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神よ我らの祖国に栄光を!  作者: 卯柿魯安
第二章:反ザイン・ベルトホルト連合
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31話 「悲しき策略 ①」

「何故、将軍は贈り物など。……まさかお前達は男女の仲なのか?」

 アドミッドはソフィアに問いただす。


「いいえ。将軍とは深い仲ではございません」

「では、何故将軍はこのようなことを?」

 ソフィアは重々しく口を開く。


「実はお父様がお留守の時に将軍が何度かこられたのです」

「何だと? 何も知らなかったぞ。何をしにきた」

「以前、兵士を連れ屋敷を訪れたときから何度かお見えになっています。毎回、穀物や珍宝、絹織物をお持ちになられて」

「なぜ、この家にだけ持ってくる?」

 彼は数秒考えた後、その答えを思いついた。


「なるほど。お前が目当てか!」

 この瞬間、彼はザイン・ベルトホルトを討つための策を思いついた。


「天は我らをお見捨てにならなかった。逆賊を打ち倒す必勝の策をお与えになったのだ」

 彼は思わず満身の声でいってしまった。

 だが、直ぐにこの策の最大の欠点が彼の脳裏に浮かんだ。


「……いや。ダメだ」

 落胆した声でそう言った。この策こそが唯一ベルトホルトを討てる策であるかのように思われたが、その代償は余りに重く、それを用いることを躊躇ちゅうちょした。

 ソフィアは聡明で、よく情を感じる性質であって、落胆する父を見過ごすことはできない。


「お父様。どうか心の内をお話くださいませ」

 彼女は地に跪き、懇願する。


「お前に火中の栗を拾ろわせるわけにはいかないのだ」

「たとえ火の中だろうと飛び込みます。どうかお話ください」

「あぁ、……お前の力でアベリオンとベルトホルトを仲違いさせ、ベルトホルトを倒すのだ」

 さすがに、ソフィアの顔はスミレのように蒼白くなり、その顔は涙に溢れた。


「泣くな。ソフィア。そのような策など断じて用いない」

 彼は娘の肩に手をやり、慰めの言葉をかける。


「お父様。私もキングリー家の者です。私ひとりが犠牲になることで多くの民を救うことができるのなら、この身を捧げる覚悟はできています」

「あぁ私は朝廷の要職にありながら何もできない。お前のほうがずっと立派だ」

 彼もまた涙を流した。泣くのをなだめていた彼のほうが止まらない涙に困惑し、娘の手を痛いほど握りしめた。

 しばらくした後、彼女は着替えブランディスが待つ部屋へ向かった。

 彼女は部屋に入ると、ブランディスの顔をみるみる生気が湧きでるよであった。

 

「将軍に拝謁致します。将軍のお心遣いに感謝します。将軍のご厚意のお礼に私が歌を披露致します」

 彼女はハープを手にして歌を歌う。彼女のハープの音色は繊細で、優しく、心地よい響きであり、聞く人に癒しの効果を与える。

 また彼女の声は湧き水のように清廉で、透き通っていた。

 彼女の武器はその美貌だけでない。彼女の歌を一度聞けば、川のせせらぎすら雑音と化すだろう。

 天下無双の男ですら、彼女には敵わないのである。

 歌の披露が終わると、彼女は召使に料理と酒を用意させた。

 彼女は真白のしなやかな手へ翡翠ひすいの杯をのせて彼にお酌する。


「これは」

 彼はわれに返ったようにその杯を持ち、一気に飲み干した。

 すると彼は覚悟を決めた顔をし、口を開いた。


「ソフィア殿。其方は俺を照らすいわば太陽。其方のおかげで俺はいつも輝ける」

「将軍がそこまで私を思ってくださるとは、光栄ですわ」

 すると彼は椅子から立ち上がり、彼女の前まで歩き膝をついて頭を下げた。


「ソフィア殿。本日は求婚のためこの屋敷に参ったのです。どうか俺の妻に。たとえ天地が裂けようとも、必ず貴方を守り抜きます」

「将軍。いけませんわ。どうか頭をお上げください」

 彼女は急いで膝をつき、彼を諫める。


「承知していただくまでは、たとえ何十年経とうとも下げるわけにはいきません」

「……将軍のお気持ちはわかりました。もう頭をお上げください」

 彼は彼女の手を握りしめ、「お受けくださるのですね」と言った。


「将軍が私をお嫌でなければ……」

 彼女は照れくさそうに微笑む。


「……ですがお父様に相談しなければなりません」

「もちろん。御父上に許しをこいましょう」

 彼はそう言うとすぐさまアドミッドの下へ向かった。

 アドミッドに合うと彼は膝をつき頭を下げる。


「父上。ブランディス・アベリオンでございます」

「将軍。いったいどうされた? そなたの父上は仲父であろう。なぜ、わしを父上などと?」

「仲父を父上と呼ぶのはいわば処世術。父上に対しては本心からでございます」

「しかし、なぜわしを父上などと」

「お許し願いたいことがあるのです。どうかソフィア殿を我が妻に」

「何と!? ……。それはいけません。我が娘は将軍に相応しくありません」

 アドミッドはその言葉を待っていたと思ったが、二つ返事で了承するのはあまりにも怪しすぎる。だからこそ、こうして断る演技をするのだ。


「それはつまり俺にソフィア殿はもったいないと」

「いえいえ、そういう意味ではございません」

「よく分かっています。ソフィア殿は高貴な家の出。父上から見ればこの俺など出土の知れない猪武者だとお考えなのですよね?」

「いやいや、わしは以前から将軍を当代きっての英雄だと見込んでおりましたぞ」

「それならば、どうか俺にソフィア殿を」

 アドミッドは辺りを歩き回ったり腕を組んだりして考える演技をする。


「ソフィアは大事な愛娘……嫁に出すのは……」

「ソフィア殿を頂けましたら実父と仰ぎます。たとえいかなることがあっても、ソフィア殿と父上を守り抜き、苦楽を共にします」

「今のその言葉誠か?」

「天に誓って。どうか婚姻のお許しを」

 アドミッドは彼の肩に手をやり「よかろう。我が娘ソフィアをブランディス将軍に託します」と言った。


「ありがとうございます」

 ブランディスは何度も頭を下げた。その様子を見てアドミッドは策は半分成就したと確信する。

 この日アドミッドは一家を挙げて彼をもてなした。

 ご馳走に美酒。さらにソフィアが杯をすすめたこともあって、ブランディスは機嫌よく酔っぱらった。

 そして夜も更けてきたので、「明日の評議に支えますから」とアドミッドは彼を正面の門まで見送った。

 その際アドミッドは彼にこういった。


「正式な婚礼の手順を経てから契りを交わすがよい。そのほうが双方にとってよいだろう」

「仰せの通りに」

「それはよい。だがこのことは仲父には内密にするのです」

「なぜです?」

「仲父はそなたの義理の父だ。万が一反対などされたら、婚姻は取りやめになってしまう。そうなれば将軍もソフィアも困るであろう」

「確かに仰せの通りです」

 彼はアドミッドに感謝の念を伝え、それこそくどいほど何度も伝え帰っていった。

 そしてアドミッドは今宵「ブランディス・アベリオンをザイン・ベルトホルトから引き離すために出兵せよ」と書状を書き、カストディオの下へ届けるのであった。 

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