フードコート
学区内にある大型店舗内のフードコート、理美達はそこに居た。
「へぇ! 神崎先輩とリミリミ幼馴染みなんだ」
桜夜がそう言って頼んだジュースを飲んだ。
少し遡って、崩れたあの後、3人が起き上がった。
「理美ちょお幸せに!」
「失礼しました!」
「私達何にも見てないから!!」
騒ぎながら逃げようとしたので、ゼフォウが3人を捕まえた。
「ちょっと待って、説明するから、なんなら皆で食べ行かない? 冬美也も理美ちゃんも一緒に、ねっ?」
こういう状態で自分が説明するより、当人達に説明して貰った方が良いと判断し誘った。
――そうして今に至る。
理美と冬美也はお互い見て、どの位居たか何年振りかと話す。
「と言っても、出会って少しの間だけ一緒だったよね?」
「で、久しぶりに出会ったのが4年いや約5年ぶりだよな?」
不意に美空が思い出して言った。
「思い出した! 神崎先輩も一緒で遊ぶって時に鷲が鼠を背に乗せて飛んで来たあの時の! 後、熊に乗った‼︎」
ジュリアも桜夜もえっと言葉を漏らし、ジュースを飲み始めた冬美也が、最後の言葉で噎せた。
理美が冬美也の背中を摩った。
「よしよし大丈夫?」
「ゲホゲホ! だ、大丈夫だ、ゲホッ……」
「全然大丈夫じゃねぇし」
ほらっと、ゼフォウがティッシュを冬美也に渡す。
美空はゼフォウを見て言った。
「寧ろ、フィン先輩が何者って感じですね」
笑いながら、自分も何だけどなと軽く言いながらゼフォウは答えた。
「ん〜そうかな? 俺も久々の再会ではあるね、理美ちゃんとは」
「そうだよ、いきなり呼びに来た時は驚いたけどさ、そいやさ、あの泣いてた子と何があったの?」
行くまでの間に一通りの会話も終えてしまった分、ゼフォウとはもう砕けた会話が出来ていたが、ふと、あの時の事を思い出して、冬美也を見た。
「告白された」
「えっ……」
その言葉でしんと静まり返り明らかにここの空気が凍った。
冬美也はすぐに言った。
「もちろん断ったさ、ゼ、じゃなくてフィンの直伝の断り方で」
ゼフォウが呆れてしまう。
「てか、なんで少ない時にこうも告白されんのかね、君は?」
「オレが聞きたいわ」
理美は胸奥が痛くなった気がした。
それだけでは無い、人には見えない様に押さえているが、寒くもないのに体が震えた。
本当なら、まだ冬美也が誰とも付き合ってなくて、ホッとして終わりの筈が、あの時、睨みつけて来た上級生の女子が明らかに自分を見ていたからだ。
もし、逆の立場ならどうかと考えるとやはり納得はいかないし、わざわざ冬美也の友人が連れて来た女子なのだから、勘ぐって当然だ。
何をどう断って伝えたかは分からない。
ただ、もし自分ならとどうしたら立ち直れるか、この後相手が告白をして成功したとしたら、悲しい気持ちや苛立ちをどう発すれば良いか、万が一選択を間違えれば八つ当たりもいい処だろう。
それでも、相手はきっと心は晴れない。
ずっと敵として攻撃を続けるだろう。
その敵が理美だとしたら、相手が複数でやって来たら、そんな考えが頭を押しつぶし、顔に血の気を遠ざけて行った。
たまたまジュリアと目が合い、顔色の悪さに心配されてしまう。
「理美さん、どうかしましたか?」
「ううん、何でもないよ?」
流石にもし悪い噂や呼び出されたら怖いとは言えなかった。
しかし、ゼフォウはそれを見逃さない。
「冬美也は大丈夫だよ、一途バカだから、そ、れ、に、俺を忘れないで、こういう時に俺がいるからさ」
「お幾らですか?」
疑う目をしながらお金ジェスチャーを送った。
「何も取らないから! 慈善活動よ、コレは」
「ありがとう、ゼフォウ」
「んっ、どういたしまして」
お陰で理美は少し血の気が巡り、顔色が戻った。
冬美也はそんな2人を見て、ちょっと納得がいかなかった。
「どうしたんだよ、2人して?」
「さっきの告白した子が悪さしないようにとカウンセリングするんだよぉ、誰かさんが上手く断れなかったから、理美ちゃんに火の粉飛ばないように」
「うっ! ……それはそうだけど、今日行かなくて良いのかよ? そのカウンセリングしに?」
「行こうとしたけど、この子らほっといたら、今度別の噂が広まっちゃうから順番変えたわ」
ゼフォウが向く方向に美空達がもう自分達だけで会話をし始め、理美は輪に入らずただ見ているだけ、その状態で理美が注意をしても勝手に盛り上がって話がズレていき、最終的にはどう転がっても変な噂しかならないだろう。
どっちが優先も言えないが、強めに注意が出来ない以上、こちらの方が良いだろうと冬美也は分かった。
「それも、そうだな」
ゼフォウは徐に立ち上がって、美空達を見て言う。
「んじゃ、軽食も済んだし、ここの大型店舗から出て近くにゲームセンターあるみたいだから、行ってみる? 皆で?」
誘われた3人は意気揚々と立ち上がった。
先に桜夜が話始める。
「行きます行きます! フィン先輩と神崎先輩の馴れ初めとか!」
「馴れ初めの使い方がまず違うよ姉崎ちゃん」
「桜夜と呼んで下さい」
「お、おぉ」
意外と苗字呼びが嫌いなのかとゼフォウは思ったが、人それぞれな分気をつける事にした。
ジュリアは凄く嬉しそうに笑って言う。
「わぁ! 私、あまりゲームセンター行った事がないんです、中々日向さん許してくれなくて」
「いっつも私と桜夜と広喜達で遊び行けたけど、日向さん厳しかったもんね」
美空が言っていた日向に対して誰なのか理美は尋ねた。
「日向さん?」
「ジュリアの執事兼ジュリアのお父さんの秘書って言うか、経理管理とか色々やってる茶髪のオールバックしたメガネ掛けた男性だよ。何度か会ったけど、料理とか上手で良くお菓子振舞ってくれてさぁ、でも、子供達だけでゲームセンターとかこういった大型店舗に行かせない位、厳しい人だったんだよね」
子供からしたら厳しい男性だろうが、大人が居ない場合は逆だ。
「いや、日向さんの方が正しいのでは? 何かあった時大人がいないと立ち回れないでしょうが」
「そう言う考えもあるのかぁ、一応大人達にも許可もらってから行ってるんだけどねぇ」
どう考えても日向と言う男性が正しいし、近くとも遠くに行って子供達だけで遊ばせるのは危険。
理美は今の時代と前の時代の感覚が違うのかと染み染み感じたが、それなら日向を同行させれば良いのではと思って言う。
「日向さんを連れていけば万事解決しそうなんだけど」
「あはははっ、前にそれやって逐一注意受けてから、誘わなくなっちゃって……」
『なんの悪さをしたのか』
一々何度も注意したと言う事は、本当に碌な事していないと理解した。
皆でゲームセンターへと足を運ぶ。
自然と3人づつ2グループになっていた。
やはり馴染み深い仲間になってしまうのは当然の事だろう。
理美は冬美也とゼフォウの間に自然と入った形だ。
冬美也は前の方を歩く後輩3人を見て言った。
「なーんか、分かれたな」
「そだねぇ」
「良いんじゃね? 別に、下手な分かれ方よりよっぽど良い」
ゼフォウはこれで変に誰かが入ってしまうと、理美が要らぬ緊張をしまいか実は心配だったが、先程の軽食中である程度心を許しているみたいだと分かるも、やはり自然に任せると気心知れた相手と一緒になるのが良く分かる。
だからだろう、理美にとって気心知れた相手も良く分かって、ゼフォウは自然と笑みをこぼした。
気が付いた冬美也はゼフォウに対して聞いた。
「何笑ってんだよ、お前?」
「お前が理美ちゃんと久々に会えて、鼻伸ばしてるのが笑えちゃうの」
「はぁ⁉︎」
冬美也は顔を赤らめ、慌てて手で口と鼻を隠した。
「嘘でーす」
「お前ぇ!」
余計に顔を赤くしてゼフォウに飛び掛かろうとした。
それを知ってて余計にからかおうと企むゼフォウはより悪い顔で笑った。
間に居た理美が2人を止めた。
「どうどう、御ニ人共、落ち着いて!」
冬美也とゼフォウはもう長い間一緒に居た分、砕けた印象もあり、どちらかと言えば悪友というより腐れ縁に近い気もした。
「たくっ」
「冬美也とはloin交換してたけど、ゼフォウとはしていなかったよね?」
「そういや、送ろうと思ったけど冬美也がヤキモチ妬くからやめてたんだよねぇ。もう、解禁しても良いでしょう?」
「まだ言うかそれ」
どうやら、冬美也が止めていたようだ。
理美はあまり気にせず、loinを開いて、QRコードを出した。
「QRコード出すから読み取ってくれる?」
「はいよ」
ちゃんと出来たかを軽く確認し、メッセージも交換した。
理美は勢いあるままにグループ作製を始めた。
「んじゃ、グループ制作そのまましちゃおう」
「なんてグループ名しおうか?」
「おい、オレを無視して話進めるな」
冬美也の突っ込みを無視したまま、グループ名を考える2人。
「普通に腐れ縁で良くない?」
「もうちょい捻って」
「うーん、悪友会」
『どうして?』
ゼフォウちょっと吐血しかけて硬直しました。
理美の名前のセンスがオカシイと冬美也が再度呆れて言った。
「悪化しすぎだろ? ゼフォウとオレと理美だけのグループなんだから、もうちょい砕けても良いし……いや、もう幼馴染でいいわ」
「ほいっ、幼馴染でグループ名決定」
あまり考えなんてなかったのか、理美はそのままグループを完成させた。
「ひねりが消えた!」
「相変わらず、理美ちゃん軽いね、色々と」
理美は慣れた相手だとどうも、この調子だ。
良いか悪いかと言えば、どちらでも取れるだろう。
気を遣わなければいけない場面で出来ていれば問題はない。
冬美也達だからリラックスして安心もしてくれている。
そう思えば、冬美也にとっては悪くなかった。
「理美、ゲームセンター行って何する? オレ、まだ一度も行ってないんだよ」
本当に一度も行った事がなく、どうせ行くなら、やっぱり理美と一緒に行きたかった。
理美は真剣な顔で言う。
「プリクラ、冬美也をデコりたい」
『⁉︎』
唐突な言葉に何言っているんだと冬美也は驚きが強すぎて思いすら言葉が出なかった。
その言葉になんとあの3人が反応する。
「リミリミ、プリクラアタシらとも撮ろうよ!」
「賛成です」
「最新機でやろう。先輩方も一緒に撮りましょう」
一気に押し寄せる美空達にたじたじでまたもや理美が言葉を出せなくなってしまった。
ゼフォウが割って入る。
「コラコラ、理美ちゃんはプリクラを冬美也と撮りたがってるから、まず、冬美也を全員でデコろう」
完全に確信犯だ。
巻き込まれた冬美也は苛立っても我慢はした。
『コイツ! 助けじゃなく助長させに行きやがった!』
理美は嬉しそうに言う。
「デコる、冬美也をデコりたい」
桜夜もだ。
「リミリミは先輩デコりたいのな」
ジュリアはゼフォウを見て言う。
「なら、フィン先輩もデコりましょう」
「えっ? 俺? 俺は良いや」
ゼフォウが逃げようとしたが、美空に捕まった。
「全員でデコるんだから、1人欠けちゃだめですよ!」
「えぇ〜! ちょっちょっと!」
その後、ゼフォウは美空達に無事連行されてしまう。
――ゲームセンターにて……。
プリクラを一通り撮り終えた一行はやり切った顔をした女子と、誰コレと神妙な顔付きのままプリクラのシールと睨めっこをしている男子と分かれた。
「目がデカい」
「なんか、すげぇキラキラですこと」
「つか、猫耳付ける必要性とは?」
冬美也とゼフォウはお互い意味不明なシールを凝視しながら、生気が抜けていく。
理美は言うと、嬉しいのか、手帳を取り出し挟めていた。
それをたまたま見ていた冬美也は理美に言った。
「理美は手帳使うんだな」
「あぁ、これ? 手帳使うの苦手な方だよ?」
「なら、どうして?」
「少しでも、アイディアあったり、面白い思い付きにはカキなさいって言われて、後、ちゃんとしたスケジュール帳に……無い、えあ? 無い無いヤバい!!」
理美は自分のカバンを漁って、スケジュール帳をさがした。
あまりの慌てぶりに皆が気付き、集まった。
冬美也がふと、あの時、軽食席で理美が兄に連絡したいと、カバンからスマホを取り出してたの見ていた。
もし、あの時にスケジュール帳が誤って落ちたのではと思い理美に言った。
「理美、もしかしたら、前の大型店舗の軽食席にあるかもしれない」
「はぇ、片道約10分、走れば8分、ちょっと行って来ます」
理美は大慌てで走り去り、冬美也は理美を追いかけた。
「ちょっ! オレも行く!」
本当に走って8分で辿り着いた理美は、慌ててメリュウに頼んだ。
「メリュウ、スケジュール帳先に見つけて来てぇ」
理美がポケットにしまってあったクリスタルを握った。
そこからふわっと風が理美の肩になびいた。
人には見えない何かが理美の肩に乗った。
目は大きく金色の猫目、ツノがあり翼は翼竜の様、肌は爬虫類の様な緑色で龍の鱗に覆われ、頭のてっぺんから尻尾の爪先まで金色の毛、手足には立派な爪がある。
そして、大きさが猫よりは大きいが中型犬ほどしか無いドラゴンが周りに見えないように周りの風景に混じる。
「今ここで話すなバカッ! 先に見てくるから待ってろ」
普通の人には明らかに大きな独り言でしかなく、怪しい人間にしか見えない。
メリュウは渋々飛んで見に行った。
他に歩いている人の横を横切るとふわっと風がなびいたのかと、自然と後ろを向いてしまっていた。
フードコートまで来たメリュウは、理美たちが座っていたであろう席を見て下を潜ったら、女の子らしい手帳が転がっていた。
すぐに伝えようと上を向くと、誰かが数人座って来て、手帳を咥えて、気付かれない様別席の下に潜り込むも、その内に1人が気付いてしまった。
「なんか、手帳が落ちてるよ?」
「あっ、本当だ」
「何書いてあるのかな?」
「ちょっと、店員に届けなよ」
手帳をその1人が広いあげ、中身を見ようとした。
丁度その時、理美が到着し、拾った主は明らかに同じ制服を来てしかも理美よりも背が高い上級生、まだ開いても無い、理美は安堵し言った。
「ありがとうございます、それ、私の……」
そう言った直後、上級生の1人が友人から手帳を奪い、理美に言った。
「これ、あなたのだって証拠あるの?」
「名前書いてありますよ? 後ろに」
理美の言う通り、名前がローマ字つづりで書かれていた。
「ふぅ〜ん、あなた、フィン君と仲良さそうに歩いてるとこ見た子いるけど?」
疑われているのは確かだし、どうしようもないと思っていたが、どうやら別件の疑われているようだ。
「彼は幼馴染です。久々に会えるのを楽しみだったらしく迎えに来てくれたんです」
何処かで見られていたのを知り、どうしたものかと考えるも、とりあえず嘘をついていない範囲で説明した。
だが、それも束の間だ。
「理美! 手帳見つかったか?」
冬美也が息を切らしながら走って来た。
よっぽど辛かったのだろう、この後動けなくなり息を整えようとするも、息苦しくて途中で軽く咳払いしていた。
名前で呼ばれたのを見て聞いてしまった1人に眉間に皺が寄る。
しかももっと悪い事にゼフォウがまだ到着していないことだ。
彼ならうまい誤魔化しが沢山あるだろうが、この2人にはそこまでの技能が無い。
そこで、理美はある事を思い出し、カバンからある割引券を取り出した。
「彼も幼馴染なんです。たまたま合流して遊んでいたんです。それと、コレ拾ってくれたお礼に嘉村グループが経営している飲食店の割引券に私のサイン入れてあるんで、もっと安くしてくれるかサービスでドリンク付けてくれる筈です。よろしけばどうぞ」
あやふやにしているが実際本当の事なので、一切嘘をついていない。
そして、嘉村グループの飲食経営店の学区内にある店の割引券数枚を差し出した。
手帳を持っている1人以外は、割引券の店を見て凄く目を輝かしていて、その1人を止めようと声を掛けようとしたが、火に油を誤って注いでしまったらしく、怒っているように見えた。
「はぁ? そんなのがお礼になるわけないじゃない。それより、神崎君、こんなしょぼくれた子より、私たちと遊びませんか? それにコレ持ち主知ってるようですし」
内容からして言葉では発してはいないが、どうやら交換条件を出しているようだ。
冬美也はイラッとしたが、ここは我慢と平静を装い言った。
「藤浦さん。前にも言いましたが、オレはそういうの嫌いだと言ったじゃないですか? それに理美に言ってるんでしたら、謝ってもらえませんか? 後、手帳も理美のだから返してやってください」
他の子達も藤浦を説得し始めた。
「そうだよ、愛弓、前に神崎君、一方的なやり方嫌いだって言ってたじゃん」
「それにアレ、良く見たら有名店の割引券だし、普通の人が持てるようなものじゃないって」
「まだこの子新入生だし、その辺にしておけば? あんまりこっちが図々しい事しすぎて、先公にチクられたらコッチに分が悪いし」
それでも藤浦はムキになって言おうとした時だ。
「何⁉︎ 私が悪いって言う――」
「おっ? すいません。妹の手帳拾ってもらっちゃって」
藤浦の後ろから手が伸び、手帳を取った長さはあまり無い金髪の碧眼に長丸のメガネ、スーツを着た男性が立っていた。
「颯太兄!」
「よぉ、探したぞ、理美、もう手帳落とすなよ、先輩方にちゃんとお礼しなさい」
「うん、ありがとうございました」
「それと、お礼はコレで勘弁な? 今持ち合わせないんだ。後は理美、割引券くれ」
「あい」
そう言って、割引券でなく、まさかの商品券一万円だ。
理美から割引券を貰い、更に自身の名刺を付けて渡した。
驚く上級生の内1人がそれを貰い受けた。
「い、いえ。て言うかこんなに貰って良いんですか⁉︎」
「良いの良いの。それとその名刺見せれば、サービスや待遇凄いぞ」
颯太のお陰で空気が和らぎ、悪い意味での騒ぎにはならなかった。
ただ、1番面白く無いのは藤浦だ。
「ふざけんじゃ無いわよ! やってられない」
藤浦は怒って他の子達を置いてどっかに消えてしまった。
他の子達は深々と頭を下げて、藤浦を追った。
残ったのは理美と冬美也と颯太だけとなり、先に声を出したのは颯太だ。
「何絡まれてたんだ?」
「私が知りたい、と言うか、冬美也を見てなんか余計拗れた」
「冬美也?」
「お、お久しぶりです。冬美也・F・神崎です」
冬美也は颯太に会釈した。
最初、頭が追いついていなかったようで、少々冬美也を凝視し、過去と今を脳内で見比べ初めて驚く。
「うおおお! デカくなって!」
颯太は冬美也の二の腕をバンバン叩いて、腕もしなやかな筋肉がしっかり付いていたのに更に驚き、ひ弱そうな少年はどこに行ったと、全身くまなく見る。
しかし冬美也は二の腕を叩かれ、思いの外痛く、一体どこからそんな力があるのかと、内心恐れた。
理美は言う。
「それより颯太兄、良くここにいたこと気付いたね」
「お前が、送った画像と地図合わせて確認しながら来たんだよ。むしろ連絡入れようとしたら騒ぎになったのに気付いたから見に行ったら、コレだったんだ」
どおりでタイミングがいいと思っていたが、探しに来てくれていたのかと、納得した。
そして、どうしてもあの状況は説明が出来ない。
「あぁ、アレねぇ、何度も言うけど、私が聞きたい」
すると後から来たゼフォウが説明した。
「それは、きっと冬美也が理美ちゃんと一緒にいたから嫉妬したのであって、理美ちゃんも冬美也も決して悪くありません!」
「この子は?」
会った気もするが、大分大きくなったのもあり颯太がゼフォウに気付かない。
どうしたものかと、理美と冬美也はお互い目で合図を送り合い、仕方がないので、理美が説明する。
「イ・フィン先輩、冬美也とアメリカの幼馴染」
多分、ゼフォウも名を言わないと絶対分からない位成長した為、とりあえず今の通り名で返すとやはり気付かずだ。
「友達と一緒にこっちに来たのか? 仲良いんだな」
「いや、本当はオレ1人で来るつもりだったんだけど」
「なんか、悪運強い冬美也は1人で出来るわけないでしょよ」
直後、ゼフォウの脇腹に衝撃が走った。
冬美也の肘が思い切りゼフォウの脇腹に入っていたのだ。
痛くて屈み込むゼフォウを理美が看病する。
「あまり、刺激しちゃダメでしょ、痛いの痛いの飛んでけぇ」
冬美也の悪い所は、どう足掻いても悪運が強い部分にあり、実際近くで見ていたゼフォウなんかはあまりの不遇っぷりや悪運故に周りをたまに巻き込む事もあり、事前にこっちで見ておかないと絶対碌な事にならない。
放置はかなり危険だ。
それもあってか、放って置く事も出来ず、一緒に行くことにした。
「コレで……飛んでってっくれたら……どんなにいいものか」
「悪友か?」
颯太がその様子を見て、仲良しではありそうだが、仲悪い部分が強そうで親友より悪友が一番ピッタリだと感じた。
息を切らしながら、桜夜がやって来た。
「居たっ! まさかここまで戻るとは」
その後から、美空とジュリアも来て、颯太に気付き挨拶をした。
「アレ? 颯太さんだ、お久しぶりです颯太さん」
「こんにちは、初めましてジュリアです」
「おぉ、美空ちゃんじゃん、大きくなって! それとお友達? 理美の兄、嘉村颯太ですよろしく……と言うか美空ちゃん才斗さん探してたぞ?」
直後に才斗が探していると言われ、美空はスマホを見て驚き、ジュリアも同じようにスマホ画面を覗けば、同様の内容が書かれている。
「えっ? ――げっ? loinとメールに電話まで来てた⁉︎」
「こっちもです、もう終わってたんですね」
ところが、桜夜の方はloinで数分置きに何度も終わったの何処にいるだのと書かれているのだ。
「ヤバい、うちのお母さんカンカンじゃん」
美空とジュリアと理美は事前連絡していたから何処にいると書かれているだけで、友達と遊んでいるのは分かっているのでそこまで怒ってすらいない。
なので美空から言われた。
「そっちはメールもloinも送ってなかったんかい」
ここで皆と遊ぶのはお開きだ。
「んじゃ、才斗さん達によろしくな、理美、誰を誘う事にしたんだ?」
そうだ、前に言われていた入学祝いに姉の麗奈がスケジュールがギリギリ合わずで、誰かを誘っての話。
理美も誰を誘えばと考え、現在それすら忘れていた。
「あっ……」
「忘れてたなコレ」
冬美也が呆れていると、ゼフォウは美空達が無事保護者と会えるまで一緒に居ると提案しつつ、理美と一緒に行くよう促す。
「だな、俺はこの子達が無事保護者達と合流するまで残るから、冬美也と一緒に行けば?」
「えっ? オレ⁉︎」
いきなり自分が勧められてしまい、戸惑う冬美也に対し颯太は久々に会った馴染み顔が来るなら嬉しいとばかりに喜ぶ。
「良いのか? 久々に会うし母さん達喜ぶよ」
断る理由も特に無いが、まるで挨拶しに行く気持ちとなり、変な緊張が走る。
このままでは行けないと、冬美也はとりあえず親が断ってくれると言う想定で、父親に送るもすぐに返答がやって来て顔には出てないが絶望した。
「そうだ、親父に一応連絡しておく……入れた瞬間OK来たんだが? 学院にも連絡するって来たんだが? と言うか休みだったみたいだ」
ただ目が死んでいる。
理美は行きたくなかったのかと寂しそうに聞く。
「行きたくなかった?」
凄く行きたいのは本音で、勢い余って声が出るも本当にいいのかと再度確認するも、颯太からしても料理がダメになる位ならと一緒に話せる分、楽しそうだ。
「行きたい! じゃなくて、オレで良いの?」
「良いよ良いよ、料理はもう指定しちゃってるのに、席が空くと料理の下拵えが無駄になるし、アレルギーある?」
「アレルギーは特に無いです。それなら……よろしくお願いします、お義理兄さん」
「ぶっ‼︎」
大分冬美也も成長したなと感慨深くなる瞬間だった。