部活紹介
給食も終わって、昼休みだ。
冬美也の教室にでも突撃、なんて事も考えたが、その前に当人がやって来た。
「理美いない?」
ド直球過ぎるだろう。
言われた理美は固まってしまい、回りも騒つく。
「おーい、理美ちゃん言われてるぞぉ」
「固まってますね」
「はっ! 冬美也、どうしてここに⁉︎ ふぃ、フィンは!?」
「いや、あいつは準備中」
「冬美也もじゃないの⁉︎」
「ただの説明だからそこまでの準備要らないからって追い出された」
「そっかぁ、でも今……」
回りの好奇な目に耐えられなくなり、一度帰らせようと思ったが冬美也の方で理美を連れて行ってしまう。
「んじゃ昼休み終わる前には返すから」
そう言い残し、状況分からず取り残されるクラスメイト。
桜夜もつい呟いた。
「おーう、パイセンやべぇな」
そこは礼拝堂だ。
「屋上とか行くかと思った」
青春あるあるの1つ、でも基本は事故防止や自殺防止もあるが為常に閉鎖されている。
冬美也は何度かこっそり行っていたようだが、流石にバレて怒られたもよう。
「行っても良いけど、鍵掛かっているし、ピッキング紛いして何度も行ってたらバレて怒られた」
「それは怒られるよ!」
「あははは、ここだと誰も来ないんだよ」
冬美也の言うように本当に人の気配も無ければ、誰も居ない。
「改めて見たけど、誰も居ないね、神父とか居そうだけど?」
「基本昼休み拝みに来る奴居ないからな」
1人か2人位居そうなのに意外と居ないのには驚きだ。
「ここ聞いたら閉門するまで開けっぱなしだもんね」
「そうそう、それもあるんだけどすり鉢状だから入ってすぐ見渡せるからな。後は多分部活紹介の為に皆それどころじゃない」
「あははそうかも、でさなんでここに? 誰も居ないのは分かったけど」
理美の疑問に冬美也は改まって何かを言おうとした。
「……うん、そのな……前に理美が言っていただろう?」
良く見ればかなり顔も赤い。
「前?」
何時の前か、必死に思い出そうとする。
色々あり過ぎてなんだったのか分からない。
いや、実際にはド忘れだ。
本当なら思い出して話せるだろうが、本気で思い出せない。
そんな理美を見た冬美也は理美の手を掴んで引き寄せる。
「相当前だから覚えてないか……なら、オレが――」
「何の話をしているんですか?」
バートンの声に驚き、冬美也は理美を離す。
「何故ここに!?」
「あなた方みたいな人達がたまに溜まり場にするので、先生方で一応ランダムですが見回りです。神聖な場所で如何わしい事が無いように」
理美は納得るも、冬美也の方は納得出来ない。
「なるほど……」
「いや! 今の今まで来なかったのになんで今日居るんだよ! てかさ、昨日――!」
もう頭に来た冬美也は昨日の出来事を洗いざらい吐かせてやる気で言おうとした時だ。
運が良いのか悪いのか、ゼフォウがやって来た。
「おー居た! どうだ……あぁー今回もダメだったのねぇ」
きっとゼフォウの作戦だったのだろう。
この礼拝堂はあまり人が来ないとか、色々調べてくれたのだろうがこれを見れば全てが分かる。
水の泡だ。
「何の話?」
「理美ちゃんは気にしないで、時間まだあるけど、別のところ行く?」
「ぜ……じゃなくてフィン、部活紹介は? 大丈夫なの?」
「んー? 俺らのそこまで長い紹介じゃないし、同好会はただの説明だけだからそこまで拘束されないよ?」
「そうなんだ」
理美が先ほどのここに来たやりとりの話をしようかと思っていたが、バートンの方から話が出る。
「同好会でもちゃんと活動出来てれば、部費も出ます。と言いますか、そもそもある程度部員集まっているのですから申請したらどうなんですか?」
話を変えられてムッとするも、徐々に弱気になっていく冬美也に、全てを知っているゼフォウの顔が物語っていた。
「……いやぁ」
「一応ねぇ?」
どうやら何かで引っかかっては部まで昇格できていないみたいだ。
「それより、あなた方は別にここで祈りに来たわけではないんでしょう? ならもう行きなさい」
再度バートンに促され、理美は冬美也とゼフォウに言いながら先へと歩く。
「はーい、行こ冬美也、フィン」
「お、おう」
「んじゃ、俺も行こうかな」
結局、バートンのせいで上手く行かなかった。
ゼフォウは昨日、冬美也からバートンの事を聞かされている。
昨日の夜――。
帰って来て早々、丁度シャワーを浴びて出て来た冬美也がいた。
「ただいー」
「おかえり、つかお前まだ帰ってなかったのな」
そう言いながら、冬美也はドライヤーを取り出し髪を乾かし始める。
ただ、会話もしたい為にわざわざドライヤー音が煩くならない1個前にしてゼフォウの話を聞く。
「ん、だってあの告白した子ほっておくとやばいからね。こっちでなんとかした」
流石にケアという名のマインドコントロールで、最終的に告白してきた女の子全員が怪しい店で働かせるんじゃないかと心配になる。
「なんか、後々、皆、お前の店に出ていそうで怖いんだが」
「やだ! 俺、未成年を働かせる店なんて無いわよ!」
普通にあった。
「あるんじゃねぇか怪しい店」
ゼフォウもシャワーを浴びる準備をしながら、ふと冬美也の未だ不機嫌なままなのに気付き、軽い冗談で言ってみれば意外な方面から話が出て来て、内心驚く。
「なんか機嫌悪いね? 理美ちゃんに告白できなかったから?」
「違うわい! バートンだよ、今年入ってきた」
「あぁ、入って来て早々に担任任せられてるんでしょ? 凄いよねぇいや、人数ただ単に足りてないってのもあるか」
経験があってすぐ任せられたなら話は別だが、今年が初めてと言う噂もあり、何故選ばれたのか謎だ。
本当にただ単に人手が足りないなら、確かに足りないだろうと思う事にした。
冬美也の話を聞けばバートンは変な分類へと変わる。
「アイツからお前は理美を守れないって言われて……あぁくそ! 思い出しただけで腹立つ!」
「変な人もいるのな」
そして同時にあの視線はバートンだと気が付く。
「つーか、オレら睨んでたのアイツじゃね?」
「……丸眼鏡の金髪、それならもうバートンじゃん。後で調べてあげようか?」
流石にゼフォウも個人的にも気になり調べる事にした。
「やめろ、金払えねぇから!」
冬美也の為ではないので別に金は取る気はないが、そんな反応されたら面白半分で返すに決まっている。
「貧乏&悪運坊やから金なんて取ったら何祟られるか分からねぇよ」
「おい!」
『まぁ一応調べておくけども、俺もあの先生にはちょっと気になるところあるし』
そう思って先に出た冬美也達を追って、閉まった扉を引こうとした時だ。
いきなりバートンが真後ろにおり、扉を開けさせないように片手だけで押さえ込み、ゼフォウに言う。
「何を調べても、何も出てきませんよ、何も」
一瞬で分かる、バートンから殺気が漏れ出ている。
とにかくしらばっくれてしまおうとするが、バートンの疑り深い目は恐怖だ。
「何言ってるんです先生? 調べるって」
「とぼけなくても良いですよ? イ・フィン」
声も震えるだろう中、ゼフォウは笑って誤魔化した。
「とぼけるなんて、俺そうに見えますけど結構真面目なんですよ?」
しかも声は震えず真っ直ぐだ。
バートンはゼフォウの顔に近付け、睨みを利かせながら言う。
「嘘は嫌いです、それだけですよ。ちゃんと忠告はしましたよ? では」
嘘と言うより、誤魔化していただけだが、こうも本気でいつでも殺せると言わんばかりに脅され、ゼフォウも何か言おうとしたが、バートンは1度深呼吸をしたのか、いきなり扉から離れた。
それと同時に扉を開けてバートンはゼフォウに言った。
「早く行きなさい、部活紹介だからと言って文章を読むだけだからと気を抜かずちゃんとしっかりやりなさい」
言い返しても良かったのだが、流石にこれだけの圧を掛けられただけでなく、雰囲気からして関わっていけない人物であるのは間違いない。
「は、はい、失礼します……!」
ここは一旦大人しくして遠目から観察しつつ状況の把握も必要だ。
渡り廊下を渡ってすぐ、理美と冬美也が待っていた。
「やっと来た!」
「どうしたんだよ? まさか――」
急に無事戻って来れた安堵感からかゼフォウは今1番言いたい言葉を2人に送る。
「俺、せめて壁ドンならロマンティックでしたい派です」
「何言ってんだお前?」
結局、冬美也が何を伝えたかったのか分からずのまま、昼休みは過ぎ、無事に教室に帰って来た。
「んじゃ、オレら同好会は最後の紹介だから」
「うん、楽しみにしてる」
「やめて、ただの作文読むだけだから」
そうして冬美也とゼフォウが自身の同好会の紹介の為その場を去り、残された理美は自身の教室に入ると、他の女子達から一気に質問攻めにされる。
「ねえねえ! あの先輩達となんで知り合いなの!?」
「えっ? ただの幼馴染だよ」
「そうなの!? どうしたらそんな風に呼びに来てくれるの!」
「いや、知らない」
「なら紹介してよ!」
これで断るとやや面倒だし、とりあえず前もってゼフォウ辺りに相談しておけば何とかしてくれるのではと淡い期待をして紹介だけならと口にした直後にチャイムと共にバートンも教室に戻って来ていた。
「紹介だけなら良いけ――」
「何しているんです? 全員席に着きなさい」
「はーい」
「紹介だけはしてね」
「本当に紹介だけだよ」
正直な話、あまり紹介とかしたくない。
独占欲と言えばそうだろうが、まだそうまだ――。
「あぁっぁぁぁっぁ‼︎」
ここで、顔を真っ赤にして思い出した。
そう自分が前に言った冬美也と家族になりたいと言う言葉だ。
あっちは覚えてくれていたのに、こっちはド忘れと言う最悪な状態であの時、どうしようとしてたのか。
他の生徒達も何があったと皆理美を見る。
無論、バートンも理美に注意をしながら席に戻らせようとするも、思い出した理美からすれば最悪のタイミングでやってきたバートンに喰らいつく。
「うるさいですよ、嘉村理美、早く――」
「なんで、あの時止めに入ったんですかぁぁ!」
「だから、先も言いましたでしょうが、早く席に着きなさい」
分かってて入って来たそんな言い分だった。
1年生全員が体育館へと集合する。
先生達は見守り、部活勧誘の為に先輩達が裏で最終確認、そんな中で生徒会は進行を始め、賑やかな雑談も消えていく。
生徒会の1人が進行し、まずは力を入れている運動部から始まり、文化部へと進む。
1つの部活に大体5から10分程度の持ち時間だ。
部活紹介は面白く伝える部活、本当に真面目にやっているアピールをする部活、なんなら演劇部なんてあの短時間で劇を始めたり、吹奏楽部も一曲演奏したりと盛り上がる。
そして同好会へと続いた。
かなり独特な同好会が意外と多く、漫画研究同好会、お散歩同好会なんてのもある。
しかもただのダミー同好会ではなく、真面目に何処に行ったかも説明がある位だ。
こんな面白い活動だがあくまで同好会、どう言う理由でそうなったかは分からないが、冬美也達の落ち込み具合にもそれ相応の理由があっての事だろう。
「リミリミ知っているか? 何故同好会が多いのか?」
急に桜夜から声を掛けられ、戸惑うもどうやら同好会から部に昇格出来ない理由を知っているようだ。
「えっ? 急にどうしたの桜夜ちゃん?」
「呼び捨てでオケ、実はな、他の先輩達から聞かされたんじゃけれども、人数が4人以上とか生徒会からの許可とか色々ありそうなんじゃが、成績、評価で昇格が決まる」
「成績、評価?」
「そう、陸上部と吹奏楽部なら大会での成績なら分かるじゃろ?」
この話だと、本来活動をちゃんとするとか人数が足りてるとかではなく、純粋な評価による昇格な為、元々メインとなる部はあるが、まだ出来たばかりの私立、成績と評価を重視すると中々部への昇格は難しいのだろう。
「人数とかじゃなくそっちがメイン?」
「そう言う事じゃ」
ようやく納得いった理美は冬美也達があの顔をしたのかと分かった。
「あーそれで冬美也のあの顔かぁ」
「勉強するだけって言ってたけど、どんな同好会なんでしょ?」
「さぁ? 宿題とか?」
丁度、冬美也とゼフォウが出て来て、謎の黄色い悲鳴が聞こえてきて、驚いてしまう。
流石に先生方も苦笑いだ。
「すっげ人気」
「普通だと思うんだけど?」
確かに天才と言われる人物2人だが、理美からすればそれを除けばやはり普通と思ってしまう。
そう、至ってどこにでもいる中学三年生だ。
ゼフォウが無駄に手を振って、アピールしながら紹介が始まった。
「はーい、ありがとう! んじゃ俺らの勉強同好会の説明始めるねぇ」
続けて冬美也が話だす。
「主な活動はそのまま勉強で、宿題はもちろんだけど、基本テスト前等は部活動禁止になるのですが、この同好会はその期間勉強をするという名目と理事長から許可取りましたので、この期間も活動できます」
どうやらテスト対策の為に勉強を許可して活動をしているらしく、実際掛け持ちしているのはテスト対策の為に入っている生徒がいると言うことだ。
「と言うか、この期間を使ってテスト勉強だけの掛け持ちの人多いから、それだけの為に来てもオーケーでーす」
「理事長だけとか思うけど、生徒会にも頭下げてますんで、それにここに入ってからちゃんと勉強対策出来るようになった男子居るので大丈夫です」
「こう見えて、男子多いよ!」
なんか段々遊び出している気がして来た。
しかしやはり私立、エースとか甘そうに見えて実際赤点を取る生徒には容赦がないようだ。
「ここの私立、部の場合だと赤点取るとせっかく全国大会出場切符取ったのに、連続赤点だった為に出場禁止が起きる場合もあるのでここに入ってから点数上がって禁止を免除された男子生徒も居ます」
「それ、同一人物ですか?」
「知らねぇよ! お前が書いたんだろ!」
「でも事実赤点回避したじゃん!」
「ギリギリだろうが!」
流石に笑いが起こった。
なんとも先生達も何人か苦笑いしているのを見て、特定の男子生徒だろうなと薄々分かってしまう。
理美達の知らない裏舞台にいる1人の男子生徒が意気揚々と出て来て、すぐに戻って戻ってと冬美也とゼフォウが小声で追い返し、それだけもう誰が特定の男子か分かってしまい、先生方も戻れ戻れと笑いが起こった。
回りの女子達も一度見に行ってみよう、絶対入ると口にする。
喧嘩みたいな漫才をいきなりゼフォウは終わらせて、場所をお知らせした後、紹介時間は終了。
「――はい! じゃぁ、最後に場所は3階の1番奥空き教室を使っているので見に来てねぇ」
「ご清聴ありがとうございました」
「バイバイ!」
手を振って舞台を降りて行った。
その後は教室に戻って、ホームルームとなる。
バートンが明日の日程について一通りの説明後、入部期日と部活見学についての話をする。
「部活入部は必須です。再来週までにはこの入部届を私に渡してください。明日から部活見学出来ますので、今日は真っ直ぐ帰るように、ただスポーツ推薦等で入った方は今日から入部してもいいそうですが、面倒でしょうから明日行きなさい」
別の男子生徒が突っ込みつつ、バートンに渡された入部届を後ろへと渡す。
「良いんかよ!」
「良いですよ、だって説明受けて質問した時別にスポーツ推薦でも部活は別でも構わないと言っていましたし」
「緩い……!」
流石に緩すぎる……。
そんなこんなで放課後となり、理美は明日勉強同好会へと行こうと思っていたが、回りが明日は勉強同好会へ行こうと言っており、これは暫く行けなさそうだ。
今日から見れると少し楽しみだったが、迷惑掛けたくないので早々に帰る事にした。
が、いきなり教室の戸が開き、冬美也が声を出す。
「理美、明日から同好会始めるから、今日一緒に帰ろう!」
皆が再度固まり、理美が近付き、中へと入れたかと思えば、いきなり冬美也の紹介を始めた。
「こちらがかの噂の冬美也・F・神崎先輩です」
「えっ? えっ? いきなりどう――」
冬美也からすれば一緒に帰りたかったのだが、他の女子生徒達に囲まれてしまい、何がどうなっているのか分からない。
しかも質問攻めだ。
「神崎先輩! 好きな食べ物なんですか?」
「チョコが好きだけど、特にきのこの里」
そういえば冬美也はたけのこの丘ときのこの里が配られた時にどっちも食べてから、きのこの里を気に入ったのをよく覚えている。
他の女子からは多分女性の好みだろうが、主語がなかったため意味が通じず。
「好みは?」
「どう言う意味?」
これでは終わらず、銀髪にまで話が及ぶ。
「なんで銀髪なんですか?」
「生まれつきだけど?」
流石にそれはすぐに答えれたのと、回りの男子からあれ生まれつきかよと驚く声が聞こえる。
そして極め付けが出た。
「ご出身は?」
理美もその辺はダメだろうと止めようとしたが、意外にも冬美也が気にせず答えたのだ。
「いやそれは、もうプライバシーと言うか」
「アメリカだけど?」
「えっ? そこ答えるの?」
驚く理美をよそに、その女子はさらに聞く。
「ならどうして日本に?」
「……好きな子がいるから」
何故かここでシンと静まり、場の空気がおかしくなる。
同時にゼフォウがやって来た。
「もう、俺が日直の時消えるの止めろ! ってどうした……おっ前あれ程言うなって言っただろう!」
流石のゼフォウ、場の空気でどうのような言葉を言ったのかが理解できてしまったようだ。
直後、冬美也が理美の腕を掴んでそのまま出て行ってしまった。
皆、これはとんでもない事を聞いたと騒ぐも、ゼフォウが慌てて宥めに入る。
そうとは知らずに、理美が冬美也に謝罪をした。
「ごめん! 皆冬美也に興味あって――」
ほぼ言い訳に等しい謝罪に冬美也もキレているだろうと恐怖もあったが、凄く耳が赤くなっているのが見える。
冬美也は理美を見て、改めて言う。
「そうじゃない! そうじゃないんだ」
「そうじゃない?」
「実は、お前の――!」
この場で言ってしまおう、勢いで告白を……だったのだが、理美の背後にメリュウの姿が――。
「おっまえ、そんなどうでも良い場所で言うセリフか? あ゙ぁ゙ん゙?」
冬美也はまた喧嘩をしても良かった。
でもここで喧嘩をすれば変な噂も立つが為、あえて理美にお願いするも、理美もメリュウの勝手気ままに出てくるのは止められずだ。
「理美、まずはメリュウを仕舞ってもらえる? 話はそれからで」
「仕舞いたいのは分かるんだけど、メリュウが大人しくクリスタルに戻るって事殆ど無くて、琴さんや絆で漸くなんだよね……」
「なんだなんだ俺様を嫌がるのは!」
偉そうに理美の頭に載るメリュウを手で押さえながら理美は言う。
「少し黙ってて」
ただ冬美也もあの場で白けさせてくれたメリュウには若干感謝もしている。
「とりあえず帰ろう、人に見られると何だし」
お陰で冷静になれた事だ。
運が良いのか誰も居なかったので、良かったと改めて理美も思いながら言う。
「そ、そうだね!」
だが、やはりそういうのは誰かの目があるのだ。
別の棟から覗く目があるのに気付かずに――。




