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【2024夏のホラー】レンタカーの女  作者: 緑のノート
盗難レンタカー
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盗難レンタカー 前

初めてのホラーです。

全3話予定です。

「連休の空車探してるんだけど。お、……空いてるね。……6***か」

「6***って、あの?今どこ在庫?」

「S店だね」

「ないよりはましか?こっちに寄せる?で、……あれ(・・)ってマジなん?」

「マジらしい。掃除大変だったって」

「マジなんかぁ……。俺等の店舗に当たらなくてよかったよな」

「それな」



 ✕✕県S警察署へ、レンタカー盗難の通報がなされたのは、正月も過ぎた二月のことだった。

 通報元はレンタカー会社のS支店。

 警察には貸出時に登録された契約情報の他に、個人情報の二重確認資料として、健康保険証のコピーが提出されている。資料によると借り主は須加(すが)将真(しょうま)。契約時に登録された免許証情報を見るに、今年で二十五歳になる男である。住所はS市内となっていた。

 もう一人、同乗運転者として坂井という男が登録されている。歳は三十二。こちらは隣県の住所が登録されている。

 店舗担当者の話によると、須加と坂井が最初に店を訪れたのは十月の三連休のことだった。最初の貸出期間は三連休の三日間。観光目的ということだった。店舗側は予約がない飛び込み客であるために貸すか迷ったものの、結局店長のゴーサインで貸し出すことにした。

 須加達は連休の三日目はちゃんと返却しに帰ってきた。そして、精算した時に尋ねてきた。


「この車をマンスリーで借りられますか」


 精算にあたっていた店長は即諾。車内清掃もしなくていいと言われ、須加と坂井は一ヶ月分の料金を支払ってから再び出発した。

 一ヶ月後の十一月中旬に、須加から電話で連絡が来た。もう一ヶ月延長したいという。電話を受けた店員は車の貸し出し期間を十二月中旬まで延長した。

 しかし、十二月中旬。返却予定日になっても須加は帰ってこなかった。電話しても呼び出し音だけで繋がらない。

 乗り逃げされた。

 店長はすぐさま本社へ連絡。一ヶ月後になっても連絡がつかなければ警察に届け出るよう指示されたそうだ。




「それで今頃警察に届け出たんですね。でも、ろくな観光地もないS市(こんなとこ)で、観光のために車借りるなんて普通おかしいでしょ。なんで貸しちゃったんでしょう?」


 土地柄、住民の多くは生活の足として車を持っている。実際、被害に遭った支店の売り上げのほとんどは事故や修理の際に貸し出す代車か、他府県からのビジネス客のものだそうだ。


「三連休で観光客が皆無でなかったのと、ちょっと上のランクの車を貸せたから、売り上げがおいしかったんだと。どうも店長、十月の売上目標に届きそうにないってんで困ってたらしい」


 なるほど、と助手席で部下の小出(こいで)が頷いている。でも欲を出して車盗られたら世話ないですね、という言葉に内心頷きながら、三田(みた)はハンドルを握っていた。二人は須加の住所として登録されていた、S市郊外へ向かっている。S市は中心部は多少ひらけているが、一度町を出ると、家よりも山や畑が目立ち始める。

 二人が通っているのも、山間(やまあい)に畑が広がる中に伸びる、広めの畦道のような道で、やがて山道に切り替わり、それから突如視界が開けた。

 整然とした町割に、建売の画一的な住宅。

 目的のニュータウンに着いたのだ。


「ここからなら駐在所の方が近いんじゃないですか?」

「ああ、それな。須加の奴、近隣の市でひったくりしてた疑いもある関係で、S警察から人を送る流れになってる。てか資料読んどけ」

「すみません。……まじすかそれ」


 二人は車を降りてニュータウンを歩く。

 平日の昼間とあってか人影はない。日差しはうららかだ。家屋の陰では溶け残った雪が薄く積もっている。


「免許証情報だと、ここが須加の家のはずだが」

「生活臭ないですね」


 建売の一軒家は雨戸がびったりと閉まり、人の住んでいる気配はない。車庫もあるが、何も停まっていなかった。

 インターフォンを押しても、応答はない。

 二人は左隣の家に聞いてみることにした。

 インターフォンを押すと、出てきたのは小柄な老婦人だった。

 身分を告げて、隣家の住人について聞き込みする。


「須加さん、一年ぐらい前だったかなぁ、引っ越されたんですよ。お母さんと息子さんと二人暮らしでね。ご主人?……ご主人は亡くなったとか、聞いた気がしますけど……」


 引っ越し先は県内としか知らないようなので、礼を言って次の家を訪ねることにした。

 次は右隣のインターフォンを押す。出てきたのは主婦だ。須加の家について切り出すと、声を潜めて、


「もしかして、あそこの息子さん。何かしたんですか?」


と尋ねてきた。


「それは、お答えできません。が……息子さん何か素行に問題でもあったんでしょうか?」


 小出がさりげなく聞き返す。


「問題あったなんてもんじゃないですよぉ!」


 主婦は立て板に水とばかりに話し始めた。須加将真は学生時代から素行に問題がある生徒だったらしく、地区内で有名なのだという。酒を飲んでは深夜に騒ぐ。万引き。同級生を恫喝して金を取ったりして、警察沙汰になったこともあるらしい。家からも喧嘩の声が絶えなかったそうだ。

 主婦は、引っ越し先については知らなかった。驚いた顔をして、


「え、引っ越されてるんですか?息子さんが出て行っただけだと思ってました。最近も、たまに奥さんの自転車とか停まってたから……」

「そうなんですか?」


 三田は小出と顔を見合わせた。

 主婦もそれ以上は知らず、二人は手分けして周辺住民への聞き込みを続けた。




 二人は現在、車内で聞き込み結果の情報交換をしている。

 周辺住民の須加の評判はいいとは言えなかった。

高校を出てからも、地区内の公園で夜通し騒ぎ続ける等の迷惑行為を続けていたらしい。住民は、「最近は親子を見かけない」、そして一様に「最近は静かだ」と言っているので引っ越したのだろうか。

 そんな中一人の老人の目撃証言が上がった。

 十一月に、須加が、借りたレンタカーと特徴の合致するシルバーのハッチバック式乗用車に乗っているのを見かけたと言う。運転席には男、助手席には須加、そして後部座席には女性が乗っていたという。


「女?」

「目撃者によると、『育ちの良さそうなお嬢さんだった』とのことです」

「須加かもう一人の男の彼女かなんかか?」

「でも、俺等が抱いてる須加像からはとても、そんな清楚系の彼女がいる想像ができないんですが」

「うーん。確かに。まだ須加の起こした犯罪に巻き込まれてると考える方がありえるか?」

「目撃場所はここに来る前にも通った県道です」

「後で確認しといた方がいいな」

「はい」


 それから、須加の元同級生の証言も取ることができた。学生時代は須加と一緒に色々やっていたらしいが、最近は疎遠だという。

 その同級生によると須加は仕事らしい仕事もせずに短期の仕事を転々としているそうだ。

 二人は須加の日常の足についても情報を得た。

 須加は車を持っていなかったらしい。母親の車か、十年近く前に買ったバイクを乗り回していたようだ。

 しかし、須加は半年ぐらい前に物損事故を起こしてバイクを廃車にしたと話していたそうだ。


「その同級生、最近須加に会ったんですか」

「半年前にショッピングモールでばったり会ったそうだ。その時に須加から、少し前にバイクを壊したと聞いたらしい」

「半年前だとレンタカーを借りた時期と近いですね」

「足がなくなって車を借りたのか?」

「可能性はありますよね。ちなみにどこに住んでるとかはその時……」

「『友達の家にいる』と話したそうだ」

「あれ。母親と一緒じゃないんですか?どこの友達か分かればよかったんですけどね…。あと、気になるのが……」


 元同級生は、須加の同乗者の坂井という男のことを知らなかった。少なくとも学生時代の先輩等ではないという。卒業後に知り合ったのではないかという話だった。

 須加の彼女についても聞いてみた。今はいるのか分からないが、学生時代は派手な女性と付き合っていたという話だった。


 三田は考える。

 まず、坂井と須加の関係性だ。

 須加と坂井とはどのような間柄なのか。どのように知り合ったのか。一緒に店舗に訪れ、レンタカーを借りているため、現時点では、坂井も須加の共犯である可能性がある。


 次に須加の母親の所在である。

 母親は今、どこに住んでいるのだろうか。ニュータウンで一緒に住んでいた二人が少なくとも半年前は一緒に住んでいなかったという。


 そして、後部座席の女について。

 老人の目撃証言以外、全く話に出てこなかった彼女は何者なのだろうか。


 最後に、車を借りようと思った経緯。

 須加と坂井は、どのような経緯で一緒に車を借りることにしたのか。考えてみると、もしバイクの廃車が原因で生活の足がほしいだけなら、須加だけ借りに来ればいい話ではないか。わざわざ坂井を同乗運転者に登録した経緯は何なのか。 


「あ」


 不意に小出が言った。


「三田さん、あれ。あの自転車もしかして須加の母親じゃあないですか?」


 自転車に乗った女性が、須加家の方へ走っていく。二人はすぐに車を降りた。



 二人が追いついた時、須加の母親と思われる女性は、ちょうど須加家に自転車を停めたところだった。


「こんにちはー!」

「警察の者です。私三田と申します。須加さんですか」

「……はい。そうですが」

「……息子の将真さんの居場所についてお尋ねしたいんですが」

「し、将真?知りません!」


 息子の名前を聞いた途端血相を変え、家の中に入ろうとした女性を、小出が引き留める。


「あ、待ってください!息子さんの行方を探しているんです!」


 素行の悪い息子がまた何かしたと思われたと思ったのだ。要件を伝えると、女性は呆気にとられたように動きを止めた。


 立ち話も何だからと、家の居間に通してくれた女性――須加の母親は居心地悪そうにしていた。

母親の名前は須加加奈子。若い時は美人だったのだろうという整った顔をしているが、今は目が落ち窪み口元にも皺が目立ってきている。白髪を誤魔化すためか肩くらいまでの髪を、茶髪に染めている。六十代といっても通りそうだ。

 隣の老婦人の言う通り、夫とは死別していた。三田が須加将真のことへ水を向けると、


「将真のことは、何も知りません」


頑なな表情で言い切った。


「私達、一年以上一緒に住んでないんです」

「つかぬことをお聞きしますが、須加さんは、今この家にはお住まいではないんですか?」

「…………はい」


 加奈子はきっと顔を上げた。


「……あの、これって取り調べですか?」


 顔には不快感がありありと表れている。


「これ以上のことも答えないといけませんか?私がどこに住んでいようと息子の居場所とは関係ないですよね?」


 三田は、頭を下げる。


「失礼しました。将真さんは、こちらにお住まいなんですか?」

「……住んでいないと思います。時々戻ってくるんですが、物がなくなったりはしていないので」

「連絡を取り合っていたりとかは?」

「全く取っていません。……もう、よろしいでしょうか」


 これ以上は聞けそうもなかった。二人は須加家を後にした。

お読みくださりありがとうございます。

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