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ヘンリエッタは唖然とした。何故テオドルが此処にいるのか…。あれから1回もテオドルが屋敷を訪れる事は無かったのに、何故選りに選ってこんな時に現れるのか。
アンベールを横目で見ると呆然としている。それはそうだろう。まさかこんな所で第2王子であるテオドルと出会すとは思いもしなかった筈。
ヘンリエッタが知り得る限りアンベールとテオドルは特別接点はない。突如現れたテオドルに余計に困惑している。
横目でヘンリエッタはアンベールを見る。どう言葉を発して良いものか戸惑っている様子だった。
「ヘンリエッタ」
沈黙が続く中、それを破ったのはテオドルだった。
「会いたかった」
「………」
まさかテオドルがそんな風に言ってくれるなんて思わなかった。正直嬉しいと思う。
だが、何故この状況でそれを言うのか…。最悪だ。これではまるでヘンリエッタがテオドルと浮気をしている様に思われてしまう。
「ヘンリエッタ…これはどう言った状況なんだ」
アンベールは戸惑いながらも口を開いた。
「て、テオドル様如何なさったのですか?此方にお出でになるなんて…父でしたら本日は不在ですが…」
ヘンリエッタは先程のテオドルの「会いたかった」は聞こえないフリをしてなかった事にする。
アンベールをチラッとヘンリエッタが見ると、まだ不審そうにしてはいるものの納得した様な表情が入り混じっている。単純で良かった。そうヘンリエッタが息を吐いたのも束の間。
「僕はヘンリエッタ、君に会いに来たんだよ」
どうしてこの方は折角誤魔化せそうだったのに余計な事を言うのだろうか。
「テオドル様?嫌ですわ。私などにどの様な御用件がおありで…」
嫌な汗が身体を伝っていくのを感じる。なるべく不自然にならない様にしなければ…。
「僕はもう待てない」
「へ…」
余りに突拍子のないテオドルの言葉に思わず変な声が漏れてしまった。
「いつ婚約破棄するの」
「テオドル様…?」
まるで怒っている様な態度のテオドルに、ヘンリエッタは戸惑った。というよりもアンベールがいるのに「いつ婚約破棄するの」は流石に不味い。
「婚約破棄など致しません。彼女は私と結婚しますので」
ヘンリエッタが返答に困っていると代わりにアンベールが口を開いた。そして意外な言葉を耳にする。数ヶ月前のアンベールならば決してそんな事は言わなかっただろう。それが…。
これはある意味で成功なのかも知れない。
「アンベール、君にはオルガがいるのだろう。ならば彼女を解放するべきだ」
「お言葉ですが、私とヘンリエッタは愛し合っております。確かにオルガの事は好きでしたが…今はもう何とも思っておりません」
「君とヘンリエッタが愛し合っている?面白い事を言うね。それは君の妄想だよ」
テオドルとアンベールはよく分からない口論を始めた。その内容は次第にどちらがヘンリエッタに相応しいかまでに発展している。
「じゃあ、君はオルガではなくヘンリエッタを選ぶという事でいいのかな?」
「無論です。考えるまでもない」
「だ、そうだよ」
テオドルは扉の向こうに声を掛けた。すると。
「お、オルガ…」
部屋の中にオルガが入ってきた。アンベールだけでなく流石にヘンリエッタも驚愕する。多分、初めから聞いていたのだろう。オルガの顔を見れば分かる。
「酷いわ、アンベール…」




