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「さて、この後はどうするのかな」
テオドルはヘンリエッタを見て笑った。
あれから半月が経った。あの日屋敷に戻って来たヘンリエッタの父である公爵は予想通り怒り心頭だった。元々公爵は貴族では珍しく妾などをつくるのを毛嫌いしており、ヘンリエッタの母だけを愛し大切にしている。故にアンベールの様な人種は絶対に赦せず、それに加え愛娘を侮辱されたと…それはもう鬼の形相だった…。
無論婚約破棄は当然であり、アンベールの家への援助も打ち切った事により家は急速に傾いた。アンベールは勘当され屋敷を追い出されたらしいが…その後の行方は不明。
正直生まれた時から公爵令息嫡男として育てられてきたアンベールに、自力で生きていく能力があるとは思えない。もしかしたらその辺りで行き倒れているかも知れない…。
だがヘンリエッタは同情などは一切しない。自業自得だ。最後の最後に全てオルガに罪を擦りつけようとした時には呆れるを通り越してアンベールへの感情は無になった。
所謂、興味がないということだ。言うならばその辺に落ちている石ころと変わらない。いやまだ石の方が興味がある。
まあ、もうそんな事はどうだっていい。それより今のこの状況だ。テオドルがまた屋敷を訪ねて来た。そして自分の部屋の如く寛ぎお茶を擦り焼き菓子を食べている。呆れるが、慣れた。慣れとは怖いな…と実感する瞬間だった。
「どうする、とは…」
「君はアンベールと婚約破棄をしたよね」
「まあ、そうですね…」
「でもヘンリエッタ、君は年頃の娘なんだよ。その歳で婚約者がいなくて、結婚をしていないのは不味い」
テオドルの意図が分からない。何故改めて念を押すのだろうか。そもそもそうなる様に手を貸したのは彼である。…一体何を言いたいのだろうか。そんな風に言うならば何故婚約破棄を後押しする様な事をしたのか。…謎過ぎる。
「だからね、君は僕と結婚するしかないね」
「へ…」
まさかの展開にヘンリエッタは変な声を上げてしまう。誰が誰と結婚?テオドルと自分が?ヘンリエッタは目を見開きながらテオドルを凝視していた。
異様に顔が熱い。多分今顔が真っ赤なトマトの様になっているだろう。心臓も煩いし脈がはやくて逆に止まりそうだ。
「ヘンリエッタ」
テオドルはいつになく真剣な面持ちで、ヘンリエッタの前に跪いた。
「僕は君だけを幸せにすると誓うよ。浮気などしないし、愛妾も絶対につくらない。だから僕だけのヘンリエッタになって欲しい」
「テオドル、様…」
正直凄く嬉しい。だがアンベールの事もあり躊躇われる。テオドルの言葉に嘘があるとは感じないが、人の気持ちは変わるものだ。将来テオドルが浮気をしないとは言い切れないし、そもそも第2王子であるテオドルには1人や2人の愛妾は不可欠な気もする。
もし、本当にテオドルの妻になったとして。もしもテオドルが本当に浮気も愛妾もつくらなかったとして…もしも自分が子を成すことが出来なければ…。
ヘンリエッタは先の未来を想像し、テオドルから顔を背け俯いた。
「大丈夫だよ、ヘンリエッタ。君の不安は絶対に杞憂に終わる。僕が保証する。僕は子供は嫌いじゃないけど、もしも出来なくてもそれで良いと思ってる」
ヘンリエッタの心を読んだ様な言葉に弾かれたように顔を上げる。
やっぱり変わった人だ。
「だから、僕と結婚してくれるよね?」
ヘンリエッタは微笑み差し出されたテオドルの手を取った。
「ご随意に…」




