第十三章〜光る風〜
光る風
世界樹の頂は、切り株のように平らで、驚くことにきれいな石畳だった。かなりの面積がある。ゆっくりと降下し、着陸した。石畳の強度に不安があったが、魔法でもかけられているのか、十分な強度があった。
「はあ、はっ……」
飛行服は、右腕の部分が真っ赤に染まっていた。たくさん血が流れたせいだろうか、意識が朦朧とする。風邪の影響もあるかもしれない。そういえば、熱が上がった気もする。
何も無い石畳を、中心に向かって歩いていく。途中何度もふらついたが、気力を振り絞り身体を動かした。
しばらく歩き続けると、ようやく目当てのものが見えてきた。
「すげぇ……」
思わずつぶやいた。自然と歩が早まる。
願いをかなえる結晶は、虹色に輝いて辺りを照らしていた。下の部分は地面に埋まっていて、三メートルくらいが飛び出している。
(若き空の英雄よ)
結晶まであと五メートルほどまで来たところで、頭の中に声が響いてきた。
(我が名は神竜)
辺りを見渡すがそれらしき姿はどこにも無い。と、結晶の中に白銀に輝く竜の姿が映っていた。
(そなたの願い、三つかなえてやろう)
次の瞬間、結晶が輝いたかと思うと、ボーリング玉サイズの光の球体が三つ、結晶の周辺に現れた。一つがレイの前によってくる。
(一つ目は?)
「リヴァイアサンが、二度と呼び出されることが無いように、封印してください」
目の前の球体がはじけ、虹色の粉になって舞い散った。陽の光を反射して輝く。
リヴァイアサンの付近にいたパイロットたちは、我が目を疑った。
暴れ狂うリヴァイアサンが急におとなしくなったかと思うと、一瞬輝き、次の瞬間には姿を消していた。
二つ目の球体が目の前によってくる。
(二つ目は?)
「人々の心に平和をもたらし、この戦争を終結に導いてください」
球体は再びはじけて虹色の粉になり、辺りに降り積もった。
両大陸の軍人たちは、己の急な心情の変化に驚いていた。急に戦争が醜く思え、両大陸は互いに、停戦を提案する文書を書き始めた。
三つ目の球体がよってくる。
(三つ目は?)
「え、と……」
全く考えていなかった。何を願えばいいのだろう。そうして考えているうちに、眩暈が酷くなり、立っていられなくなった。地面に崩れ落ちる。
「はぁ……はっ、はぁ」
ぼろ雑巾のような身体を引きずり、結晶のもとまで移動する。結晶に背中を預け、目の前の景色を見た。指輪の力を使う。
柔らかな風に舞い上げられた虹の粉が、レイの周りを光で包んだ。光る風に包まれて、穏やかな気持ちに浸る。しかしレイは、目の前の美しさに目を奪われながらも、最後の時を覚悟していた。
――おれは死ぬのか。
そんなことを薄れていく意識の中で思った。
――アリスとの約束、果たせなかったな。
こんなに美しい景色を見ながら死ねるのだから、このまま死ぬことにあまり後悔は無い。
ただ、アリスとの約束を果たせないのが心残りだった。
意識が薄れていく。視界が涙ににじみ、フェードアウトしていく。虹色の光の中に、アリスの姿が浮かんだ。
――アリスに会いたいな。
最後の瞬間、そう願った。
虹色に光る風の中で、ゆっくりと目を閉じた。