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神よ我らの祖国に栄光を!  作者: 卯柿魯安
第二章:反ザイン・ベルトホルト連合
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26話 「燃える王都」

 同日、ザイン・ベルトホルトもその私邸官邸を引き払い、自身の財物を馬車に積みこんでいた。


「さらば立とうか」

 彼は重い体を動かして、馬車に乗った。

 彼はこの都に、なんの惜しげもなかった。

 それも当然だ。もともと一年か半年の間に横取りしただけの都であるからだ。

 だけど、役人の内には長い歴史と祖先の地に恋々と涙する者もいた。

 悲しみのあまり、声をあげて泣く老官もいた。


「あぁ先王陛下。我らの不義をお許しください」

「長くは生きたくない」

 そのため遷都の発足はいたずらに長引きそうなので、ベルトホルトは強権を布令させた。

 早朝をもって王城、宮殿、市街いかんに関わらず、フェルストブルクの一切にわたって火を放ち王都を火葬するという命である。

 もう一つの狙いは、やがて必ず押し寄せるであろう連合軍に対する焦土戦術である。

 そのうち、王城から火の手があがった。

 あらゆる伝統的な建築物は炎々たる熱風のうちに見捨てられた。

 特に、憎っきレオンハルトが大切にしていたセントエレナ大聖堂は十樽分の油をまくなど念入りにやらせた。


「何日ほど燃えているんだろうな」

 ベルトホルトはそんなことを思いながら、この大炎上の後に出発した。

 万が一にも国王を連合軍に奪われることはあってはならないので、同じ馬車に乗っている。

 彼の一族に続いて、炎の中から王妃、皇族たちの馬車が列を乱して逃れてきた。

 先を争って、大臣たち、官吏の馬や財産を積んだ馬車やあらゆる人々が誰一人止まることなく、雪崩のように王都の外へ吐きだされていった。

 また、ベルトホルトは配下のワーテルとロズエルに別の命令を下していた。

 前日から、一万に余りの民衆を動員し、数千の兵を監督させ墳墓を先王の墳墓から、王妃や諸大臣の墓を堀り暴かさせていた。

 先王の墳墓にはその時代の財宝や珍品がどれほど埋葬しているかしれない。王妃王族から諸大臣の墓まで数えれば大変なものである。

 中には得難い武具や装飾品から、大量の宝石まである。

 これを馬車に積む事、数千台となった。貨幣価値に換算すれば、数千億ほど土中の重宝であった。


「グレナラメインへ運べ」

 ワーテルは兵をつけて続々とこれをグレナラメインへ輸送し、全兵士へグレナラメインまで引けと命令した。


 ・・・


 我々連合軍のほうでは、ここ二、三日何となく敵方の動きに不審を抱いていた。

 すると、諜報が入ってきたので「まさか」と動揺し、我々連合軍はすぐさま王都へと向かった。

 道中、僕の軍勢の行軍を阻む一人の男がいた。その手には酒瓶と何かを握りしめており、我々の列に向かってくる。

 黒の髪に、紅色の瞳。初めて会うはずのこの男にどこか既視感を感じていた。


「レオンハルト! 貴様は王国の恥さらしだ!」

 大衆の前で罵詈雑言を吐き、僕を辱める声が大きく響きわたる。


「レオンハルトは愚かだ! 愚か者だ!」

 彼は振りかぶった手から何かを投げた。それは石である。

 彼の持つ石ころが一行・・・僕めがけて飛ぶ。

 酔っていたためもあったのか、石はまるで違うところへ飛んでいった。

 前方の兵士が慌てて、この男を捕らえ不敬の罪で処刑しようとしたとき、僕は声を発した。


「よい! 今はただの酔っぱらいに構っている時間などない。厳罰には処さないでおくから、そこをどけ」

 もし僕がこの男を斬ったことが広まれば、天下の人は僕をどう思うか。心が狭く、悪口を言っただけで殺されると思うに違いない。そんな事態は断じてさせなければならない。僕は皆から愛されねばならないのだ。


「私がただの酔っぱらいだと? この私を知らないとは笑わせる」

「あぁ知らないとも」

「なら教えてやろう。私はお前達に殺されたルイファルツ・ゼーレマンの孫。シエル・ゼーレマンだ」

 何!? やつの一族がまだ生きていたとは驚きだ。


「国賊の一族がまだ残っていたとはな。だが分からん。お前の祖父を殺したのは我々でなく、ザイン・ベルトホルトである」

「あの変さえ起きなければ、あんなことにはならなかった。お前達が我が一族を殺したのも同じだ」

「まぁ、いい。憎いのはこちらも同じ。この僕の前に現れたということは首を刎ねられる覚悟があってのことなのだろう……」

「私の未来は既に途絶え、地位も名誉も失なった。今更死を恐れることない!」

「よくぞ申した。誰か! 即刻この者の首を刎ねろ!」

 僕がそう部下に命令したとき、異議を申し立てる男がいた。そう僕の参謀であり、元シエゴ小群の長官エヴェレックである。



「お待ちください。確かにこのシエル・ゼーレマンにも罪はありましょう。しかしこの男は天下の奇才。ここで殺すのはあまりにも惜しい。ここは配下に取り入れ功績を以ってして、一族の罪滅ぼしをさせてはいかがでしょうか?」

「ならん! エヴェレック。君も知っているであろう。この男の祖父ルイファルツ・ゼーレマンが叔父上に何をしたか」

「存じております。レオンハルト様がこの国だけで満足するなら、彼は不要でしょう。ですがその先を目指すのであれば、この男を手に入れるしか道はありません」

「……うむ。君がそこまで言うほどの男なのか?」

「はい。私などよりも数倍勝ります」

「ふん、ありえん」

「数倍ないし、数十倍です」

 僕は考える。エヴェレックがここまで言うのだ。この男は凄い人材なのだろう。だが、恨みがなくなったわけでもない。


「君がそうは言ったとしても、こいつが僕の配下になるのを拒んだら……」

「この私が必ず説き伏せましょう」

「……わかった。あとは君に一任する」

 彼の気迫あふれる説得は僕を頷かせるものがあり、了承してしまった。

 そして、もしこの男が渋れば首を斬ってやろうと思ったが、エヴェレックの説得に応じ僕の配下となった。

 かくて我々の軍勢は再び進軍の歩みを進めるのであった。

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