組織に所属しているとはいえ、同時に商売敵でもある者のことを助けようとは思わないだろう。
「そこのガキ共。『K』はどいつだ、言え」
たとえ実力者たちの中に紛れた女が狙われたとしても、誰も助けてはくれないのだ。
白スーツの先頭の男は十蘭の方へ近づき、金属の棒を見せつけながら十蘭を睨んだ。
「私、一応ガキじゃないんだけどな……」
男に聞こえない声量で愚痴をこぼす。
活発な顔つきで幼く見られがちだが、十蘭は21歳である。ジェイは十蘭より幾分か年上に見え、どこか落ち着いた雰囲気があるので、ガキと呼ばれることはないはずだ。
自分が十蘭のオマケでガキと呼ばれていると思ったのか、ジェイは苦笑し、ネクタイをギュッと締めて席を立ちあがった。
「あ? やんのか、ガキ────────────がッ…………!?」
その瞬間、男の体は入口まで吹き飛んでいた。
目にもとまらぬ速さだった。周囲の人々は飛ばされた男の方に注意を向けているが、隣にいた十蘭は見ていた。
ジェイがネクタイから手を外した瞬間、ものすごいスピードで男の腹部に蹴りを入れたのだ。リーチの長い脚は男の腹にめり込み、風圧を生みながらその体はUの字になって吹き飛ばされた。
「うおお、キャプテンがやられた!」「何してくれとんじゃコラァ!」
男の部下と思われる白スーツ集団が前に出てきて怒鳴り散らす。手を出したのはジェイの方からなので、CROWNの幹部たちは面倒ごとに巻き込まれないようにススっと距離を取った。真ん中にはジェイだけが残される。
「君たち、何て言うの? どこから来た?」
ジェイは少しも怯まず、一歩も退こうとしない。それどころか、男が落とした金属の棒を拾い上げて挑発的な態度をとった。
男の部下の一人が声高らかに名乗りを上げる。
「知らねえのかぁ、オレらは西じゃ逆らうもんもいねえ『レッドシャークズ』だ! キャプテンを殴った落とし前、つけてもらわねえとなぁ!」
聞いたこともない組織の名前だ。だと言うのに、格の違う組織相手によくもノコノコと現れて来れたものだ。
「殴ったんじゃなくて蹴ったんだよ。というか、あれ君たちのボスだったんだ」
「ああん? 何か文句あんのかよ」
ジェイは再び苦笑した。
「いや、びっくりするくらい弱いなと思って。シャーク…………だっけ? 小魚の間違いじゃないの?」
ピキリ。白スーツ男の全員のこめかみには見たことのないくらいにハッキリと血管が浮かび上がった。
「テメエェェ!!」
白スーツの一人がジェイに殴りかかる。
ジェイはそれをひらりと避け、素早く回し蹴りを入れた。勢いを失った後に背後から腹に向けて襲い来る脚を避けきれない男はそのまま横へ飛ばされ、テーブルを派手にひっくり返しながら倒れこむ。
それに続いて白スーツの集団が一斉にジェイに襲い掛かった。拳一本で殴り掛かりに来る者、鉄パイプを振りかざす者、拳銃を向ける者までいる。
ジェイはぬるりと全ての攻撃を避けていく。隙を見せた男の体を引っ張って盾にし、力の抜けた体をパッと投げ捨てる。
殴り掛かって来た鉄パイプをいなしてパシッと掴み、今度は逆に引っ張ってきて限界まで近づいた男の体を蹴り飛ばす。とんでもない力で吹っ飛ばされた男が後ろにいる者たちを巻き込んでドミノ倒しになった。
拳銃の弾は避けた先の白スーツ男の一人に被弾し、仲間内で傷つけ合う結果になる。弾道を読んでいるかのような動きで弾を避けながら銃を持った男に近づき、次の弾を撃たせることなく、男の顎を押し上げて拳を振りぬいた。
落ちてきた銃を頭上でキャッチし、その指は既に引き金にかかっている。銃口は入口へと向いていた。
全てが洗練された動きだった。それなのにジェイの顔には焦りの一つもなく、ただ作業をしているだけ、というような淡々とした表情。
仲間が次々と倒れるあまりの速さに怖気づいたのか、後方に待機していた白スーツ男たちはじりじりと後ずさりをした。恐怖に怯えた目でジェイを見つめ、銃口を向けられて動けなくなっている。
「こういう戦い方はあんまり得意じゃないんだよ。もう面倒だから、とっとと帰ってくれたら助かる」
ジェイは足元に転がる男を蹴って転がしながら言った。蹴られた男はピクピクと痙攣している。
得意じゃない、という割には圧倒的な力の差を見せつけたジェイだったが、全員をボコすのは面倒だと考えたのか、帰れの意味を込めてしっしと手を振った。
「ク、クソ…………冗談じゃない、こんな奴に負けてたまるかあぁ!!」
それでも退かない白スーツたちは雄叫びをあげた。その勇敢さはむしろ評価してやっても良いほどである。
「あーあ、本当勘弁してよ──────っと!」
ジェイに襲い掛かった男の顔面には、既に拳がめり込んでいた。




