カイル・ドーバリー②
結婚は案の定マリナの両親、特に父親に反対された。
それでもマリナは俺に付いて来ると言ってくれた。
結婚式は同僚と伯父と母を招待した。
マリナの方は姉の家族を招待したみたいだが当日事故があり来れなかった。
寂しそうな彼女を俺はこれから全力で守ると心に誓った。
俺とマリナの仲介をしてくれたテーラー伯爵に仕事の事を結婚前に相談を受けた。
偶然だったが同じ部署にいた元騎士のスイットさんが、騎士団長の家に雇われる事になり俺達の結婚と同じ頃に騎士団を辞めるという。
それからテーラー伯爵も移動になると決まった。
今まで部署内の人間関係をやんわりと調えてくれていたスイットさんも居なくなるし、テーラー伯爵の後任があまり評判のいい人ではないらしい、特に女性関係が。
マリナを守れる者が居なくなるから部署を移動させたいが、今空いてる部署がないそうだ。
どうするか聞かれたので、俺はマリナに辞めてもらう事にした。
自分で話そうと思っていたが、テーラー伯爵が丁度いい理由があるから自分で話すと言ったのでお任せした。
結婚生活は毎日が天国のようだった。
マリナは仕事を辞めたことで、家ではいつも暇を持て余してそうだったので、好きなことをしていいと言ったら何かしていたようだが俺には教えてもらえなかった。
だが幸せな日々は半年で俺が辺境に出征する事になり終わってしまった。
王都を出る時はまさかあんな事になるなんて夢にも思っていなかった。
辺境に派遣された俺は最前線ではなく砦の方に配置された。
俺がというよりも王都から派遣された騎士団は戦っている隣国ではなく、もう一つ隣接している国の方が此方に攻め入らない様にする為に守る任務が優先だった。
そこで俺は幼馴染に再会した。
子供の頃、近所に住んでいたレイラだった。
彼女の父親も騎士だったが、俺達が7歳の頃、辺境騎士団に入団するために王都を離れて、それ以来の再会だった。
彼女は妊娠7ヶ月と言っていた、恋人は俺のよく知る人物だった。
学園の騎士科で同級だったミケルだ。
レイラとミケルは前線の近くに住んでいたそうだ。結婚前の妊娠で父親に勘当されてレイラはミケルと住むことになったと聞いた。
だがレイラの件で彼女の父に睨まれたミケルは最前線で戦う事になったそうで、避難するために移動するようにレイラに言ったそうだ。
王都からの応援に俺が居るはずだとレイラはミケルから手紙を預かっていた。
それを読むと自分に何かあったらレイラと腹の子を頼むと書かれていた。
俺が結婚した事をミケルは知らないのだろう。
俺はミケルに命を救われた事がある、学生の時に絡まれた貴族の令息とのイザコザに俺が巻き込まれた時、身分も省みず行動を起こしてくれて俺を救ってくれたのがミケルだ。
そのせいで彼は王都の騎士団に入れなくて辺境に行ったのだ。
あの時、ミケルが居なかったら俺は騎士にはなれていなかった、もしかしたら不敬罪で処罰されていたかもしれない。
不敬罪の処罰には処刑も含まれている。
助けられた俺だけが王都の騎士団に入れた事も後ろめたくもあった。
彼は気にするなと言ってくれたが。
だからもしミケルに何かあったら何時か恩返しをしなければと俺は思っていた。
思っていたが⋯。
俺は苦悩したレイラは幼馴染だが本当に何とも思わない相手だった。
よく妹のようにとか幼馴染を表現する者もいるが、そんな事も思ったことはない。
強いて言うなら幼馴染という表現よりも子供の頃の知り合いと言うのがベストな言い方かもしれない。
冷たいかもしれないがミケルの手紙がなければ頼ってきても放って置いただろう。
だがミケルの手紙が俺を縛る。
レイラは俺に再会したあとはミケルの無事よりも俺に媚を売る事に専念しているように思えた。
相手にはしなかったがミケルの手紙があるから、騎士団の駐屯地の近くに部屋を借りてやり、金も少しだけ渡した。
その俺の様子でレイラを愛人だと言う者も出始めて俺は焦った、全力で否定したが何処まで皆が信じたかはわからない。
レイラは断っても毎日寮に来る。
妊婦を無碍には出来ないが、何度も断ったり居留守を使ったりしたが居留守を使った時などは勝手に部屋に入って来て追い出すのに苦労した。
ミケルの手紙さえなければと何度思ったかわからない。
書きたくなかったが人から聞いて誤解されたくなかったのでマリナに手紙を書いたけど返事は来なかった。
怒っているのだろうと推測した、直ぐにでも帰って説明したかったが、勝手に帰宅するのは違反になり処罰の対象になる。
爵位を返上しなければならなくなったら俺だけではなくマリナにもお咎めが行くかもしれない。
そう思って帰るのは諦めた。
何時か休暇をもらったら会いに帰ると手紙に書いたがそれにも返事はなかった。
そんなある日、レイラが相変わらず寮に来た時に廊下で俺の腕に絡みついてきた。
咄嗟に止めてくれ!という言葉と共に振り払ったら運悪く階段の側だった。
落ちそうなレイラを庇って階段を転げ落ちた俺は骨折した。
自分のせいだからと病院で妊婦にも関わらず甲斐甲斐しく世話をするレイラを見てまたもや皆が誤解するのが手に取るように解った。
だがベッドから起きられない俺にはどうすることもできなかった。
マリナに手紙を書くことしか出来なかったがマリナは病院に来る事はなかった。
俺はその頃からマリナに嫌われてしまったと思っていた。
俺が見初めて見合いをセッティングしてもらったが、マリナは俺との結婚はしたくなかったのではないか?
上司に薦められて仕方なく結婚したのではないか?
あの幸せな日々をマリナは無理して過ごしていたのではないか?
だったら⋯解放して上げたほうがいいんじゃないだろうか?
そう思うようになった。