第十一章〜輝く未来〜
輝く未来
世界樹の付近。ここもすでに、リヴァイアサンの影響で雨が降り続いていた。今頃、東大陸空軍の精鋭たちが、リヴァイアサンの侵攻を食い止めようとしているだろう。皆が無事に生き残るとは思えない。きっと、何人も犠牲になるだろう。少しでも犠牲を減らして、リヴァイアサンを封印しなければならない。
目の前に聳え立つ巨木に目をやる。頂上付近は分厚い雲に覆われていた。ただ雲に突っ込むだけでは、魔法のせいで元の場所に戻されてしまうらしい。
「でも、これがあれば……」
左手にはめた指輪を見る。翼の形の装飾がきれいだった。この指輪の力で雲を吹き飛ばし、頂まで上ればいいだけだ。まだ体調は優れないが、早く任務を終わらせて休めばいい。
操縦かんを引き、ゆっくりと上昇していく。指輪に意識を集中した。強力な風で雲が吹き飛ぶようすをイメージする。もともと魔法は苦手だが、初歩的なものは使える。使い方は地上で練習してきたから大丈夫だ。呪文をつぶやく。
「偉大なる神竜の眷属。大気を司りし、大いなる風の精霊たちよ。今ここに嵐を呼び、我の妨げとなりし障壁を消し去りたまえ」
呪文を唱え終えると、機体が揺れるのを感じた。烈風が吹き抜ける。頂を守り続けていた雲が割れ、日差しが降り注いだ。
「よし」
方向を修正し、雲の切れ間に向かって飛ぶ。レイは、このまま行けば無事に終わるだろう。輝く未来はすぐそこだ。
あくまで、このまま行けば、だが。
「暇だ」
短くつぶやいて引き金を引いた。弾丸が空を裂き、敵の尾翼を打ち抜いた。
暇だった。敵が弱すぎる。リヴァイアサンを守るのが目的の任務だが、追尾ミサイルなど使うまでもない。大半の敵はリヴァイアサンにたどり着く前に撃ち落し、運よくたどり着いても、その圧倒的な力に気おされ、絶望し、尻尾の一振りで砕かれる。
「おい、聞こえるか?」
僚機に無線を入れた。すぐに返事が返ってくる。
「どうしました?」
「しばらくここを離れる。あんな雑魚どもお前らで充分だろ」
「は?」
「じゃあ任せた」
「ちょ、ちょっとリーダー?」
無線を切る。ゆっくりと旋回し、進路を世界樹のほうに向けた。たまには息抜きもいいだろう。あの巨木には不思議な魅力を感じる。前はよく行ったが、最近は見に行く暇がなかった。
鼻歌を歌いながら飛び続ける。世界樹の付近も雨が降り続いていた。久しぶりに見る世界樹は、やはり不思議な魅力を感じさせた。
「なんだ?」
何かが気になった。注意深く世界樹を眺める。と、いつもと違う部分が一つ。
「雲が……無い?」
常に頂上付近を覆っている雲が無くなっている。それはつまり、頂を守る魔法が消し飛ばされていることを意味していた。
そしてもう一つ。
ゆっくりと、晴れ渡った頂に向けて上昇していく機体が一機。東大陸の戦闘機だった。
「まさか、雲が飛ばされるなんて。リヴァイアサンを封印するつもりか?」
何らかの魔法で雲を飛ばし、結晶の力でリヴァイアサンを封印しようとしているのではないか。
「ちっ……」
面倒なことになった。せっかく息抜きするつもりが、こんなことになるなんて。
「いや、待てよ……?」
所詮東大陸のパイロット。撃ち落すのは容易いだろう。機体の性能を考えれば、今からでも追いつける。撃ち落してから、自分が結晶の力を横取りすればいい。リヴァイアサンを自分だけのものとし、完全に支配する。そうすれば、西も東も壊滅させ、自分が頂点へと……。
「ラッキー」
チャンスだ。この世の全てを手中に収める。天は常に自分の味方だ。
スロットルを押し上げ、敵機を追って飛んでいく。武器を機銃からミサイルに切り替えた。
「この世は……おれのものだ」
世界は今、自らの手に収まろうとしている。輝く未来はすぐそこだ。
微笑み、引き金を引いた。