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「へ、ヘンリエッタ?それは何の冗談なんだ。君はあんなに私を心配して何時も気にかけてくれていたじゃないか…」


アンベールは縋るような目でヘンリエッタを見ていた。


「ごめんなさい、アンベール。あれね、演技なの」


笑顔でそう答えるヘンリエッタを見てもアンベールは信じなかった。


「て、テオドル殿下にそうする様に強要されているんだ…そうに違いない!」


「アンベール、君現実を見なよ。僕がそんな卑劣な事する訳ないだろう」


ヘンリエッタは流石に呆れて言葉が出ない。そもそも元を辿ればアンベール自身がオルガと浮気をし、あろう事かヘンリエッタを邪魔と考え殺そうとまでしていたのに…ヘンリエッタがその事を知らないと思っているにしても、何ともおめでたい人だ。


「いや、絶対にそうだ!ヘンリエッタ、大丈夫だ。私が君を殿下の魔の手から救い出してみせる」


アンベールの妄想はどんどん膨れ上がっていく。流石にここまでくると、ヘンリエッタだけでなく呆気に取られているオルガすらどん引いていた。


「あー…強ち間違いではないかな」


「テオドル様、冗談はよして下さい!アンベール、貴方大丈夫?私はテオドル様に強要などされていないわ。ただ浮気をした貴方やオルガが赦せなかった…それだけよ」


テオドルはヘンリエッタを見遣る。冗談ではないのだが。そもそも自分は最初からヘンリエッタに婚約破棄をさせたいと考えていた。アンベールの浮気が発覚する随分前からだ。


ヘンリエッタは気付いていなかった様だが、テオドルは初めて会った時彼女を気に入ってしまった。ヘンリエッタと話したのは、軽く挨拶を交わしたたった1回だけだったが…それから社交界に出席してはヘンリエッタを遠目でいつも見ていた。ヘンリエッタと出会う前は社交界が嫌いで殆ど顔を出さなかったが、彼女の姿を見たいが為だけに参加する様になっていった。


兎に角気になってしょうがない。本当は話しかけたかったが、彼女の隣にはいつも婚約者であるアンベールがいた。いくら王子と言えど用もないのに婚約者がいる女性に話しかけるのはマナー違反だ。それに、彼女はずっとアンベールだけを見ていて自分などは視界に入らない。


その理由は、あれだけ見ていたのに1度も目が合うことは無かったからだ。


どうしたら彼女を自分のモノに出来るのだろう。毎日そんな事ばかり考えていた時。


あの夜は、偶然だった。いつも通り彼女を見たいが為だけに参加していた社交界。端っこの壁際から彼女の姿を探していたが、その日は見当たらなかった。酷く落胆し今日は部屋に戻ろうと会場を出た。


その途中でアンベールを見かけたが隣にいたのはヘンリエッタではなかった。あれは確かヘンリエッタと一緒にいた…名前は忘れた。兎に角彼女の友人だ。


何となく気になり後をつけると、2人は庭へと姿を消した。木陰から暫く様子を伺っていたが…2人は抱き合ったり口付けを交わしたりしていた。


成る程浮気をしていた訳か。


そして今度はヘンリエッタが現れた。その時絶好の機会が巡って来たと歓喜に震えた。これは使える。


彼女はフラつく足取りで城の廊下を歩いていた。相当衝撃を受けた様子で悲しみにくれている。


本当なら今すぐにでも彼女を抱き締めて慰めてあげたい気分だが、何しろテオドルとヘンリエッタは1度挨拶を交わした事があるだけの関係である。そんな事は出来ない。



そして彼女は馬車に乗る直前胸元につけていたブローチを勢いよく取ると、捨てた。意外と激しい…。新たなヘンリエッタを垣間見たテオドルは嬉しさに興奮しながらも、ブローチを拾い上げた。


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