1話 不思議な出会い
神奈川県某市の町。
ここにはとびきり目立つ建物が存在する。それはすごく雰囲気のある真っ白で
綺麗な、大きなお城のような屋敷。
隣にあるのは桜の木々に囲まれた、とても広い庭。
屋敷の主は、白花 美桜。
色白の肌、黒い髪、大きな瞳が特徴の
美しい女性で、由緒正しい家系に生まれた、
超がつくほどのお金持ちのお嬢様である。
美しいのは容姿だけではない。
彼女は純粋無垢で優しい性格だった。
この屋敷は、美桜の両親が彼女に与えたものである。
美桜はここで親友の女性、花園 有栖と暮らしている。
美桜がお金を十分以上に持っていたのと雑貨屋でバイトをしていたので、2人は生活をしていくことができた。
そんな彼女の楽しみといえば、
好きな歌い手の曲を聴いたり、配信を見たりすることだ。
美桜はハピネスという男性の歌い手グループにはまっている。
ライブでしか顔出しをしていない男性4人組のグループだ。インターネットの世界でそこそこ人気を集めている。メンバーは、落ち着きのある感じの男性の優光、大人っぽくしっかり者のレイ、明るいキャラのみちる、おっとりしているかなえで構成されている。
そんなリス活をしている美桜とは対照的に、有栖は歌い手をしていた。
有栖は大人しく内気な性格で人付き合いが苦手だが、歌が好きであることと、歌い手に対する憧れがきっかけで数ヶ月前に始めた。
美桜も歌い手に憧れており、自分もなりたいと思っていたが、自信がなく一歩が踏み出せずにいた。
それでも彼女は親友と共に、充実した日々を送っている。
そんなある日のこと。
美桜はその日、街へのお出かけから帰っていた。別の親友とショッピングやカラオケにいったのである。
カラオケで自分の好きな曲を歌ったものの、
親友からの評価は「良くも悪くもない」だった。
美桜は優等生で、一度覚えたことは
なんでもできる人間だった。
だけど、歌だけは大して優れてはいない。
自分は歌い手に憧れているのに、
私には才能がない……。
落ち込んで帰っていると。
「?」
白猫が車道に飛び出そうとしていた。
車道には車が走ってきている。
「あ、危ない……!」
美桜は車道に飛び出した白猫を抱える。
走ってきた車はブレーキをかけて止まり、
美桜はそのまま歩道に戻った。
その後、車は走り去っていった。
「もう大丈夫よ。」
「ああ、助かった。ありがとう」
「?」
誰かの声が聞こえる。
しかし、周りには自分以外の人はいない。
下を向くと猫と目が合った。
「ああ、私だよ。私が喋ってるんだ」
猫は口を動かし、人の言葉を発した。
現実には有り得ない光景だが、美桜は猫が言葉を話していることに、目を輝かせていた。
「わあ、すごい!あなた喋れるの?」
「うん。まさか私のことを怖がらない人がいるとはね……」
美桜は猫を抱えたまま公園に行き、ベンチに猫を下ろすと、猫はまた話し始めた。
「あなたはなんで喋れるの?」
「私は、ルナっていうんだ。
そこら辺の猫とは訳が違うんだ。
私はね、魔法使いなんだよ」
「魔法使い?」
考えてみたら魔法なんて、信じられないことだが、美桜は本当のことのように聞いていた。
「そうだ。私を助けてくれたお礼として、君にこれをやろう。手を出してごらん」
美桜はルナに言われた通り、手を出した。
そうすると、ルナは美桜の手の上に前足を置いた。ピカリとルナの前足のひらが光り、
美桜は暖かいものを感じた。
「君にあげるもの……これは、魔法の力だよ」
「あの、使い方は……?」
美桜がそう聞くと、ルナは教えてくれた。
「何何になあれ、何何がしたいって言葉に出したり心の中で唱えると、魔法が発動するよ。期限は1年。期限が来たら私に魔法の力を返すんだよ。それまで大切に使いなさいね。」
「はい……。ありがとうございます」
美桜はルナにお礼を言うと、ルナはベンチを下りてその場から去っていった。
その後美桜は家に帰って、有栖に不思議な猫、ルナに会ったことを話した。
「へえ、そんなことがあったんですね……」
「そう!すごいわよね」
有り得ないようなことでも、有栖は信じて話を聞いてくれた。
「早速、試しに使ってみるわ。」
(魔法の力をもらったんだったら、何に使おうかな……)
美桜はそう考えていると、あることを思いついた。
魔法を使えば歌が上手くなるのでは……?
美桜は魔法を試しに、早速使うことにした。
「歌が上手くなあれ……これでいいのかな?」
使い方は教えられた通りにし、自分が願っていることを唱えた。
それから次の日、美桜は鼻歌を歌いながら
家事をしていた。
「美桜さん、歌が上手くなりましたね」
すると、有栖が声をかけてきた。
「そ、そう?魔法の効果かな?」
「音も正確にとれてるし、声が透き通っていて、優しい感じがありますね」
「嬉しいわ。ありがとう」
親友に褒められ、嬉しい気持ちになる美桜。
「そうだ、有栖さん。よかったら一緒にカラオケに行きましょう」
「いいですね!」
美桜と有栖は出かける準備をして、カラオケに向かうのであった。