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神よ我らの祖国に栄光を!  作者: 卯柿魯安
第二章:反ザイン・ベルトホルト連合
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25話 「王都の嘆き」

 ブラビゲンで勝利したレオンハルトらとは裏腹に、ベルトホルトはブラビゲンの大敗以降、意気消沈していた。


「レイモン。どうしたものか?」

 彼はいつものごとく、懐刀たるレイモンと計を謀る。


「遺憾ながら、ここは将来の大策のため、味方の大転機を計らねばなりますまい」

「大転機とは?」

「思いますに、ブラビゲンが陥落した今、このフェルストブルクは攻めやすく守りにくい。なればこのフェルストブルクの地を捨て、グレナラメインへ都を移すことです」

「遷都か」

「その通りでございます。さきのブラビゲンの戦いで、あのブランディス・アベリオンですら敗れてから、味方の戦意はさっぱり振るいません。ここは一度兵を収め、陛下をグレナラメインへ移し、時機を待ってから戦うのが上策かと」

「なるほど……だが無理だ。都を移すための大義名分がない。このまま都を移せば、わしが諸侯たちを恐れ尻尾を巻いて逃げたと思われかれない。さすれば賊軍どもをさらに勢いづかし、火に油を注ぐことになろう」

「なればレヴィオニア帝国の再興を宣言されてはいかがですか。最盛期に及ばないにしても、未だ王室の権威は失墜せす、その領土は他国を圧倒しています。それに陛下はグレナイディアス帝の末裔。帝位に就くことは道理にかないます。レヴィオニア帝国はグレナラメインを八百年にわたって帝都としてきました。帝国が再興された今、都をグレナラメインへ移すのに誰が反対いたしましょうか?」

 レイモンの話を聞くと、ベルトホルトはにわかに前途が開けたような気がした。

 その話はたちまち政策の大方針となって、朝議にかけられた。とういうよりも、独裁的に臣下へ言い渡されたのであった。


「ヴェルトリアの歴史は二百年も経ち、気も尽きた。だが心配することなかれ皆の者よ。昨日は儂は天よりお告げを頂いた。今こそレヴィオニア帝国を復活させ、運気が盛んなグレナラメインへ遷都しろと。よって我々は東へと移り、全てを一新させる。グレナラメインへ遷都だ! よいな時間はないぞ。今すぐかかれ」

 評議とは言え、彼が口に出せばそれは絶対のものとなる。

 けれどもこの時は、さすがに官吏達も動揺せざるおえなかった。

 第一、ヘルシング王も驚いていた。


「再興?……遷都?」

 事の重大故に、辺りは静まり返る。賛同の声もなかったが否定の声もなかった。

 すると一人の大臣が初めて口を切った。


「大公殿下。今はその時ではありますまい。レヴィオニア帝国を興せば、いたずらに周辺諸国を刺激し思わぬ反撃に晒されるやもしれません」

 これにベルトホルトは、「何も分かっておらぬな。周辺諸国など小虫程度にすぎん。束になったところで、我々の脅威とはならん。陛下が帝位につき、都を移すことこそが、この国を救う唯一の道なのである」と返した。

 彼についでまた違う大臣が反対を口にする。


「天神党の乱以降、グレナラメインは瓦礫の山とかしています。グレナラメインに遷都するのは都を捨てるも同じ。どうかご再考ください」

「ふん、グレナラメインは天然の要害に囲まれている。都づくりに使う資源などいとも簡単に手に入るわ。さすれば、ここよりも居心地の良い宮殿を造ってやる。どうだ楽しみだろ」

 最後に、農林大臣ロートレク・レギンスが意義を申し立てた。


「各州の諸侯が挙兵し、民が不安を感じています。今民を流離させ、これ以上苦しめるのはおやめください」

「だから何だ。天下の大計を成すのに、いちいち民のことなど案じておれるか!」

 ベルトホルトは鬼の形相をして、怒鳴りつける。


「何をおっしゃいます。民は国の要かなめですぞ。民なくして、国家が存続しましょうか」

「おのれ、まだ言うか」

 ベルトホルトは怒り、そのまま剣を抜き放ち、彼へ容赦なく振り下ろした。

 この光景に官吏の誰もが目を背け、激しい恐怖と憎しみが渦巻いていた。


「他にわしへ言いたいことがある者はおらんか? 聞いてやるぞ?」

「はっそれでは。大公殿下へ申し上げたいことがあります」

 この状況で口を開いたのはシギル・ルミトスその人であった。

 彼はルイファルツ・ゼーレマンの死後、ベルトホルトに鞍替えし、彼の側近とも言える男となっていた。


「なんだ。シギルか。申してみよ」

「グレナラメインの町づくりには莫大な金がかかるにもかかわらず、朝廷の金銀は底をつきかけています。この際、軍費徴発令を出し、富民から財産を没収してはいかがでしょうか?」

「よいぞ。いいようにやれ。いちいち法令を発するには及ばん」

「では、ご一任ください」

「許可しよう。……あっ待て。根こそぎやれ。残したところで我らの害になるだけだ」

「承知しました」

 シギルは兵五千人を選んで、市中に放ち遷都と軍事の御用金を命ずると称して、王都のめぼしい富裕民を襲わせた。

 狂風に踊る暴兵はここぞと思う富豪の屋敷へ目をつけると、四方を取り囲んだ。そして突然屋敷へ乱入し、家財金銀を担ぎ出し、歯向かうものは瞬く間に斬り殺した。

 そうして金銀財宝を山のごとく集め、それを荷馬車に積み込んでは、そばからグレナラメインへ向けて輸送していった。

 一日にして、王都は無政府状態とかした。秩序も警察制度も喪失して、町全体が混乱に陥ったのだ。


 また発令の翌日。

 流民が他州へ移ることを防ぐため、強制的に民を一か所に集めた。その家族を五千、六千と一団にまとめて、グレナラメインの方へ送った。

 乳飲み子を抱えた母親や老人・病人を背負う若者、なけなしの貧しい財産を担って子の手を引く者が明日も知れぬ運命に駆り立てられていった。


「歩け! 歩け! 歩かないやつは斬るぞ!」

 鬼畜のごとき暴兵は刀をかざして脅し、暴虐の限りをつくしていた。

 流民の号泣する声、悲痛な嘆きは、野山を超え天をも埋め尽くさんとしていたのだった。

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