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千里の夜空  作者: 火琉羅
6/20

暴食の候補生と七大の魔王

「――素晴らしい……」


 それは一方的な戦闘だった。


 中央に立つ少年はまるで舞うように攻撃を回避する。

 襲い掛かってくる悪魔に触れ、全てを光の粒のように消滅させていく。

 さらに少年の戦闘スタイルを見て遠距離から攻撃で炎を吐き、魔法を放つ。

 が、それも意味をなさず、腕を大きく振って炎を魔法を払い除けた。


「人間に、ここまで高度な技を使えるものが居ようとは……」

「なにが高度なんだ?」

「おやベルゼビュート様。あなた様が戦闘に参加していないとは……どういう風の吹き回しなのですかな?」

「すぐに行く。だがそれ以上にあいつの消滅させる原理の方が気になる。

 貴様ならあれについて、それに魔法を弾く理由の心当たりがあるんじゃないか?」

「後者については大したことはありません。

 ですが、あの消滅はあの素晴らしい目でなければ不可能なのでしょう」

「目?」

「ええ。彼が今見ているのは()()()()()()()()()()()()()()です。

 この世界に存在する生物は全てとある2()()()データベースを中心に形を構成しています。

 魂のデータベースと星のデータベースです。

 魂のデータベースとはこれまでに作られた時間というもので構成された性格・人格のことを指し、それらを形として表す為に肉体というものが構成されます。

 その構成された肉体や魂をこの世界に存在するものとしてそのデータ情報を保存しているのが星のデータベースです。

 星のデータベースはその圏内に入った者すべてのデータを記録し、保存、更新し続けます。怪我をしたり治ったり、死んだり産まれたりした情報を星は常に記録し続けています。

 彼はそれを理解した上で、その応用をしているのです」

「おうよう?」

「星に記録された情報と魂が記録した情報は全て同じ。

 彼の目はその情報を全て見通している。

 だから彼は触れた悪魔達の身体からその情報を()()()()()()()んです」



「抜き取っている!!? そんなことできるのですか!!?」

「言っただろう、バペル。あいつの目はとても素晴らしい目であると。

 あいつの目はそれを容易く可能にしている。どの位置に触れればいいのか、どの角度で、どのタイミングで、どれくらいの力加減で……。

 かなり特化をしたんだろうな。あの目を使いこなすために血の滲むような努力を……」

「……」

「抜き取られた端末(からだ)は魂が再構築を行うと情報を書き換える。負傷をした時と同じようにな。

 だが身体には損傷した部分がなく、星のデータベースは情報を更新しない。

 そこで星と魂の情報に食い違いが発生する。だから星と魂は情報の照合を始める。だがどちらもその情報に間違いはない。

 そうなった場合の優先度は星のデータベースが優先される。

 星からの情報で肉体は突然現れた星の異物、と処理され、肉体はその存在を星として認めることはできず弾き飛ばされる。

 その結果、肉体と魂は分離させられ、肉体は突然消滅する、というわけだ」


 武舞台を覗き込んでいたバペルはベルゼビュートともう1人の悪魔と同じように、目の前で起きている消滅の説明をベフェールから聞いていた。


「まああの消滅は()()()だし、必殺技を使うまでもないということなんだと思うぞ」

「必殺技……ですか……」

「ああ。バペルは、きっと驚くぞ〜」

「は?」

「あいつの必殺技の()()は、悪魔の力だ」



 〜〜〜〜〜〜



 =====


 現在、襲撃してきた悪魔の40%を消滅させました。

 そのため悪魔全体が距離を取り、こちら様子を伺っている状態です。


 =====


(まずいな……。一気に攻めてきてもらった方がいいんだけど……)


 実をいうと……俺の戦闘スタイルには、制限時間が存在する。

 それは別に自壊するとかそういうのではなく、体力と集中力がなくなってしまうのである。



 まず目を戦闘に用いる時、発動条件の『見なければならないもの』というルールのもと、その対象を『戦う敵の全てを見なければならない』という考えを意識的に行わなければならない。

 それにはかなりの集中力が必要となる。その集中力を維持するための体力が必要となる。


 これに似たような状態にスポーツでのゾーンという言葉を聞いたことがある。

 そのスポーツに全神経を研ぎ澄ませ、そのスポーツ以外の情報をクリアにするとかなんとか……。


 俺はそれに近い状態を日常生活で行なっている。

 なぜなら目の力を発動させないためだ。


 正確に言えば、どんなに頑張ったところで、目は勝手に発動する。

 だがそれでも目の力をある程度抑え切ることはできる。

 『今普通の視界に見えるものを見なければならない』という意識を強く持つことで、能力を発動させつつ日常生活を可能としている。


 当然そのような状態を長時間維持するのは難しい。だからこそ能力を維持し続けるための体力作りは欠かせないのだ。



 そのためこの一撃必勝のスタイルは長時間戦闘には不向きなのである。


(せめて来ないかな〜……。それだと楽なんだけどな〜……)


 そんな懇願するような愚痴を知ってか知らでか、1人の悪魔が距離を取っている悪魔達の間から現れた。


(! この悪魔……)


 ぱっと見、人型の悪魔。

 遠目から見れば人間にしか見えない。


 だけど、雰囲気が他の悪魔達とは違う。

 こいつは強い。そんな確信があった。


「下がれお前ら。お前らではこいつの相手は不可能だ」

「だが!」

「これは、あいつからのお墨付きだ」


 悪魔は後ろの方に指差す。そちらの方に視線を向けるとそこには黒髪の人……いや、おそらく悪魔であろうものがこちらを見つめていた。

 視線を合わせると、黒髪の悪魔は深くお辞儀して笑みを向けてきた。


 あいつ……この俺よりも強いな。

 すぐあれを使って相性を確認しながら詰めなきゃあっという間にやられちまうな。


「……あんたとあいつで最後か?」


 ほかに俺に勝てそうな奴いなそうだし。

 2人が共闘でもされたら間違いなく負けるな。


(ここまでは流石に読んでなかった……)

「いや。お前の相手をするのは俺だけだ」

「? 共闘すれば俺を簡単に圧倒できると思うが」

「あんな変態と共闘するぐらいなら死んだ方がマシだ。

 それにあいつは憤怒の候補生。不死であるサタウス様の候補生だから戦う意味なんてありはしないのさ」

「そういうもんか。

 ならあんたの候補は死んでしまう可能性があるのかな?」

「ああ! 俺は暴食の最上位候補生!

 このベルゼビュートが! 貴様のようなガキを徹底的に食い尽くしてくれよう!」


 目の前の悪魔、ベルゼビュートがこちらに向けて突撃してきたので先程と同じようにカウンターで対応する。

 ベルゼビュートの懐に一気に潜り込み、他の奴ら同様、身体を一気に消し去って――


 触れようとしたベルゼビュートの身体がまるで風穴が開くように突然消え去った。


 俺の左手はそのまま風穴が空いた部分を通り抜ける。

 その際手になにが触れた感触となにが掌の中で消え去った感覚があり、一体なにがあったのかと動揺す――


 その瞬間、視界に腕から突然飛び出してきた黒い何かによって腕消滅する映像が流れた。


(危険予知!)


 俺は目が自動的に発動したことを理解するとすぐに目を使い、結界を使う能力者を通してすぐに腕2つ結界を張り、一つの結界を空中に固定させ、結界と結界をすり合わせながら繋ぎ目にある腕を()()()()


 そのまま空中に浮かせた結界から距離を取ると、結果内にある左手から何か飛び出して結界諸共、骨から血の一滴に至るまで全て黒い何かに飲み込まれた。


 =====


 警告。あれは変換分裂体です。

 本体を中心にその者に連なる者へと変換、分裂し、複数の存在へと変化して一つ一つ意思ある存在へと開花したのものです。

 あれが一つに纏まることで再び本来の姿の構築が可能となります。


 =====


「なるほど。要するにあれはベルゼビュート自身ってことか」


 ということは……。

 俺は目の力を行使して目の前の黒いモヤの正体を確認する。


 モヤをよくよく見てみれば黒いモヤは極小の何かであり、懲らしめてみれば、それは誰もが知っている羽虫。ハエであった。


「やっぱりな。『食い尽くす』という言葉から、あんたの罪は暴食。

 恵、豊穣に連なるものでありながら飢餓や病気、浪費家としての一面を持ち合わせるが……。あんたの場合は飢餓や病気があんたの罪なのかな」

「ふん! 俺の罪を言い当てたところで、貴様は左手を失い、お前の攻撃は俺には通じない。

 この現状をどう覆すってんだ?」


 たしかに……あんな回避方法があるとは、正直思っていなかった。

 分裂体であるなら、一人一人の情報を抜き取って消しているこのやり方との相性はたしかに悪い。本体が消えているわけじゃないからな。


 意外と弱点多いな、これ……。


()()()()()()相性悪いか……」


 なら――



 目の前のガキは俺の捕食の能力を理解してすぐさま腕を切り落とすという判断した。

 俺の能力を知らないで回避したのは各罪の最上位候補生達だけだ。


 こいつにはそれだけの力がたしかに存在する。


 だが……俺の罪には誰であろうと逃げることはできない!


「次で終わらせてやる」

「それは困るな。俺はこの先にようがあるんだ。

 だから、こんなところで負けるわけにはいかないんだ」

「は。人間の分際で悪魔にでもなろうというのか?

 かたはらいたいわ!」

「ざっけんな! 誰が悪魔になんぞなるか!」

「なに? お前は、ベフェール様の後を継いだ怠惰の王を継承するんじゃないのか?」

「それは効率よく悪魔どもを挑発できる手段なだけであって、それ以上もそれ以下の理由もない。

 人間の悪魔なんて、なりたくてなるもんじゃないだろう。

 あれは誰が勝手に付けてそれが一人歩きしたもんなんだからさ」

「そうだな。人間は言葉一つであーだこーだとうるさい奴らばかりだからな」

「……。それに、この身体を作り替えれるんなら、別になんでもよかったんだ。

 ヘルスフィアを使うのが、1番効率的だっただけ」

「効率……」

「はっきり言う。

 俺は俺の自分勝手な理由から()()()()()()

 人間も、悪魔も、天使も、神すらも滅ぼす。

 そのためには力がいるんだ。天使や悪魔を超える力が」

「……なん……だと? そんな奴を、ベフェール様は後継に選んだのか?

 ……っ! させるか! そんなこと、絶対にさせてたまるか!

 俺にはまだ、やらなければならないことが!」

「安心しろ。()()()()()()()()

「は?」

「というか、()()()()()

 これは俺の罪だ。

 お前にも、俺達にだろうと、この罪だけは、誰にもくれてやるつもりはない!」

「お前……なにを言っているんだ!!?」


 それじゃあまるで、魔王と、同じ……。


「だから……俺()は貴様に勝つ。()()()()()()の傲慢を、拒絶を、罪を、こいつ以外にくれてやるものか!」


 こいつの言葉遣いが変わったと同時にこいつの雰囲気がまるで別人のように切り替わった。

 これは……やばい!


 俺は身体をハエへと分裂させて一気に目の前の敵に向けて放つ。

 だがそれと同時に奴の姿も砂のように消えた。


 分裂体となった俺は突然消えたに動揺し、その場に立ち止まる。

 その瞬間、ハエの姿ある俺が突然殴り飛ばされた。


 俺はすぐに危険だと判断し、元に姿に戻る。


「は! やはり自分が同じことをされるのは初めてのようだな!」


 元の姿に戻るとそんな声と共に目の前に周囲から何かが一気に集まり始め、人の形を形成し姿を表した。


 だがその姿は先程は違う。

 大きめでダボダボな服装が打って変わって半袖半パンという活発で動きやすい格好へと変わっている。


 そして真っ白な髪に隠れていた耳は頭の上にまで移動して馬のようにピンッとたて、短パンから出ている脚は毛で覆われ、馬の脚のような形になっていた。


「な、なんだ、お前は……。何者だ、貴様は!」

「俺様か? 知らないのであれば教えてやろう、俺様の名を!」



「我が名は、異世界から君臨せし七大(ななたい)の罪!

 拒絶を司りし怠惰な魔王! ベルゴノーツである!」

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