狭間のバー
その後は理美も少し落ち着いたが、帰るなら1人で帰りこのまま一度アースに話を付けようと思っていた。
冬美也がそれを止める。
「理美、ちょっと良いか? 今日は一緒に帰ってくれ頼む、1人で帰りたくない」
流石に理美も冬美也が嫌がるのは不思議だったものの、別に一緒でも良かったが、これでまた言われるのは嫌だった為、あえて突き放す方向へ持って行く。
いきなりダメとか言うと傷付いてしまうのでゼフォウも居るからと大丈夫だと促す。
「どうしたの? ゼフォウ居るんだから大丈夫だよ?」
「何? 俺モテ期?」
ゼフォウからすれば一体何が起きているのか分からないが、とりあえずいつもと変わらない行動を取る。
冬美也は理美が何故そう言うかも理解出来ていた。
出来ていたが、下手にまた愛弓に出会いたくない強く思ってしまい怖くてたまらなかったのだ。
「いや、なんか嫌だ。一緒に帰りたい」
「一緒の寮だから良いけど」
仕方がないとばかりの言い方だが、冬美也にしては異常な気もした。
理美も怖がっている冬美也に漸く理解出来たと共に、ゼフォウも気が付き聞く。
「何お前なんか怖い事でもあったの?」
冬美也はここで漸くあの時の出来事を口にした。
「……藤浦と2人きりになってた。告白受けたけど断りもしたけど、なんか異空間に居たと言うか異界に居たと言うべきか、なんか1人になったら今度こそ閉じ込められるんじゃって」
突き放した身、理美は謝りつつも実際寄り道予定だったのを教えると、凄く明るくなって嬉しそうな冬美也は先程あった出来事を一瞬にして忘れたかに見える。
「ごめんね気付いてあげれなくて……分かったよ。でも私寄り道するけど良いの?」
「寄り道、別に良いよ付き合う付き合う!」
ただずっと一緒に居たゼフォウからすると冬美也が怖がるのは既に逸している気がしてならなかった。
『よく分からんが、冬美也が生きた人間を怖がる方が俺的にすげぇ怖いんですが』
そう思っていてもなんとなく冬美也だけでは無い、理美のおかしさをゼフォウは感じとっているが、彼女が口にしていない以上聞いても言わなそうだ。
だからこそ、今回は寮に戻ってからでも冬美也にだけ聞く事にした。
電車に乗って10分、理美の寄り道は雑貨屋だ。
「ここか?」
「うん、そろそろ手帳がパンパンになって来たし、新しいのを買おうと思って」
そういえば、理美が持っていた手帳はかなり分厚くもう書く場所も無いのだろう。
理美が手帳を軽く開ければ、かなりの書き込みや予定も事細かに書かれていた。
冬美也が話す前にゼフォウに先取られてしまう。
「何理美ちゃん? もうお仕事、俺と一緒だねぇ」
「仕事ってお前の仕事に手帳要る?」
半分嫌がらせの如く言ったが、笑顔のままこちらに言うゼフォウが怖かった。
「んー表舞台の時には要る」
「怖いわ」
冬美也に突っ込んでもらったのが分かってから、ゼフォウは理美に言う。
「でもさ、もっと良い手帳ならあっちのオフィスビルにあるビジネス雑貨店とかあるじゃん?」
ビジネス用品店とも言えば良いだろうが、こことは品揃えとしては違い本当に実用性を追い求めた品物だ。
しかしそれは返って理美が求めている品が無いとも言えた。
「そこ、可愛いの無いからヤダ」
「あー」
「成る程なー」
「ちょっと前まではネットで購入したり、琴さんにお願いすると結構和風テイストだけど可愛いの買って来てくれたりしてたから」
そう言いながら理美は中へと入るも、流石に怖がっていた冬美也を放置する程でもなく、手を繋いで一緒に入る。
理美が言っていた手帳の棚は様々あるがどれも子供用のキャラとか可愛すぎて大人には使えない物とかばかりだ。
どんな物を選ぶのか見守っている中、不意にゼフォウが言う。
「そういやさ、入学式の日の夜にこっから少し離れた場所で落とされた死体があったの知ってる?」
冬美也は最初ピンと来なかったが、渋滞と時間を考え慌てて進路を変えたのを思い出す。
「落とされた? ……あっ、この辺かもしかして? 飛び降り自殺だろ」
そう飛び降りだのなんだのと車ごしでも聞こえて来たのだからそういうものとして考えていた。
ゼフォウはそれについて知っているらしく教えてくる中で誰かが会話に入って来る。
「ニュースにはなってないだろうけど、詳細は落とされる前に獣が爪で切り刻んだ後に落としたらしい。そして――」
「‘不潔な人間に天罰を’だろ?」
そこに居たのはジルだ。
驚き過ぎて、返って我に戻る冬美也に、手帳を見ていた理美もやって来て少々騒ぐ。
「わぁ出た」
「ゾンビの人!」
「誰がゾンビだ!」
ジルが突っ込む間に、冬美也が絡む。
「なになに、お前も可愛いのが目が無いの?」
「違う、お前らが入って行くのが見えたから声掛けに来たんだ」
「で、本音は?」
ゼフォウが何か勘付いているのに気付くジルは、ならばとある場所に連れて行こうとする。
「ここじゃなんだし、俺らの隠れ飲み屋に連れて行ってやるよ」
「今からじゃ無理だろ?」
時間としてはまだ全然だ。
だがここから食事と言うより軽食を食べて帰ると流石に遅くなると思っての事だったが、ゼフォウは何かに気付き、ついて行く事を提案した。
「……いやあの噂が本当なら入っても時間経過がない筈」
「何言ってんだお前?」
「理美も選んだら来い、面白いから飯もあるし」
漸く選び終えた理美にジルが言う。
「えっ?」
雑貨屋から出て今度は駅に乗って戻る。
そしてここから歩いて学区からまた離れて行く。
と言うより、人気が全くない場所へと辿り着き皆に言われる。
「ちょっと本当にここかよ?」
「私知ってる、この辺人近付かないから店も建たないって」
いわゆる曰く付きと言う奴だ。
ゼフォウもなかなか着かないので、噂は嘘なのかと疑い始めた。
「実は嘘だった?」
「おっまえ、いつも同じ場所には建たないんだよ」
そうジルが言っていると、ある奇妙な扉に皆、目が行く。
もう使われず、古びた家の壁に似つかわしくない扉とOPENの文字が書かれた看板があるのだ。
皆、何あれ、さぁと答える中、ジルだけは見つけた喜びで声が出る。
「ようやく見つけた! ここだここ!」
凄く薄気味悪いのに、ジルは歩き出し皆来るよう促す。
最初疑って近寄ろうとしなかったが、ゼフォウは改めて息を飲み言う。
「……マジかぁ噂通り、意味分かんねぇ所で店構えんのかココ」
「ゼフォウが言っていたのはここなの?」
「あぁうん、マジかよ。薄気味悪い所に店構えんなよぉ」
うだうだ言うが、なんだかんだジルを追った。
冬美也も本音はあまり良くない場所として認識するが、馬鹿みたいに逃げる訳にもいかず付いて行くしかない。
理美は困った。
本音は先程あった事を管理者に話すだけのつもりで来たのに、意味の分からない危険すら感じる場所に入らなければならないのかと1歩下がると、いつの間にかジルのアース、アヌビスがおり、理美の手を引っ張る。
「大丈夫だよー」
そう言いながら、あの扉へと向かい、ジルが理美もちゃんと来たのを確認後、扉を開けた。
「よし、ようこそ狭間のバーへ」
あり得ない風景が目に入り込む。
木製の西洋作り、丸テーブルに椅子も腰掛けが無い物まである。
まるで西部劇のようだ。
よく見れば、明らかに普通の人ではない人種もいる。
凄く陽気な人々が酒を飲み、楽しんでいた。
ここを見て最初に言った一言。
「何ここ?」
理美の一言にジルは嬉しそうにうんうんと頷く中、冬美也も怪訝な顔で言う。
「スタジオか何かか?」
だが、ゼフォウは違った。
「やっぱりあったんだ、本当だったんだ!」
普段の素を見せないゼフォウがここを見て凄く嬉しそうにしているのを見て、ジルは改めてここの店について話す。
「先も言ったが、狭間のバー、ここは様々な世界の間に存在する狭間、その場所は不安定で必ず同じ場所に店は開かない。で、ついでに言うとここに入ると時間が止まるのか、出てもさっき入った時間のまま楽しめる」
話が飲み込めない理美が戸惑ってしまう。
「……? ん? え? どゆこと?」
無論冬美也もで、ゼフォウを捕まえて話を聞く。
「一体どういう事だ? お前知ってるだろ?」
「異世界と異世界の狭間、要は隙間があって、その小さな隙間に店を構える存在があり、その名は――」
話そうとした直後、誰が来た。
「キャサリンよー! よ、ろ、し、く、ね!」
背が高く色黒で肩までのウェーブ金髪のおかまのお姉さんの名はキャサリン、見た目もそうだが声も高くも男性に等しい。
『オカマだ』
『由緒正しいオカマがいる』
ジルはキャサリンに対して言う。
「ちなみに、本名は山田吾郎な」
「あら、ジルボーイ、それは内緒だぜ」
先程の細くもしなやかな筋肉が一変して横幅も倍に増えただけでは無い、素晴らしい筋肉となり、普通の男でもまず助からないだろう。
多分、皆キャサリンの本名と言うのか、わざわざ挨拶代わりにやっていそうだ。
「大体の常連は管理者だし、新人管理者を連れて行くのも先輩がやるんだよ」
ジルが理美達をいや理美を連れて来たのが、先輩管理者が連れて行く習わしみたいなのだったが、初代管理者は誰が連れて来たのか、ちょっと知りたくなった理美は聞くと、キャサリンが教えてくれた。
「初代はどうやって見つけたの?」
「そりゃ、あ、た、し、が招待するのよ。異世界は無限に広がるミステリー、関われる場所位あっても楽しいでしょ?」
キャサリンの話を聞き、冬美也は不意に辺りを改めて見渡せば、普通の人も居れば、見た事の無い民族衣装を纏った人、既に人では無い亜人と呼ばれる人種までおり、ただのコスプレとか仮装では無い異世界人が酒を飲んでいるかと口早に言えば、それも答えてくれる。
「……と言う事は、仮装っぽい人間いるなって思ってたが、あれ全部」
「そう、異世界人、この狭間は様々な異世界を繋がるバー、管理者もだけど一般の異世界人も大歓迎よ」
語尾に絶対ハートが付いていそう。
「他にも来ているから、キャサリンさん日向達は?」
「明智君ね! それなら、そっちの席に一ちゃん達ともう飲んでるわよ。後、未成年の子達にはお酒出せないから」
「はいはーい、質問、エルフみたいな長命人種や短命人種は?」
「あたしの目はちょっと特殊なの、例えばあなた達の住む世界の平均で見て、二十歳だとすれば、長命の二十歳はおおよそ100歳、短命は君らと同じ20歳か15歳位で飲めるようになる。だから、君らはまだダメでーす」
その直後、理美はいきなり変な事を言う。
「私、33歳です」
冬美也はすぐに気付く。
『あー、そういう……』
理美が言っていたのはほぼ実年齢だ。
いやまだ若く見積もっている可能性もある。
普通の人間、流石に冗談として見るのだが、キャサリンは違い、マジマジと理美を見て何か納得した。
「へぇ……なるほど」
冬美也も少し期待してしまうが、そうは行かない。
『おっ? これはいけるのか?』
「ダメでーす! 年齢的に合っていても、体は子供なら肝臓のダメージ増大なので禁止よ」
思い切り腕をバツにして理由も言われると、体付きで見れば言われて納得しかない。
「短命人種は大人の体だから15歳からなのか納得した」
冬美也もこれに関して理解する。
理美に関して知らないゼフォウが何故そんな事を言うのかと聞いて来た。
「ところでなんでいきなり三十代に?」
流石に嘘では無いが、あまり話す気もなく、理美としては冗談として流したい。
「冗談をかましてまして」
意外とキャサリンは理美の冗談に乗ってあげるが、忠告もした。
「そうそう、冗談に付き合って上げる大人もいれば、冗談では無い時にシメるのも大人の役目よ」
キャサリンの笑顔に隠された忠告に、冬美也は気付き、ジルも昔あった無惨な姿となった不届者を思い出す。
『これは、下手な事したらあの姿で絞める気だ』
『昔あったな、あの姿で酷い目に遭った奴を目撃して以来、皆マナー良くなったもんな』
ゼフォウからすれば、2人の考えているのが手に取るように分かる。
同時にキャサリンが先程のあの逞しい筋肉へ変貌しているのが分かり、絶対粗相はしてはいけない、これだけは分かった。
「おーい、まだ話続けるんか?」
見知らぬ男性が声を掛けて来て、理美達は驚く。
「誰⁉︎」
ジルが悪い悪いと言いながら男性に言う。
「一久しぶり、坂本と日向は?」
聞かれた一は今はまだ日向とだけで後から他も来るとの事。
「日向は一杯飲んどる、坂本はまだで蝶子と一緒に来る予定だ」
納得した辺りで、ジルは軽く理美達を紹介する際、ゼフォウがすぐさま入る。
「そうか、で、大分前に話してた理美と冬美也に」
「イ•フィンでーす、フィンって呼んで」
「おい、名前変わってる奴おるやん」
一がジルに言うと、ジルも苦汁でも飲んだ顔になりながら、ゼフォウについて話す。
「……おぅ、前に聞いていたが、コイツのいる組織はマフィアです」
「幹部じゃないから安心してね」
一は真顔でゼフォウの立ち位置を怪しんだ。
「嘘だ、絶対」
「事実なのに」
「もうなってたかと」
「大学入れてもらって、こっちに来たからって幹部じゃないよ? 仕事任されてたりするけど」
呑気にゼフォウが答えていると、もう1人やって来た。
「そうか、トカゲの尻尾なら早々に辞めて、こちら側に来たらどうだ?」
急に何を言っているのかとゼフォウが眉間に皺を寄せ威嚇しながら聞けば、キャサリンが答えるも、男性が名前を正す。
「誰?」
「明智君よ」
「今は日向光秀です」
理美が今と言う言葉に頭を捻る。
「今?」
ジルは理美の様子と今現在、まだ誰も管理者に付いて話していないのが分かり、それとなく日向に言いながら、皆に見えないよう、スマホで理美はまだ再生について知らないと書いたメモを見せた。
「……あっそうそう、とりあえず席に座ろうぜ」
「成る程、分かった」
納得する中で、一はどうしたんと軽くジルに言えば、先ほどのメモ画面を見せ、納得させる。
で、大人男3人はこそこそ話始めた。
「あぁ、でもそろそろ言っても良い頃合いだろ? 琴はさっさと話しそうだが?」
ジルがスマホをいじりながらある画面を見せる。
「事前連絡でまだ精神が追い付いていない状態で言うのはあれだし、第二次成長期下手な事も出来ないってさ」
その画面は琴とloinで会話した内容だ。
安定して来た分、話せはするがもうすぐ第二次成長期、精神バランスも考えるともう少し先がいいのではと言った内容。
こうなるとどうせ他誘ってるんだから琴も誘えばもっと話が煮詰まるのにと一が言うも、それだけではないようだった。
「でも琴も誘えばよかったやん」
「誘ったら、ボディーガード以外で秘書として抜擢されて今仕事中だからって無理だと」
どうやら今現在、琴は仕事が秘書としての活動となり、仕事を抜ける事が出来ないとの事。
だったら理美と琴が合う時間でも誘えばとも思ったが、あの時たまたま見つけて一緒に話を聞きたいのと、ゼフォウが噂で耳にしていた狭間のバーに興味があったからここまで来てもらったとも言えるので何ともだ。
「琴さんが何か?」
たまたま琴の話が出たのもあって、理美が顔を覗かせる。
「ぅおおおぅ!」
驚く一に他2人も驚いた。
「驚かすな一!」
「耳に来た……」
そんな中で、理美は一を見て言う。
「一さんって聞くと、金〇一の一ちゃんになるよね」
そっちかと日向とジルが聞こえないように言う中、一は改めて自己紹介をした。
「苗字聞けば変わるぞ、斎藤一や、これでどうだ」
「斎藤、斎藤?」
まさかの斎藤一を知らない理美に、ジルも日向も困ってしまう。
「あっ……これ、沖田総司とかそっちら辺しか知らないタイプじゃん」
「一応、漫画とか話せば良いんじゃ?」
そんな中で、冬美也が話に入って来てくれた。
「斎藤一って聞くと新選組になるな、同姓同名か?」
お陰で理美も気付くも、全く違う人を言ってしまう。
「ゲッツの人!」
「〇突! 三文字っていう点しかあっとらんやん!」
いや本当にどうしてそんな事を言ったのかと、皆が思っている時だ。
「あんたら、席にも座らないでここで盛り上がってるけど何してるの?」
坂本と女性が一緒にやって来て、一体何をしているんだと言った顔に対し、一が先ほどの怒りを伝えると、坂本が琴から聞いた話を思い出す。
「お、おぉ坂本来たんか、ちょっとおチビがお笑い芸人と新選組をごっちゃにしおってからに」
「いやぁ、琴から聞いてたけど、そもそも新選組は知っていたけど、新徴組知らないって子だし、まぁ新選組みたいに語り部少なかったからもあるけど」
冬美也はずっと彼らの会話を耳に入れていた。
『さっきから古い話が多い気が……』
そう古い話、江戸時代後期の最後にあった組織の名前を何故出すのかと不思議に思っていると、坂本が連れて来た女性が言う。
「あら? この子達が保護されたって言う子達?」
「保護?」
どういう意味かと冬美也が思っているとゼフォウは分かっていたのか、あの頃の話を大雑把に要点だけ伝えた。
「そうでーす、理美ちゃんに拾われましたー」
「あぁやっぱり、私も加わりたかったけど、サポート型はやることないから、鶴野蝶子です。もう座らないと他のお客様に迷惑よ」
そう言いながら、全員改めて席へと戻る。




