現代的な牛
とある夏の日
地図と自分の居場所を照らし合わせながら白い髪を靡かせ目的の場所へ向かう。
「……ここか」
住宅地の道をひたすら進み、そして目の前に大きなマンションにたどり着いた。
〜〜〜〜〜〜
あの日から数年が経ち俺の髪も黒から驚きの白さとなった。
能力に無理矢理手伝わせるようになり、この能力がどういうものなのか本格に敵に理解し始めた頃には再び彼女と見る《出う》準備が整った。
主に精神面の話だが……。
彼女と会って、喧嘩に近い言い合いをしてその日は終わって、次の日にまた彼女に見に行った。
その日は、俺が好きな話をした。
ゲームの話、漫画の話、アニメの話。そんなオタクちっくな話をすると彼女はそれらをすべて知っていると答えた。
知っているのが悔しくて口を尖らせるも、対戦ゲームのプレイテクニックの話をすると、彼女は興味を示してくれた。
物語の話よりも、タクティクスやプレイテクニックの方なお好みらしい。
将来は立派なゲーマーかな。
そんな彼女が言った言葉があった。それは――
――最近、こうしているのがもったいないって思う――
何を当然のことを、って返した。
彼女はその言葉を聞いて嬉しそうだった。
何が嬉しかったのやら……。
そんな会話した次の日、俺の視界の左端に数字が現れるようになった。
目が表情には、その数字は『カウントダウン』らしい。
〜〜〜〜〜〜
大きなマンションに入り、すぐにインターンフォンが目についたのでそれに駆け寄って思い出しながら、知らない人の部屋番号を押し、コールをかけた。
『はい。どちら様ですか?』
お、1発で出てくれた。公衆電話探さなくて良くなったからよかった〜。
『どうもはじめまして、バペルさん。そちらにいらっしゃるベフェールさんに用があるのですが』
その言葉を言った瞬間、一階にまで届く殺気が向けられた。
『……。なぜ、』
「知りたければこの扉を開けろ。
別に構わないせんよ。ここじゃなくても、サタウスさんでもルシュフェルさんのところでも。
ただまあ……覗き見していたくせに部下であるバペルさんに何も教えていないベフェールさんにも問題がありますがね」
『……少々お待ちください』
そう言って通話が終わる。
言われた通りしばらく待っていると、自動ドアの扉が開いたので中に入る。
エレベータに乗り、バペルさんのいる部屋の階を選び、その階に着くまで、目を瞑った。
指定した階に止まったのでエレベーターから降りる。
止まった階の1番奥の部屋。そこがバペルさん達の部屋だ。
真っ直ぐにそこに向かいそこに備え付けされていたインターフォンを鳴らした。
するとすぐに扉が開かれ中にいた人物が姿を現した。
――巨人のような大きな拳を勢いよく振り下ろしながら――
目を大きく見開いて固まる。
一瞬の不意打ち。気付いた時には振り下ろされた拳が頭に触れる。
頭はまるでトマトのように弾け飛び、真っ赤な血が扉、玄関、廊下に飛び散る。
頭の無くなった身体はそのまま後ろに倒れ、それを見た偶然通り掛かった同じ階の住民の悲鳴が響きわた
――ピンポーン!
「……」
どうやら目的の階に着いたらしい。
ゆっくりとした足取りでエレベーターを降りる。
止まった階の1番奥の部屋。そこがバペルさん達の部屋だ。
真っ直ぐにそこに向かいそこに備え付けされていたインターフォンを鳴らした。
するとすぐに扉が開かれ中にいた人物が姿を現し――
――巨人のような大きな拳が勢いよく振り下ろされる。
その瞬間、瞳が輝き始め突然見える景色が切り替わる。
突然のどんよりとした雨降る空、雨粒で視界が歪む。
景色が戻る。今目の前には、襲いかかる巨大な拳。
その拳を睨みつけると、真っ黒な瞳の色がマゼンタの色に変化する。
そして、巨大な拳が弾き飛んだ。
それは何かに守られたかのように、防がれたかのように弾き飛ばされた。
「な!?」
弾き飛ばされた勢いで一歩下がった男はこちらを睨みつけながら、戦闘態勢を取る。
「おいおい。話をする為に来たのに、いきなり不意打ちは酷いんじゃないん?」
「黙れ! 突然現れた謎の者を攻撃することの何が悪い!
それに、一撃で終わらせれば、王に害する敵もいなくなる」
「たしかにその通りだ! さすが、頭がいいですね、専属秘書のバペルさん」
「……」
「おっとこれは皮肉ではありません。単純に配慮が足らなかった、というだけの話です。
……それだけ、急を要するんです」
会話で腑抜けていた表情が最後の一言で一気に引き締まる来訪者。
バペルはどうするべきか悩む。
そこに響き渡るは、突然の笑い声。
「ワハハッ! なかなか愉快じゃないか!」
「……ベフェール様」
部屋の奥から聞こえてくる野太い声。いかにもおっさんと言った声が玄関にまで聞こえてくる。
「通せ。そいつはいくら拒絶しようとも、力ずくで入ってくるだろう。
拒絶故にな」
「!?」
男の声にバペルは来訪者に視線を向ける。
疑念の視線をしばらく向けた後、渋々といった態度で通すことにした。
「入れ。ただし、変なことはするなよ。した場合、」
「それは無理だ」
「ああっ?」
「俺はここに、必要である変なことをする為にここに来たんだから」
来訪者はそう言って家の中に入り、真っ直ぐに奥の声のした方は向けて歩き始める。
真っ直ぐに進んだ先にある扉を開く、そこはゴミ屋敷。
買ってきた弁当やらお菓子のゴミやらが足元を埋め尽くすかのように散乱している。
「いや〜。ゴミ散乱していて悪いね」
そして足元から視線を上げると、そこには牛がいた。
ソファの上で横になり、モゾモゾと動く、白黒の斑点模様と垂れた耳、先端に毛が生えた尻尾。
文字通りの牛がソファの上に転がっていた。
「……まあ知っていたことだけどな」
「? 何か言ったか?」
「いいえべつに。
今回はお目通りしていただき、ありがとうございます」
「別に構わない。お前の魔眼は理解してるつもりだ。
向けている対象がドン引きだがな」
牛は来訪者の魔眼のことを思い出し、顔を青ざめてドン引きしていた。
「やはり似たような力を持っていると、話が進めやすくていいですね」
「お前ほど有能ではないがな、俺の力は」
「そうですか……。なら、俺の目的は理解していますか?」
「それは残念ながら。
だが、ここにやって来た目的は知っているぞ」
「本当に話が早くて助かる。
単刀直入に言います――
――ヘルスフィアの力を俺にもよこせ」




