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4話

 その日の午後は憂鬱だった。自慰をした後の賢者タイムのなか登校して、かったるい授業を受ける。授業後、家に何も食材がないのはわかっていたからスーパーに寄らないといけなかったが、自炊するのも億劫で、カップ麺をいくつか買い込んで家に帰る。

 玄関のやたらと重たいドアを開けて家に入る。そのまま靴を脱いでキッチンへ向かうと、ケトルに水を汲んでスイッチを押した。その間にカップ麺の包装を破って蓋を捲る。中から出てきたかやくを取り出して、スープの素の粉末を麺に振りかけた。

 お湯が沸いて、それをカップ麺に注ぐ。三分間をスマホで計って、スマホがけたたましいアラームを鳴らすと同時に蓋を取った。

 麺を啜りながら、動画でもみようかと動画サイトを開くと、DMが来たと別のアプリからの通知が来た。誰からだろうとそのアプリを開くと、意外なことにキョウカからの連絡だった。

 そういえば、インスタだけ交換していたんだっけ。そのあたりの記憶はあいまいだが何となく残っている。

 トーク画面を開くと、“よろしく!”と交換してすぐに送ったメッセージのすぐ下に、”ごめんなさい。忘れ物したみたいです”とやはり敬語のメッセージがあった。その忘れ物と言うのはあの封筒のことだろう。俺はすかさずメッセージを返す。


『トーンですよね。いつ渡しますか?』


 つられて敬語になってしまう。新しく買うからあげる、なんて言われてしまわないように先んじて会って渡すことを示唆しておく。するとすぐに既読が付いて、次のメッセージが来た。


『今から駅前でどうですか?』

『おけです!』


 案外すんなりとことが進むことに驚きながら、俺はカップ麺を急いで啜った。

 髪を簡単に整えながら、考える。キョウカに嫌われてしまったと思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。いやいや、むしろ嫌われてしまって縁を切ってしまいたいから、後回しにしないでさっさと荷物だけ受け取りたいのかもしれない。そうだ、そうに違いない。変な期待はしないで、さっさと封筒を渡して帰ろう。


 と、家を出るときには考えていたが。


「お待たせしました」


 いざキョウカを目の前にするとさっさと帰ろうなんて気持ちは霧散してしまった。キョウカはあのあと一度自分の家に帰ったのか、俺の家を出たときの服――つまり昨日着ていた服とは違う服だった。


「あ、コレ」

「ありがとうございます!」


 俺が封筒を渡すとキョウカは微笑んでそれを受け取った。その笑顔に見とれてしまい、俺の動きは固まった。


「えっと、あの」

「ああ、ごめんなさい」


 キョウカに話しかけられて再起動する。俺はごまかすように笑ってポケットからスマホを取り出した。


「あのさ……」

「?」


 俺は勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。


「ラインも交換しませんか」


 昨日のことがあって、下心がないわけではなかった。キョウカは絶世の美女だし、今朝見た裸体は俺が今まで見てきたどんなものより美しかったし、男として欲しないわけがなかった。

 しかし、それ以上に漫画を語れる友達として唯一のキョウカとのつながりを失いたくはなかった。俺は震える手でQRコードを表示させたスマホを差し出した。


「いいですよ。って、敬語もなんか変だよね」


 キョウカは笑った。彼女も懐からスマホを取り出して、俺が表示させたQRコードを読み込んだ。早速ラインに通知が来て、俺は舞い上がった。犬種は分からないが犬のアイコン。彼女から送られてきたなんのキャラクターか分からないスタンプに、俺もスタンプを送り返して、スマホをポケットにしまった。

 しかし、これでバイバイというのも味気ない。


「あの、よかったらこの後遊び行かない?」


 俺はラインを交換して舞い上がったままに、キョウカを誘ってみることにした。


「今日は課題やらなきゃだから……。ごめんね」


 しかし、あっけなく撃沈。俺は肩を落とした。


「それじゃあ、また」

「うん……」


 そう言って去っていくキョウカの背を見送りながら、俺も家に向かって歩き始めた。俺にできることは、彼女が最後に遺した、またという言葉をどれほど信じられるかと考えることくらいだった。

 徒歩で家に帰ってきて、ベッドに寝転ぶ。スマホを弄りながら意義のない退屈な時間を過ごしていると、スマホが震えてラインの通知が表示された。

 バナー通知をタップしてアプリを開くと犬のアイコンからメッセージが来ている。キョウカだ! 俺はすぐさまトーク画面を開いた。


『今日は断っちゃってごめん』


 そんなメッセージがスタンプの下に表示されている。俺がなんて返そうか、返信を書いたり消したりしていると。


『よかったら今度また会おう?』


 ペコン、と音がしてメッセージが追加された。


「ふぉおお!?」


 思わず声が出た。俺からまた会おうと誘うために、どうやって話を持っていこうかと思っていたのに。まさか向こうから誘われるとは。

 予想外というか、予想以上の展開に俺はベッドの上で小躍りしそうになる。ベッドの上で一人ガッツポーズをして、俺は返信のメッセージを考える。


『一緒に画材屋さん行きたいんだよね』


 そうしてる間にもキョウカからメッセージが来て、俺はてんやわんやで返信する。


『いいね! 俺も行きたい』

『キョウカは何日なら空いてる?』

『俺は明後日かその次なら』


 そうメッセージを打ち込んでキョウカの返信を待つ。すぐに既読が付くのが嬉しかった。


『私も明後日なら大丈夫だよ』

『また駅前集合でいい?』

『大丈夫』

『じゃあよろしくね!』


 その後にまた何のキャラか分からないスタンプが送られてきて、会話が終わった。

 キョウカにはまだまだ話したいことが山ほどあったが、続ける勇気が出ずに、俺はスマホを閉じてベッドに突っ伏した。

 キョウカと話していると今朝のことを思い出してしまって、また欲望が湧き上がってくる。

 俺はまた一人静かに自慰をして眠りについた。

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