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リミックスⅠ  作者: E..
4/12

再会

 その後、話が終わった保護者達は、一度顔を出しに部屋に行ったり、軽く連絡してからそのまま会わずに帰ったりと大人達だけで賑わう。

 晴菜と桜夜の母親は2人で覗きにやって来た。

 ちゃんと名前の記入は終えた後、教科書の片付けと制服と体育着をクローゼットに仕舞ったと伝えた。

「――明日は入学祝いも兼ねて外食許可申請したから、忘れないでね」

「自信ないからloinで連絡欲しい」

「はいはい、麗奈ちゃん、海外ツアーでギリギリ調整続けてたけど、さっきマネージャーからやっぱり行けないって伝えられて、お父さんと颯太くんは明日午後から休むって言ってたから、席1つ余っちゃうの。理美ちゃん、もし仲良くなった子とか居たら誘っておいでってお父さん言ってたから、もしで良いからもしで」

「多分居ない、私が食べる」

 友達が居ない環境で初日に作れる程、理美はそこまでコミニュケーション力が無いのを自負していた。

「コラコラ」

 晴菜も理美の妙な自信には突っ込むしか無かった。

 桜夜は母親と話終えてから、理美を見て言った。

「私なら行くぞ!」

「あんたは私と食事会や」

 桜夜が行きたがるも、既に予定が決まっていた。

 理美としてはいきなり知らない人を家庭内に入れるなんて無理に等しいし、もし長年の付き合いがあったとしても、折角の相手の祝いの席を崩すなんてもっての外だ。

 流石に晴菜も分かっていたのかこう言った。

「桜夜ちゃん、気持ち本当に嬉しいけど、お母さんと一緒に過ごすべきだし、席を増やすのは出来るから呼んでも良かったんだけど」

「それだと理美ちゃんがかえって気遣うやろし、迷惑かけるやろ? もうちょっと、仲ようなってからやないと」

「はーい、分かりました」

「すいません」

 桜夜の母親に気を遣わせてしまったが、気持ち的には楽にもなった。

「明日は入学式だけだけど、明後日から本格的な学校生活だから、遊び過ぎずにちゃんと今日からルールを守って寮生活を楽しんでね。それじゃ、明日ね」

「うん、また明日」

 晴菜と理美の会話を聞きながら、桜夜の母親も話し始めた。

「桜夜、あんさんが一番ルールを破りそうやから心配やわぁ」

「その辺は大丈夫だって、明日の食事会楽しみにしてるねぇ」

「はいはい、またね」

「ほんま、心配しかないわぁ」

 そう言いつつ、桜夜の母親と晴菜は部屋を出て行った。

 理美と桜夜だけとなり、どう会話をするべきかとつい考えてしまう。

 まだ、作業があれば良いが、もう何1つ無く、立ち尽くすだけの理美に対して桜夜が話し出した。

「そういや、リミリミはこれからどうするの?」

「リミリミはやめて、私は時間内なら寮の見学期間、実家遠かったから見学してないんだよね。だから、お風呂入れるなら、それを兼ねて見学しようかなって」

 本当なら行くべき期間だったが、行くきっかけがあまり無くて行けなかったので、大浴場にちょっと入ってみたかったので、ついでに見学をしようと考えていた。

「おっ? マジで、ならアタシも大浴場行く行く」

 結局、2人で共有スペースを見て回りながら大浴場に行った。

 談話室は図書室も兼ねているのか、意外と本棚が多く、先程の食堂は先輩達が戻って来たのだろういつの間にか賑わい始めていた。

 大浴場はもう居るだろうと感じていたが、割とそうでなく、今は食堂の方が多いお陰で人が居らず、早々に汗を流した。

 湯船に浸かっていると、桜夜が凝視しているのに理美は気付き聞いた。

「何? ジロジロ見て?」

「理美ちょ、胸デカいな」

「はっ? そこまでデカくないよ。それに私、胸の事言われるの好きじゃない」

「まさかの⁉︎   我々はまだ平らなのに!」

「人を巻き込まない、大体まだ第二成長期真っ只中なんだから、まだ可能性を捨てるなし」

「んー確かにそうなのか……てか、理美ちょ、結構人付き合い苦手だったりする?」

「苦手だよ、一応クラスメイトは居たけど、結局合わなくて大人の人との付き合いが多かったね」

 昔の事もあったが、どうも他の子達と仲良く話したり遊んだりが理美には疎く、いつの間にか疎遠になりがちで、結局使用人や神父達との付き合いが長くなり同い年の子達と遊ぶ事があまり無かった。

「でも、理美ちょって、人を寄せ付けない猫の様な感じがするんだよね。気に入った人にしか猫被らん様な?」

「それ、慰めにも褒めてもない。思い切り殺しにかかっている」

「えぇぇぇ、思った事言っただけだよ」

「思っていても言わないでよ」

「ごめんごめん、自分の悪いと事だわ」

 桜夜の余計な一言で、理美は頭を抱えたくなった。

 実際考えてみると的を得ていた気がしたからだ。

 それでも、平静を装い普通を演じる、それが如何に大変か多分桜夜や他の子達には分からないだろうと思い、理美は深いため息を吐いた。

「でも、理美ちょはどうしてココに? 社長令嬢なら、きっと自分に合う学校とかピックアップして全力投球するって美空っちが話してたんだけど」

「んっ? たまたまお世話になった知り合いがここの学院の関係者で、ここに通いたいと思ったの、桜夜さんは?」

「さんは硬いから! 桜夜で!」

 桜夜は意外とさん付けが嫌いなのかと、少し驚いてしまった。

「お、おう」

「私や他の子達は、学校が微妙に遠かったし、近場だとこの辺だったんだよねぇ」

「動機が単純」

「そ、全員がって訳じゃないけど、知り合いは殆ど受けたんじゃない?」

 理美としてはそんな理由で、美空達がここに入ったのかと、湯船でかいた汗ではない、汗が額から流れた。

 何よりも、合格した時、他に学校があったのではと調べた際、意外と多くて驚いたのを未だに覚えている。

「でも、確か学区的には結構有名校や普通に学校多いじゃん」

「いやぁ、多いけど、近場にあった中学校が今年に無くなって、合併した学校が遠くなったんだよ。だから、皆私立か駅を利用するかの2択、そりゃ有名学校あるけど、偏差値もだけどあそこ男子校だから」

「そっかぁ、少子化がもろに受けちゃったのかぁ」

「でも、理美ちょとしてはどうなの? 前の学校とかでも良かったとか無いの?」

「元々、児童養護施設があってそこから通う子達も居たし、人数も減りもせずだね。さっきも言ったけど田舎だから小中は統合してるから、卒業式の概念が中学上がらないと無い」

 自分がそこの出身とか言ったら、何言われそうか分からないので、敢えて言わなかったが、美空辺りは知っていそうな気もした。

 幸いだろうか、桜夜はそうなんだ程度で軽く流して言った。

「へぇ、て事はさ、皆、高校上がる時出る子達が多そうだね」

「そうだね、大体は外にしか高校無いし隣町って言っても、車で2時間位掛かるから、殆どの子は寄宿舎か寮で、それが面倒だからって中卒で社会人になったりする人も居たけど、児童養護施設の園長達は並べく高卒よりも大卒を目指して欲しくてずっと頑張って、勉強環境や奨学金に寮がある所を探してあげたり、こっちの会社も条件付きで支援したりするし」

 特にディダ辺りは本当に中卒で苦労する子達を沢山見て来ている為か、必死に高校受験を促したり、遠い親戚がいると分かれば、無駄足になってでも交渉したりと、かなり苦労していたのを知っていた。

 嘉村グループもそんな姿を見てか、数年前から条件付きではあるが支援したり奨学金も出して、少しでも将来の為にと行った。

 ただそんな美味そうな話、誰が信じるだろうかと思うと桜夜が乗って来た。

「ほぉぉ、まじで! 条件付きなら今のアタシらにも?」

「ずっと上位で大学卒業後うちの会社に入るのが条件だぞ? やれますか?」

 会社に入れば、全ての奨学金が免除と他から借りた奨学金もコチラで負担するし、違う所に行っても成績と実績によっては大幅に奨学金返済の金額削減されるが、実際上位の成績と大学での研究の成果に実績が無ければ美味しくはずもなく、桜夜すぐに音を上げた。

「やめとく」

「うん、後上がろう、のぼせてきた」

 理美は湯船から上がると、桜夜が気付いた。

「やっぱり、デカいよ胸」

「はっ?」

 流石に理美の頭の血管がうっすら浮かび上がる。


 大浴場の後、荷物を置いて食堂に向かった。

 中に入れば、先輩達も居るが新入生達も沢山いた。

 桜夜は辺りを見渡しながら理美に話す。

「こうなると、どこ座れば良いだろうか?」

「仕方ないから、バラバラでも良いんじゃない?」

「えぇそれは嫌じゃよ、一緒にご飯食べようよぉ」

「駄々こかないでよ、大浴場は人あまり居なかったから良かったけど、上がる頃に凄かったじゃん人」

「そうだけども、やっぱり理美たんの話もうちょい聞きたいよね!」

「元気だなぁ」

 理美としては話すのに疲れて少し何も考えずにご飯を食べたかったが、一緒のルームメイト、もっと知りたいのだろう。

 そんな時だ。

「桜夜ちゃん、ここまだ空いてますよ」

 ジュリアが自分達に気付いて呼びに来てくれた。

 丁度2席が両端に空いていた。

「ありがとうジュリア」

「ありがとう、私左利きだからそっち座っていい?」

「良いよ」

 そう言って桜夜が席に座り、理美も座った。

 理美の隣はジュリア、桜夜の隣に美空が座る。

 2人は半分以上食べてしまっているが、どうやら理美達を待って居てくれたようだ。

 美空から話を始めた。

「待ってたんだよ2人共、さっき3年生なのかな? ココに座っててね」

「私達が席を探してたのを見てわざわざ席を譲っていただいたのです」

「もう、食べ終わるからって、でも私一回見た事ある様な気がするんだよねぇ? いつだったけかなぁ?」

 その先輩ってどんな人なのかと聞きたかったが、桜夜に先に話されてしまう。

「えぇ、良いなぁ、長風呂し過ぎたねアタシら」

「そ、そうだね」

「理美ちゃん、まだ緊張取れて無いね」

 話を逸らされ、自身の話にされてしまった。

 理美の人馴れしていなさが声だけでも分かってしまうほどだ。

 多少桜夜とは話せたが、どうしても美空に対して警戒してしまう。

 これでは美空に勘付かれ、気味悪がられるだろうし、嫌われてしまうのが目に見えて分かった。

 しかし、幸いにしてジュリアが気遣ってくれ、改めて自己紹介までしてくれた。

「初めてで誰も知り合いが居ないのは、緊張しやすいですよね。私もフランスから来た時、凄く緊張しました」

「フランス⁉︎」

「そうです、私はジュリア・アンジェ・テインソン、理美さんは聞いた事ありませんか? テインソンブランドはかなり有名なんですよ」

 ここに来て、理美はあまりブランドに詳しく無かった。

 服なんかほぼほぼオーダーメイドで、その辺に遊びに行く時だけ、店で動きやすい服しか買ってなかったのだ。

「ごめん、私、ブランドとか興味なくてほとんどオーダーメイドで頼んでるから……」

 理美の腹は空腹な筈なに、既に食欲が消え失せたのか、空腹感が一切消えた。

 それだけ、申し訳なさが強かった。

 ジュリアはニコッとしながら言った。

「はい、そのオーダーメイドの服のブランドが私の父が作ってるのです。もちろん、他の方々も理美さんの服に携わってます」

「そうなの?  良く、お母さんが大量に発注しちゃうから、使用人達を困らせたり、たまに私のサイズ測りに来る人も致し」

「その人、私のお母さん、お母さんが私に会いに行く際に良くサイズ測りに行ってました」

「え? なら、一緒に」

「私も人見知りでしかも、最近は落ち着きましたが乗り物酔いもあって、理美さんに会ってみたかったのですが、理美さんも酷い人見知りだからって会う事がありませんでした」

「なんか気を遣わせちゃったし、お母さんに迷惑かけちゃったね」

「大丈夫です。お母さん、理美さんのお母さんのお陰で、私に会いに行ける口実が出来て嬉しいと言ってました」

 ジュリアは気にしていないのか、寧ろ理美に会えた事でより笑顔になっていた。

 当の理美はと言えば、そう思ってくれてホッともしたが、心はギクシャクし、余計言葉が詰まっていく。

 それでも、桜夜は気にせずに話を進めた。

「理美ちょは、自己紹介せんの?」

「す、するよ、嘉村理美ですよろしく」

『固っ!』

 3人揃って理美の言葉の固さに驚いた。

 美空が、理美の緊張をほぐそうとする。

「理美ちゃん、固い固い、もっとリラックスしよ。そうだ、前にも言ったけど、社長第一秘書の嘉村才斗の娘の美空、弟とお母さんと父方のお婆ちゃんと暮らしてて、理美ちゃん結構人見知り酷いのと人酔いするからってあれ以降本当に会ってないもんね」

 次いで桜夜も話す。

「慣れれば、話してたから、大丈夫だよ。アタシはほらさっき話したから端折るけど、お母さん、銀座のママしてて、わりと知り合い多いんだよね。お母さんに会いたさで、よく、有名人来たり、呼ばれたり」

「そうそう、私のお父さんも知り合い経由で桜夜のお母さんとお知り合いになってました」

「ウチのお父さんも未だにそういうの好きなお客さん居るからって、知り合いのいる店として紹介したり商談したりと、結構桜夜のお母さんにはお世話なってるよね。変な事したらバレるからその辺は安心してるって、お母さん言ってたし」

「私のお母さんもです」

『と言うことは、全員の身内の女性とloinで繋がってるから敷かれっぱなしになるのでは?』

 なんとなく、この様子だと晴菜と桜夜の母親も電話番号とメールアドレスにloinを交換してそうだ。

 考えてると理美はやんわり笑っていた。

 それを見逃さなかった3人はもっと話せば、警戒と緊張が取れるのではと考え、質問攻めを始めた。

「で、リミリミは? 田舎でどんな事してたの? アタシもっと知りたいなぁ!」

「私も、前にパーティ以外でなら色々連れて行ってたと聞いてました。一番楽しかった印象に残った思い出はなんですか?」

「お父さんが言ってたんだけど、なんか嘉村グループ伝統芸、いきなり会社任せられたとかある?」

 理美は何故いきなり質問攻めをされたのか分からず、声すら出ず、汗だけが沢山流すしか出来なかった。


 そうして、就寝時間まで、ずっと3人に捕まったまま、彼に入寮した事もloinやメールで報告を忘れていたのをベッドに入ってから気が付いた。

「しまった、とりあえず、入寮と入学式の時間だけ教えて、時間空いたらまた教えるねって……何件か入ってる」

 理美はそれを開き全て目を通す。


[理美、今度会えたら色々見て回ろう]


[入寮はいつした? 分かったら教えて欲しい]


[ゼフォウと一緒だから多分悪目立ちするからすぐ分かるかも]


 なんだろうか、少し分かっているような内容だ。

 ただ、理美には考える程の余力が残っておらず、先も口にしていた内容を書いて送った。

 するとすぐにloinが届く。


[うん、分かった。入学式終わったら迎えに行く]


「ん? ダメだもう眠い、寝よ……」

 内容が頭に入らず、そのまま眠ってしまった。


入学式当日――。


 とても晴れ渡る空、まさに入学式に相応しい。

 今日は悪夢も見ずに済んで理美はホッとしていたが、桜夜の寝起きの悪さがただの二日酔いの人間の様な姿で、軽く叫んでしまった。

「おはよ、うわぁぁっ!」

「ご、ご、ごめん、そ、ソシャゲによる、ね、寝不足で」

 今にも落ちそうな姿勢でハシゴを降りてきたのを見て、理美は言った。

「寧ろあなたは下で寝るべきだ」

 着替え、歯磨き、朝食、時間内で終わらすにはどうも時間が足りない気がした。

「これはもう5時半には起きておいた方が良いかな?」

「理美ちゃはアタシを殺す気⁉︎」

「じゃあ、早く寝なよ」

「アタシにイベを回るなと?」

 会話をしながら、登校中、美空とジュリアもやって来た。

「おはよー!」

「おはようございます」

「おはよう、桜夜と部屋を変えて欲しい」

 朝イチで今一番の願望を伝えた。

「理美ちゃ、いきなりチェンジはやめて!」

「桜夜、ゾンビ化するのやめなよ、そら言われるよ」

「そのうち、携帯没収とかなりそうなので、節度を守ってください」

「うっ、周りが厳しい」

 どうやらコレは元々皆が問題視していた様だ。

 理美は切実に言った。

「スマホ没収とかなったら、連絡手段一気に減るからやめて欲しい」

 美空も続いた。

「私もだよ、公衆電話だっけ? お父さんから聞いたけど、全然使えないよあんなの」

「へっ? あれ簡単じゃん。受話器取ってお金かテレホンカード入れて、電話番号押せば……!」

 つい流れで話してしまったが、こんな古臭い話、誰が聞いても変な人にしか写らないと焦った。

 しかし、意外にも違う回答が出た。

「いや、それは分かるんだけど、電話時間だよ。前に実戦って事で家に掛けさせられて、話すも何もいきなり電話切れちゃうの意味分かんないんだけど」

「あぁ、お金かぁ場所によってよりけりだし、調べると距離や朝と夜とでまた違うよ」

 理美は10円で近場なら約1分遠ければ約10秒と実際測った事はないが、これ位なら読めた。

 同時に普通に話せている自分に驚いていた。

 美空も普通に話してくれているのが嬉しかったのか笑ってお礼を述べた。

「そっか、まだ調べてないから調べてみよ。ありがとね理美ちゃん」

「うん、どういたしまして」

 少しずつ気を付けていけば大丈夫、そんな気がした。


 私立聖十字架学院中等部、門の前に入学式の看板が立て掛けてあり、新入生達が続々門を潜った。

 白に統一された校舎とは裏腹に中は、木をベースで造られており、コンクリートの打ち込みよりも趣があった。

 理美達は1年C組の教室、皆が改めて顔合わせとなった。

 クラスに馴染めるかも、匙加減にもよる。

 緊張していると、担任であろう長い金髪をアップにし、やや鋭い目つきの二重の金色の瞳に丸いメガネを掛けた背の高い男性がやってきた。

「全員席につきなさい。今回は入学式のカリキュラムを話す。そして、自己紹介などは明日以降行うので、時間を無駄にしたくない。そのまま話すぞ――」

 かなり圧のある話し方をする男性担任で、皆が尻込みした。

 処が、広喜だけが違っていきなり質問した。

「先生!」

「なんだ?」

「僕たちは良いので、先生だけ自己紹介軽くで良いのでお願いします」

 眉間に皺を寄せるも、広喜の言い分も確かなので、男性担任が自己紹介をした。

「バートンだ。Cクラスの担任、担当教科は社会を受け持っている。以上だ。私はあまり自己紹介や長い話が苦手でね。話の続きをするぞ」

 自己紹介を終えたバートンの話に返事を皆が返した。

 カリキュラムの話を終えた頃に、バートンは言った。

「そろそろ時間だ。全員廊下に出て列を作りなさい」


 体育館、保護者達は1階後方、上級生達も2階で見学していた。

 担任を先導に新入生達が列を作って席へと誘導されて行く。

 理美は辺りを見渡すと、晴菜を見つけ、軽く回りに見えない様に手を振った。

 晴菜も理美を見つけ、軽く手を振り返す。

 もう一度、理美は辺りを見渡すも、流石に2階を見る為に後ろを振り返るのは無理があり諦めた。

 1人の先生の指示に従って一礼の後、一斉に座った。

 それを2階で見ていた上級生がおり、肩くらいの長さの黒髪をハーフアップし、優しそうな二重に深い青の瞳を持った男子の1人が言った。

「どれが理美ちゃんか分かんないねぇ」

 隣にはもう1人、男子で首にかからない位の銀髪で凛々しさのある二重に瞳が緑、スっとした綺麗な鼻筋に透き通った肌、座って入るが、黒髪の男子よりも背も高いのが分かる。

 その男子も言った。

「あぁ、2階だと理美が見分けつかねぇな」

「席1番前にしたのにねぇ」

「4クラスしかないからと油断したぜ」

 2階からだと、意外と見づらく、ほぼ誰が誰だか分からない。2人は苦笑いし、いっその事教室に戻ってしまおうかと思う程だ。

 黒髪の男子がある提案をした。

「どうする? 理美ちゃんのクラスに突撃する?」

「いや、行きたいが今日は大丈夫か?」

 今日は入学式の為、一部を除き、在校生及び上級生は自由参加になっており、2階からの見学は半分以下だ。

 これなら大丈夫と踏んで言った言葉に辺りを見渡していた黒髪の男子が判断した。

「ん〜多分ダメ、俺が迎えに行くから、冬美也は俺が指定した場所で待機」

「はっ? なんで?」

 冬美也は納得いかず声を荒げた。

「騒ぎ確定、お前、転校初日からラブコールの嵐だっただろ?」

 その一言で冬美也は顔色がみるみる青白くなり、更には言葉が詰まった。

「ゔっ」

「俺が上手く立ち回っていざこざ無くしてやったの、忘れたとは言わせないよぉ?」

「ゼフォウが行くのは納得いかない……!」

「はいはい、とりあえず終わったら、指定した場所で待っててね」

 そう言いながらゼフォウは姿勢を正し、新入生代表の言葉に耳を傾けた。

 冬美也は何かを感じた。

「なぁ、オレさっきから視線感じるんだけど?」

「おっ気が付いた? 俺もだ」

「これ女子では無いな」

 いつも感じていたであろう視線とは違った。

 ゼフォウは笑って言った。

「先公じゃね?」

「うるさいのがバレたか」

 それにしても、普段の先生達に向けられる視線とはまた違う、言いようの無い冷たい感じは一体なんだろうか。

 冬美也は、教師達が座っている席に目をやった時だ。

 その瞬間、誰がその冷たい感じの目線を送っているか分かった。

「誰だ? あの長髪丸メガネ?」

 一瞬だけ、バートンがこちらを見ていたのだ。

 冬美也はバートンに対して、あまり関わりたくないそんな気持ちとなった。


 入学式も終わり、新入生達は自分達の教室に戻った。

 バートンは皆が座ったのを確認し言った。

「保護者の方々は一度、保護者会等で集まって話を聞くので、学区から離れ過ぎず、ルールを守って下さい。くだらん事で教師を呼ぶ輩も毎年居るので、そうならないようにして下さい。以上解散で、今回は一番前の列の姉崎桜夜さん、お願いします」

 いきなり、呼ばれた桜夜が一番驚きどぎまぎしながら言った。

「は、はい、起立、礼、着席」

「では、私も忙しいので」

 バートンはそう言い残し、教室を出て行った。

 あっという間に終わり、皆が一斉に友人やグループとなって話し始めた。

 理美はといえば、漸く帰れる一択だ。

 そっと、スマホを手に取りloinを確認しよう目を通そうとした時、誰かが理美呼ぶ。

「すいませーん、理美ちゃんじゃなくて、嘉村理美さんおりません?」

 上級生の黒髪の男子がいて、皆静まり返ってしまった。

 まだ誰も知らない上級生に困惑していた。

 広喜が廊下側の席にいた為、黒髪の男子に話をした。

「あの、どの様なご用件で」

 近くにいた男子があまりの礼儀良い言い方に突っ込んだ。

「広喜、固過ぎてその言い方、サラリーマンかよ」

 そのせいか、笑いが起きてしまった。

 広喜はそれを笑って返す。

「いやぁ、つい」

 たまたま、美空が理美の名前を聞いて、後ろの席にいた理美に言った。

「理美ちゃん、先輩が呼んでるよ?」

 言われた理美は印象が変わった為か最初誰だか分からなかったが、loinで確認後、漸く誰だか分かった。

「あっ、ゼ、じゃなくてフィン先輩お久しぶりです」

「ヤッホー、お久だね!」

 彼に近づき、耳元で小声で聞いた。

「なんで、ゼフォウからイ・フィンで名乗ってるから合わせてってどいうこと?」

「んっ? それは行きながら説明するから、荷物持って来て、それじゃ皆の衆ご機嫌様」

 ゼフォウが笑って、荷物を持って理美と教室を出た。


「――と言うわけで、戸籍はアメリカで作った際、さすがに気に入ってたこの名前をボスの命令で変えざる終えなくて、更についでだからイタリアと香港との間のハーフって事にした。本当に俺が1番分からねぇ」

「うへぇマフィア……」

 ゼフォウはあるきっかけでとあるマフィアの人間になった。

 普通に考えれば、トカゲの尻尾やいつでも使い捨てになりそうな駒の様な存在だ。

 だが、ゼフォウは分野こそ違えど、彼もまた相当頭が良い分類で、甘いマスクと人懐っこい仕草に着眼点の良さ、そして言葉一つで人を簡単に操れる程のマインドコントロールが可能な人間だ。

 しかし、理美とはまた違う意味で孤児な上、とある実験能力持ちとなった。

 その両方を持ち合わせ、ゼフォウもまた恩義もある為、決して裏切る事はない。

 両方は理美には知られていない。

 知っているのはマフィアになった事ぐらいだ。

 理美は半信半疑で冗談を言った。

「で、私はこれから拉致、身代金でも親に請求するんですか? フィン先輩」

「やだなぁ、そんな事したら俺がボスに殺されるよぉ。まぁ、拉致で稼ぐのはマフィアの基本だけどねぇ、俺んとこはやらないけど、寧ろ、どこに居るか教える代わりにお金ぼったくったり、助けたから破格な金額請求したりするんですけどね」

 内容がもう恐怖しか伝わって来なかった。

「こえぇよ、まじこえぇよ」

 引いてしまった理美を安心させる様にゼフォウは言った。

「まぁ今回は、サプライズ演出ってやつだし、お金取らないから」

「信用出来ないよ、マフィアよ」

 

 ゼフォウと理美は校舎を出て、人気の無い学校裏に来た。

「怖いのですが」

 信用が無くなってしまったゼフォウが必死になって安心させようとした。

「大丈夫! もしこれ罠だったら、俺、アイツに殺されてしまいます」

 寧ろ自分自身の身を案じてしまう程の怖いアイツとは誰のことだろうか。

「アイツって?」

 なんとなく段々分かってきた時だ。

 奥から女子だろうか泣きながら走りって来た。

「うっそ、ちょっと離れたらすぐコレだぁ」

 ゼフォウが頭を抱え、ドッと疲れてしまう。

 丁度、理美とすれ違う時、女子に凄い睨みつけられ、理美は驚くしかなかった。

「何アレ? 私何かした?」

 もうなんて言えばいいのか分からず、ゼフォウを見た。

「いや、どっちかと言うと、理美ちゃんただの被害者」

「はっ?」

 奥に入った時だ。

「理美!」

 その声に理美は驚いた。

「……冬美也? えっ? アメリカに居るんじゃ?」

 立っていたのは、冬美也だった。

「俺が居るんだから、一緒にここに編入してるに決まってんじゃん」

 ゼフォウが理美の背中をそっと押した。

「ちょちょちょっと待って、嬉しいけどなんで編入したの?」

「色々考えて、理美と過ごしたくて、本当は一緒の春に入りたかったんだけど、アメリカの卒業とか時期違うからなんか冬に入った」

「だったら、早く言ってよ! なんで書いて――」

 理美が言いかけた途端、ゼフォウが話に割って入った。

「それ、俺が止めた。どう考えても理美ちゃんにプレッシャー掛けて、合格点に行けなくなる」

「ごめん、本当は理美が合格してから言おうと思ったんだけど」

「それも俺が止めた。浮かれて探しに行って、先の事が起こって先輩方に悪い意味で目を付けられたら困るから、なんなら、本当は人気の無いこう言う場所なら騒がれなくて済むと判断したけど、やっぱ甘かったわ」

 どうやら、全て理美の為に動いた結果の様で、最後の最後で、上手くいかなかったようで、冬美也とゼフォウは落ち込んだ。

「だなぁ、まさか理美かと思ったら違う子が来て驚き過ぎて固まった」

「お前なんでそんなにモテる? 意味分からんわ」

「そんなのオレが聞きたい!」

「モテる? どゆこと?」

 理美にはどういう意味を指して話をしてるのか、さっぱり分からないようで、とりあえずゼフォウは冬美也と理美を残してゆっくり話し合って貰おうと考え言った。

「積もる話もあるだろうから、俺は去る、そして泣く」

 何故か、ハンカチ持って去るゼフォウにどう反応すれば良いか分からない。

「なんで!?」

「余計意味わからん事すんなよ」

 ゼフォウはハンカチをポケットに仕舞い、学校から出ようとした時だ。

「わっわっ!!」

「お、落ち!!」

「押さなっ――!!」

 美空と桜夜とジュリアが壁際から雪崩る様に倒れ込んだ。

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