表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リミックスⅠ  作者: E..
12/12

カラスの囁き

 同じ日の夜、藤浦愛弓が寮の外で声を荒げる。

「ふっざけんじゃないわよ!」


 少し遡り、他の女子生徒達は最近の態度について藤浦に苦言を呈した。

「あんたさぁ、最近見境なくやり過ぎ」

「そうだよ、あたしらも小学の頃からの付き合いだからなあなあにしてたけど、このままだとお父さん達に迷惑掛けれないしさ」

「助けてもらった恩もあるから付き合ってはいたけど、ねぇ……」

「愛弓がこれ以上しつこい事するなら私達縁切るしかないって」

「はっ? 大体なんで告白してフラれて、知らない後輩と一緒に――」

「だからさー憶測でもう喋んな行くよ」

「待って」

「ちょっとあんたパパのお陰で」

「それは愛弓のお父さんのお陰であって、あなたは関係無い」

 その一言を言われ、カッとなって立ち上がる頃には皆の白い目がこちらへと向いていた。

 一体何をすればこうなるのかは分からない。

 あの時のゼフォウが前もっての根回しにより、一言迷惑を掛けない、近付かないと約束すればそれだけで終わっていた話だ。

 でもどうしても許せない。

 回りは諦めて、ただの思い出となったが、それだけは嫌だ。

 知って欲しい、知りたい。

 絶対に許さない――……。

 怒りで暴れたかったが、とにかく外に一度出なければ。


 そして今に至る。

「絶対許さないアイツら! バカにしやがって!」

 酷くキレるも悔しくて涙が溢れ出す。

「なんで……分かってくれないのよ……」

 その時だ。

「カワイソウ、カワイソウ、ナンテ、カワイソウナノ?」

 上の方から羽ばたく音と声がする。

 愛弓が上を向けば、1羽のカラスが舞っていた。

「ひっ⁉︎ 何? カラス?」

 本来カラスは夜活動をしない。

 稀にあるとは言うが、基本こんな所には来ない筈だ。

「キミハ、トッテモカワイソウ」

「煩い! 何なのきみの悪いカラスは」

「ソンナキミニハ、コレヲアゲルヨ」

 カラスが何かを翼から取り出す。

 赤いとても赤い数珠繋ぎのブレスレットだ。

 恐る恐る触るととても手に馴染む。

「……綺麗」

「ナンデモカナウ、イシダヨ。スキナヒトヲテニイレラレル、ナンナライマ、バカニシタナカマヲミカエスコトモデキルヨ。デモキヲツケテ、キミモノマレルカラネ」

 そう言い残しカラスは飛び立った。

「あは、あはは、コレでわたしも……!」


 少し過ぎて、理美は夜にloinで冬美也とゼフォウにある事を尋ねてみた。


 グループ幼馴染

 理美

[冬美也寝た?]

 冬美也

[いやまだだけどどうした?]

 理美

[藤原愛弓先輩の事なんだけど、耳に入って来てね。最近大人しくなったけど、本命が来たって分かってからまた煩くなったって]

 ゼフォウ

[あーこれには深い事情がござんして]

 冬美也

[誰だよお前は]

 ゼフォウ

[名前載っているでしょうが! 藤原さんがストーカーしてた]

 理美

[わお]

 冬美也

[回りにも根回しされて、空気が本当にやばかった。付き合っているだの、付き合ってないって言うと付き合って上げれば良いのにと]

 ゼフォウ

[その時にかなちゃんに話したら、全て被ってくれてさ、かなちゃん優しい]

 冬美也

[ただの相談の筈が、それとなく止めるよう言ってくれたんだ。そしたらかなちゃんが悪者になってて]

 理美

[ゼフォウは何してたの?]

 ゼフォウ

[冗談で煽る奴らを片っ端に締め上げてたし、カウンセリングしてあげた子達も手伝って来れて、生徒間では落ち着きを取り戻し、今度はかなちゃんの助け舟してた]

 冬美也

[実質裏の功労者(カタギ的な方法では無い)]

 理美

[あー納得した]

 ゼフォウ

[しないで! あまり言葉にしてないだけで相当だったんだぞ。嫌がらせもあったし]

 理美

[教頭カツラ事件]

 冬美也

[それとは違うから]

 ゼフォウ

[カツラはもうやめて、お腹いっぱい]

 冬美也

[詳しくは言えないけどさっき書いた内容だから、もう寝た方が良いんじゃないか?]

 理美

[うん、そうするおやすみ]

 冬美也

[おやすみ]

 ゼフォウ

[おやすー]


 理美は結局あっさり教えてもらっただけだったので正直消化不良だ。

 次の日の朝、それとなく桜夜達に聞いてみた。

「なんで藤浦先輩はあんなに冬美也の事好きなのかな?」

「あー昨日の夕飯で話聞こえて来たやつ?」

「そうそう」

 美空が自慢げに言う。

「私、それを知り合いの先輩に聞いたんだけど」

「出たーウチらよりも繋がりが多いの」

 桜夜に言われても笑いで返しながら聞いた話をした。

「えへへ、実はさなんか告白しても何度も折れないしフィン先輩がそれとなく止めるように促したりしてたんだけど、回りも遊び半分で付き合うよう促すしで、相当困ってて、昨日の金森先生が一対一だとアレだからって保健室の先生と一緒に止めるよう促したら、悪者になってしまい、結局その後誰かが神崎先輩の何か盗んで捨てたらしくって、大暴れしてコレはただ事では無いとなり回りも怒らせてはいけない存在として距離を置くようになったと」

「何を捨てられたんですかね?」

「さぁ? 流石に最初の矛先が藤浦先輩だったらしいけど、すぐに1つ上のクラスの男子がイタズラ半分で捨てたって分かって謝罪前に学院辞めたらしい」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 皆が固まる中、そこへ来たのは冬美也とゼフォウだ。

「いやいや、そこは嘘だから」

「ちゃんと謝罪は来たから」

 理美は冬美也とゼフォウに挨拶する。

「おはよう、冬美也、フィン」

 ゼフォウはloinでは消化不良だったのかと話しながら近くに座った。

「おはっちゃ、何昨日の話消化不良起こしてたの?」

「まぁ折れない分根性は認めてたけど、最近急に暴れ出して来たからな」

 冬美也も座る中、改めて愛弓の行動と折れぬ心には逆に感心していたが、ゼフォウは今後理美に害を起こさぬ様にと絞めれるだけ絞めておいたので多分大丈夫な筈だと言う。

「ちゃんと絞めといたから大丈夫だと思うけど?」

 理美と冬美也がお互い目を合わせ、ゼフォウを見直す。

『どんな⁉︎』

『カタギのやり方では無い方だな』

 改めて理美は冬美也に聞く。

「で、どんなストーカーを?」

「そのまんまだったんだが?」

「ならどんなイメージあんの?」

 多分、想像が追いついてないだけだこれは。

 冬美也はあまり話したくは無いと言えばそれまでだが、放置して尾びれ背びれだけ耳に入れられても困るので、とりあえず詳細部分だけを話する。

「休み時間に毎回クラスに来る」

「冬美也もやってるよね?」

 ゼフォウもその一部始終を見ていたので、話に入った。

「まだ昼休みや下校でしょ? 小休憩時間に毎回来て、下校時にも来て、部活帰りにも、下手すりゃ登校時に」

「怖っ!」

 漸く理美も理解出来た様だ。

 ついでとこの頃から回りがからかい含め、愛弓の味方になって押し出したのを伝える時の冬美也の目は遠い何処かへとくすみ、目が死んでいた。

「更に回りの女子達も断られた側も皆付き合えば全て済むって空気もやば過ぎてなぁ」

「かなちゃんが言ってくれたから場は収まったけど、女子全員を敵に回した」

 一緒に聞いていた桜夜も引いてしまっている。

「詰んどるやん」

「でも、盗み事件で冬美也の暴れっぷりには皆引いたのがきっかけで場は収まり、かなちゃんを顧問にする事で知っている女子全員は入れなくて今1番平和になった」

 なんか、金森がただ被害を被っただけな気がして来た。

「少し冷めたんかなぁって見てたんだけど、アレなのよね」

「フードコートの件で再加熱したなって感じた時の次の日に実は見た……」

「だから居たんですね愛弓藤浦は」

「あっ先生おはようございます」

「おはようございます。成る程、すぐに追い払って第一寮と職員室にも連絡したので」

 マジでと声を漏らすもまたバートンかと思うが、今回だけは礼を述べなければと思って口にするが、後悔させられてしまう。

「先生ありがとう――」

「優しくやってダメならキツく言う必要性を学びなさい。いくら言っても駄目なら警察を使うなり何なりあるでしょう。こちらも迷惑だし今後他生徒に迷惑を掛けますよ」

「……はぃ」

 でも正論である為、返事しか出来ない。

「ストーカーっぽいのに皆、良く応援してたよね?」

「回りも結構悪ふざけ入ってたからねぇ」

「話聞いていてずっとなんで応援してるんだろって不思議に思っててさ、何をしたらここまで好きになったんだろうねって」

「理美嘉村、人に親切するのはごく普通の事です。好きになる時は考えないと身を滅ぼす可能性もあるので、考えるように皆さんもこうなってしまいますので惚れたからって相手が嫌がっているのに気付かないと犯罪者になりかねないので少し回りの話を聞き入れて考えなさい」

 全員流石に良い見本がここに居る為、これ以上興味でつつくのも考えないといけないと理解した。


 その後は朝食も終えて中等部へと皆で向かう。

 勿論、自然な流れで理美の隣に冬美也が立っている。

 他愛のない会話を楽しむ2人を見ていた美空がゼフォウに話しかけた。

「フィン先輩、2人共本当に仲良いですよね?」

「前にも話してたけど、本当にいつの間にか仲良しだったのよねぇ俺、入れなーい」

 こう言っては何だろうか、彼の見る景色には自分達が映っていない。

 そう好きな人を見る目だ。

 美空はそう感じ、ついどんな人が好きなのか聞いてみた。

「フィン先輩はどんなタイプが好きなんです?」

「んっ? どんなって真っ直ぐな子がタイプ。勿論人間なんだからブレてしまうのはスパイスと一緒、入れ過ぎたらそうなるし入れなさ過ぎても人間としては面白くない。だからこそ、ブレてしまっていても良い、面白みが無くってもその真っ直ぐな目のまま見てくれるタイプかなぁ」

「奥が深いのか、分からない」

「んー俺は好きな子がこっちに向いていなくても見てる分には良いでしょ? 友達なままでも構わないし、俺は」

 そう言いながら、先へとゼフォウは進む。

 まるでもう失恋している様にも見える不思議な人として美空には映った。

 

 中等部学院に着いて早々、皆が噂する。

「ねぇ聞いた? 昨日普通に寮に居た筈の3年生3人が急に行方不明になったんだって!」

「聞いた聞いた。昨日の夜に見回りしてた時は居て、食堂に来ないから当番の先生が見に行ったらものけの殻で」

「一応警察と保護者に連絡してるんだって」

「げぇマジでぇ」

「しかもヤバいのはこんな状態でも普通に授業だってさ」

「もっと最悪じゃん!」

 一体何の話なのか分からない。

 だが、朝のホームルームですぐに分かった。

「皆さん、噂など耳にしていると思いますが、今日の朝第一寮棟で女子生徒3名が失踪、既に保護者と警察に連絡をしていますので、マスコミ等来た場合、無視とすぐにこちらに連絡を対処するのは大人であって君らでは無い。では次の授業が始まりますので」

 バートンは注意喚起後、最初の授業の為クラスを出る。

 今日から本格的な授業、その為の準備を理美が初めていると1人の男子がいきなり声を掛けて来た。

「お前、先生に気に入られてるって本当?」

「?」

 一体何の話なのか一切何も見えない。

「他の先輩にも気に入られて、お前何様なの?」

 漸く理美でも理解出来た。

 これは難癖だ。

「幼馴染だよ。……であなたは?」

 正直、名前を覚えるのが苦手な理美からすればごく普通に尋ねる。

 文句の1つは言うだろうが、これは言い返すにしても分からないまま相談も出来ない。

 桜夜も目の前で難癖つけて来て驚くも、すぐに誰か分かった。

「コイツ沢村じゃん、沢村大輝だよ。てか沢村さぁ、あの先輩らと仲良いだけで突っかかるのやめたら?」

「そうそう、あんた行きたかった男子校落ちたからってやっかみで絡むの良くないよ?」

 美空も本来人のプライバシーを踏み躙るような事はしたくないが、絡み方からして1番分かっていない理美だからこその絡み方をしていて腹が立つ。

 だからこそこちらはお前を知っていると言わしめ今後絡ませない様にしようとした。

「ふざけ――!」

 返って逆上した沢村に対して広樹が止める。

「ふざけてないで君も座るもう先生来るんだから」

「お前どっち――」

「どっちでもないし、迷惑掛けられた方の味方だよ。はい、座る」

『強い!』

 広樹の言い分が最も正しいと皆が思い、それぞれ沢村を見るも睨み返す沢村から目線を逸らす。

 同時に教科担任が入って来た。

 一体何がと言ったが何でも無いと皆が流してくれたお陰で事なき得る。

 しかし急に人が消え、今まで絡む事のなかった沢村が絡んで来て、微妙に違和感がついた。

 まるで誰かがこの展開を望んでいるように――。


 結局その日は余計な絡みも無く、淡々と授業も終わり放課後だ。

 本当にたまたまだったに違いない。

 そう思いながら、帰る準備を始める。

 まだ今日は部活勧誘期間、一通り回っている上でギリギリまで暫くは早めに帰ってしまおうそう思った。

「理美居る?」

 冬美也がやって来たのには流石に驚くも、回りから突っ込まれる。

「先輩だー」

「また来てるけど」

 少々冷ややかな声に慣れというべきか、なんだかこういう人として見ている感じだ。

 今日はどうしたのかと思っていると、あの沢村が動く。

「先輩、ちょくちょく来るけど、なんで来るの? 迷惑とか考えないんですか?」

「誰?」

 それはそうだ、冬美也からすればいきなり絡んできた意味の分からない赤の他人。

「先輩こそ一々来るとか少し自分が何やっているのか分かっているんですか?」

 これはもうウザ絡みだ。

「んー……?」

 言われている本人は頭を捻って何の話か考える。

 理美は慌ててカバンに詰め込み、冬美也を連れて行こうとした。

「冬美也行こう!」

「ちょっと待て……確かにやってる事、藤浦と一緒だしなぁ。今度からloinで事前に伝えるべきだったなごめん」

 まさかの素直に謝罪され、そのまま理美と共に出て行くのを見て、言った本人が1番バツが悪い。

 不意に沢村は回りを見ても、そう言えば朝言ってたのだの、バートンが軽めに絞めてたから学習するだの、沢村は一体何がしたいのだのと態度に対して皆それぞれ口にしていた。

 何故そんなに苛立つのか、そもそも関わらなければ良い話な筈だ。

 ただどうしても気に入らなかった――……。


 人気の無い廊下まで来た時、理美は言う。

「冬美也、あのさ、別に私気にしてな」

 全部言う前に冬美也が改めて謝罪した。

「オレが気にする。理美と会えて浮かれてたからそこまで気が回らなかったごめん」

 きっとあの話を聞き、自分も愛弓と変わらない事をしていたと気付いたのだろう。

 でも理美はそんな気にしていない。

「いや、別に私は驚かされたけど、嬉しかったよ」

 やはり気心知れた仲と言うべきか、迎えに来てくれたのだけでも嬉しかった。

 それに小休憩時間までは来ない。

 後言ってしまうと流石に回りも慣れて来た感じで、そこまで気にも止めてなかった。

「……なら良いけど、でも今度からはloinかゼフォウに頼むから」

 やはりちゃんと反省してからはきちんとしなくてはと言った感じだ。

 ただやっぱりゼフォウが巻き込む形なのは些か申し訳ない。

 理美も理解した上で、先程絡んで来たこの名を言う。

「うん分かった。でも沢村君って子、急に絡んで来たから正直よく分からないんだ」

「ん? ならなんで?」

「朝、ウチの先生とか? 冬美也達の事で絡んで来た」

「はっ……寧ろオレがバートンに絡まれてるんですが?」

 この流れで理美に話してしまおう、そう思っていた時背後から聞き覚えのある嫌な声がした。

「何がです?」

「うわぁぁぁぁ! 居たのかよ!」

 凄い驚き過ぎではと軽くバートンが口で叩きながら冬美也に言う。

「あなたこそ、こんな所で何しているんですか? まだ勧誘期間ですけども?」

 まあ顧問として叩くに決まっている。

 冬美也からすれば居て欲しく無い時に来た邪魔な存在に小言を言えば、逆に言われただけでなく、理美が言おうとしていた内容をバートンが聞くのだ。

「どうしてここに来るんだよ、オレにだって……」

「別に良いでしょう? 見回りがてら勉強同好会へ向かう所だったので、また不埒な事でも考えて連れ回して……で、先程何の話を? 大輝沢村に絡まれたと言ってましたが?」

 さっさと話せば大事にはならないだろうが、この時はいきなり言われてしまい、なんて返せば良いか分からず理美は言う。

「いや、大した事じゃ、ないです」

「……一応他の生徒にも聞いてみますが、勝手に抱え込んでこちらの対処出来ない所まで行かないでくださいね」

「は、はい」

 想像以上に気に掛けてくれて返って驚く理美だった。

 こんな風に先生がそうしてくれるとは思っていなかったからだ。

「では、部長なんですから油売ってないで早く来なさい」

「うっーす」

 バートンに言われ、不貞腐れながらも返事をする冬美也に呆れるバートンだったが、まあいいやと態度でそのまま離れて行った。

 良しと冬美也が思う中で、いきなり振り向き冬美也に睨みを聞かせながらバートンは言う。

「不埒な事をするなよ」

 そうしてそのまま同好会の部室へと向かって行った。

 漸くバートンが見えなくなるものの場が白けてしまい、面倒になった冬美也は理美に今日はこちらに来るかと誘うつもりで向かおうとした時、理美がカバンを漁っている。

「んじゃ向かうか……ってどうした理美?」

「い、いやさっき慌てて来たから筆記用具忘れたっぽい」

 どうやらあの時慌てて物を仕舞ったせいで、1番大事な物を忘れてしまったようだ。

「ごめん、オレのせいで!」

 改めて謝罪するも、自分の落ち度だとして取りに戻る事にした。

「違うよ、冬美也は関係ない私が忘れただけだからちょっと取りに戻るから、先に行ってて」

 そうして理美1人で筆記用具を取りに戻る。

 なんとなく先程の件で一緒に行くのが気が引ける冬美也だったが、やっぱり心配でついて行く事にした。

 その時だ。

「神崎君、何1人で居るの?」

 愛弓が立っている。

 今1人なのかと辺りを見渡すが、本当に誰も居ない。

 薄気味悪さを感じるが、いつもの事、すぐに断る中、愛弓が急に手を伸ばして来た。

「藤浦さん? 悪いけどオレ――」

「私と付き合って下さい」

 腕を掴まれる瞬間、またしてもあの声がする。

「駄目だ! そいつに触れられたら戻って来れなくなるぞ!」

 慌てて一歩引き下がって冬美也は言った。

「オレは好きな人が居るからこれ以上迷惑掛けるなら本気で許さない、帰ってくれ!」

 そうして急いで走り出す。

 何となく走っていて分かる。

 いつも声を掛けてくるあの時の愛弓の雰囲気からかけ離れているのだ。

『なんだ、何だったんだ今の? 凄く、冷や汗が止まらねぇ……!』

 今あの声に助けてもらえなかったら、多分何になっていたか分からない。

 とにかく一度理美か誰かに会いたいと願い走り続けた。


 一方理美は自身のクラスに戻り、机の中から筆記用具を探す。

「……良かったあった」

 理美は自分の筆記用具を見つけ一安心する中、ある事に気付く。

「誰も居ない?」

 先程の時間からそこまで経っていない筈だ。

 窓が開いているのか、カーテンが舞う。

「カワイソウ、ミナニオシエテモラエナクテカワイソウ」

 声、いやこの違和感ある声は人間では無い。

「カラス……じゃない?」

 アースが凄い警戒するのに気付き引き下がるも、カラスは話し続ける。

「理美、ソイツから今すぐ離れて!」

「アラァ、ワカッチャッタ? デモ、キミラハ、ナンデカクスノ? カンリシャハ、ミナテヲヨゴス、シンデモマタモドル、エイエンノクリカエシ、レンアイダッテイミガナイ、ヒトリボッチニナルノニ?」

「何の意味を?」

 言っている意味が分からない。

 管理者は何を汚し死んでもまた戻るとはどう言う意味なのだ。

 カラスは話し続けた。

「ヒトリボッチニナルンダヨ? アノコロミタイニミナニワスレラレテ――」

「嘘を吐くな」

 誰かの声と共に突風が吹き荒れ、見えなくなる。

 気が付けば、誰も居ない教室ではあるが人の気配があった。

 冬美也が息切れしながら入って来て、安心すると共に、何故か汗をかいているのに気付く。

「理美! 良かった会えたぁ」

「冬美也どうしたの、汗かいて?」

「い、いやなんか軽い恐怖体験した……理美もどうした、なんか顔色悪いぞ?」

 先程の事を今話しても良い気がするものの、コレは一度アースと話し合いたいと思い黙っておく事にした。

「ううん、何でもない、そうだ冬美也、今日も言って良い勉強同好会?」

「んっ? 良いぞ一緒に行こう」

 お互いこの事を話さず行ってしまったが、気持ち悪い体験をすぐに話せるなんて簡単に出来ない。

 その外にはバートンがカラスの首をへし折る勢いで掴むも話すカラス。

「アーアー、オハナシジャマスルナンテ、シツレイナヤツダネ。イシハコロガリスナトナルノニネ」

「……本当に喋るカラスだ」

 一気に握り潰し、いつの間にか手から消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ