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リミックスⅠ  作者: E..
11/12

1本勝負

 先に攻めようとしたのは冬美也だが、一瞬何かの声が頭に木霊する。

「だめだ、攻めるな。上に構えろ」

 意味が分からない。

 でも、しないと行けない気がした。

 気が付けば、バートンが目の前にいて、既に竹刀を下ろす直前だ。

 その言葉通りに上に構えたお陰で、何とか耐えられるが、あちらは本気の様で動かす事が出来ない。

「私がこの勝負に勝ったら、理美を諦めて帰れ冬美也•F•神崎」

「はっ、だからどうして理美が出て来るんだ……!」

「お前は彼女を知らな過ぎる」

「これから、知っていきたんだ!」

 そう言いながら冬美也は押し返す。

 一旦離れるも、明らかに次の行動が読まれている。

 次、下手すれば負ける、そんな時だ。

 またあの声が――。

「1歩下がれ」

 言われるがまま1歩下がると、目の前に竹刀が振られ、危うく当たるところだった。

 まぐれにしては動きがしっかりしている。

 バートンはならばと声を出し、畳み掛けた。

 それを見ていた理美達も冬美也が未だ試合を続くのには驚くも、かなり追い込まれているのが傍からでも分かる。

「冬美也、試合場から出ちゃうんじゃ……」

 逃げているだけでなく、一応入れようと入ろうとするも、バートンの方が完璧にうわ手。

 受け流しては1歩先に進むバートンを初心者の冬美也には無理だ。

 ゼフォウは見ながら言う。

「線から出たら確か反則だな」

「先生も容赦なく攻め込むよね」

 他の生徒達もバートンの圧倒的な強さに誰もが息を呑む。

 他部活の生徒も先生も噂を聞き付け見に来てしまう。

 応援する者、賭けをする者、なんならSNS映え目的で撮影までする者まで出た。

 ふとある先生が言う。

「バートン先生の構えは剣道じゃなく、剣術しかもこれは紛れもなく西洋寄りだ」

 止めなくても良いのかと言えば、実際勝負をしようと提案したのはバートンからで、冬美也も不満があったからこその試合、誰も止めれないし止める気も無い。

 ただ剣道と言うもの、永遠にさせる事はなく時間制限もある。

 周りが盛り上がっているなんて冬美也は気付いていない。

 それよりもどう1本取れば良いのか、本当に出来るのかと自身でも疑い始めていた。

『くっそ! 入れようと近づこうといてもあっちは何処で入れるか分かっていて、押されっぱなしで身動きも……』

 また声に頼るのも正直嫌だ。

 でも明らかに経験不足と力の差が目に見えて分かる。

 バートンが言う。

「終わりだ」

 その瞬間構えが変わる。

 本当に殺す為の構えに見えた。

 耐えられても竹刀が飛ぶ。

 反則は2回まで1回は許されるだろうが、きっと防ぐ前にバートンの動きが速く、仕留めるだろう。

『無理だ……』

 やはり無謀だった。

 その時、理美が何言っているのか聞こえてくる。

「冬美也ー! 右! 右行って!」

 言葉通り進もうにもバートンがそれすら阻止しようと動く。

 同時にまたあの声が響く。

「そのまま右に振れ!」

「なんで全員右なんだ!」

 文句を言いながら振り落とす。

 バートンも流石に驚く顔となる。

 構えの影響か、なんと小手が入ったのだ。

「勝者神崎」

 皆が歓声を上げ、つい冬美也も興奮してガッツポーズを取ってしまう。

 本来ここで終わりそうだが、今やっていたのは剣道だ。

「神崎、悪いガッツポーズは反則負けだから勝者、バートン」

 礼を終わらずしてのガッツポーズは違反だ。

 それどころかそのせいで、相手の気もブレてしまう。

 だからこその処置なのだが、あくまで個人達の問題もあって、そこを取り入れるべきだろうかと考える。

 そんなのは知らない周りは一斉にブーイング。

 詳細を知らなかったからだの、剣道部じゃないんだからだの皆が審判した先生に文句を言う中、冬美也は固まったまま動かない。

 ただ冬美也の身内が冷淡で冷静だ。

「あちゃー知らなかったかジャパニーズ剣道を」

 桜夜は結構有名な違反ガッツポーズを知らないとはと天才もそこまで知識を入れていなかったのかと思う。

 ジュリアも知っていたのか漫画にあった話をする。

「漫画とかでよくネタにされてるアレですよねガッツポーズで殺人事件が起きた」

 それを聞いた美空が突っ込んだ。

「大雑把過ぎて超ホラー展開になってるよージュリア」

「ミステリー漫画面白いです」

 ジュリアの輝かしい瞳に美空も桜夜もいやいやと突っ込む中、理美は何となくあの漫画だなと思って思い出す。

『あれ、まだ続くのは私でも驚いたなぁ……別の漫画だとパパなってたけど』

 本来なら迎えに行きたいが、一応剣道と言う試合という事で、礼が終わってから迎えに行くことにした。


 審判役の先生も周りのブーイングに対して、ちゃんと剣道のルールでって言ったし、同意を得ていると言ってはいるが、冬美也の様子で同意取れてないだろと言われていて少々可哀想だったが、最後はちゃんと挨拶をして試合場から2人は出る。

 それと共に先生がバートンの手を見たいと言う。

「バートン先生、手を見せてもらって良いですか? 先生防具着けて無かったせいで腫れていたら流石に……」

 あまり人に触られたくなさそうなバートンの顔だが、防具を着けていなかった自分にも非がある為渋々見せる。

「大丈夫です、そこまで痛くありませんでしたし」

「それで、も? あれ、何処も腫れていない?」

 本当に何処も赤くもなっていない綺麗なままだ。

 すぐに手を戻し、バートンも流石にそれに関しては言うものがあった。

「しかし、剣道のルールは一応伝えた方が良いですよ。私でもやりそうになります」

 先生も笑うも、内心バートンがガッツポーズを取るなんてするのだろうかと考える。

「あはは、そうなんです?」

『先生絶対やらなそうなのに?』

 その間にも冬美也は借りた防具を剣道部の子達に脱がして貰いながら申し訳なさそうに謝っている中、理美とゼフォウがやって来た。

「冬美也、大丈夫?」

「大丈夫……じゃない」

 冬美也が一気に落ち込んでしまう。

 ゼフォウも慰めにはならないが、同調する。

「だよねーガッツポーズダメなの俺も初めて知りましたわ」

 冬美也も剣道にそんなルールがあるなんてと思いもよらず、そもそもやる事もないと無いと思っていた分、こんな形でやる羽目になったのだから、やらなくても本位目を通すべきだったと後悔した。

「ちくしょう、こうなるなら一応目には通しておくべきだった」

 防具脱ぎ終え、剣道部の子達に返す中、理美は冬美也に言う。

「でもカッコよかったよ」

「負けたのに?」

「うん、それに聞こえてたんだね、こんなに防具着込んでたから聞こえてないと思った」

「オレもあの状況で聞こえてなかったんだけど、た、たまたま聞こえたんだ。それで無我夢中で、でも――」

 あの時、理美の声よりも頭の中で確かに声がした。

 その声の通りにした時、本当に無事だったし理美が右に行けと言った時行きはしたが、結局仕留める時はあの声に従っての事だ。

 言うべきかと思った時にバートンがやって来た。

「試合には勝ちましたので、顧問は私で良いですね」

「あー……はい」

 結局冬美也の違反によって、バートンが試合で勝ったと言う事で顧問はバートンとなった。

 バートンは冬美也の耳元であの話をする。

「それと、今回の勝負はあなたの勝ちと言う事にしておきます」

 流石にどういう事かと聞こうとしたが、もう金森の元に行って、話したかと思えばバートンではなく、金森が皆を呼ぶ。

「はーい、今日は色々あったんですが、皆戻りますよー」

 結局部室に戻り、やる予定だったナゾナゾの続きとなった。


 帰り道、冬美也は納得行かない顔のままだ。

 ゼフォウがどうしてそんな顔のままなのかを問う。

「何浮かない顔して? バートンに負けた事? 理美ちゃんに慰められた事?」

 最初何を言えばと考えるもどう考えても答えがこれしかない。

「……全部」

「全部かい、今日は一緒に帰ろうとして、結局こっちの片付けとかが時間掛かるからって返しちゃったしねぇ」

 本来なら一緒に帰ろうと考えていたが、あの時の騒動と言うべき勝負事で片付けが遅れてしまい、手伝うと理美達が言ってくれたが、流石に申し訳なかったので帰し、今は男2人だ。

「……」

 未だに納得がいっていない冬美也を見てゼフォウはわざと揶揄うも、あまり乗って来ないのにつまらなさを感じたのか、意味の分からない事を言ってみた。

「理美ちゃんと帰れなかったからって」

「違う、その……」

「告っちゃやぁよ! 俺には心に決めた人が」

 流石に冬美也も意味の分からない言葉に怒りを覚えつつ、ゼフォウを絞めながらもバートンに言われた言葉を話す。

「お前本気で絞めるぞ。あの時の勝負の時の話だよ。理美が居たらここじゃ話せない」

「へ? 何か話してたのかあの状況で?」

「バートンが勝ったら理美を諦めろって」

「勝ったけど負けたよな?」

 またガッツポーズを思い出して、渋い顔になる冬美也だったが、その後の事も教える。

「だから、今回は試合に勝ったが勝負で負けたって事でその話は流れたけども」

「また何かある毎に言われそう」

「だなぁ……」

 そう思いながら、ゼフォウから離れ、またあの声の主は誰だったのか考え、教えるべきか否か悩めばすぐにバレてしまった。

「おっまえ、まだ隠してるな? 分かりやす過ぎる」

「か、考えてただけだ」

「ならどんな? 言ってみ?」

 追及されるももうはぐらかすしかない。

「そ、それは……い、色々だ。帰ったら飯食おう」

「はいはい、そこまで念入りには入らないから俺、大丈夫だって」

 ゼフォウもあまりこれ以上追及すれば冬美也が逆上しかねないまで把握したのだろう。

 笑って諦めてくれたようだ。

 ただ今話せば良かったのかと、冬美也がまた悩みを増やしてしまった。


 冬美也が帰ってすぐ理美に夕飯に会えるかと連絡を入れれば、まさかのもう食べてしまったと言う返事が来て絶望する。

「――なんで?」

 そして何故かゼフォウを見る冬美也に対して突っ込んだ。

「俺に聞くなし……あっそりゃさっさと食わないとダメだな」

「なんで?」

 もうそれしか言わない冬美也をよそにゼフォウが今の時間帯を見て憶測をたてる。

「お前、部活見学終わった連中の他に部活終わった先輩達とごった煮なるじゃん。多分美空ちゃん辺りが促したんじゃね知らんけど」

「知らんのかい、それなら理美が言ったんじゃないのか? たまに野生の勘と言うか時間帯に意外と正確に分かるんだ。多分今行くと混んでるから風呂入るか?」

「そーねーアレ貼っとく?」

「あぁ、これだけで本当見えないのってすげぇな撥水性付いてるし」

 冬美也とゼフォウには、背中の右肩甲骨付近に明らかに人為的に付けられたバーコードがある。

 消す為の処置はしたのだが、タトゥーなら除去手術かレーザーで処置が可能だ。

 だが、消させない為の何らかの処置がされていたのか、レーザーでは消し切れず、除去手術は体力もいる事からもう少し育ってからと先送りになる代わりに湿布の様な同じ皮膚色のシールを貼ることで大浴場に入れる様になった。

 ただし、四六時中貼っていればいずれ被れるので、大衆の場だけだ。

「オレはともかく、ゼフォウもまだ消して無いって……」

 あそこなら万が一対策でタトゥー除去手術かあえてタトゥーを上書きのようにやっていそうだが、ゼフォウの他にも居たザムが代表で先に除去手術したらしい。

「んっ? 代表でザムがやったんだよ、一応皆の中で最年長だからって」

「確かにザムだけ年上だもんなオレらの中で」

「で、レーザーを数回分けても消し切れないから除去手術したんだけど、麻酔や痛み止めが切れる度に痛さで苦しむザム見て、消すのは18歳からになりますた」

 想像するだけでもう容易に痛さが伝わる。

「流石にオレでも同情する」

 

 シールを貼り、そろそろ大浴場へと行く中、改めて冬美也はゼフォウに言う。

「でも良くコレ手に入ったよな」

「んまーシャワーだけで済ませれるけど、風呂は入りたいし、それに何処で見られるか分からないしで、おっさん、ボスが何処からか貰って来たんだよ」

 多分セェロだろう、連れ去られ救出したのがギバドロス一家だ。

「皮膚科経由で親父貰ってきたぞ? 届くまでに無くなったら普通の湿布で誤魔化してくれって言われたけどもな」

「へぇ俺は取りに来いって言われた」

「何処まで行く気だ」

 大浴場へと入る。

 丁度人が居ない。

 ゼフォウもこれは珍しいと感じ、冬美也は早く入ってしまおうと判断した。

「珍し、誰も居ないね」

「なら早く体洗って入ってしまおう」

 今ならさっさと体を洗ってしまえば湯船に入る頃には皆が来ても上がればあまり気にはならないだろう。

 頭も体も洗って、後流すだけと言う時に人が入って来た。

 まぁこの時間だし運良く誰も居なかっただけ、来ても仕方がない。

 早く流して湯船に入ってしまおうと思った時、隣に座って来たので、何気に見て冬美也の眉間に皺が寄る。

「げっ」

「おや、珍しい」

 隣に座ったのはなんとバートンだ。

 しかもなんともわざとらしい感じに言われ、キレそうな冬美也だったが、他にも何人か入って来た為、睨みを利かせながらも聞く。

「バートン先生ってこの時間入るんですね」

「大抵は最後ですが、流石に汗が纏わりついて嫌なので今回は早目です」

 バートンは言いながら軽くお湯を掛け、頭と体を洗い出す。

 軽くあっそと言って、冬美也は全て洗い流し、そのまま湯船へと入る。

 ゼフォウも冬美也の態度には苦笑いだが、こちらも例の忠告を受けた身、一緒にはいたくはない。

 冬美也と同じくさっさと流して湯船に浸かった。

 他の生徒達もバートンに気付き、驚いてしまう。

 やはりこの時間に教師が入っているのは不思議な方だろうなと考えながら、バートンと入る気は無いともう上がろうかと考えていると、意外とバートンは洗うのが早いのか、もう洗い流して終わってしまい、こちらに向かってきた。

 同時に大浴場に居る生徒と共に全員驚く。

 バートンの肉体が鍛え抜かれた筋肉だ。

 警戒心が強った冬美也ですら感想が出る。

「お、おう、凄い筋肉美……!」

「それはありがとうございます」

 洗い流した長い髪を頭の方に束ねながらバートンは湯船に入った。

「あのーなんで隣に?」

「金森先生もこのまま継続で副顧問なので、それとなんでフィンは向こうを向いたまま何ですか?」

「こっち振らないで!」

 何となくゼフォウの反応には同情するもきっと言えば怒りそうなので冬美也は言わないでおく。

 そう、こう見えて冬美也はなんとか鍛えた筋肉もしっかりしたものだ。

 だが、ゼフォウはそこまで鍛えてもあまり筋肉が出てこないタイプ、これは可哀想な位で口にはしないであげていたが、かなりの筋肉を見せられたらそうなるだろう。

 金森が間に入ればとりあえず良いだろうと考えもう上がろうとした時だ。

「……なら良いけど、もう上がるフィンは――?」

「それと、あの程度ではどっちがお守りか分かりませんよ」

 結局煽られて、キレそうになった冬美也をゼフォウが止めた。

「あ゙っ?」

「もう上がりましょうねぇ!」

 本当にバートンは何者なんだと言いたいのとあの声は一体なんだったのか未だに分からないまま1日が終わる――。

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