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第八章〜伝えたい気持ち〜

「ねえ、レイ。昨日からどうしたの? 元気ないじゃん」

「何でもない」

 朝のジョギングから戻ってきたレイに話しかける。レイは昨日からろくに食事を取らず、話しかけてもそっけない返事を返すだけだった。

「なあ、アルシア。話があるんだ」

「何?」

 リアは今日は友達と旅行に行っているため、部屋にはレイと二人きりだ。テーブルを挟んでレイと向かい合う。

「アルシア……いや、アリス。頼みがある」

「え……? アリス? 今、なんて……」

「アリス・エインズワース。これがお前の名前だろう? 知ってるよ」

 何でレイが知っているのだ。わたしは一度も教えてないのに。

「なんで、知ってるの?」

「昨日、竜王から教えてもらった」

「そう……じゃあ、わたしの身分とかも全部ばれちゃったんだね。……軍には連絡したの?」

「してない。お前には、その指輪を貸してもらいたい。返せる保証はないけどな」

「指輪を?」

「それ、風を操れるんだってな。それが必要なんだ。この世界を守るために」

 話についていけない。確かにこの指輪は風を操ることができる。だが、それでどうやって世界を守るというのだ。

「これ」

 レイが新聞をテーブルに広げた。内容は、西大陸が魔物を呼び起こした、と書かれている。

「西大陸が、リヴァイアサンを呼び起こしたんだ。こっちに誘導してきてる。たぶん、今日中には雨になる」

「ちょっと待ってよ。それと指輪がどう関係あるの?」

「竜王から個別に命令を受けた。明日、リヴァイアサンから大陸を防衛するための任務が遂行される。おれはその最中、世界樹に向かう。その指輪の力で魔法の雲を吹き飛ばして、結晶の力でリヴァイアサンを封印する。……だから、指輪が必要なんだ」

「そんな……危険な任務なんでしょ? 何でレイが……」

「お前から指輪を預かれるのはおれだけ、と判断したらしい。もしこの計画が無理なら、おれも戦闘に参加する」

 指輪を渡さなければ、レイが危険な任務に参加する。なんとしてもそれは避けたい。

「どれくらい危険なの?」

「みんなが敵の注意を世界樹からそらしてくれれば安全だ」

 そんなにうまくいくだろうか。敵にも腕利きのパイロットはいるし、リヴァイアサンがどのくらい強力なのかも分からない。それでも、戦闘に参加するよりはましだろう。

 しばらく熟考した。頭の中で情報を整理する。正体がばれたのはどうだっていい。今は指輪についてだ。

「いいよ。指輪持ってって。……でも、絶対帰ってくるよね? また一緒に海に行けるよね?」

「ああ。約束する。まあ、おれが墜とされることはねえさ」

「……うん」

 指輪をレイに手渡した。レイは笑っている。だが、その笑みが無理して作っているように見えて、それがアリスを心配にさせた。

「今まで嘘ついててごめんね。いつか言おうと思ってたんだけど、言い出せなくて」

「別にいいよ。おれ、明日の任務の準備してくるから」

「うん」

 レイは部屋から出て行った。偽名を使っていたことがばれたときはどうなるかと思ったが、大丈夫だったようだ。

 窓の外に目をやると、厚い雲が空を覆っていた。リヴァイアサンの影響だろうか。

「大丈夫よ、きっと」

 自分を励ます。レイも安全だと言っていたし、きっと無事に帰ってくるはずだ。



 翌朝レイは、荷物を持って朝早く家を出た。まだ時間があるが、散歩もしたいらしい。玄関でレイを見送ると、パジャマ姿のリアが起きてきた。

「おはよ、アルシ……アリスさん」

「おはよう。レイ、雨なのに散歩に行ったよ。これから任務なのに」

 リアが黙り込んだ。玄関に沈黙が流れる。

「ねえ、アリスさん。お兄ちゃんの任務について、何か聞いた?」

「重大な任務って言ってたけど、大丈夫だって」

「どこに行くの?」

「世界樹だって」

 リアが慌てて部屋に駆けて行った。後を追ってはいると、リアが新聞を凝視している。

「ねえ……世界樹に行くって……リヴァイアサンを封印するの?」

「そうよ」

「じゃあ、危ないよ」リアの声は震えていた。「リヴァイアサンの影響で、世界樹の近くはひどい嵐だって……」



 リアの言葉を聞いた瞬間、反射的に身体を動かしていた。エプロンをはずし、傘も持たずに外へ飛び出る。雨の中、びしょびしょになりながら走った。まだ基地に行くには時間がある。だとしたら、レイはどこに向かうだろう。広場の中心で立ち止まり、考える。

 ――海

 レイは、あの海岸に行ったのではないか。

 その考えは、確信に変わっていった。レイはきっと海にいる。

 水溜りを踏み越え、ときどき足を滑らせながらも走り続ける。濡れた茂みを掻き分け、泥まみれになって走り続ける。

 もう一度、レイに会いたい。会って一言言いたかった。

 どうしても、彼に伝えたい気持ちがあるのだ。

 



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