いきなり来た押しかけ彼女が雪だるまだったという話
なろうラジオ大賞3参加作品です。
ピンポーン
チャイムが鳴った。何だ何だ。
僕は玄関のドアについたレンズを覗き込んだ。
「こんにちは。雪だるまです。来ちゃいました」
そこには声だけは可愛らしい白い異形のものが立っていた。
(僕は何も見なかった。外には何もなかった)
そう自分に言い聞かせ、足音をたてずに部屋に戻ろうとした僕に次の声が飛んできた。
「そこにいるのは分かっています。無駄な抵抗をやめてドアを開けて下さーい」
僕は極力冷静な声で返した。
「間に合っています。お引き取り下さい」
するとドアの向こうで明るい笑い声が聞こえた。
「またまたー。彼女いない歴30年のくせにー」
僕はこみ上げてくる怒りと哀しみを抑え、淡々と話した。
「それがあなたと何の関係が? お引き取り下さい」
今度はドヤった声が聞こえて来た。
「関係は大いにあります。あなたの人生初の彼女がやってきたのです」
僕の哀しみは増した。30年彼女がいないと雪だるまにまで馬鹿にされるのか。だが、こっちにも意地ってもんがあるっ!
「彼女はほしいです。しかしっ! それは『人間』の彼女です。『雪だるま』ではないっ!」
「またまたー、二次元に獣人の嫁がたくさんいるくせにー」
泣けて来た。何だって急にやって来た雪だるまにこうまで心の傷をえぐられないかんのだ。
「そうしてこの僕を傷つけて何が楽しいのです。お引き取り下さい」
すると雪だるまの声は急に神妙になった。
「あなたを傷つけたい訳がないじゃないですか」
「え?」
「何度も言わせないでください。あなたを好きになっちゃたんです。ドアを開けて下さい」
いっ、いかんっ! ほだされてはいかん。
「そうですか。ならば、あなたを奪うため最終手段に出ますっ!」
そう言うと雪だるまは急に姿を消した。
えっと思っていると僕の部屋の中に姿を現した。
「ギャーッ! 何でだ―っ!」
「フッフッフッ、我が体は全て水分。いったん水蒸気になって、また体を戻したのです。さあっ! 我が愛を受け止めてくださいっ!」
かくて、僕は雪だるまにのしかかられ、そのまま気を失ったのである。
「『地球すげえところに日本人』の時間です。今日はアメリカはアラスカ州の最北端に来ています。何とここに雪の家で暮らす日本人がいます。こんにちは」
「こんにちは」
「凄い家ですね。あれ、この『雪だるま』は何ですか?」
「はっはっは、やだなあ、僕の妻じゃないですか」
「おほほ。面白い方。氷入り水出しコーヒーどうぞ」
「はっ、はあ(ここで氷入りかよ)」