俺の魔眼
「ベエーフェさん、まだすっか?
だいぶ歩いてる気がするんですけど〜」
「騒ぐな、人間の分際で。
大体ベフェール様になんて態度を!」
「よせよせバペル。こいつに何言っても無駄だ」
「はあ……」
「それに……愚かなこいつを見ているのは面白いじゃないか」
「???」
俺達長く暗い洞窟を降っている。
ベエーフェさんの案内でヘルスフィアのある地下深くまで進んでいる。
「そういえば貴様は我々のことについてかなり知っていたな。
それも、貴様のその目の力なのか?」
「ごめーとー。あんたらのことは全部目を使って知った。
どうた? スゲェだろう」
「確かにすごいな。先程見せてもらったのも、その目の力だと思うと、素直に感心する」
「……おどろいた。そこまで素直な感想を言われるとは」
嫌われてると思ってた。
「思ったこと素直に言っている。下手に誤魔化すのは面倒だからな。
それとも私が貴様の能力を高く評価したことがそんなに不満か?」
「いや。俺とあいつ以外誰もこの目を褒めてやらないから、正直、あんたのその評価はすごく嬉しいよ」
「…………………………………。ふんっ!」
バペルさんは顔を赤くしてそっぽを向いた。
可愛らしいが………男のツンデレ嬉しくねぇ……。
「そういえば、お前の力をちゃんと聞いたことはなかったな。
お前の力も、俺の『覗き見』に似たような力なんだろ?」
「あんたのほぼ身体能力みたいな力と一緒にするな。
俺の能力は俺的には最強だとは思うんだが、側からみれば使い勝手の悪い能力だからな」
「そうなのか。
なら、降り切るまでの暇つぶしに、貴様のその魔眼の説明を頼む」
「魔眼……。まあ、別にいいけど」
俺は呆れながら自分の目についての説明を始めた。
「俺の目の力は実はそんな珍しい能力でもなく、本来はたいした力もないありきたりな能力。
ただ、発動する対象と条件が面倒くさいけどね」
「対象?」
「それについても説明するからとりあえず。
俺の目の力は〈千里眼〉。遠くのものを観測する力だ」
「かんそく? 遠くを見る、ではないのか?」
「見る、というのも間違っていないが、これは観測がただしい。
まず視覚というのは光エネルギーが網膜にある感覚を刺激して色や形を識別している。
つまるところ、光があるから色や形などが判断できる。
観測というのは、ちゃんとしたもの、ことに基づいて計測されていることを指し、きちんとした理由に基づいて起きた、または起きている事象を測定するかを言う。
それに当て嵌めて千里眼を説明すると、光学によって色や形を判断し、尚且つ、きちんとした理由に基づいて遠くにあるものを判別しているというわけだ」
「なるほどな。なら、お前の千里眼も何かしらの理由に基づいて観測を行なっている、ということだな」
「あ〜〜〜………。まあ、うん」
「なんだ。その煮えきれない反応は」
「いや〜。ここからの説明が面倒くさくてな」
「さっさと話せ」
「へいへい。
まず、千里眼ってのは観測。それは今説明したな。
出来事、事象を読み取ることで観測が完了する。それが千里眼だ。
じゃあその観測を行うには、どうすればいい?」
「簡単なことだ。
観測する対象を作る」
「そ。普通は見るべき対象に対して能力を発動することで、観測が行われる。
そのため千里眼は観測の対象によって別の能力として扱われることがある。
それは、〈過去視〉と〈未来視〉だ。
過去視や未来視は、一本の木から生えた枝。その分かれ目を現在の地点とすると、そこから後ろになる木の幹に向かって伸びている枝が過去。そちらの事象を観測することを過去視。対して、枝の分かれ目の先。葉のなる枝の片方の事象。つまり、未来の出来事を観測することで、未来を知ることを、未来視と言います」
「おどろいたな。未来視や過去視にはちゃんとした法則性があったのか。
ということであるならば、お前以外の千里眼の能力者は未来視や過去視ができるようになることは可能なのか?」
「可能でしょうね。
ただ、それにはかなりの精神力が必要になると思うけどな」
「そういうものか?」
「知らん。少なくとも俺はそうだった」
「さて。ここまできて、ようやく俺の千里眼について説明できる」
「ここまできてようやく貴様の魔眼についてか」
「バペルさんまで……。
千里眼に対して、観測と対象まで話したら、最後に発動条件だ」
「能力を発動するのに、条件があるのか?」
「言ったろう。俺の千里眼についての説明だと。
本来、自分自身の能力に対して自己意思以外の発動条件はありません」
「断言しきったな」
「俺の能力だけが特殊なんだ。
むしろ俺と同類の人がいたら手放して喜んでやる。
……で、俺の能力の発動条件ですが――ありません!」
「………は?」
「だから、俺の能力に発動条件はない! と、もうしているんです」
「いや……。いやいやいや! 今し方発動条件はないと、言っただろうが!」
「自己意思以外、での発動条件はない。と、言ったんだ」
「………! 常時発動型か!」
「!!?」
「その通り! 俺の能力は、観測する対象を決めた時、俺の意思とは関係なく発動する常時発動型の能力!
それ故に、能力をしっかりとコントロールしなければ、能力が常に発動し続け、俺の頭はパンクして思考がぶっ壊れることだろう!」
「……そのせいで、髪が白いのか?」
「苦労……しているんですね」
「………。
それとは全く違う理由。
俺の髪が白いのは自業自得なだけ。
だから気にするな」
「そんなことよりも、最後の説明」
「まだあるのか〜。そろそろ飽きてきたぞ」
「気持ちはわかるけど、俺も最短で説明を終わらせてるんだから、もう少し我慢しろ」
「ならもっと手短にしろ! 長ったらしくて聞いてられるか!」
「だったらあっさりと終わらせてやる。
俺の能力が発動する対象について。
能力の発動対象は、『俺が見なければならならいもの』だ」
「………。すまん。それだけじゃあ、わからん」
「わかってるよ。だから1番理解しづらくて、面倒な説明をするんだろう。
……まあ、俺もうまく説明できないんだがな」
「そんなに難しいんですか?」
「ああ……。バペルさんは、する義務、必要なことはありますか?」
「する必要があるもの? そうだな……ベフェール様の身の回りの世話は、私の命題だと自負しております」
「重いですね……。まあ、それでもいいです。
とどのつまり、俺の能力は、能力自身が自身の命題に沿って能力が自動で発動しその光景を見せてくる。それが俺の能力、『見なければないらない千里眼』だ!」
「『見なければならない千里眼』……なんて、ダサい名前なんだ」
「名前なんて考えてことないよ。誰が付けた適当な名前が俺の好みだった採用してやってもいいが、今はそんなこと考えている暇はないからな」
「……おい」
「なんだ?」
「今の説明で、お前が私の攻撃を防いだ事についての説明にならない。
いったい、どうやって俺の攻撃を防いだ」
「……それこそが、この能力が普通ではなく、異常である証なんだ」
「異常?」
「ええ。
正直、この目をコピーしたり、奪い取って自分の目に埋め込むことは、ぶっちゃけオススメしません」
「それはなぜです?」
「あなたは――自分が死ぬ瞬間を、体験したいですか?」
「!!?」
「――俺の能力は見なければないものを見ます。
それが例え――人間の心だとしても」
「「!!??」」
「俺の目には今の所見れないものはありません。見ようと思えば、神の心だって見ることできるでしょう。
…………唯一の存在とは友人だが」ボソっ)
「うん? 何か言ったか?」
「いえ何も。まあ、神の心情は俺の知るところではないのでどうでもいいと流すとして、バペルさんの攻撃を防いだ方法でしたね。
口頭では簡単です。能力を2回使っただけです」
「2回?」
「ええ、2回です。
能力を発動し、もう一度自分に対して能力を発動しました。
そもそも能力は、眼の色が変わるか、紋様が浮かぶことで発動します。
ようは視覚だ。視覚は脳に対して強い影響を与える。逆もまた然り。脳に強い影響が与えられると視界が歪むことも、幻覚を見ることもあります。
つまり、脳に強い影響を受けることで眼の力が使用できるようになります。
これが能力に目覚める……開眼、という言葉脳が近いのかもしれませんね」
「それを踏まえて、どうやってバペルさんの攻撃を防いだのかというと」
「なぜ右手の人差し指を立てて円を描いているんだ?」
「………。
防いだのかと言いますとね」
「無視、か……」
「あきらめろ。こういうやつだ」
「先程言ったように、能力を2回に渡って発動しました。
1回目はあのバリアを貼ることの出来る能力者に対して『バリア能力者の心を見なければならない』と能力を発動させ、その人の心、思考を読み取ります。
その状態のまま『自分自身の敵を見る』という風に能力を発動させれば、元の状態に戻ります。
ただ一点だけ違うことは、別の人間の思考を介している、ということです。
これは大きな違いがあります。
それは能力を介した相手の思考を持っている、ということです」
「!!?」
「……バペル。どういうことだ?」
「……思考を持っている、ということは、介した人間の脳と同じ、ということで……」
「その人の脳の状態で使って能力を発動させるとあらふしぎ〜。その人と全く同じ力を使用できるようになりました〜」
「……」
「ふふふ。言ったでしょ。俺の能力は異常だって。
他人思考を、ましてや能力を使用できるようなるまでの同調なんて普通は不可能。でもそれを平然とやってのけるのが、俺の千里眼、というわけさ」
「以上が、俺の能力についてのお話でした。
より詳しい説明は受け付けておりません。
そもそも、これ以上の説明はできないしな」
――君の目は君が無意識に望むものを見る目――
――他人の能力が使えるのは一時的に得た記録情報を再構築して発動しているに過ぎないんだよ――
(あいつはそんなことを言っていたが、この2人には必要のないことを話す義理もないだろう)
だいたい人間の1人の全ての記録情報を再構築なんて俺にはできないからな。
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お褒め預かり、光栄です。
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(たしかにすごいけど、いつものように話しかけそうだから、しばらく引っ込んでて)
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かしこまりました。
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「……」
結局、この目は、この目自身のことについては頑なに語ろうとはしなかった。
色んな人の能力を見てきたが、この能力と近しい発動条件の能力は存在しなかった。
そもそも能力自身が意思を持つなんてどこにもない。
それだけなにかを、その能力は持っている。
だからこそ、辿り着かなければならない。
―――ワールドクリスタルに!―――
(あのクリスタルに接続出ればきっと……。
この能力についても、この世界のこともどうにかできるはず……)
だからまずは――
「お、見えてきたぞ」
ベエーフェさんの言葉に顔を上げて正面を見る。
見つめる先には和風の妖譚に出てくるような大きな門が建てられていた。
「さ、あれが悪魔族が唯一通ることができる、お前の世界と異世界を繋げる悪魔の門。ヘルゲートだ」
「その門を潜れば監獄ツォルンだ。せいぜい、くたばらないような」
「へいへい」
さ、第一の目的まで、あと少しだ




