24話 「ブラビゲンの戦い ②」
「王に盾突く反逆者共、いつでも来い。冥土の土産に天下無双の武を見せてやろう」
ブランディスは雷のような荒々しい声を張り上げた。
「馬鹿にしおって、やつなど所詮名前だけの男。恐れることはない」
先鋒のバルテ総督のデュネド・マスカール将軍とその配下の猛将ヴァレール・メントス将軍がバルテの強兵を率いて、ブランディス軍へ迫った。
ブランディスも自身の兵士に「駆けよ諸共! たとえ死すともブランディス・アベリオンについてこい!」と命を下し、彼自身も暴れ馬に鞭を入れバルテの軍へ突入してきた。
手に持つ狼王を馬上から右に左に振るたびに、味方の首、手足、胴などが血煙と一緒にはじけとぶ。
「弱いってのは罪だなぁ。ブランディス・アベリオンはここにいるぞ。どうだこの俺に当たらんとする強者はいないのかぁ!」
傲語を吐きながら、縦横無尽にかける姿はまさに武神であった。
無人の野を行くがごとしとはこのことである。
バルテの猛将ヴァレール・メントスは「我こそ」と、ブランディへ槍を突っかけた。しかし、一合もしない戦わないうちに、彼の狼王に馬もろとも切り捨てられた。
マスカール将軍はまたとなき愛臣を討たれ、「おのれ!匹夫」と激高した。
彼はみずから太刀を揮って馬を寄せたが、「総督危なし」と加勢にむらがる味方がばたばた討ち取られるのを見て、色を失い慌てて騎馬を引き返してきた。
「デュネド・マスカール。恥を忘れたか!」
ブランディスが後ろから笑う。しかし、マスカール将軍の耳には入らなかったようだ。
これをみた味方は逃げ惑い、怯えてることしかできない。
「あの武勇の前では、並の豪傑では歯が立たぬか」
これは不味い。かなり距離をとっているであろう、僕でさえ彼の豪気をヒリヒリと感じていた。
この状況を覆せる者など果たしているのだろうかと思ったとき、白銀の鎧を身に纏った男が味方を大喝した。
「恐れるな! ここが勝負どころだ。ディスケル・エレクサンデルの背を追えぃ!」
エレクサンデル将軍は一騎でブランディスの前に躍り出で、鎧と同じ白銀の槍を彼へ向ける。
そう彼こそがブランディス・アベリオンに討ち取られたファイブン・エレクサンデルの長子、現カストーラ総督ディスケル・エレクサンデルである。
「このときをどれほど待ち望んだことか。逆賊ブランディ・アベリオン。我が一族の恨み、今こそ晴らさん!」
彼は騎馬をかけ白銀の槍を舞わして、鬼神の勢いで討ってかかった。
「ふん。虫けらが。この俺に挑むとは笑わせる」
最初に仕掛けたのはエレクサンデル将軍であった。槍のリーチを使った先制攻撃を仕掛ける。
彼が繰り出す電光石火の連撃はブランディスの頭や鎧をかすめる。
「なるほど、ただの雑魚ではないようだな。だが……まだまだだ」
ブランディスは最後の連撃を弾くと、無駄のない動きで態勢の崩れた彼の首元へ剣を振り下ろした。
人の動きとは思えないほどの速さで態勢を立て直し、この一撃を見事槍の柄で防いでみせた。
また、ブランディスの剣先はエレクサンデル将軍の眉や籠手をかすれ今にも危うく見えながら、彼もまた応戦していた。
あまりの光景に、両軍の将兵は「あれこそがブランディス・アベリオンか」「ディスケル・エレクサンデル」かとしばし見とれていたが、ブランディスの勢いは戦えば戦うほどまし荒々しく激しくなっていった。
それに反して、エレクサンデル将軍の銀槍はやや乱れ気味となってきたので、諸州の諸侯達は内心やぶさかでなかっただろう
徐々に圧されているようだ。このままでは……。
そのとき、北方の英雄レジス・ドレイクと猛将カイゼルを討ったアルフォンス・サマナークが名乗りを上げながら騎馬をかけ横合いからブランディスへ斬りかかった。
「なっ! これは俺の一騎打ち。助太刀はいらん」
エレクサンデル将軍は二人を雷喝するが、「このままでは、奴に殺されるのがオチだ。ここは何としても勝たねばならん」と言い放ち、豪傑三将でブランディスと打ち合った。
いくらブランディスと言えども、今のは逃れる術はないだろう。
たちまち、討ち取られるだろう、そう見えたが豪傑三人の攻撃を弾いて躱して、彼らを嘲笑う余裕さえあるように思えた。
「化け物か? あいつは」
僕は思わず吐き捨てた。そしてあれほどの男がベルトホルトごときに付き従う惜しいと思った。
互いに戦技を出す暇さえ与えないほどの迅速の世界。
天に見ゆる稲妻のごとき閃光、天に轟く雷のごとき金属がぶつかり合う轟音ごうおん、ブラビゲンの野戦の目耳は、今やここに集められていた。皆酒にも酔ったように、遥かにこれを眺めていた。
そして、ついにこの戦いに決着がついたのだ。ジェルドラの戟がブランディスの騎馬の鞍をかすめたのである。
さすがにこの三人を相手にするのは不利と悟ってか、彼は「後日再戦」と言い放ち、陣地のほうへ引き返した。
豪傑三人も彼を追ったが、瞬く間にブラビゲン大要塞の内へ逃げ込んでしまったのだ。
「無念だ」
皆が彼を討てなかったことに悔しがったが、エレクサンデル将軍は特に悔しがり歯噛みをしたがどうしようもなかった。
しかし、ブランディス・アベリオンが逃げたので一時散々だった味方は当然士気を高めた。
「ブランディス・アベリオンは我らに恐れをなして逃げたぞ! 全軍憶ぜず進め!」
諸州の諸侯は総攻撃を号令し、鬨の声は大地を覆い尽くさんばかりであった。
敵軍はブランディスに続いて、ブラビゲンへ退却したがその大半は城門へ入ることなく討ち取った。
我々革進軍は城門へと迫り、その城門の鉄扉はかたく閉ざされて、敗北のうめきを潜めていた。
総攻撃から三日後、ついにブラビゲンの要塞は陥落したのである。
しかし、ブラビゲンには既にザイン・ベルトホルトの姿はなかった。
部下からの話によると、ブランディス・アベリオンがブラビゲンへ逃げ込んだことを知ると彼はここで我々連合軍を抑え込むには無理と判断し、王都へ逃げ帰ったそうだ。




