まがい物について
嫌だ嫌だ!
怖い。
怖い――。
また忘れられた。
居場所がもう無い……。
理美は何かに促された様に走り、屋上へと駆け上がる。
「うわ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎」
無理矢理メリュウと融合しようとし、メリュウが拒否しようとするも理美の感情が上、止められない。
誰かが来た。
暴走し、龍の鱗が付いている状態で人が見れば悲鳴ものだ。
理美は逃げようとするが、いつの間か腕を掴まれ、勢いのまま振り返り裏拳を入れる。
だが一切躊躇なくその拳を掴んだ。
掴んだ相手はなんとバートン。
「理美、理美嘉村、しっかりしなさい!」
すぐにバートンから離れようとした。
「どうせ、どうせ皆忘れるならもういっそ居なく――!」
バートンはそんな理美を抱きしめて、優しく慰める。
「大丈夫です、大丈夫、覚えています。だからもう怖がらなくて良いんです。大丈夫理美、もう怯えなくて」
その言葉に漸く安堵し、理美は急にホッとしたら涙が溢れ泣き出した。
「うっ……うっ、あぁぁごめ、ごめん、なさい!!」
「良いんです、もう勝手に逃げ出さないで下さいね」
「うん、う、あぁぁぁぁ」
理美は泣き続け、いつの間にか眠ってしまう。
本来落ち着いたらすぐに動くべきだったのだろうが、あそこまでパニックを起こしここまで来たのだから、体力的にももう限界だったに違いない。
怒る事も無くバートンは理美を抱き抱え、階段へと向かった。
そこには立ち尽くすまま、動けなくなった冬美也がいた。
「何をやっているんですか? もう授業も始まってます、早く行きなさい」
「……」
何か言おうとするが、喉から言葉が出てこない。
「別に保健室へと運ぶだけです。面倒ごとを起こすなよ」
そう言ってバートンは理美を抱えたまま階段を降りて行く。
冬美也は言いたかった。
オレが運ぶとか、本来ならオレが理美を止めていたとか色々言ってやりたかったのに言えず、ただ見送るしか出来ない自分の不甲斐ない。
あまりの情けない自分につい、壁に拳を叩きつける。
それしか出来なかった。
バートンは理美を保健室へと運び、担当の先生に頼んで寝かしてもらった後、自身の教室へと向かう。
少し遡って、ゼフォウはと言えば、クラス全体ごった返した1年C組に着いてそうそう大騒ぎになっていた。
「だから、それぐらいで叫ぶなんてくだらねぇって」
「何が! 嫌がらせ通り越して犯罪だっつうの! 誰が最初にやったんだよ!」
桜夜が沢村言い合いになっており、沢村に賛同する仲間から取り囲まれる。
しかも1人で対応しているのだ。
これは一触即発してもおかしくはない。
「おい! お前ら昨日言ってすぐ行動するってどういう了見だ!」
「うるせんだよ、金魚の糞のくせに!」
「あぁ? 誰が投げ捨てたか、同じクラスの奴が見てんだよ。誰だったか分かるだろ?」
ゼフォウの目が凄く殺意に満ちている。
ただ、広樹と共にいた男子はこわばる事も無く平然と言う。
「野澤と相川、んでそこの沢村の3人」
何していたかは知らないが、落とされた近くにおり、何より顔もはっきり見ていた為、証言もしっかりしていた。
しらばっくれる気でもいた名を呼ばれた生徒達だが、広樹も一緒に撮影していたのだろう、その動画をも見せ、立場がなくなった沢村はキレる。
「てめぇ、松平もアイツうぜえって言ってたじゃねぇか!」
松平もあまり理美に良いイメージを持っておらずだが、卑怯な行為をした側に言われたくもない。
「卑怯な手でしか言えない奴に言われたかねぇよ」
実際、机や鞄一式を回収してくれているのだから、本当に言われる筋合いすらなかった。
「あんたら最低! 一緒に入学したばかりなのに良くそこまでするよね!」
「あ゙ぁ゙? 良く聞こえねぇな?」
桜夜は怒りに任せて、沢村にビンタをしようとした。
ここまで来たら、流石に手が出ても仕方がない。
しかし、慌てゼフォウが……いや、先に広樹が間に入り、ビンタを食らう。
「ご、ごめん!」
「お前ら、いい加減にしろ!! 退学処分食らいたいのか! 加害者に甘いから大丈夫と踏んでるなら、こっちにも考えがあるぞ!!」
あの温厚な広樹がここまでキレるとは思わず皆が黙り込む。
そんな中で、ようやくバートンがやって来た。
「すいません、先程理美嘉村を保健室へ休ませた所で、状況もジュリア・アンジェ・テインソンからあまり情報も掴み取れませんでしたが、全員席に着いて事情を話して下さい。後、理美嘉村の保護者に連絡をしましたので、いい加減な受け答えだけは止めるように、それとフィン·イは1度教室へ帰るように」
「はい、分かりました」
結局、担任であるバートンが来たからかには、皆大人しくなり、全員席に着かせ、ゼフォウもこれ以上何も言わずに移動教室先へと戻って行った。
理美が目を覚ますと、ここは何処かと起き上がる。
その音に気付いた保健医が、理美の様子を見る為、閉めていたカーテンを開けた。
「あっ……」
「嘉村さん、バートン先生に運ばれてたから驚いたけど、もう大丈夫?」
理美は辺りを見渡し、時計を見ようとしたが、何となく時間を言い当てる。
「はい、すいません……今何時、2時半まで寝てた」
保健医も自身の腕時計を確認して驚いた。
「あら、正解、今電池切れちゃって外してたのよ時計」
「もう戻ります」
「バートン先生が、荷物はこっちで持って行くからそのまま帰っていいそうよ。それと、ちょっと席外すから先生に連絡と電池貰いに行かないと」
「はい、分かりました」
保健医が出る前にソファーに座っている生徒話し掛けて出て行った。
「後、神崎君も変な事しないでね」
「しません、安心して下さい」
そこに居たのは冬美也だ。
理美もまさか冬美也が居るとは思っていなかった。
「冬美也……」
「あ、あぁちょっとダルくて休ませて貰ってたんだ」
でも本当は、モヤモヤしたままでは碌に授業を受けれないと判断し、入るかどうかも悩み、保健医に促され休んでいたのだ。
「そっか、あのね、実は……」
あの時の話をしようとした。
冬美也は自分も居て、バートンに慰められ、ここに来たのも言えず、朝の話を持ち出した。
正直に言えば愚策だ。
「理美が朝、距離を置く話をしたよな?」
「うん、そうだけど、でも今はそうも――」
理美はすぐにまがい物について話そうとするも、冬美也が先に割り込んで話してしまう。
「いや、それが正しいと思う。オレが舞い上がってたせいもあって、そうなったんだ。むしろオレのせいでもある。ごめん」
「冬美也? 私だって舞い上がってたんだから一緒だよ」
「それで暫くオレも距離を置いて少し考えたいんだ。ただもし、それでも攻撃が止まないんだったら、言ってくれ一緒に考えよう」
多分、知っている、この状況を冬美也は見たか知っているのがこの言葉選びで理美にも分かる。
だからこそ、これ以上入り込むのも出来ないと判断した。
「……なら勉強同好会には」
そう、本来的には入ろうと考えてはいたが、こうもいじめと言うかもう犯罪に近い行為が起きたのだから、これ以上冬美也を巻き込んではいけない。
だが返って冬美也は驚き、すぐに言う。
「むしろ来て」
「距離置こうとしてるんだからやっぱり止めた方が」
下手すると今度こそ冬美也に魔の手が掛かってしまう前に手を打ちたいが、今後も考えれば確実に距離を置くべきだ。
だが、賛同した張本人は動揺を隠せない。
「本気で距離を置かれたらオレが死ぬ」
こっそり会うにしても無理だろうし、そもそもの事、理美には大事な仕事を優先しなくてはいけなかった。
「えぇぇぇ、でも会社も、まあイベント時しか来ない建前社長だし良いにしても最近立て込んでてそもそも行くにも今日だってもう帰って良いって言ってくれたし」
基本、母である晴菜が主導権を握って出来る範囲で理美に任せている形で経営は動いているので、学業に支障が無く趣味や部活にも悪影響を及ぼさない範囲を心掛けてくれているので、影響はほぼないが、大事なコラボ企画等少しでも勉強になるものは学ばせていると言ったものだ。
そして下手に未だに残っているのを知ったバートンがわざわざ来てしまうと冬美也がまた、威嚇するのが目に見える。
帰るよう促されている以上冬美也もどうこう出来ない。
「……! それなら仕方がない、解決したら教えてくれ」
「それは、もちろん」
冬美也もお互い話し合ったと言う形だけでも良かったと感じる。
下手に理美だけが背負う事になりかねなかった分、今のうちに決めておけば少しは我慢が出来るんだから。
「うん、もう帰った方が良い、オレはそろそろ部活に行くから」
「分かった、ありがとう冬美也、後ね今、まがい物って言うの気を付けて」
「あぁ分かった、じゃ気を付けて」
本音は送ってあげたい。
理美が出て行った後、冬美也は項垂れ座っていたソファーの腰掛からズレていく。
「なんでこうなるんだよ……と言うかまがい物って何?」
本当にどういう意味で言ったのか知りたい。
そんな中でいきなり髭眼鏡を掛けたゼフォウが現れた。
「それはこの俺が答えた上げよう!」
「なんでお前が居るゼフォウ? 理美とすれ違ったか?」
勿論すれ違った上で、まがい物をあっさりどころか名前しか言っていなかったので、心配になって教えようか迷っていたが、ゼフォウはそれについて実は理美より詳しいらしく、それならとお願いされていたようで、帰してしまったようだ。
「うん、少し話して、まがい物だけ教えたけど意味分かってないよねと申してたので俺が分かるから大丈夫として帰した」
「帰すな」
ここで保健医がやって来て言う。
「あれ? フィン君も来たの?」
「うん! 冬美也を迎えに」
「そう、神崎君も無理しないで一緒に帰っても良かったのに」
普通に帰れば、安心だったのではと言う意味も込められているが、冬美也はここでだけ話して終わらせてしまったせいで、後悔しているが言葉は必死に強がっていた。
「いえ、大丈夫です」
2人は思った。
『今その手で帰れば良かったって顔してる』
『帰れば良かったんでは?』
帰り道――。
「そうそう、なんか、問題起こした連中と理美の親御さんが話し合いを後日と言うか明日やるって話を桜夜っちから聞いたんだ」
ゼフォウはあの騒動後、桜夜から聞いた事を話すも、冬美也が浮かないままだ。
「……」
あの騒動では来ても理美には耐えられるかと言えば、非常に厳しいが付く。
バートンからの指示もあり、理美はそのまま寮で休むことになったのもゼフォウが伝えるも、冬美也はあまり反応しない。
「んで、理美ちゃん、明日もお休みさせるって言ってたぜ」
「そうか……」
「なんか浮かない顔だなおい」
「実は――」
冬美也はゼフォウにありのまま話した。
「なるほど、で、その気持ちのまま理美ちゃんに知られたくなくて、朝言ってたのに賛同したは良いけど、よりにもよって理美は会社優先で部活も保留のままと」
実際、あまり距離を置く気もなかったが、現状も考えてだ。
そしてまがい物とは何なのか説明を求める。
「もう……良いだろ、いい加減まがい物は何なのか教えてくれ」
「人間の欲或いは天然の賢者の石のみそっかす」
「みそ? はぃ?」
ゼフォウが懐から小さな小瓶を取り出し冬美也に見せた。
「コレがまがい物、ほら、漫画とかで見る感じで赤いでしょ?」
小瓶の中を見れば数粒の小さな赤い石が見え、コレがと思うと同時に疑問が。
「この小さな小粒がまがい……いやなんで持ってんだよお前⁉︎」
そもそも何故持っているのか。
ゼフォウは話すが、裏社会ではごく普通に使われているのを暗に分かりやすく言う。
「俺も会社してるとね、こういうの必要になるんだよ。要は塩梅、使い過ぎれば今度は俺が苗床になる」
挙句、下手すれば危険な品もの、だからこそ説明をして欲しい。
「説明くれ、説明!」
「まがい物は言うなれば願望を叶えてくれる魔法みたいな石、人の願いを叶えてくれるが、どんどん欲が溢れ自我が保たれなくなる、最終的に苗床になる。だけど、些細な願いだけなら大丈夫」
些細で済むのかそれはと言いたいのを我慢しつつ、ずっとまがい物を見ていた冬美也から率直な言葉が出た。
「いやいや、欲に飲まれるだけじゃ、それにもしそうだとしても無から有は生まれないだろ? 猿の手みたいな感じでオレは嫌だな」
結局最悪な末路を辿るのだから普通使わないが1番ではと思ってしまう。
だから許容範囲を考えるんだよと言いながら、まがい物を懐にしまった所で、ゼフォウは理美が管理者として言っているのならば、きっとまがい物を使用している人間がいると言うのを伝えた。
「もし理美ちゃんが言ったのなら、多分誰かがまがい物を使っているんだよ、嫌がらせ含め」
「はぁ? なんで……あっ」
誰だよとか言いたいが、もう誰だか分かってしまう。
しかしゼフォウの言う通り、証拠が無いから問い質せない。
「そう、でも本人が使ったって証拠も無いからこっちも手が出せないってのもあるけど、止めないと本当に苗床になるよ」
危険な物と認識出来るが、どうしてそう苗床と言うのか分からなかった。
「苗床苗床ってどうして苗床になるんだよ?」
「精神汚染されて、最終的に培養するんだよ人間の体を使ってね」
植物の様なイメージが湧く。
でも人間だけとは限らないだろう。
「動物は? 人間だけじゃないだろ?」
「野生に住む動物とかでもあるけど、大抵はそこまで至らないし危険な物としてまず近付かないし」
本当にレアなケースではあるようだが、殆どは近付かないと言うのが普通の様だ。
人間は別として。
苗床で培養、もう増える一択なのだがと思ったがどうやら本当の様で絶句する。
「培養って増えるのかそれって?」
「増えるよ、質は劣化するけどこう体中からまがい物が出てくる感じで」
「……! ……劣化するのかそれって」
劣化の言葉に妙な引っ掛かりがあった。
これもずっと欲による影響との事だそうだが、劣化するならもう少しあっただろう。
「する、だって欲を放出させ続け、手に入れた苗床にはそこまで栄養素、欲を生み出す為の理性が消えてるからね。ただ生きたいってだけのゾンビみたいなもんさ」
「うげぇ……でも、億万長者になりたいとか、不老不死になりたいとかで使えば良いだろ?」
冬美也が言っている話にも理解は出来たが、ゼフォウからすればその欲に関してはあまり良い返事が無い。
「あぁ言うのは質量の問題、億万長者なれたとして、どこまで金を使って満足出来る? 不老不死だってそう、なれたとしてどうするんだ? 回りが死んで1人孤独になるだけなのに? まだ孤独で死んだ方が良い」
結局欲に蝕まれれば苗床になってしまうだろうが、そんな単純明快な欲ほど最終的に溢れ出た欲となりあまり好かなかった。
そんなゼフォウに驚く冬美也を見て、またオカマ口調で喋り出す。
「お前から力説が出るとは思わなんだ」
「何よ! 俺だってこうみえてまがい物の付き合い方を教わってるから、こうやって懐にしまっているのよ!」
感心した自分が馬鹿を見た目で、改めてどうしてこうなったかをゼフォウに聞くと、薄々分かっていた筈だ。
「あーはいはい、で、嫌がらせ含めたって事で何が言いたい?」
「多分、原因はお前」
「オレ!?」
でも信じられない程、鈍感にゼフォウの方があきれ返る。
理美が取った言動は正しい、そして今後も考えてゼフォウは言う。
「さっきも言ったけど証拠は無いけど、誰なのかは分かる。距離を置くのも正しい」
「……分かった」
「お前は1人になるなよ、下手すればこれを好機に狙ってくる可能性がある」
「お、おぅ」
「だから俺から離れるなよ、俺は逆に暫く会社行かなくて良いから」
「……理美と居たかった」
本音を出す冬美也に対して普通にゼフォウは怒って体当たりした。




