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神よ我らの祖国に栄光を!  作者: 卯柿魯安
第一章:王国の危機
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3話 「王位継承会議」

 この日王城にて、高級官僚を集めた会議が開かれた。議題は『王太子』、すなわち次期後継者についてである。

ヴェルトリア王国の最奥。

今日、この神聖不可侵の部屋に入ることを許された者は少ない。

まずヴェルトリア王国で最高位に位置するヘルシング国王。そして本議題の僕と二コラ。

次に、王国最高権力である宰相ルイファルツ・ゼーレマン、内務大臣アドミッド・キングリー、大元帥ウィリアム・クリストフの3名。

中でも宰相ルイファルツ・フォン・ゼーレマンは国王である父上に最も信頼される男であり、この会議でも当然その影響力は大きい。約30年間も宰相の地位に就き、王国最高権力者と言っても過言ではない。大元帥派の筆頭である叔父上も元をたどれば、この男の部下であった。国政の他に、国王へ奏上するための取次、直言することも許されている。今でこそ、大元帥派の力が強くなってきたために、こんなことは起こらないが、つい十年前までは、彼に遜へりくだらない者や、彼の罷免を国王に訴えた清廉な臣下を左遷させんしたり、無実の罪で裁いていた。これこそがヴェルトリアを腐敗させた原因だ。国を良くするためには、こいつを失脚させないといけないのに、それを父上に言うと左遷され、あるいは投獄されてしまう。だから中央には清廉な臣下が集まらず、この男に媚びを売るような卑しい者しか集まらなくなってしまった。それ故に、僕は彼が嫌いなのだ。


これに各部門の大臣や将官クラスの軍人。

総勢三十四名によって本会議は構成されている。

当然父上を上座に座らせ、会議を開始する。

もちろん最初に意見を求められるのは、父上に最も信頼されているゼーレマン宰相である。


「ルイファルツよ。お主はどちらが後継者に相応しいと思うか?」

「恐れながらレオンハルト様は傲慢で驕りたがぶる振る舞いをするにもかかわらず、優柔不断で度量の狭い方です。対して二コラ様は学問を良く学び、慎み深く財を軽んじる人柄です。さらに二コラ様は言葉も丁寧で、思いやりもあり士を敬う方でございます。私が知る中で二コラ様よりも相応しい方はいません」

彼の言葉に宰相派の官僚は首をたてに振り、己の態度を示す。

(殺す)一瞬、彼らに非常に強い殺意を覚えたが、それを態度には出さない。もし声を荒げて怒鳴れば、それこそ叔父上に恥をかかせることになってしまう。

しかし彼の言葉に激高する者もいた。


「さような物言い、殿下に無礼であろう!」

そう言うのは叔父上の寵愛を受けるルーク・フォン・カストディオ将軍であった。

ルーク・カストディオはカストディオ家の現当主であり、カストディオ家は代々にわたり最高官職を輩出するほどの名家である。王族に最も近い位にある家の一つと言っても過言ではない。しかし近年、宰相のゼーレマンとの権力闘争に敗れ、落ちぶれかけていた。そんな中、彼は大元帥、つまり叔父上から呼び出しをくらうとすぐに参上し叔父上に仕えた。彼はみるみる出世をし、今では国王直属の軍団の隊長に選ばれている。ちなみに彼は叔父上の側近ということもあり、僕とも親交がある。

彼は立ち上がり、腰にさした剣に手をかけようとする。カストディオ将軍は当代きっての軍才の持ち主と噂される男なのだが、傲慢で癇癪かんしゃく持ちという欠点もある。


「やめよ。陛下の前で剣に手をかけるなど、言語道断である!」

そう言うのは大元帥である叔父上だ。こんなところで刃傷沙汰など起こせば、その責任はカストディオ将軍だけでなく、その上司である叔父上も連座で裁かれてしまうだろう。そんなことになれば大元帥派は勢力を落とし、僕も王太子につくことができない。そんなことは断じて避けなければいけないのだ。

叔父上がそう命じたこともあって、彼は皆に謝罪した。

その後はキングリー先生など大元帥派の官僚が僕の優れているところを父上に説明していった。

当然大元帥派は宰相派の意見を宰相派は大元帥派の意見を全て否定するので、会議は全くといっていいほどまとまらない。

そこで、父上は本会議で一言も話していない中立派の官僚にも話を振った。

最初に口を開いたのは エリーメル・ヴァルアトレ将軍。口にぼさぼさと茶色の髭が生え、体格はかなりがっしりとしている。その見た目から野蛮人じみた印象を抱かせる男だが、ヴェルトリアを代表する兵学者の一人であり、当代一流といえる知識人だ。そして、学者でありながら武闘派としても名が轟いている。天下の人は彼を「入りては相、出ては将」と称えている。その言葉が示すように、国内では宰相となって政務を執とり行い、国外では将軍をとなって敵を討つことができるほどの逸材であると言われている。また彼は僕の兵学の先生でもあるのだ。さらに、スペンサー・インディカウム将軍とウルリヒ・ハイドランジア将軍を加えた 三名は王国の三傑と呼ばれるほどの傑物であり、中立派を代表する人物でもあるのだ。


「陛下、なぜレヴィオニア帝国は戦に敗れ滅びたかご存知ですか?」

「そんなことを皆が知っておる。レヴィオニアは戦で汚らわしい異種族に負けたのだ」

「いいえ戦術だけではございません。レヴィオニアには内憂がありました。四人の皇子が家督争いを繰り広げ、窮地に追い込まれたときでさえ牽制し合い、友軍を見殺しにしたのです。そのせいでレヴィオニアは滅んだのです。長男を退け、次男を立てれば混乱を招きます。ましてレオンハルト様に才徳があるところは天の知るところでございます。陛下、どうかご賢明な判断を」

中立派、大元帥派の官僚はヴァルアトレ先生の言葉に賛同し、首を縦に振る。

少しの沈黙の後、父上は口を開いた。


「……ふむ。今結論を出すのは難しい。本件は一度持ち帰りとする。次回の会議の際に改めて方針を決定する」

父上はそう言うと席を立ちあがり、部屋から退出していった。



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