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神よ我らの祖国に栄光を!  作者: 卯柿魯安
第二章:反ザイン・ベルトホルト連合
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38話 「平定」

 この日宮廷の一室にて、全高官を集めた評議が行われた。

 題目は旧ベルトホルト軍の対処についてである。

 まず最初に口を開いたのはウルリヒ・ハイドランジアである。


「ザイン・ベルトホルトの武将メイソン・ワーテル、ジャック・ロズエルなどはすでに辺境へ逃走しました。彼らは抵抗する気配するありませんので、投降を勧められてはいかがでしょうか?」

 彼の話には一理あるが、ヴァルアトレ先生のこともあり僕は彼の提案を賛成する気にはなれない。僕にとって味方と言えど仇でもあるのだ。

 そして彼の提案に真っ向から反対したのがキングリー先生とカストディオ将軍であった。


「断じて許すことはない」

「あの者らは我らの臣下・友人を山ほど殺した。許せるはずがない」

 軍事・政治の最高権力とも思える彼ら二人がこう言うので、多くの者はただ黙して同意の相づちを打つことしかできない。


「アソラエーデンには、まだ五万の兵がいます。奴らを窮地に追い詰めては危険です。昔から窮鼠猫を噛むという言葉もあります。今は投降を勧め、出口を塞がぬことが上策かと存じます」

「いやそれは違う。かような大事を成して許すというのは勧悪しているようなものだ。皆殺しにしてこそ、天下に示しがつくというもの」

 こんな調子で議論が白熱し、なかなか方針が決まらない。


「殿下は彼らへの対処についてどう思われる」

 フィラデファルツ大臣が僕に話をふる。


「どちらにせよ、奴らに投降を勧めたほうがいいように思えます」

「それはなぜでしょう?」

「キングリー先生、そしてカストディオ将軍が陣頭指揮をとってくだされば、我らの勝利は確実でしょう。しかし奴らと正面からぶつかれば、勝利したとしても、こちらにも被害が生じます。僕はこれ以上兵士が無意味に傷つくのは見たくない。殺すにしても、一度投降を勧め都へと召喚してから捕らえ、殺せばいい。それなら手のひらを反すがことく簡単にできますし、こちらに被害は及ばない」

 これは事前にシエルから聞いていた策の一つである。彼が策を提案したとしても、彼はゼーレマン家の者であるので、この会議に出席している高官達はどんな内容だとしても納得しないだろう。だからこそ、僕が彼の代わりに語る必要があるのだ。

 しかし、清廉潔白として名高いレヴィオニアの神官達の反応はいま一つである。


「・・・・・・殿下、それはいけません。神に仕える者が卑劣な策など用いてはなりません。さような策を用いれば、民は我々に失望し、後世までの恥となりましょう。何より神の教えに反します」 

「我らは神に仕える者であるが、同時に為政者でもある。政を行う者は空理空論に走ることなかれ。我々が最も大切にすべきことは信義か、高潔さかどれも違う。我々の本懐は民の穏やかな暮らしを守ることである。この目的を達成するためであれば、僕はどんなことでもしよう。それが我らの務めではないでしょうか? もちろん僕も神に仕える身であるため、其方達の言っていることは十分理解できる」

 これにキングリー先生などは「殿下の言っていることはもっともだ」とし、賛同してくれた。


「奴らが我らの策に気付き、降伏を拒んだら、どうなさる?」

「どちらにせよ同じこと」

 この言葉に大臣達は皆僕の意図を察し、同意の言葉を口する。

 そして、キングリー先生は書記官に降伏を勧める文書を千通書かせ、アソラエーデンでばら撒くように命じたのだ。


・・・


 アソラエーデンの地方におびただしい敗兵が流れ込んだ。

 それはベルトホルト邸から敗走した大軍であった。

 敗兵は大いに恐れ、ザイン・ベルトホルトの旧臣メイソン・ワーテル、ジャック・ロズエル、シギル・ルミトスなどは、アソラエーデンについてすぐ会議を開いた。

 最初に口を開いたのは、謀士の聞こえのあるシギル・ルミトスであった。 


「まず我らは団結を解いてはならん。もし我らが一人一人に分離するば、田舎の小役人の力でも召し取ることができよう」

「なるほど」

「おそらくだが、キングリーなどは我らを許すことはない。ここは『アドミッド・キングリーの怒りは凄まじく、アソラエーデンの地方民まで皆殺しにしようとしている』と流布し、決死の覚悟の雑兵を集め、戦うが上策であろう。上手くいけば、ザイン・ベルトホルトの仇を報じて、朝廷を我らの手に奉じ、失敗しそうになった時、逃げても遅くない」

 彼らはシギルの策に応じ、降伏の使者をグレナラメインへと上らせた。

 しかし彼らの予想とは違った。アドミッド・キングリーは降伏を許し、その上で都への参内を求めたのだった。


 この知らせにワーテル、ロズエルなど道理に暗い者は歓喜したが、シギルは膝から崩れ落ち絶望するのであった。


「どうされた、ルミトス将軍。我らの罪は許されたのだ。何を憂うることがある?」

「あれだけのことをして許されるはずがないだろう。これは我らを都へ誘うための罠である。行けばすぐさま捕らえられ、城門に我らの首が吊るされることになる」

 彼の話を聞くとワーテルは怒りだし、椅子を蹴飛ばした。


「なんと卑劣な! 座して死を待つより戦ったほうがよい。今すぐ戦の準備をするぞ」

「もう遅い。聞くところによると、キングリーらは降伏を勧める文書を千通つくり、ここアソラエーデンでばら撒いているという。これを見た兵士は雪崩を打って逃げ出し、降伏している。今さら誰が決しの覚悟で戦うのか? ましてや相手にはアドミッド・キングリーだけでなく、ウルリヒ・ハイドランジア、ブランディス・アベリオンもいる」

「なら逃げるか?」

「それも難しいだろう。戦闘の混乱に乗じて逃げるならまだしも、こんな状態では宝を持って逃げることはできん。それでは我らの寝首を掻けと奨励しているようなものだ」

 彼らはシギルの話を聞くと、彼と同じように蒼白くなり膝から崩れ落ちた。

 戦いの本質は相手をいかに打ち負かすのではなく、相手の選択肢を奪うことにある。

 彼らが勝利するためには、決死の心境をベルトホルト邸で持たなければいけなかった。

 戦いから逃げ、相手に選択肢を与えた結果がこれである。

 打てる策なしと判断した三大将は古人に習い、自身の体を縄で縛り、朝廷へと降伏するのであった。

 当然彼らが都へと姿を現した瞬間、待機していた衛兵は彼らを捕らえ宮廷へと引っさげていった。

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