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我が国にSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランク冒険者がやって来ます

作者: 楽市

タイトルで遊びたかっただけの作品です。

 冒険者は、それまでの実績によってランク付けされる。

 最初は底辺とも称されるFランクから始まって、経験を積み、実績をあげていけばそれだけランクは上がっていく。これは、冒険者であれば誰でもそうだ。


 そして、Aランクを超える上級冒険者ともなれば、もはや英雄である。

 街一つを救うような大きな実績を幾度も重ねてきたのだから、その扱いも当然だ。


 ましてやさらにその上、Sランク、SSランクともなれば。

 国家、いや、ともすれば世界規模の事件を解決した、英雄中の英雄だろう。


 権力は持たずとも、その発言力、影響力は国家の重鎮にも優る。

 伝説に名を残し、英雄譚として語られ、その武勇伝は遠き未来に御伽噺となる。


 そんな圧倒的存在感を放つ、選ばれし者。

 それこそが、上級冒険者なのだ。


 では、そんな冒険者の最高峰とは、一体どのような人物なのだろうか。

 これは、そんな誰もが思う疑問への回答となるエピソードである。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 とある大陸中堅国の王宮。

 壮年の国王が、執務室で政務に関する書類を読んでいる最中のことだった。


「陛下! お喜びください、陛下!」


 いきなり、血相を変えた宰相が大声と共に執務室に飛び込んできた。


「何だ、宰相。騒々しいぞ」


 それなりの広さを持った執務室の最奥、執務机の向こうで国王が顔を上げる。

 老齢の宰相は息も絶え絶えに「ぼ、ぼ」と何かを言おうとしていた。


「まずは呼吸を整えるがよい。このままでは死ぬぞ、卿」

「は、ははっ。申し訳もなく……」


 そうして宰相が落ち着きを取り戻そうとしているうちに、国王は書類を読み終える。

 そして、書類を机の上に置いて、彼は宰相に改めて尋ねた。


「それで、何事か」

「はい、陛下、お喜びください!」


 老練、老獪、政治の怪物とまで呼ばれた宰相が、思いっきりはしゃいでいる。

 その事実に、国王はただならぬことが起きたのだと悟り、相手の次の言葉を待った。


「冒険者です。冒険者でございます!」

「ふむ、冒険者が、どうした」


 宰相はなお興奮が収まっていないようで、その言葉は非常に端的だった。

 国王は冷静さを保ちつつ、言外にわかりやすく述べよ、と命じる。


「は、我が国に、上級冒険者が引っ越して参りました!」

「何と、それはまことか!?」


 内心、身構えていた国王だが、その報告に驚きを禁じ得なかった。

 それは当然、根底に喜びを置いた、歓喜の声である。


 一国を統べる者が冒険者風情に何を大げさな、と思う者もいるかもしれない。

 しかし、大冒険者時代とも呼ぶべき昨今、上級冒険者の存在は決して馬鹿にできない、どころか、それを多く抱える国ほど、国際社会で強い影響力を持てるのだ。


 英雄、勇者。

 そのように呼ばれ、持て囃される上級冒険者の人気は、それはそれは凄まじい。

 当然、それだけの人気者なのだから、味方につければ色々と有利に働く。


 一人の上級冒険者の価値は千倍の量の黄金にも優る。

 それは、大陸に名を馳せた、とある大賢者が述べた言葉であった。


 そして、宰相からの一報を聞いた国王にとって、重要なことがもう一つ。

 ある意味では、これが最も大事なことなのであるが、


「して、宰相よ、その冒険者のランクは? 一体幾つなのだ!」


 冷静さを半ば失いつつ、国王は尋ねる。

 そう、大事なのは、その上級冒険者のランクである。


 一般に、上級とされるのはAランク以上。

 そしてこれも当たり前だが、ランクが高い冒険者ほど、周囲への影響力は大きい。


 Aランクでもそれなりに。

 Sランクならば、完全に国家のステータスシンボルとなりうる。

 SSランクともなれば、もはや一人抱えるだけで国際社会での地位が上がる。


 最高位とされるSSSランクとなれば、それはもう国の宝。

 世界規模で多方面に強い影響を発揮する、唯一無二の至宝であろう。

 だからこそ、何より先に確認しなければならない事項だ。


「陛下、よくお聞きくださいませ。我が国に来た冒険者は――」


 真剣な顔つきで臨む宰相に、国王も「うむ」を返して生唾を飲む。

 そして、宰相は真顔のまま言った。



「SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクです」



 国王の動きが止まった。


「……うん?」

「ですので、このたび我が国にSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクの冒険者が引っ越して参りました!」


 聞き返す国王に、宰相は鼻息も荒いまま繰り返した。


「お喜びください、陛下! 彼が我が国に来たからには、もう隣の大国からの嫌がらせを気にする必要もなくなりましたぞ! 思えば、我が国は中堅国と言いつつも隣が国土も広くて軍も強いから、国際的にタカられ続ける日々でございました! しかし、このたびやって来ましたSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクの冒険者がいれば、もうそんなこともなくなるのです!」

「Sの数を言い間違えないのすごいな、卿」


 全く関係のないところに注目する国王。


「いや、違う。そうではないぞ、宰相」

「何がでございますか、陛下! SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクですぞ、SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランク!」


 噛みつかんばかり勢いの宰相を、国王は「待て」と制した。


「待つのだ、宰相」

「は、何でございましょうか?」


 やっと止まってくれた宰相に、若干ホッとしつつ、国王は問いを投げた。


「冒険者って、SSSランクが最高位ではないのか?」

「え、誰が決めたのです、それ?」


 問い返されてしまった。


「いや、だって……」


 と、国王は自分の言葉の根拠を探そうとする。

 すると、そこに大して根拠となりうるものがないことに気づく。

 それでも考えた結果、思いついたものといえば――、


「ほら、大体有名な冒険者ってSSSランクではないか」

「あ~、はいはいはいはい。そうでございましたな、確かに有名な冒険者といえば大体SSSランクでしたな。ハッハッハ、懐かしいお話です」


「卿、すごいな。今、ナチュラルに過去形にしたな」

「当然でしょう! 何せこっちはSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクですからな! 格が! 桁が! レベルが! 次元が! ディメンションが違うというものです!」


「何故、次元を二回言った?」

「景気づけです」


 景気づけらしい。


「う~む、だがなぁ……」


 宰相に話を聞いても、しかしいまいちピンと来ずに国王は難しい顔をして首をひねる。


「どうかなさいましたか、陛下」

「いや、それだけの隔絶した実績の持ち主、ということなのだろう?」


「然様でございます! 是非とも賓客として王宮に招き、この国を気に入っていただかねばなりません! そして隣の大国のやってきたことを余すところなくチクるのです!」

「卿、自らの言葉がどれほどしみったれてるか自覚しているか?」


 でも、多分チクることになるのだろう、と、国王は思っていた。

 だって有効だし。絶対に有効だし。

 国家間の外交とは、言ってみれば大陸規模のガキのケンカなのであった。


「しかし、どうにも疑問が拭えぬ」

「疑問、申されますと?」


 宰相が不審げに言ってくるので、国王は「うむぅ」と唸りつつ腕を組んで、


「それだけの実績の持ち主の名を、私は知らぬ。大冒険者時代真っただ中の今、そんなことがありうるのか? SSSランク冒険者をはるかに超えるランクなのだから、それこそその名は世の隅々にまで轟いていなければおかしかろう?」


 国王の疑問は、誰が聞いてももっともだと思うであろうものだった。

 しかし、宰相は訳知り顔で笑みを漏らし、チッチッチ、と指先を振って応える。


「なっておりませぬなぁ、陛下は。ダメ、その反応はまるで、ダメ」

「お、不敬通り越して大逆罪、いっとくか?」


 宰相はそそくさと指をひっこめた。

 そして、コホンと咳ばらいを一つして、


「いや、かの冒険者の名が知られていないのは、実は事情があるのでございまして、彼は今、名を知られている真っ最中なのでございます」

「ほぉ、と言うと?」


「これまでのSSSランクの冒険者の業績といえば、何を思いつかれますかな?」

「む? 魔王の討伐に、危険な古代の魔法装置の破壊、邪神復活の阻止や大陸最強の邪竜の退治など、いずれも世界規模の危機の払拭であったな」


 と、そこまで答えて国王は思った。


「え、何をやったらSSSランクよりさらに上に行けるのだ?」

「そうでしょう、そうでしょう。そう思われるのも当然ですな。何せ、このたびやってくるのはSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクですからな」

「言っておくけどそれは冒険者であって、卿ではないからな?」


 そろそろ勘違いしそうな気配が見えたので、国王はやんわり釘を刺した。


「で、そのSいっぱいランクの冒険者は、何をしてSいっぱいランクになったのだ?」

「とある農村を救ったのです」


 え、それだけ?

 国王はそう思ったが、宰相はさらに続けた。


「農村を救った結果、その裏に蠢く村長の陰謀を知り、さらに村長を操っていた古代遺跡に潜む悪霊を倒したはいいものの、そこに安置されていた謎の石板を巡って大陸最大国家所属の暗殺部隊に所属していた暗殺者と戦って、暗殺部隊と因縁ができ、しかも戦った暗殺者がかつて生き別れた姉で、互いに思うところはありながらも敵対して、やがてその戦いの中で訪れたエルフの里で人とエルフの異種間の問題に遭遇し、これを解決。そこに住んでいた人とエルフを衝突させ、共倒れを狙っていた黒幕の行商人を倒したら、その行商人が例の暗殺部隊の隊員で、しかも生き別れの姉の恋人だったという悲劇的展開。もはや姉弟の溝は埋め難いところにまで深まり、エルフが崇めていた神獣が住むという火山に眠っていた二枚目の石板を巡る戦いで、再び姉と対峙してこれを下し、結果、姉は火口に落ちて行方不明。しかも、それがきっかけかは不明ですが火山は噴火して、エルフの里は壊滅。しかし、それはエルフが新たな旅立ちをするきっかけとなり、最終的には平和的に解決して、舞台はいよいよ大陸最大国家へ。着々と大陸征服のための侵攻の準備を進めていたその国の王都で、ふとしたきっかけで反乱軍に協力することになり、しかもその反乱軍の首領が実は真の国王で、今、玉座についているのは王に成り代わった魔族であることを知り、さらにはその魔族が三枚目の石板を有していることが判明。この石板はどうやら魔族にとって重大な意味を持つものであることもわかり、ついに大陸最大国家の野望を打ち破るための決戦に臨み、そこで姉が所属していた暗殺部隊の隊長と交戦。その隊長は姉にとって育ての親であることを知り、やりにくさを感じながらもこれを撃破。隊長から死に際、姉が生きていることを告げられ動揺するも、今はこの国を救うことを第一に考えて迷いを振り切って偽国王との決戦に臨み、これを打ち破って真の国王に国を返すことに成功。そして三枚目の石板を手に入れて、その石板が六枚集めることで世界を滅ぼす力を発動させられる魔法装置のキーであることを知り、全ての石板を集めて破壊することを決意。同じく石板を集めている魔族の本拠地である暗黒大陸に渡り、そこで魔族四天王を名乗る強大な力を持った魔族に一度は敗れるも、その敗北によって得た経験から新たな力に目覚めて二度目の対決では勝利し、四枚目の石板を獲得。しかし、次に現れた四天王の二番手が姉そっくりで、もしやと思っていたら実は本当に姉で、生き残っていたのはいいけど記憶を失っており今や完全に魔族側に立っているという、これまた悲劇的展開。そして五枚目の石板を巡る戦いで追い詰められたところを、暗黒大陸に渡ってきたかつて救ったエルフに助けられ、五枚目の石板は奪われるも四天王の三人目を撃破することに成功。ですが何の運命のいたずらか、その三人目は記憶を失った姉を助けてくれた恩人だったのです。それを知り、姉は記憶を取り戻すも、憤怒に囚われて一瞬の隙をついて四枚の石板を奪取。結果、六枚中五枚を魔族側に奪われるという事態に。世界の滅びを止めるためには六枚目を渡すわけにはいかないという決意をもって、暗黒大陸最大のダンジョンにて六枚目の石板を巡り魔族と対決し、四天王の四人目を倒して六枚目の石板を入手することに成功。しかしそこでついに姉と再会し、戦うことに。その最中、姉の泣き落としによる不意打ちをくらって腹を貫かれ、しかも石板まで奪われてしまうという結末に。いよいよ魔法装置は発動し、世界の滅亡が始まろうとする中、エルフから姉を殺す決意を問われ、覚悟を決めて魔族の本拠地である魔王城にて最終決戦となり、突入してみれば何と魔族の首魁である魔王は姉に殺されており、姉は魔法装置の力を全て己に注いで世界を滅ぼす存在となってしまい、ついには自らの手で姉を討ち、暴走した魔力によって次元のひずみに呑み込まれて人型機動兵器なるものが戦争の道具に使われている別の世界に飛ばされ、そこで衝撃の新展開、地球連邦政府軍のエースパイロットとして活躍――」

「長いわッッ!!?」


 さすがに、国王は止めに入った。


「ジャンル! ジャンル変わってるではないか!」

「新展開ともなれば、やむなしかと」

「テコ入れにしてもさすがに急角度過ぎるわッッッッ!?」


 国王の言い分は、これまたもっともだった。


「ちなみに、ここまでで八分の一くらいです」

「壮大すぎるのだが?」


「この先、さらに飛ばされた別の世界で姉そっくりの少尉との出会いが――」

「もう姉はいいから。おなかいっぱいだから」


「最終的には宇宙を根底から調律する存在となってこの世界を再構築し――」

「神じゃーん、神っぽい何かになってるじゃん、それー!」


 国王のキャラが壊れた。


「と、まぁ、そんなワケで神っぽい何かになった彼が最近ようやくこの世界に戻ってきて、冒険者ギルドに報告をよこしてきたので、ギルドは彼をSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクの冒険者として認定した、というワケでございます」

「なるほどなー」


 聞けば納得の――、いや、むしろS少なくない? とも思える冒険譚であった。

 そして、ここまで聞いて、国王に新たな疑問が一つ浮かぶ。


「で、その彼だが、何故我が国に?」


 これもやはり、当然の疑問。宰相はこくりとうなずき、


「それにつきましては、すでに聴取済みでございます」

「ほぉ、さすがは宰相。しみったれてはいるが有能だな。して、理由とは?」


「はい、彼はただ一言だけ」

「うむ。何と?」


 そこからたっぷり間を取って、宰相は言う。


「生きるのに疲れたから、と」


 ああ、ここからはスローライフモノが始まるのだな。

 そう思いながら、熱くなる目頭を押さえずにはいられない国王であった。

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