天界都市
「この部屋をお使いください」
「ありがとう」
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周囲に危険物をサーチ。
危険となる対象はありません。
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すっかり暗くなり、案内された部屋を早速目が調べ上げて危険がないことを理解した。
あの後、すぐにでもヘブンアクアをもらおうと思ったのだが、
「ーーヘブンアクアはあと1ヶ月ほどでたどり着く浮島にある神殿に厳重に保管されており、そこまでの制空は固く規制しております。
ですのでそれまでの間、この国に滞在し、英気を養ってください。
その力の代償は、あまりに大きいのでしょ?」
「ーー代償……って、なんのことだ?」
俺は、首を傾けてスキルに尋ねるが、反応はない。
「……ま、気にすることでもないか」
「ーー貴様」
興味がなくなった内容を放棄して、言われた通り、しっかりと身体を休めようとしてたその時、この部屋を案内してくれたミムエルが俺を呼んだ。
「……なに?」
「……」
「……おい。なんもねえなら、俺は寝るぞ」
「……貴様は、」
「?」
「貴様はなぜ、世界を救おうとする」
「貴様には関係のない、赤の他人だろう。
それなのに何故、世界を救おうとする?」
ミムエルの発言がーー俺には理解できなった。
「世界を、救う? なんの話だ?」
「なにっ!?」
「どうして俺が、知りもしない赤の他人を助けなければならんのだ?」
俺のその発言にミムエルは怒りの表情を露わにして剣を引き抜く。
そんなこと気にも止めず窓を開き、空を眺めた。
「俺はただ、自分のしたことに責任を取るだけだ」
「……責任?」
「結果はどうあれ、今の現状を作ったのは俺のせいだ。
なら、その責任を取るのは俺でなければならない。そう思うだろ?」
俺があいつに会ったことで、この世界は消える。
その未来を何度も見たからこそ、俺にはその責任を取らなければならない……。
「ーーずっとひとりぼっちなんて……辛いだけじゃねえか……」
「……」
「……だから俺は、俺自身がしたことの責任を取る。
そんなこともできてない奴が、世界なんて救えるなんてできんだろ」
俺の話を聞きいたミムエルは、構えていた剣を下ろし、静かに鞘に収めた。
「貴様の行動は、ディウス様から一任されている。
従えないというのならば、即刻、エンジェリアンから追放とする。よいな」
「わかっちょんよ。おとなしくしてる」
返事聞きここにいる意味がなくなったのか、扉を閉めて出て行った。
それを見送った俺は大きな欠伸をして眠くなったので窓を閉めてベットに横になるのであった。
〜〜〜〜〜〜
「ーー観光、だと?」
「ああ。興味が湧いてな」
翌日。俺は窓の外から見える街の景色を見て、ミムエルにそう申し出た。
ミムエルとしてはあまり俺を外に出したくないのだろうが、することが無くて正直かなり暇なのだ。
「あんたが信頼できる部下やら天使やらを監視につけちょっても構わんけんさ、どうにかできない?」
「……何も面白いものがあるとは思いませんが……わかりました。難しいかもしれないが少しお待ちなさい」
かなり意外と簡単に了承が取れた。
正直絶対にしぶられると思っていたのだが……。
だがこれで観光ができるのなら、少し楽しみだ。
〜〜〜〜〜〜
そして午後ーー
「というわけで、彼女達が、お前の護衛に志願してきた」
「ユ、ユフィリルです! よ、よろしくお願いします!!」
「ミディエルです。お願いします……」
「……」
俺の観光の監視護衛があっさりと見つかったのだが……その護衛のものが昨日助けた女の子達だった。
「……おい」
「仕方ないでしょ。みなあなたに警戒して監視に着こうとはしない。
そんな中でも貴様の護衛をしたいと自ら申し出た彼女達の気持ちを無碍にはできまい」
「……まあ、そういうことでしたら……」
文句の一つでも言おうとしたが、そういう理由なら無理を言った俺の方が悪い。そう思った俺はそれを飲み込んで彼女達に向き直した。
1人……オレンジ色の髪の女の子、ユフィリルは明らかに緊張気味で。もう1人の金髪の女の子、ミディエルは少し不安そうな表情を浮かべている。
「……えっと、今日はよろしく」
「は、はい! ……えっと……ユース、さん?」
「………あ、俺か。
まあ、なんでもいいか。それじゃあ、早速行くとしようか」
「「(どうして自分の名前を呼ばれたのにそんな反応なんだろう???)」」
俺は先陣を切って歩き始め、それに気づいた彼女達は慌てて後を追いかけてきた。
「私たちの住む都市、エンジェリアンは我ら天使が住む街で、この街に天使の殆どは神様の護衛となる天使騎士団に加入するために日々努力しております」
「君らも天使騎士団に入る為に頑張っちょんの?」
「それもありますが……」
「私達は、人間界に降りてみたいんです!」
「人間界に?」
「はい! 人間は私達とは違い、自らの力で街や国を発展させてきました。それはとても美しくて興味の惹かれるものばかり……」
「天使騎士団になると、神様からの指示で人間界に降りる機会があるんです。だからいつか、天使騎士団に入り、人間界に自らの脚で降りてみたいんです」
「……自分から降りよう、ということはしなかったんだな」
「……堕天をしたいとは思いませんから」
「ユースさんはどうして街へ行こうと思ったのですか?」
「たいした理由、というのはないけど……このエンジェリアンの建物は中世ヨーロッパ風の街並みをしているだろう。ほら服装だって。
俺、海外に行ったことないからさ。この中世ヨーロッパ風の建物を生で見たことなくてさ。一度しっかり見てみたいと思っていたんだ」
「なんというか……子供っぽい理由ですね」
「大人みたいな雰囲気なのにね〜」
「う〜ん……。俺、これでも……えっと……ひぃ、ふぅ、みぃ……た、たしか……む、むっつ? ぐらいなんだから、これぐらいの憧れは別におかしくは……」
「6さい!? ほんとう!!?」
「た、たし、か?」
「どうして首を傾けるの?」
「さあ???」
しばらく会話しながら街を回る。
その度に不快な視線を向けられたが2人はそれに気づいていなかったのであえてそれには触れなかった。
「ユースさ〜ん! あそこのお店のドーナツ、すごく美味しいんですよ!!」
そう言うだけ言ってユフィリルはドーナツを買いに行った。
どうやらもう緊張はしていないようだ。
「……いるとは一言も言ってないんだけど……仕方ねえな」
呆れたようにユフィリルの姿を見て諦めてため息を漏らすと隣のミディエルがふふふと笑みをこぼした。
「ユフィリルって、いつもあんな感じか?」
「うん。いつもあんな感じで、男の子とか女の子とか関係なく抱きついたり腕を組んでくるから……幼馴染として、すごく心配」
「その心配はどちらかと言えばお母さん的な心配だな」
「むぅ。それって、私がすっかりおばさん、ってことかな?」
「おっと。そのつもりはなかったが、失言だったかな」
口を尖らせて顔を背けるミディエル。それがおかしくてくすくすと笑う。
視線の先ではユフィリルがドーナツ屋のおっちゃんにドーナツを買おうとこちらを指さして人数を確認させる。
おっちゃんはこちらに視線を向けると、少し顔を顰めた。
ーーああ……またこのパターンか……。
ドーナツを買い終えたユフィリルはそのドーナツを俺達に配り、近くにあったベンチに座り一緒に食べる。
……食べるのはいいのだが……何故俺が真ん中に座ることになったのだろう……。
「どお! ここのドーナツ、美味しいでしょ?」
「……うん。すごくおいしいな、これ」
「へへ〜ん!」
「もう。ユフィリルが作ったわけじゃないでしょ?」
「そうだけどさ〜。やっぱり私がおいしいと思ったものをおいしいって言ってもらえるのって、嬉しいよね」
「まあその気持ちもわかるけど」
「……」
……ごめんな……。俺にはこのドーナツ………ぜんぜんおいしくないんだ……。
このすっかり美味しくない栄養物を口に放り込んで笑みを浮かべる。
味が何も感じないのも、口の中に広がるぐしゃぐしゃな味も飲み込んでひたすら笑みを浮かべて2人と会話を弾ませる。
ーーザザッ
その時、視界が一瞬ずれて木材が降ってくる光景が視線をよぎる。
「ッ!! ごめん!」
俺は慌てて立ち上がり、左右に視線を動かすと、向いた視線の先に矢印が現れる。
俺はそれに従って駆け出した。
「ユ、ユースさん!?」
「ま、待ってください!」
突然駆け出した俺を見て2人もすぐに追いかけてきたが、それを無視して矢印に従って真っ直ぐに目的地に向かう。
そこに辿り着くと既に人だかりが出来ており、その間を割って中央に向かった。
そこには木材に埋もれた小さな子供がーー
「ーー何やってんだ!」
俺の声に家を建設していたであろう者達がびくりと肩を揺らす。
「早く木材をどけろ! この子が死でもいいのか!!?」
俺の言葉に反応して慌てて木材を退け始める男達。
木材の中から少年が出きて駆け寄ると、硬さはあらぬ方向へ曲がり、顔の半分は木材が直撃したのか潰れていた。
(この傷は治療を行っても壊死の可能性も出てくる。
顔だけの治療でも行わないとーー)
「は、早く医療班を!」
「「ユースさん!!」」
「2人とも! 悪いんだけど、身体と顔を支えてくれ!」
俺がそう指示を出すと、2人はそれに従って少年を支える。
少年の意識はあるようだが、とても苦しそうだ。
「ーーニクス!!」
ーーイイッシッシッシッ。代金は、しっかりといただくよう。
「好きにしろ!!」
その言葉を言った瞬間、体がぶれて再び一つに重なると、髪を一つに結んだ薄気味悪い笑みを浮かべる青い髪の女性になった。
「ーーイイッシッシッシッ! 小娘共、そのガキ、しっかり支えておきな」
「……ユース、さん?」
「ユース? あんな詐欺師と一緒にすんじゃないよ。
あたしゃニクス。これでも医者だよ。魔法使いのね。
しっかり支えときな」
「は、はい!」
「おい目。このガキの感覚を共有させな。その方が効率的だ」
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かしこまりました。
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そこからは迅速だった。
少年の骨格を元に戻し、潰れた肉を元に整え、共有された感覚から視力の調整を行い、嗅覚の修正を行い、医療班の来る15分前には少年の顔は傷ひとつなく治療が完了していた。
「ーー修復治療及び除菌完了。
とりあえずはこんなもんだろう」
「……すごい……」
「ついでに脚も見てやる。見せな」
感覚が共有されているニクスはそのまま折れた脚の治療を開始。と言っても足を元の方向に戻し、それを手近にあった木材を使って擬似的なギブスで脚を固定するという単純な作業であるが……。
「折れた脚は変に魔法で治療するとより危険だからね。動かさないように固定して、あとは天使どもに任せよう。
……他に怪我は無さそうだし、ひとまずはこれでいいだろう」
そう言って目を閉じると体ぶれて女性の姿から元の俺の姿に戻った。
ーー追加料金は後払いでいただくよ。
はいはい。わかりましたよ。
「……もう大丈夫だとは思うが、あとは医者が来るまで待とう。これ以上は俺達にできることはない」
その言葉を聞いて2人は安堵の息を漏らす。
と同時に少年がゆっくりと口を開いた。
「お、おねぇ、ちゃん……」
「なんだ?」
「……あり、が、とう……」
「……ただ無視するのが嫌だっただけだ。
無事なら、それでいいよ」
ーー……仕方ないね。少し、負けてやるよ。
そりゃありがたいね。
頭の中に響くニクスの声に感謝しつつ、医療班を待った。
その際共に来たミムエルに感謝されつつも、問題を起こすなとお叱りを受けたのは、また別のお話……。
〜〜〜〜〜〜
「おのれ……おのれ!!」
ユースに敗れたザフラエルは自室にある蹴り壊し、怒りを露わにする。
「この私が、天使であるこの私が! あんな下等な存在に敗北するなんぞ、あってはならない!!
おのれ、おのれおのれおのれ!!」
ザフラエルは地団駄を踏み、怒りに染まった感情を吐き出す。
「ーーザフラエル様」
「……来たか」
「例の物、お持ちいたしました」
物陰から現れた天使が持ってきた物を受け取り、ザフラエルは薄気味悪い笑みを浮かべて声を上げた。
「ハッハッハッ! これさえはあれば……待っていろよ、下等な人間よ!!」
天使から受け取った物を掲げながら高々に笑い始めるザフラエル。
受け取った赤黒い球はザフラエルの手の中でギラギラと奇妙な輝きを放っていた。




