4話 「大元帥暗殺計画」
後継者会議から数日後のフェルストブルク城にて、三つの人影があった。
王城には幾つもの会議室や応接室がある。その中でこの三人がいる部屋は最も高級な調度品で飾られた会議室。国王や宰相それに準ずる人物しか使えない部屋だ。
上座に座る者は現ヴェルトリア国王、ヘルシング・クラウド・フェル・ブランデンシュタイン。そして、残りの二人がヴェルトリア最高権力、宰相のルイファルツ・ゼーレマンと弟王子二コラの師、シギル・ルミトス。両者ともヘルシング王から最も信頼される臣下達だ。この二人が呼び出され、大元帥のモンクス・クリストフ、内務大臣のアドミッド・キングリーが呼び出されなかったことには理由がある。ヘルシングはこの二人しにか話せない悩みを抱えていたのだ。
ヘルシング王はそんな臣下二人に複雑な憂悶を話す。
「儂は二コラを皇太子にしたいと考えているのだ」
国王にはレオンハルトの母、レイナーレ王妃の他にセシリア・ロードランという寵姫がいる。
貧しい出の女であったが、フェルストブルクでも稀にみる美人だったため、国王に気に入られたのである。そして二人は恋仲となり、いつの間にかその腹に王子の二コラを身ごもったのである。しかしながら、クリストフ家を筆頭に貴族、大臣達は「そんな身分の者が王の子を宿すなど認めるわけにはいかない」と大反発をしたのである。
ヴェルトリアの貴族社会において、血統、家名は命よりも重視されている。故に、貴族の誰もが自身の血統に誇りを持ち、自身の家名を落とすようなことはしない。それ故に、ニコラは王のいないところでは親子共々忌み者扱いされていた。宰相のルイファルツ・ゼーレマンが近づくまで、貴族、名士だけでなく、賢人と呼ばれる者達でさえ彼と深く親交を結ぶ者は現れなかった。その上、兄のレオンハルトは、高貴な血統、名声、貴族・賢人との親交など二コラにないものを全て持っている。
そこで国王のヘルシングはレイナーレ王妃が生んだレオンハルトよりも、二コラを不憫に感じて偏愛していたのだ。
「レオンハルトは王太子になれなくとも、クリストフ家、そして多くの者が支えてくれるだろう。だが、儂以外の後ろ盾を持たない二コラとセシリアはそう言うわけにはいかない」
それを聞いたゼーレマンはそっと国王のそばに駆け寄りささやく。
「二コラ様を王太子に立てたいとお考えなら、まずレイナーレ王妃の兄ウィリアム・クリストフから先に誅殺せねばなりません」
「何! モンクスを!」
ヘルシングは彼の言葉に驚き、思わず大声を上げてしまう。
「大元帥と言えども、元は戦いに無縁の者ではございませんか」
「そこまでせねばならんのか?」
「はい。ウィリアムも妹のお子を後継ぎにしたいのが人情。ウィリアムを殺さずして、二コラ王子の後継ぎは望めませぬ」
「……うむ」
ヘルシングは青白い顔で頷く。
レオンハルトは名士達とも交流を持ち、名声は今や王国中を駆け巡りとどまることを知らない。
時が経てば経つほど、民衆、中立派の高官までもがレオンハルトの味方になってしまう。
「……できるのか? ルイファルツ」
ゼーレマンは不敵な笑みを浮かべながら、一言。
「私めにお任せを!」
ゼーレマンはシギルを連れ、部屋から出て行く。
静けさが、今まで人がいたとは思えないような静けさ室内に戻ってきた。
先ほどまで二人が座っていた椅子に視線を送りながら、ため息を一つこぼす。
「はぁ、本当にこれで良かったのだろうか……」
無論返ってくる言葉はない。この部屋には彼以外だれもいないのだから。
レオンハルトを愛していないわけではない。本当はどちらも王太子にしたいと思っている。
だがそんなことはできない。高官達もそんなことは許さないだろうし、それはいたずらに国を乱すようなものだ。
「レオンハルトよ、許してくれ。」
ヘルシングは再び二人が座っていた席を凝視する。そこからぐるっと見渡し、最後にルイファルツの言葉を思い出す。
「私めにお任せください……か」
彼はその言葉は幾たびも聞いた。そのたびにゼーレマンは彼の期待に応えてくれた。彼に任せれば何も心配ない。これまでは全てが上手く行ってきた。
ヘルシングは考えが一段落したところで、自身の部屋へ戻った。
ヘルシング王は不幸である。なぜらな、彼は何も知らないからだ。宰相、ゼーレマン達の見せる「嘘偽り」ばかりを信じて、世の中の「真実」というものは何一つ知らない。ゼーレマン一派にとって、ヘルシング王は「盲王」であって、傀儡かいらいにすぎない。王座は彼らが暴政をふるうための道具に過ぎないのである。




