3話 突然のスカウト
美桜と有栖は、その日散歩に出かけていた。
仲良しの2人はお喋りをしながら歩いていると、泣いている幼い少女を見つけた。
「あれ、あの子泣いてるわ。どうしたのかしら?」
話しかけると少女は、母親と離れて迷子になってしまい、待っている間に持っていた風船が木に引っかかってしまったとのことだ。
「そうだわ、私にまかせて頂戴。
これをこうして……」
「わあ!風船が動いてる!」
魔法を使う美桜を見て驚く少女。
美桜は魔法を使って風船を移動させ、少女の元に持ってこさせた。
「すごい、お姉ちゃん!」
少女は泣いていた顔から、すっかり笑顔になって喜んだ。
「よし、もっと特別な魔法を見せてあげるわ。それ!」
美桜が掛け声を言うと同時に、今度は一人の女性が召喚されて、少女の前に現れた。
「あれ?私さっきまで公園でナミちゃんを
探してたはずだけど……ここは?」
「ママ!」
少女は喜んで母親に飛びついた。
「この人ね!魔法使いなんだよ!
私のこと助けてくれたんだ!
ありがとう!お姉ちゃん!」
「うふふ。どういたしまして」
少女は礼を言うと、母親と一緒に歩いて去っていった。
有栖は笑顔で美桜にこう言った。
「よかったですね。美桜さん。
でも、魔法を知らない人の前で使って大丈夫かな……」
「私、困っている人を見ると放っておけないから……。さあ、帰りましょうか」
優しい性格の美桜はルナから魔法の力を得てから、人助けにも魔法を使うようになっていた。先程のように、迷子を助けたり、お菓子を手から召喚して子供達にあげたりと、生活の中で色々なことに使っていた。
有栖から人前で魔法を使っていいのかと、
心配されることもあるが、これが美桜にとって役に立つことであり、嬉しいことであるのだ。一件落着し、家に帰ろうとしたその時。
「ちょっと、そこのあなた」
2人は突然、聞こえてきた声に呼び止められる。振り向くとそこには、スーツを着た男性がいた。
「ああ、そうそう、髪が長い方のあなた。
さっき見てたけど、普通の人間と違って魔法が使えるのね」
「は、はい……」
長身でとてもかっこいい外見でスーツを着ている、オネエ口調の男性。
一瞬、有栖は考えた。
もしかして呼び止めたということは、
この人はもしかして……研究所の人?
美桜さん、連れてかれて変な実験に使われるんじゃ……!?
しかし、男性が言ったことは予想外のことだった。
「私の願いを叶えてくれるかしら?
私ね、会いたい歌い手さんが2人いるのよ。
話したいことがあって。
よかったら、合わせてくれない?」
「え……」
美桜は男性に聞いた。
「あの……なんと言う歌い手さんですか?」
「ああ、みさき、それから、アリスって子だけど」
「「……!」」
2人はそれを聞いて驚いた。
この人は私達のファンなのだろうか?
それともストーカーかしら……?
2人は嬉しい反面、怖い気持ちもあった。
「あなた達、知ってるの?
もしかして私と同じ、彼女達のファンなのかし……」
「あ、あの!わ、私達です!」
え。ここで言うの。
美桜は、大声で自分達がみさきとアリスであることをカミングアウトした。
有栖は美桜の思わぬ発言に心の中でも、
直接口に言いながらも、つっこんだ。
「ええ!?美桜さん、言うんですか……!?」
美桜からのカミングアウトを聞いて、
彼はびっくりしていたが、瞬時に嬉しそうな笑顔になる。
「あら、よかったわ。ここで会えるなんて光栄ね」
「あの、私達と話したいことって……?」
美桜がそう聞くと、彼は話し始めた。
「私ね……、歌い手の事務所の社長をやってるの。よかったら、事務所に入らない?」
「「え……!?」」
社長である男性から、突然のスカウト。
後にこのことが彼女達の人生を変えることとなるとは、2人はまだ知らない。