22話 「ロブヴィリオンの戦い ③」
「先鋒の味方は全滅したぞ」
「敵の大将は、勝ちに乗って刻々と迫って来つつある」
アルフォン軍の敗北に後方の本陣は大動揺を起こした。
総帥のカストディオ将軍、帷幕の僕、みな色を変えた。
先鋒アルフォンス・サマナークが木端微塵な大敗をこうむったという知らせに、幕営の諸将も全軍の兵気もすっかり意気阻喪であった。
そこでカストディオ将軍を始めとした二十一煉諸侯は本営の一堂に会して、退勢挽回の作戦会議をこらしていた。
けれど、敵軍の勢いや、万夫不当のカイゼル将軍の勇名に圧されてか、なんとなく会議も萎縮していた。
何の成果も得ずに、会議も終わりかけていたところ一つの報が入って来た。
カイゼル軍は勢いに乗ってロブヴィリオンの守りを出て、ここ革新軍の首脳部たるグリム城の間近まで迫っているとのこと。そして、ロブヴィリオンの守りはインディカウム将軍に任せているという知らせであった。
「まさかあのインディカウム将軍までもが、逆賊の味方となっているとは……」
名将インディカウムさえも敵方についたとあれば、さすがに諸将達も色めかざるおえなかった。
日頃の彼を知るぶん、僕はどうしても彼ほどの男が逆賊の味方となるとは思えなかった。
「狼狽するなかれ、諸侯達よ」
カストディオ将軍は諸侯へ喝を入れ、命令を下した。
「現状固守。みだりに動くことなかれ」
そして彼はアルフォンス軍の後ろに陣を構えるネイゲン軍を本営へ引き揚げさせる命を出す。
「カストディオ将軍。恐れながら敵はアルフォンス軍を打ち破り、その士気は天をも衝きそうな勢いです。にもかかわらず何故手をこまねいて、自滅を待つような命を発せられるのか。ご説明いただきたい」
僕は彼の命令に納得できないところがあり、彼にそう問いただす。
「ときが来れば殿下にもお分かりになるかと」
彼はそう言うと、部下に命令を下し酒と酒杯をもってこさせた。各将軍の卓にも一つづつ置かれた。
彼は杯を持つと、ぐびぐび飲んで「佚を以て労を待つ。これすなわち勝利への道ぞ。今は殿下も休まれよ」と言った。
「承知しました」
口ではそう言ったが彼の命に納得したわけではない。むしろ憤懣を内に含み、所詮は名前だけの男かと心の中で嘲笑していた。
しかし、総大将の命を無視するわけにもいかず、僕は自身の軍府へと帰っていった。
それから三日が経ち、カイゼル軍に次々と空の陣を落とされ、本営たるグリム城を包囲したのである。
カイゼル軍は籠城する我々に、「革新軍は腰抜け共の集まりか」だとか「其方達の誰かがカストディオとレオンハルトの首を持ってくれば、放免にしてやる」と罵詈雑言を浴びせ続けた。
「カストディオ将軍。既に包囲されてからまる一日が経ちました。我が配下の将たちも我慢の限界です」
僕の配下だけではない。他の諸侯達もさすがに、彼の無策ぶりにしびれを切らし、総大将の任を罷免すべきではないかという話も出てきていた。
「もうすこしです」
彼はそれだけを言う。その言葉はもう五回は聞いた。あと数日もかからぬうちに敵の攻城兵器もここグリム城に到着するだろう。
「もう結構です。私の手勢だけを率いてカイゼルを討ちます」
僕はそう言い、彼の元から去ろうとする。
「殿下。この連合の盟主は私ですぞ。いかに殿下と言えども軍令には従っていただきます」
「いい加減に……」
僕は言葉を言い終わるよりも先に伝令の報告が入った。
「新たな軍勢がグリム城に近づいています」
「誰の軍勢だ?」
「スペンサー・インディカウムが指揮する軍勢かと思われます」
「よろしい! 策はここに成った。今こそ決戦の好機ぞ」
彼は勢いよく椅子から立ち上がり、全軍に命令を下す。
城門を開け、カイゼル軍を迎え討てと。
「カストディオ将軍。どうして今になって出撃を決心なされたのですか?」
「実は・・・」
カストディオ将軍の話によると、以前よりインディカウム将軍などの反ベルトホルト派の武官文官と密書を交わしており、いざというときに裏切らせ、戦いを有利に進めようとしていたそうだ。
今回で言えば、ロブヴィリオンの守りをインディカウム将軍に任せた時点で互いに密書を送り合い、カイゼル軍を挟み撃ちにせんと画策していたということだ。
そして、我々に敢えてに伝えなかったのはベルトホルト軍の間者にこの策を悟らせないためであったらしい。
この話を聴いて、僕は己を恥じた。僕のような凡庸たる者の目では、知略策謀というのが見えないらしい。そして、あまつさえ僕は彼のような賢人を心の中で侮辱していたのた。
この戦いが終われば、カストディオ将軍へ謝罪しよう。僕はそう心に決めて出撃する。
戦い自体はそう難しくなかった。油断しきっていたカイゼル軍の虚をつき、インディカウム軍と挟撃する。瞬く間にカイゼル軍は総崩れとなり、逆賊の死体は山となし、その血は川となった。
だが、いくら兵士が討ち取られようと意気阻喪することなく、孤軍奮闘する敵将がいる。白の獣鬼カイゼル将軍である。
リーベル将軍配下のクラウン将軍、エレクサンデル将軍配下のモラル将軍が次々と切り殺され、誰も彼に近づくことができない。
「ここは、俺に任されよ」
一人の男はそう言うと騎馬を駆け、カイゼルへ寄せる。
見るとその男は、先の戦いで敗れたアルフォンス・サマナークであった。
「逆賊カイゼル。我が配下ガゼフ・ぺアートの恨み忘れぬぞ」
「命欲しさに、部下を身代わりにした匹夫が。俺の首を狙うなど笑止千万!」
両者は勢いよく騎馬をかける。
先制はカイゼルの攻撃。渾身の力を込めて振るうという単純なものではあるが、その剛撃は全てを砕く必殺の一撃。
「一度もらった攻撃は、二度ともらわない」
大地をも砕くその一撃をアルフォンスは海神で容易に弾く。全力で大鉈を振りおろしたためか、弾かれたカイゼルは大きく態勢を崩した。
アルフォンスはその隙を見逃さず、雄叫び共に一文字を描く。しかしカイゼルは目と鼻の先でそれを避け、態勢を立て直した。
金属と金属がぶつかり合う嫌な音と共に、幾たびも銀の閃光がおこった。
周囲の者は皆、息を飲みこの戦い見守る。
そして、十合打ち合う頃、ようやくこの一騎打ちに決着がついた。
<電撃龍>
アルフォンスがカイゼルの隙をつき、呪文唱えると、彼の剣に白い電撃が宿る。
そして、彼がその剣を振り払うと、龍のごとくのたうつ白い電撃が敵将カイゼルに向かって空を駆ける。
龍のような電撃はカイゼルを直撃し、白い光を放ちながら彼の身を焦がす。
「ぐぉお……この程度の俺が死ぬかよ!」
常人であれば、即座に焼け死ぬであろう電撃を彼は耐える。
「お前が耐えることなどわかっていた」
アルフォンスは疾風のごとき速さで彼に近づき、一閃を放つ。
彼の放った一閃がカイゼルの肩から入り横腹に抜けたのである。
カイゼルの上半身が騎馬からズルリと落ちた。
「敵将カイゼルの首はこのアルフォンス・サマナークが討ち取ったり!」
アルフォンスは声を高らかに上げた。
カイゼルを討ち取り、残りの逆賊も降伏する者は許し、残りはすぐに殲滅した。
彼は部下にカイゼルの首をとってこさせると、連合軍は勢いのままロブヴィリオへ入城した。
ロブヴィリオンにて、カイゼルを討ったアルフォンスに皆三度万歳をし、勝鬨の嵐が起こった。
もちろんカイゼルの首は直ぐに我々の下へ届けられた。




