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リミックスⅠ  作者: E..
7/8

オリエンテーション

 結局、あの飛び降りの一件でかなり入り組んだ道を右往左往しながらの帰宅だった為、かなり帰りが遅くなった。

 着いたのはもう夜の10時過ぎ、予定より1時間遅くなり、寮も消灯している。

「やっば……! お前らすまん、先に俺から謝るからまだ降りるな」

 颯太がそう言いながら、駐車場に車を停め、一度連絡をしようとした時だ。

 誰かが車の窓を軽く。

 警備員だろうか、颯太が車の窓を下げる。

「はい、どなた?」

 そこにいたのはバートンだった。

「こんばんは今日の寮番のバートンです。どなたの保護者でしょうか?」

「すいません遅れて! 妹の嘉村理美とえっと神崎君を送り届けに来ました」

「聞いてますよ。ありがとうございます、後数名まだ帰って来ていない生徒もおりますのでお気にせず」

 どうやらまだ帰って来ていない生徒もいるようで、ちょっとホッとするが、理美と冬美也は颯太に礼を述べながら外へと出る。

「ありがとうね、颯太兄、おやすみ」

「ありがとうございました、お義兄さん!」

「ぶっ! おやすみ!」

 軽く噴いてしまうが、颯太は理美と冬美也が出たのを確認する。

「では、お気を付けてお帰りください」

「はい、妹達をよろしくお願いします」

 バートンと話した後、颯太は車を発進させ寮から出て行った。

 車が見えなくなった後、バートンは言う。

「さぁ、寮に入りなさい」

「はーいおやすみなさい先生」

 理美は自然に寮へ入って行く。

 冬美也も続けてバートンに言いながら入ろうとした。

「それじゃおや――」

「お前では……守れない」

 何を言っているのか分からず、バートンに聞き返す。

「はっ? どういう?」

 バートンは先ほどの言葉を再度言う。

「そのままの意味です。お前では理美を守れない」

 本当に意味の分からない言葉に苛立ち声を荒げそうな時、理美が冬美也を呼んだ為、唸るも冷静に戻った。

「ふざけ――!」

「冬美也ー! どうしたの、行こうよ?」

「……分かった今行く」

 睨みを利かすが、バートンにはあまり効果も無く、寮に戻るよう再度促す。

「行きなさい、もう就寝時間なので騒がないように」

 理美は先程の会話に気付いていないのか、あまり変わらずだが、冬美也は先の事で警戒したままだ。

「はーい、行こ」

「あぁ」

 少しだけバートンを見るも、あちらは既に見ていない。

 一体何だったんだと思ったがとりあえず寮へと入る。

 若干嫌な感じがするのはなんだったのか、まだそれが殺気だと言うのだと知るのは意外と理美からだった。

「先生と何かあったの?」

「何って?」

「いや……殺気立ってたから」

 ここに来てようやく、あの若干嫌な感じは殺気だったのかと気が付く。

 ただどうしてこうなったのかは、理美に教えるべきだろうかと悩む。

 何故バートンがそんな風に言うのか、本当に謎で、まるで身内と言うか何と言うか理美を守れないとはどういう意味なのか……。

 これ以上悩むのも時間の無駄だろうし、ゼフォウと会ってから相談する事にし、理美はバートンの事を知っているのかと尋ねてすぐに驚いてしまう。

「さぁ、なんでだろ? バートンって確か今年から入って来た先生だからよく分からない」

「そうなんだ、あの先生ウチのクラスの担任だよ」

「うっそ、まじか! はぁ……本当に分からない」

 最後の言葉に理美は首を傾げるがまぁ人それぞれの印象は違うのだから仕方がないと思って、明日の事も考え、もう少し話したかったが今日はここで切り上げる事にした。

「? ……とりあえずもう部屋に戻ろう? おやすみ冬美也」

「うん、おやすみ」


 理美は部屋に戻って、まだ桜夜が戻っていない事を知り、部屋に備え付けられているシャワー室を使う為の準備を始める。

 でもなんだろうか、あの悪夢を見るのなら朝にシャワーを浴びた方が良いのではと考えてしまう。

 一応防音も付いているのであまり気にしないが、やはり洗面所があるのは強い。

 ただトイレは共有なので、正直これだけはいただけなかった。

 翼園もほぼほぼ共有だが、また違う。

『確か、個室になればトイレとお風呂も付いてるんだよね?』

 しかもバストイレではなく分離された本当の個室だ。

 やはり来年は必ず個室を選ぼうと決めた瞬間である。

 シャワーを浴び終わり、寝ると言うところで、桜夜が帰ってきた。

「リミミ、ただいまー!」

 もう反応する気もなく、桜夜にシャワーを浴びるよう促す。

「おかえり、もう浴びたから入りなぁ」

「おう、入る入る」

 桜夜がシャワーの準備を始める中、理美は髪を乾かす為ドライヤーを取り出しながら、冬美也がloinでまだゼフォウが帰って来ていないと書かれているのを見て、さりげなく桜夜に聞いてみた。

「ぜ、フィン先輩まだなのかな?」

 まあ普通は知らないだろうし、まだなのだろうと思っていたが、桜夜と同じ時間で帰って来たらしく、冬美也からも今ゼフォウが帰ってきたと連絡が来る。

「んっ? 寮に着いたら一緒になったよフィン先輩と」

「へぇ、フィン先輩桜夜達がお母さん達に会うまでって面倒見てからもう帰ってたと」

 桜夜はあの後に母とも会い、美空とジュリアも親と行った後のゼフォウがどうしてたのかは知らないが、帰った直後に見覚えのある女子と一緒だったのを覚えていた。

「なんかリミミが神崎先輩と再会する瞬間、すれ違った時の女子のパイセンと、流石にバートン先生凄い眉間に皺寄ってた」

「oh……」

 もう見なくとも想像がつき、なんとも言えないし、約5年でこうも変わるものだと感じつつ、夜が深まる――。


 桜夜ももう熟睡し、軽く寝息かイビキか分からない声が漏れている中、理美は何かをしており、一通り終わった所でメリュウを呼び出す。

「メリュウ、起きてる?」

「んあっ? どうした?」

「なんで手帳拾ってくれなかったの? せめて拾ってくれてれば――」

 クリスタルから出てきたメリュウがどうしたのかと思えば、あの時の手帳の件だと分かり、すぐに言い返す。

「オレ様が拾ったら、浮いて騒ぎになるじゃろがい」

 驚愕の真実に驚きを隠せなかった。

「あっ……あぁぁっぁぁぁ……!」

 理美はもう恥ずかしくて顔を隠す中、メリュウからすれば気付いていなかったのかと呆れ顔だ。

「気付かなかったのかよ」

 その状況に気付いたのはアース。

 長い金髪の女性がアース、普通の人間、いや生き物には見えないがアースに選ばれた者は皆、管理者となり、まがい物の危険性やイビトの危険性から守る事、そして能力と言うべき愛されし者、理美は全ての生き物に愛されし者だ。

 そんなアースは理美が夜更かししている事を咎める。

「何してるの? もう寝ないと起きれなくなるわよ?」

 理美はキリッとした顔で言い返す。

「んー、遅刻はした事がない」

 確かに理美は一度も遅刻も無ければ、時間に関しては時計より正確な時もある。

 しかしそんなのはどうでも良い。

「自慢は良いから寝なさい」

「はーい」

 明日に支障が来るのは時間関係無く体に影響は確実に響く。

 渋々寝に着く理美だったが、やはりあの悪夢が襲う。


 叫ばなかった自分を褒めたい位だ。

「もう……最悪、というかやっぱり寝汗が酷い……」

 結局シャワーを再度浴び直しになった。

 朝は5時半過ぎ、面倒になった理美はシャワーも浴びたのを気に、着替えを終わらせる。

 ついでだからと、キーボード付きタブレットを取り出す。

 キーボードから音は鳴らないが、流石に物音を聞き続けていれば、目が覚める。

「ん――……まだ6時前じゃん、朝食もまだだよ理美っち……」

 時間も今から食堂に行けば十分間に合う。

「おはよう、なんか目が覚めたから、そういえば6時からだから私はそろそろ行くよ、お腹空いてきたし」

 さてとと立ち上がった時、桜夜も二度寝をと思ったが、そのままだと遅刻すると間違いなく悟る。

「そか……すー……じゃない! 待って! あたしも行く!」

「いや、聖十の中等部は8時だし7時半位までに出れば十分間に合うし」

「違う! 遅刻する! 置いてかれる!」

「あー……」

 結局理美は桜夜待ちをかまされてしまい、丁度開く時間に間に合わなかった。


 結局6時半に食堂へと入れば、やはり混み始め、かなり面倒だ。

 でもまだ席もある分、大丈夫だろう。

 並びもそこそこあるが全員座っても空きも存在する。

 そう思って並ぼうとした時だ。

「あれぇおはよう理美ちゃん! 早いね」

 未だまだゼフォウをフィンと呼ぶのに慣れない理美だが、明らかに半分寝ぼけて動かない冬美也を見て、ついゼフォウに聞いてしまう。

「おはよう、ぜ、フィン先輩、と言うか誰を担いで来たんですか?」

 こっちも分かっていて普通に対応するゼフォウだったが、昨日の夜帰ってからの話をそのまま伝えようとした。

「冬美也だよ、昨日バートンだっけ? そいつが――」

 噂をすれば影と呼ぶべきか、バートンが入って来て、注意を受けてしまう。

「ここで立ち話していると他の迷惑なので、早く並びなさい」

 理美は一切気にせず挨拶をした。

「おはようございます」

「おはようございます、さあ並んで」

「はーい」

 理美と桜夜はすぐに並ぶ中、ゼフォウも並ぼうとしたが、バートンはゼフォウに言う。

「そんな重い荷物置いて来なさい、自己責任です」

 確かにその通りだが、寝ぼけながら全て自身で整えた後に扉に頭を乗せたまま眠っている人間を退かして行こうものなら部屋に入れないのが目に見えて分かっていたので、渋々連れて来たなんて言えない。

「お、おう!」

 大人しくその辺に置いておくかと思った時だ。

「はっ……! 何故オレはここに⁉︎」

 ようやく覚醒アンド何1つ覚えていない冬美也を見て、再度ゼフォウが注意を受けてしまった。

「起きていないのを無理して連れて来ないで下さい、周りの迷惑ですよ」

「気を付けます」

 今度からベッドに移してから行く事を決意する。


 朝食、席も十分に空いている場所が運良くあって良かったと思い、理美が皆にここにしようと促し、座って食事を取る中で冬美也が不満を口にした。

「でもってどうして、バートン先生がここに?」

「別に良いでしょう? 寮番の先生は皆食事を生徒と一緒に取ります」

「じゃなくて、なんで一緒の席?」

 理美が皆を促した際に一緒にバートンも着いて来ただけで睨まれる筋合いはない。

「自身の生徒が促したので」

 呼んだ理美が宥めに間へと入る。

「まあまあ、仲良く仲良く」

 そんな中で美空とジュリアが食事を持ってやって来た。

「あれ? 理美ちゃん桜夜おはよう」

「おっはーよ、こっちまだ後2人座れるから来てよ」

 桜夜が促してくれたので美空も座るも、理美の隣と前には既に先客がおり、座れない。

『既に理美ちゃんの隣に神崎先輩と前にバートン先生が居るせいで話せない』 

 昨日みたいに一緒に食事が出来ないで少々寂しい顔になる。

 ゼフォウはそれを見て言う。

「理美ちゃんが座ったらなんかこうなった」

 美空も納得した上で、皆にオリエンテーションの話を振ると意外とバートンも話に入って来た。

「成る程、今日オリエンテーションだけど学院案内かな?」

「それもありますが、今日は午後から部活紹介等もありますので、好きな部活を選ぶのもありですよ」

 オリエンテーションも楽しみだが、やはり中学に上がればクラブではなく部活動があるのも楽しみの1つ、ジュリアはオリエンテーションよりも部活動が気になるようだ。

「わぁどんな部活にします?」

「あーしはイラストとか? 漫画とか描ければ良いかなぁ」

 桜夜は絵が描ければと言った感じで、美空も見てからと言った感じ、無論そこまで考えていなかった理美もだろうが一瞬何か考えて結局一通り見てからにした。

「私はとりあえず一通り見て決めたい」

「私もです。理美ちゃんは?」

「……分かんない、美空ちゃんみたいに一通り見てからにする」

 皆の話を聞いた後、冬美也が理美を自身の同好会に誘う。

「なら、オレ達がやっている同好会なんてどうだ? 一通り見終わってからで良いから」

「どんな同好会? 今知りたい」

 ゼフォウは半笑いでその同好会について大雑把であるが説明してくれた。

「ただ勉強するだけの同好会だよーでも、勉強苦手な理美ちゃんにも俺ら教えてあげるからさ、宿題もここでやればいいし」

 勉強が苦手な理美からすればそっちの方が良いのではと考え行こうとするも、流石に冬美也がすぐに止め、まずは他を見るように言う。

「……ならそっち」

「だから、一通り見てからだって、殆ど掛け持ちの連中が多いから同好会なままで、理美も掛け持ちとかでも良いんだしさ」

「成る程、とりあえず見てからにする」

「そうしてくれ」

 ただこの時のバートンは何を考えていたのか、理美にも冬美也にも分からない。

 煩わしいとは違う興味のある雰囲気をゼフォウだけ察していた。


 そうして聖十の中等部、朝のホームルームもそこそこに、中等部の校内が始まる。

 全クラスが動き回ると見るのが大変な為、それぞれ別のルートで最後に体育館へと集合すると言った形だ。

 C組は教室から離れ1階の職員室、保健室に渡り廊下を渡れば礼拝堂がある。

 礼拝堂の中は真新しいのに何処か昔からある様なレンガ作り、全生徒を入れる様にと祭壇を見下ろす形のすり鉢状になっている。

 そして大体決まった時間で皆祈りを捧げるが、この学院は基本自由に祈りを捧げられるので、熱心な信者位であまり来ないそうだ。

 2階は家庭科室、生物学室、化学室、視聴室、3階は美術室、音楽室がある。

 その後は体育館へと向かう。

 道中、理美はつい独り言として呟くも、その隣にいた美空が気付き聞く。

「冬美也の教室見ておきたかったなぁ」

「見てどうするの?」

「いや、入学式後に来てくれたんだし行っても良いのかなと」

 理美からすれば、幼馴染だ。

 自然と何か用事や一緒に行こうと誘う事もあるだろう。

 しかし美空からすれば凄い度胸があると見られてしまう。

「神崎先輩とフィン先輩って結構人気あって、しょっちゅう告白されてるって噂があるのに」

「告白?」

 確かに昨日あんな事があったのだから無理からぬ事だろう。

 勿論、それだけではなくなんだかんだでゼフォウが対処してくれていた。

「そう、フィン先輩も告白されるけど、色んな子達と仲良くしてるけど皆友達で、全員断ってるし、神崎先輩も全員断るとフィン先輩がその子達のカウンセリングしていると言う噂」

 側から見るとゼフォウの行動はあまり良いものでもないが、放置すれば何が起きるか分からない。

 その前に告白した子達のケアをしてくれていたのだろう。

 内心感謝しつつも、理美はどうすれば良いか分からなかった。

 そうして体育館に着き、色々な説明を聞いた後に再度教室へと戻るだけ、その時に先生の説明に1つ付け加えられる。

「皆さん、午後からは部活紹介なので、見終わってから見学、体験してもらって何処に入部するかを入部申請書に書いて期日まで担任に渡して下さいね!」

 部活動に関する話だ。

 朝聞いていたので、これは少し楽しみだったりする。

『冬美也達が言っていた同好会を選ぶ前にやってみたいのあるかなぁ?』

 そう思っていたが、他の子達はどういうのをしたいのだろうか。

 朝聞いた時は皆漠然としていた。

 結局これは見てやってみないと意味が無さそうだ。

『とりあえず、午後から聞いて放課後見て回ってみよ』

 まずは見て回ってどんな感じかを把握しなくては――。

 

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