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千里の夜空  作者: 火琉羅
11/20

見た者同士

 あの日から数日経過した。


 彼女達は無事ミムエルの部下の天使が保護した。

 相手をしたザフラエルは他の天使達に連れられて行った。


 俺はあの日、ミムエルに捕らえられ今は地下牢にいる。


(おそらく、俺の話を聞くまで殺される可能性が低いだろう。少なくとも話は聞きたいはずだ。

 それにもし俺が殺される可能性が出てきたのなら……頼んだぜ)


 =====


 かしこまりました。


 =====


 そんな会話していると地下牢の入り口となる扉が開かれてミムエルが姿を現した。


「出ろ」

「やっとか。随分と長かったな」

「減らず口を叩くな」

「へいへい」


 牢屋から出されると真っ直ぐに通る部屋に案内された。


 周囲には見渡す限りの天使達。随分と警戒されたもんだ。


「聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「あのザなんとかはどうでもいいんだけど、あの2人の天使は、どうなった? 怪我とかしてない?」

「なんだそんなことか。2人は無事だ。

 今はここにはいない者に反省をさせているところだ」

「そうか……。あいつがいきなりぶっ放してきたから、心配してたんだけど……2人が無事なら、それでいいや。ありがとう」

「……」

「? なに?」

「いや……」

「???」


 会話が終わるとミムエルは何故がこちらを見てきた。

 理由を尋ねるもあっさりと返事を返して視線を戻す。変な奴。


「お連れいたしました、我が主人」


 そして誰かの前に立つとミムエルは膝を曲げ深く頭を下げた。

 視線を上げるとそこには小さな女の子が豪華な椅子の上に鎮座していた。


「ーーそこな人間、無礼であるぞ」

「ーーあの親子を助けてやらなかった奴の分際に、頭を下げる通りはないな」

「……」


 俺の言葉に女の子は目を細める。


「貴様、」

「無礼は彼女から聞いた。

 それでも……()()()()()()()()は覆らない」

「……」

「約束の為に2つの世界で彼らが生きやすいに()()していても、今の世界の為に犠牲になった事実は変わらない」


 あたりの天使達から凄まじい剣幕を向けられるが構うものか。

 助けてやらなかったこいつらが悪い。


「……。あの2人を救わなかったことは事実です」


 彼女から視線を晒さず睨みつけていると心当たりのあるか威圧する雰囲気から一変、柔らかな雰囲気で語り出しだ。


「我らに届く刃を持つあの親に恐怖し、あの子供に世界を命運を預けてしまいました。

 未だ、彼らの約束が成就されないのは、我らの心残りです」


 彼らの約束には、俺も思うところはある。


「……たった一つの約束を作るだけで、()()()()()理由はあったのか?」

「本当に知っているのですね……。

 ごめんなさい、そういう契約だったの。

 契約が切れれば……その……、彼の寿命はもう既に……」

「そうか……」


 彼女も、あの親子の結末には思うところがあるのだろう。

 他人はどうかは知らないが、それでも、と……。


「……別の話をしましょうか。

 あなたは……あの方を知っているのですか?」

「あの方、ってのがあいつのことを指しているんだったら、確かに知ってるぜ。

 悪かったな、本来なら俺には全く関係ない()()()()()()だったのに……」

「……やはり、あなたは本当に知っているのですね」


 俺の返答にであいつのことを知っている事実を理解するも彼女はとても悲しそうに目を伏せた。


「ーーあなたの話を、聞いてもよろしいですか?」

「別にいいよ。

 ……俺があいつを初めて見かけたのは、本当に偶然だった。

 勝手発動した目が最初から終わりを見せてきたことには、本当に焦ったよ。

 俺はそんなあいつに怒りしか湧かなかった。

 納得いかなかったんだ。だってそうだろう。

 自分が勝手に作ったものを簡単に壊したくせに、それを後悔してるなんて……。

 ふざけるなって話だよな」

「……」

「……いや、違うな。きっとまだあったんだ。なにかあったはずなのに、俺はそれを置いてきたんだ。

 大事だと思っていたのに、()()()()()になるまで見続けてきたのに……、必要ないと切り捨てたんだ」

「あなた……」

「……まあ、今更そんなことを分かっても意味がない。

 話を戻そう。腹が立った俺は、目に頼んで能力を使いまくった」

「頼んで?」

「そういう奴なんだ。うちの相棒は。

 で、使って、使って、使いまくって、あいつに会う準備をした。あいつの身体を見たら、吐き気とか催しそうになったからな。

 でも次第に何やってんだろうって思った。そう思ったらさ、それ以外何も考えられなった。

 ただ理不尽に、自分勝手に、この怒りをぶつける以外のことを考えられなった。

 だから……あいつに会いに行った。



 〜〜〜〜〜〜



 俺とあいつが初めてやっと対面した時……あいつは全然こっちに興味を抱かなかった。

 そりゃそうさ。そこにきた理由なんて自分勝手なんだから。


 だからわざと言ってやった。


「よおクソガキ。

 自業自得で孤独にしか生きられない気分はどうだ?」


 そう言い放つと、あいつは顔を顰めながらこちらを振り返りーー


 ーーシュルッ    パンっ!


 触手を使って頭が吹き飛ばされた。


 ーーパンっ!


 だからビンタでお返した。


 面食らって叩かれた頬を押さえる。


「ーーバカかお前……。

 俺はこの目を使って意識を飛ばしているだけだぞ。

 たかが物理攻撃で死ぬと思うな」


 頬を押さえながらこちらを視線を戻した時、俺は既に元の状態に戻っていた。


「だいたい力だけでしか解決できんとかやっぱりガキじゃねぇか。

 テメェがガキじゃねぇっつんなら、ちったあ頭使え。

 俺よりバカじゃねえだろう」


 そう言って、あいつは初めて俺と視線をあわせた。


「はじめまして、と言っておこうか。

 お互い自己紹介なんざ要らんだろう。

 俺はただひたすらに文句言いにきただけだからな」

「………。◆▲○▼◇◎」

「とりあえず日本語喋れ」



 そのあとは文句を言いまくった。

 あいつの言葉は全然わからんかったけんこっちの独壇場だった。

 ひたすら文句を言って罵って、言いたい放題言ってやった。


 俺の苛立ちの言葉を聞いて次第に自分が罵られていると気づきはじめたんだと思う。

 だからなのか、文句の終わりらへんになるとあいつは俺の言葉を真似して言葉を喋れるようになっていった。


 そこからはただ罵り合い。バカやアホと言った子供の言い合いが続き、難しい言葉なんざ放つことなく、ひたすらに口喧嘩が続いた。


「……」

「はぁ……はぁ……。……。

 ……ぷっ! あはは!!」

「???」


 思いっきり笑った。まったく、今までの怖いとかあれこれとかどうしたんだだと。そう思ったら笑わずにはいられなかった。


「……最初から、そんな嫌そうな顔を浮かべてろよ、バーカ」

「?」


 首を傾けるバカ。

 たく……そんな顔できるなら最初からしたらっての。


「それじゃあな。次来るまでに、まともに言葉を話せるようになっちょけよ」

「……じゃあ……な」


 そう言って目の力を切ろうとする。


「……つ、ぎ……」


 そんな呟きが聞こえながら俺は目を開き、元の場所へと戻ってきた。


 人のいない森の中、目を開いた俺にとある声が聞こえてきた。


 =====


 世界が更新されました。


 覚醒・消滅のパターンが算出された。


 =====



 〜〜〜〜〜〜



「ーーあの日からあいつに会うようになっていくたびに、俺の目は、世界が消える未来を見せるようになった。

 あいつと友人となっていくたびに、消滅した未来しか……」


 きちんときたあの出会いの日のことを話し合えると、目の前の女の子はとても険しそうに息を漏らした。


「……そこでなぜ、ヘブンアクアが必要となるです?」

「……結果言えば、消滅は()()()()()()でしょう」

「ならば必要がないでは?」


 純粋な問いかけに目を伏せ、意を決したかのように思い口を開いた。


「………。消滅()にどうにかできる可能性が、1()()ほどあります」

「……な、なんだ!! その確率は!!?」


 今まで口を挟んでこなかったミムエルが大きな声をあげてこちらに向けて歩き始めた。


「小僧! そんな可能性のためだけに、このエンジェリアンの秘宝を求めるとでも言うのか!!」


 ミムエルは詰め寄り、怒声を上げて自身に向けさせようするが俺は目の前の女の子から視線を晒さず、問いかけに答えようとはなかった。


 なぜならーー


「ーー本当でございますか?」

「俺はともかくとして、俺の眼が出した確率だぞ」

「……ならば、本当に間違いないのですね……」


 女の子は目を大きく開き、驚愕の表情を浮かべながら尋ねてきた問いに俺の眼が教えてくれたと正直に答えると驚いた表情は崩さないまま安堵の息を漏らした。


「……わかりました。

 この度の作戦、あなた様の要望に全て答えよう」

「な!? お、お待ちください、ディウス様!!」

「よいのです、ミムエル」

「しかし……」

「わかっていますーー」


 ディウスと呼ばれた女の子は意を唱えるミムエルの気持ちを理解していた。

 それが発言することができない他の天使達の総意であるということも。


 だがそれでも……


「ですが、この決定を変えることはありません。

 私ですら0()%()()()()()()()()()()()()()のです。

 彼は唯一、我々を生かすことのできる可能性があるです」

「……こんな子供に?」


 ディウスの発見にこちらを睨みつけるミムエル。


 俺は今度はあえて何も答えず、目を伏せる。


「わかってください。私には、たとえどんなことをしてでも生命を生かさなければならないのです」


 ディウスの最後の発言に今度こそ何も言えなくなったミムエルは、膝を突き、深く頭を下げた。

 それを了承と取ったディウスは静かに「ありがとう」と呟いた。

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