第十二章〜リベンジ〜
リベンジ
「?」
世界樹の頂に向けて、ゆっくりと上昇していく。世界樹の三分の二あたりまで上ったところで、背後から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「ん?」
ゆっくりと後方を振り返る。そこには、高速で接近してくる追尾ミサイルと、西の戦闘機。
「何でここに!?」
自分以外のパイロットは皆、リヴァイアサンの付近で交戦中のはずだ。何でこんなところにいるのだろう。
「ちっ……」
今はそんなことを考えている場合ではない。ミサイルはすぐそこまで来ている。舌打ちし、スロットルを押し上げた。
急激に加速し、身体が座席に押し付けられる。体調の影響もあるのだろう。吐き気がこみ上げてきた。歯を食いしばり、操縦かんを倒す。世界樹に向かって急降下する。追尾ミサイルはレイの後を追って来た。徐々に接近してくる。
「くっ……」
指輪を見た。成功するかは分からないが、これしかない。目の前に世界樹の巨大な幹が迫ってきた。タイミングを計る。
「いっ……けぇぇ!」
操縦かんを力いっぱい引く。同時に指輪の力を使った。強力な風に押され、激突寸前で急反転した。
この急な動きに完全に反応することはできないらしく、ミサイルは世界樹に激突し、爆発した。砕けた幹の欠片が飛び散る。
「よし……」
ミサイルが爆発したのを確認し、安堵した。が、すでに敵が接近してきていた。
「しまっ」
銃撃音が響き渡る。とっさに操縦かんを倒し回避を試みるが、かわしきれずに被弾した。主翼に小さな穴が開き、風防が砕けた。破片が飛行服を裂き、腕に突き刺さる。痛みに顔をゆがめた。
「う……」
とにかく敵から離れようとする。だが、相手は引き離されずについてきて、徐々に接近してくる。
操縦かんを押し倒し、急降下する。敵はピタリと後を追ってきた。猛スピードで降下していく。敵はさらに近づいてくる。このままでは撃たれる。そう判断し、ミサイルをかわしたのと同じ方法をとった。操縦かんを引き、強風に押されて急上昇に転じる。
「これでどうだ……?」
吐き気をこらえながら振り返る。さすがにこれに反応するのは難しいだろう。だが敵は離されること無く、接近していた。
「マジかよ」
指輪の力を使う。強力な上昇気流に押し上げられ、機速が上がる。急速に上昇しながら考えた。
あの腕前。相手はもしかして、ライ・フロックハートなのではないか。
「……はっ。それなら丁度いい」
――リベンジだ。
口の中でつぶやく。操縦かんを引き、垂直に近い角度で上昇していく。敵の機速が上がり、再び距離がつまり始める。機銃を放ちながら接近してくる。機体に掠めた弾丸が、ガンガンと嫌な音を鳴らす。
機体にも身体にも、限界が近づいている。視界が霞み、意識が朦朧としてきた。
――次で決める。
きっと敵は、確実にしとめるために追尾ミサイルを使うだろう。
背後に意識を集中し、敵の気配と殺気を感じ取る。カウントを開始した。
三。引き金に指をかける。息を引き取った母の姿が浮かんだ。
二。相手が引き金を引こうとするのを感じる。かつて、家族が幸せだったときの父の笑みが浮かんだ。
一。指輪を見る。滑走路で見たアリスの泣き顔が浮かんだ。
これが成功するかは分からない。相手が反応することも考えられる。その場合、次の瞬間ミサイルの餌食になるだろう。でも、
――やるしかない。
「守りたいものがあるんだ」
スロットルを絞る。操縦かんを引く。指輪の力で向かい風を吹かせる。限界寸前の機体は、強力な向かい風に軋み、ぎしぎしと音を鳴らす。何も無い空に向かって、引き金を引く。敵が追尾ミサイルを放つ。機体は、反動で後方に反転し真下を向いた。風に押され、急降下する。こちらに反応したミサイルが下を向く。レイとミサイルの間には敵機。
後方を振り返った。敵機は自ら放ったミサイルに当たり、炎に包まれた。爆発し、破片が飛び散る。
水平飛行に移り、そこからゆっくり上昇していく。墜ちていく敵機の残骸を見ると、敵のパイロットはやはり父だったのではないかと思えてきた。
「じゃあな、親父」
目的の達成はもうすぐだ。朦朧とする意識の中に、あのころの父の姿が浮かんだ。