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第六章〜アリス・エインズワース〜

アリス・エインズワース

 

 レイは思わず足を止めた。家までまだ距離がある。早く帰って三人分の朝食を作らなければならないのだが、それでも、先ほど買った新聞の内容は衝撃的だった。

「そんな……都が……」

 新聞には、昨日の戦闘について載っていた。西の最新型戦闘機に対し、まったく歯が立たなかったという。まんまと防御網を突破した爆撃機は、王城周辺に爆弾の雨を降らし、壊滅的な被害を与えたらしい。国王と王子は無事だったが、王女が重傷を負い、現在治療中。



「どうしたのお兄ちゃん? 具合悪いの?」

「いや、何でもない……」

 目の前にはトーストとサラダ、豆のスープが並んでいるが、トーストを少しかじっただけで他は全く手をつけてなかった。

「レイ、ほとんど食べてないじゃない」

「ああ。……後で食べるからいい。少し休んでくる」

「……そう」

 椅子から立ち上がる。暗い雰囲気になってしまった部屋から、少しでも早く立ち去りたかった。部屋を出ようとすると、頭の中に声が響いてきた。

 ――レイ・フロックハート。聞こえるか? アドルファスだ。休みのところすまないが、竜王様が昨日のことについて話があるそうだ。他の基地からも腕利きのパイロットたちが召集された。八時に基地に集合。遅れるな。

 声はそこで途切れた。おそらく昨日レイが使ったのと同じ魔法だろう。そういえば大佐は広場の近くに住んでいたはずだ。

 今の言葉について考えをめぐらす。竜王が来ると言っていた。つまり、それほど重要な内容ということだ。

 竜王。

 東西の大陸の間に位置する島には、幼体から成体まで、多くの竜が生息し、世界中を守っている。竜は人語を話すことができ、今回のように人と会って話をすることもある。その竜たちを束ねるのが竜王だ。

「どうしたの?」

 立ち止まっていたからだろう。アルシアが心配そうに声をかけてきた。

「何でもない。ちょっと基地に行ってくる。会議だけみたいだから午前中には帰ってこれる」

「そう……行ってらっしゃい」

 部屋に行って飛行服に着替え、外に出た。空は厚い雲に覆われていた。悪い予感がする。



 基地に着くと、すでに多くのパイロットたちが一箇所に集まっていた。落ち着かない様子でうろうろしている者が多い。服装をチェックして集団に加わった。

 何もすることが無くつっ立っていると、集団の一部からどよめきが起こった。空を指差している。レイもつられて空を見上げた。

 ――あれが竜王か。

 鉛色の空に真紅の翼が羽ばたいている。風をまきこしながら徐々に降下してきた。

 全身が真紅の鱗に覆われていて、首と尾は長く、鳥とは比べ物にならないくらい大きく力強い翼を持っている。ずしん、と地面に降り立った。

「人間の諸君、急な願いであるにもかかわらず集まってくれたこと、感謝している」

 竜王は威厳に満ち溢れた声で話し始めた。

「昨日の西大陸の奇襲の際、西は新型の戦闘機を使ってきたとのことだが、あの飛行機は……竜の幼体の鱗を魔法で加工して造られている。竜の幼体の鱗は軽く、魔法で強度を上げることによって、高い性能を獲得している」

 全体がざわめく。竜の鱗から戦闘機が造られるのは初めてのはずだ。だが……

「竜の鱗から造られているということは、西大陸に幼体を売ったのですか?」

 竜王の近くにいる一人が質問した。竜王が言いづらそうに口を開いた。

「やつらは戦闘機のために、幼体の竜たちを殺し、持ち帰ったのだ。それに抵抗した者たちも皆殺しにされた。竜の一族は今、壊滅的な状況にある」



「そこの少年。話がある。来なさい」

 暗い話が終わって解散したあと、竜王に呼ばれた。なぜ自分が呼ばれるのだろう」

「何でしょうか」

 目の前に立つと、改めてその巨体に驚く。鼻息一つで飛ばされるのではないかと思った。

「先日君が助けた少女についてだ」

 周りに誰もいないことを確認する。聞かれてはまずい話になりそうだ。

「なぜそれをご存知で?」

「ふん。あの少女には我々も注目していた。あの子は、世界中の頂に上るための鍵を持っている」

「鍵?」

 世界樹の頂には、願いをかなえる結晶があるとされている。飛行機械の発明された現代なら、その頂にたどり着くのは簡単なはずだった。だが、いくら高性能なものを発明しても、頂にたどり着くことはできなかった。

 なぜなら、頂上付近は常に分厚い雲に覆われていて上が見えず、中に入ったとしても魔法がかけられているらしく、すぐにもとの場所に戻ってしまうとのことだった。

「あの頂上の雲をどかすには、強力な風で吹き飛ばす必要がある。その強力な風を引き起こすことのできる道具を持っているのだ」

 道具。流されていたアルシアは、道具なんて持っていなかった。

「なんだ、何も聞いてないのか。指輪をしていただろう? 翼のかざりがついたやつだ」

「指輪?」

 そういえば、指輪をしていたような気がする。

「あれにはとてつもない魔力がこめられている。風を自在に操ることができるのだ。その風で雲を吹き飛ばし、頂に上る。王子が結婚したがっていたのもその指輪が欲しかったからだ」

「? 待ってください。王子が結婚を望んでって……それは、アリス・エインズワース嬢のことでしょう?」

 竜王は不思議そうな顔をした。何を言ってるのだ? とでも言いたそうだ。

「何を言ってる? あの少女はアリス・エインズワース。アルシアというのは偽名だ。知らなかったのか?」

 

 

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