ジョセフ・テーラー
本日もよろしくお願いします
私はテーラー伯爵の嫡男として産まれた。
テーラー家は代々王宮の金庫番の役目を担っている。
現テーラー伯爵である父は騎士団の金庫番に配属されていた。
私は幼い頃から仕事をする父に連れられ騎士団に行っていた、父にしてみれば自分の仕事はこういう物だと見せたかったのだろうが、私が興味を持ったのは騎士の方だった。
皆かっこ良くて私もみんなを守れる騎士になりたいと思った。
学園に入った時、思い切って父に相談した。
騎士科に行きたかったからだが、父には騎士団での鍛錬は構わないが、学園では文科に進めと言われた。
納得はいかなかったが鍛錬をしていいのであれば、いつかは騎士にもなれるのではないか、早々に文官は無理だと言うことをわかってもらえるのもいいかもしれないと言うことを聞いた。
ある時、婿養子に行った叔父の息子が文官で採用されたのだが、父の部署に配属されたらしい。
私の3つ上の従兄は試験に落ちて母親の縁からの縁故採用で就職したそうだ。
「使えない」
そう父はよく家で愚痴を言っていた。
それからは無理に文官に拘らなくなったように思う。
出来の悪い従兄様々だった。
学園の2年になって騎士科に移動することにも文句は言わなかった。
私は思う存分剣が振れて嬉しかった。
学園の授業の後、騎士団に父の着替えを届けてほしいと母に頼まれた私は父の部署へと訪い運命の人に出会った。
彼女は顔が特別綺麗な人というわけではなかったが凛としていた。
その仕事をする姿がかっこ良くて私は憧れた。
二つ上の彼女に紹介してほしくて父に頼んたが一ヶ月後に結婚が決まってるから、《《そういう意味》》での紹介は無理だと言われた。
なんてことだ出会うのが遅すぎた。
悔しかったがそれでも諦めきれなくて影からよく彼女を眺めていた。
彼女の夫の事を私は知っていた。
話した事はなかったが悪い噂などなく実直な青年だと真面目にコツコツ手柄を積み上げ、先日騎士爵を賜ったと聞いた。
悔しかった。
年齢が私より上だったから彼女と結婚できるのだ。
私はなぜもっと早く産まれなかったのだろう。
おまけに彼女は結婚して仕事を辞めてしまったので影から見る事も出来なくなってしまった。
仕事をしている彼女は輝いていたのに何故あの夫は辞めさせたんだ!
憤る気持ちを抑えるのに必死だった。
卒業して騎士団に入団して半年後に隣国との戦に私も出征する事になったが、辺境では王都から来た騎士団は戦っている隣国とは違う隣国の砦を守ることに従事せよと言われた。
そして私はそこの雑用になった。
何故なら今年入団したばかりだったからだ。
だがここで私は彼女の夫の不貞を見た。
不貞じゃないと本人は言っていたが、相手の女は絶対に狙ってる。
気付かないほうがおかしいんだ。
その女がいるんだから彼女は解放してほしかった。
だから私は雑用係をいいことに、夫婦の手紙を捨てる事にした。
そして従兄にあくまでも噂としてあの女の存在を態と流した。
従兄と彼女は同じ部署で働いていたのだから何時かは接点があるかもしれない。
偶然でも必然でもその時のために従兄への手紙に書いた。
何がどうなったかは知らないがあの女の態度が段々とあからさまになってきて、彼女の夫であるドーバリー卿は日に日に疲弊している様だった。
そしてある日、私の父が辺境にやってきた。
どうもドーバリー卿に呼ばれたようだ。私にも序に声をかけてくれた「励めよ」と言われたが私がしているのは雑用だから励んでも大した意味はない。
父にはそれが解らないのだろう、だって父は騎士ではないのだから。
それから2ヶ月後、凄い顔をした父が再び辺境に訪れた。
長い間、ドーバリー卿の部屋で籠っていたが出て来たときに私は呼ばれた。
あの女も呼ばれていたらしい。
「ジョセフ、お前はこの人から手紙を預かったか?」
父に聞かれた、少しドキッとしたがあの女は私に媚びるような目でウルウルしてるが気持悪い。
「いえ預かった覚えはありません」
「本当か?」
「はい一度もありませんが⋯」
「私からもいいかな?」
ドーバリー卿が私に問いかける。
「こちらに来てから、3ヶ月過ぎた頃から妻からの手紙が一通も届いていないのだが、来ていないのだろうか?」
「はい、奥様からの手紙は届いておりません」
「嘘をつくな!!」
ドーバリー卿と話していたのに父が割り込んできた、これは不味い。何かバレているのだろうか。
「私はマリナに会ってきた、彼女は間違いなく手紙を送っている。記録も見せてもらった」
「記録?」
「あぁ郵便を送る場合、記録が残るんだ誰が誰に送ったかわかるようにな。特に彼女の場合は辺境の戦地に向けて送るから慎重に取り扱われている。届いた記録もそうだ。間違いなく此方にも届いている。それなのに届いた記録があるのにドーバリー卿に一つも渡っていない。聞いたら郵便を各自に配るのはお前の役目だそうじゃないか、何故渡していないんだ!お前が卿から預かった手紙も出していないだろう!!」
父のものすごい形相に足が震えた。
騎士でもない文官の父の本気の怒りを私は初めて見た。
「そっそれは何かの間違いでは「そんなわけがあるか!!!」
私が恍けるのを遮り父が被せてくる。
そのまま私は辺境伯家の牢に入れられる事になった。
手紙を渡さなかったくらいで牢に入れられるとは思わなかった。
私の騎士生命も終わりそうだ。
彼女はどうなるのかな
私が迎えに行くことはないのか⋯⋯。
仲を引き裂いて私が彼女と再婚するはずだったのに。