六口目
「目玉焼きと言えば、ハンバーグだろう」
隊長は豪快に笑う。
ハンバーグの上には目玉焼き。それが世界の常識だ。『しょうゆ』軍や『塩こしょう』軍、『ソース』軍などに、いつまでも大きな顔をさせておくつもりはない。
「俺たちには、この機動要塞がある!」
北の国境は雪が深く、徒歩での進軍は厳しい。
だから、用意した。移動する要塞。
要塞外側の鉄板には、職人の確かな技術が詰まっている。おかげで、防御面は完璧だ。他の軍など恐るるに足らず。
ところが、この進軍は神々の怒りを買ってしまう。目玉焼きの「上」に、ハンバーグが出しゃばるんじゃない!
突然の猛吹雪が、機動要塞を襲う。寒さ対策はしてきたつもりだったが、その想定を上回る大寒波だ。
たちまちの内に、要塞内の動力炉は大混乱に陥った。
「大変です! 強火にしているのに、弱火のパワーしか出ません!」
「おかわりの燃料は、まだ用意できていないのか!」
「ひとまず、つけ合わせのポテトで時間を稼ぐぞ!」
ひたすら奮戦するものの、さらに吹雪が勢いを増した。
マイナス五〇度である。ニンジンで釘が打てる気温だ。
機動要塞外側の鉄板が、急速に熱を失っていく。
「このままでは俺たち、冷凍ハンバーグです!」
部下たちの悲鳴に、隊長は苦渋の決断をするしかなかった。
「撤退だ! 全速力で撤退しろ!」
機動要塞が北の国境線から離れていく。
「次は電子レンジが必要だな」
隊長はぼやく。
こうして『ハンバーグ』軍が撤退している頃、南東の国境では、ついに『塩こしょう』軍が前進を開始した。